
HISASHI(GLAY) × アンディ・ヒックス | Fender Experience 2025
ジャンルや世代を超えた注目アーティストによるライヴ、名器たちとの出会い、音楽と触れ合うワークショップ。音楽、クリエイティビティ、そして人とのつながりが交錯する体験型イベント〈FENDER EXPERIENCE 2025〉が、10月11日(土)〜13日(月・祝)の3日間にわたり原宿・表参道エリアの3会場にて開催された。ここでは、12日に表参道ヒルズ スペースオーにて行われた「HISASHI Custom Shopスペシャルオーダー」の模様をお届けする。
ギターに導かれた一期一会。HISASHI×アンディ・ヒックス夢のオーダーセッション
自身が思う理想のギターをその場で作り上げていくという企画だけあって、主役であるHISASHI(GLAY)はステージに現れた瞬間からテンションが高く、これから繰り広げられるであろう展開に興奮している様子がありありと見てとれた。今回、夢のギターをともに製作するのは、世界最高水準のギターを製作するFender Custom Shopに在籍する12人のマスタービルダーの一人、アンディ・ヒックス。彼はアイアン・メイデンのデイヴ・マーレイが使用するStratocasterなどを製作する人物で、“興奮するな”というほうが無理な話だ。
HISASHIにとってフェンダーのイメージは“さまざまなアプローチができるギター”。同じ質問をアンディにしたところ、彼はこう語った。「フェンダーギターは、自分にとって人生そのものだと言っても過言ではありません。本当に小さい時からフェンダーのファンで、今こうやって自分がマスタービルダーでいられることは、人生の頂点に立っているような気持ちです。今回、HISASHIさんのギターを一緒に作れることを非常に光栄に思っています」。さらにHISASHIは、アンディの音楽の趣味について深堀り。「いろんな音楽を聴くけど、ヘヴィメタルのファン」というアンディに対し、「やっぱり!」と即座に反応するHISASHIに客席から笑いが起こった。



この日、HISASHIが持参したギターは2本。1本目は、1999年にニューヨークで行われたアルバム『ONE LOVE』(2001年リリース)のレコーディング時にシングルコイルの音が必要になり、スタテンアイランドにあるMandolin Brothersにて購入したStratocaster。ここで突如HISASHIがレッド・ホット・チリ・ペッパーズ「キャント・ストップ」を弾き始め、ため息のような歓声が漏れる。
もう1本は、コロナ禍にYouTubeチャンネル『HISASHI TV』を始めた時に手に入れたJazzmaster。あまりにも有名で、いろんなジャンルのミュージシャンが使っているということで敬遠していたが、上品な音のStratocasterに対し、荒っぽい音が必要だと思い購入したという。
さて、この2本のギターの存在を踏まえ、ついに理想のギター製作に入っていくのだが、HISASHIは1980年代のロックから音楽を始めたということもあり、ハムバッカーが二つでシングルピックアップもあるギターを作りたいと熱弁。これは、今回の企画にあたってフェンダーから借りたHSH(ハムバッカー/シングルコイル/ハムバッカー)のギターがキーになったようで、「ギターの最終型じゃないか」とまで言わしめた。それを受けてアンディは、「HSHはそんなに人気のあるタイプではないけど個人的には大好き。アイアン・メイデンのギターもそうですし、ロックでヘヴィな音も出るし、Stratocasterの音が欲しい時はそれも出せる…」と説明すると、我が意を得たりとばかりに「そうなんです!」と興奮するHISASHI。その後、いろいろと迷いながら、「HSHにします!」と決断するに至った。その様子は本当に真剣ではあるが、それと同時に子供のように心から楽しんでいるのも伝わってくる。そんな姿をじっと見守る超満員のフロア。

続いては、ボディカラーのセレクトへ。HISASHIの好みは、木目が見えるような薄塗りのシースルーブラック。一瞬、「黒ってつまらなくないですか…!?」とHISASHIは心配するが、「個人的には黒は大好き」というアンディの言葉を聞いてひと安心。彼のアンディへの絶大なる信頼は、随所でフロアの笑いを誘う。こう言ってしまうと失礼かもしれないが…とてもかわいい。最終的には、照明が当たると薄っすら紫が見えるブラックパープルに落ち着いた。
ギター作りの旅はまだまだ終わらない。次に決めるのはネックのシェイプだ。断面の見た目からC、V、Uとシェイプが異なるネックだが、これまで本当にさまざまなギターを弾いてきたHISASHIは、一般的なCをセレクト。
次にフレットの数を決めたのだが、ここで振り出しに戻りかねない事態に。フェンダーではフレットの数は21と22がメインになっているが、24にすることも可能。ここでHISASHIがとてもわかりやすい例えで自身の好みを表現した。「僕、100キロまで出せる車で100キロは出したくないんですよ。120キロまで出せる車で100キロを出したいんですよ!」つまり、フレットの数は多くしたいということなのだが、ここで再浮上したのがHSH問題。24フレットとHSHの組み合わせはデザインが非常に難しく、例えばナットからブリッジまでの距離は変えられないので、フロントピックアップの位置を少し下げなければならない。またハイフレットの演奏性からカッタウェイの形状も見直す必要がある。そこでアンディが提案したのが、多少ボディを小さめにして、ストラトの見た目を維持しながら各パーツの位置を調整するというもの。しかし、最初のイメージを理想としているHISASHIは“ガチ悩み”。結果、アンディにお任せすることに。


ピックアップに関しては、ハムバッカーはクラシックなものがHISASHIの好みではあるが、これも一旦アンディに任せ、もし違うと思う部分があればその都度相談することになった。さらに、小指が当たるというボリュームノブは外し、移動することに。そういった細かい仕様変更もCustom Shopならお手のもの。実際、ボリュームノブを動かすことはよくある、とアンディも話しており、特にリアにハムバッカーを置く人にはポピュラーだという。
その後、バネ鳴りを狙ってアームを付けることも決め、いよいよオーダーフィニッシュの時間に。その前に、持参した2ミックスのトラック音源に合わせたスペシャルなギタープレイをHISASHIが披露し、最後にアンディへ特別なオーダーをお願いすることに。それは、「キレイな器より欠けた器のほうが好き」という彼の嗜好で、アンディと出会った記念にクラックのようなものを入れてほしいというのだ。これにはさすがのアンディも驚き。規定として、マスタービルダーが製作したギターにはサインを入れることになっているが、個人的な傷跡を残してくれと言われたのは初めてだという。しかし、HISASHIの願いを彼は快く承諾。

最後にHISASHIは、今回のアンディとのオフラインでの出会いの大切さを痛感したと告白。「人と人との出会いって大事だなと思いましたね。そんなことをギターを作りに来て感じるとは思いませんでした」と笑った。楽器というのは、ただの音の話ではないということがこの言葉からも伝わってきた。
今、GLAYはアルバムに向けたプリプロ中だという。次作では、キレのある太いサウンドが楽しめるかもしれない。専門的な話に終始した60分だったが、HISASHIの人柄とアンディの真摯な姿勢のおかげで、ギターの魅力や深さがグッと伝わるひと時となった。HISASHIは言った。「ギターって、いいよ!」──すべてはこのひと言に尽きる。


