
ブランデー戦記 BRANDY SENKI TOUR 2025 AUTUMN
今年5月、1stアルバム『BRANDY SENKI』で鮮烈なメジャーデビューを果たした3人組ロックバンド、ブランデー戦記。約半年ぶりとなるツアー〈BRANDY SENKI TOUR 2025 AUTUMN〉の東京公演が11月6日、Zepp DiverCity(TOKYO)にて開催された。
ぶつかり合う衝動と葛藤。“予定調和では終わらない”音の奔流に心を奪われた夜
この日は、バンドの世界観に合わせた装飾も印象的だった。蓮月(Gt,Vo)は「みんなが入ってきた瞬間にワクワクできるような装飾を作ってもらいました」と語り、ブルーを基調としたバルーンがステージ一面に飾られていた。自身は黒髪で登場し、「映画や小説に出てくるような女の子に憧れて生きてる」と話すMCも象徴的だ。みのり(Ba,Cho)は蓮月いわく“シンデレラみたい”なワンピース姿、ボリ(Dr)はピエロ風の涙メイクと、3人の装いからも気合いが感じられた。
開演と同時に会場が暗転し、いつものようにピクシーズの「Where Is My Mind?」が鳴り響く。この日は「メメント・ワルツ」でライヴが始まった。哀愁を帯びたメロディを、蓮月は透き通るようなイノセントな声で丁寧に歌い上げる。手にしていたのは、Fiesta RedのLimited Edition 60th Anniversary Classic Jazzmaster。軽く歪ませたクランチサウンドでリズムを刻むかと思えば、ソロでは粘りのあるディストーションが胸を突く。コードの粒立ち、アンサンブルの中で際立つ明瞭な抜け感など、フェンダーならではの艶やかさが光る。
続く「Kids」では、蓮月のコブシの効いたヴォーカルが観客の胸をざわつかせる。自然発生的に鳴り始めたハンドクラップの波に包まれる中、みのりはメロディックなベースラインでヴォーカルに寄り添うようなフレーズを添えていく。勢いよく駆け抜けた「黒い帽子」では、ザクザクとしたギターのカッティングと16ビートのグルーヴが、フォーキーな質感とともにバンドのエネルギーを引き出す。
さらに、ブランデー戦記流のロカビリーとも言える「Musica」では、蓮月がジャングリーなリズムギターに柔らかいメロディラインを乗せていく。蓮月の言葉をそのまま歌にしたような柔らかなフロウが心地良い。「Twin Ray」では自然発生的にオーディエンスのハンドクラップを誘導。「The End of the F***ing World」ではボリの叩き出すディスコビートの上を、みのりが新たに導入したAmerican Ultra II Jazz Bass(Texas Tea)のスラップを交えたドライブ感が駆け回る。蓮月はディレイを深くかけたクリーントーンでリズムを刻みつつ、サビではファズが効いたぶ厚い音色でバンド全体を牽引。シティポップを通過した感性と、オルタナ由来のノイジーな質感が絶妙にブレンドされたポップチューンで、観客の身体が自然と揺れていたのが印象的だった。
「悪夢のような」では、ドリーミーなシンセの音色とともに、蓮月の軽やかなカッティングが空間に広がる。みのりのベースは骨太なローを保ちつつ、トーンに適度なエッジを効かせることで、繊細なギターとのコントラストを描く。そこから「27:00」へ。緩急自在に展開するボリのドラムが空気を撹拌し、蓮月のギターはクランチとディストーションを自在に行き来しながら、ドラマティックな起伏を形作っていく。音の“静”と“動”が明確に描き分けられるアンサンブルに、3人の表現力の進化を感じさせる。
重厚なベースリフから幕を開けたのは「水鏡」。スモークが立ち込め、バックライトに浮かび上がる3人のシルエットが、曲名通り“水面に映る幻影”のような幻想的な情景を生み出す。オーディエンスも息を呑んでステージを見つめる中、芯のある太さとクリアさを両立するみのりのベースサウンドが、この楽曲の張りつめた空気を心地よく支えている。
蓮月がアコギに持ち替えて披露した「Untitled」は、フォークのエッセンスを感じさせる小品。客席がじっと耳を傾ける中、彼女の歌が素直に胸へと届く。その流れを引き継ぐ形で演奏された新曲「赤いワインに涙が・・・」では、70年代歌謡曲を想起させるメロディに、蓮月のエモーショナルな歌唱が絡む。そして「Coming-of-age Story」では、蓮月がMade in Japan Traditional 2025 Collection 60s Jaguarを抱え、印象的なイントロを響かせるとひときわ大きな歓声が沸き起こる。彼らの代表曲であり、多くのファンにとって特別な1曲だ。不穏な空気すら感じさせるファズギター、不協和音ぎりぎりのコードワークは、まるでソニック・ユースのような不敵さを帯びている。それをポップなメロディと交差させる瞬間に生じる“感情のひずみ”こそ、ブランデー戦記の真骨頂だろう。
「実は最近、ずっとライヴがしたくなくて…今日もライヴしたくなかったんですよ」と蓮月の突然の告白に、オーディエンスのどよめきが上がる。「たとえばビジュアルとかも納得いかないと、みんなに見せたくないし、練習とかもたくさんしてからじゃないと見せるべきじゃないと思うんですけど…」と、話しながら次第に涙声に。誠実に音楽に向き合うがゆえの葛藤と、それでも「みんなとこうして会えたら、やってよかったと心から思えました」と改めて感謝の念を伝えると、オーディエンスから温かい拍手が。みのりも思わずもらい泣き。そんな真面目でピュアな姿に見ているこちらの胸も熱くなる。
「俺、男の子やし長男やから泣かへんで」とボリがおどけてその場の空気を和ませ、気を取り直した蓮月が「そろそろラストスパートなんですけど、楽しむ準備はできてますか?」と呼びかけ「ラストライブ」。さらに、「春」「土曜日:高慢」とバンドのエモーショナルな側面が連続して押し寄せる。蓮月が抱えるPlayer II Jaguar(Aquatone Blue)は、中域に豊かな膨らみを持ちつつ、スピード感のあるコードストロークとハイゲインのソロまで、表情を自在に切り替える。歪んでも“美しい”と感じさせる音色は、まさに彼女のステージ上の佇まいとも共鳴しているようだった。
終盤「僕のスウィーティー」では、みのりが客席にマイクを向けて〈I wanna be a rock star〉をシンガロング。会場はこの日一番の一体感に包まれた。ラストナンバー「ストックホルムの箱」では、蓮月が表情豊かなギタープレイで爆発的な熱量を演出し、オーディエンスとコール&レスポンスを交わす中、3人の“今”が刻まれていった。
7月のツアーファイナル東京公演に続く、今年2度目のライヴ観戦。改めて感じたのは、彼らの持つ強靭なソングライティングの核だ。オルタナティヴ、歌謡曲、フォーク、シティポップ、ロカビリー…多彩な音楽的バックボーンを織り交ぜながら、それを自らの感情と衝動で編み直すブランデー戦記の音楽は、決して予定調和では終わらない。その荒削りさすら魅力に変えていく彼らの歩みに、これからも注目したい。


















Photo by EdoSota
【SET LIST】
1. メメント・ワルツ
2. Kids
3. 黒い帽子
4. Musica
5. Twin Ray
6. The End of the F***ing World
7. 悪夢のような
8. 27:00
9. 水鏡
10. Untitled
11. 赤いワインに涙が・・・
12. Coming-of-age Story
13. Fix
14. ラストライブ
15. 春
16. 土曜日:高慢
17. 僕のスウィーティー
18. ストックホルムの箱
ブランデー戦記:https://brandysenki.com/

