The Rock Freaks Vol.7 | 川谷絵音

ROCK FREAKS VOL.7

アーティストとフェンダーによるケミストリーを写真で切り取るエキシビジョンシリーズ「THE ROCK FREAKS」。第7回目は、indigo la Endやゲスの極み乙女。のヴォーカル&ギターだけでなく、ジェニーハイ、ichikoroのギタリスト、さらに楽曲提供など多岐にわたる音楽活動を展開する音楽シーンにおける最重要人物の1人“川谷絵音”が登場。


ギターの不安定なところに惹かれるんです

「俺、指が誰よりも柔らかくて、どんな形にもできるんですよ」。そう言いながら川谷絵音は、両手の指をタコの足のようにグニャグニャと曲げながら、ありえないような“フォーム”をいくつも見せてくれた。

「こうやって架空のキャラクターを指で作り上げて、それを登場人物にした物語を毎日ずっと考えてたんです。10年くらい、高校生になるまでずーっと(笑)。そのうち手だけじゃ足りなくなって、塩ビ人形とかも動員して壮大な物語を作り上げていきました。でも、親から“そろそろそういうの、やめなさい”って言われて。まあ、16歳にもなって1人で“ビシ! バシ!”とか声を出してたら、さすがにヤバいと思ったんでしょうね(笑)。いつの間にか塩ビ人形も全部捨てられていて」

だから、こうして話している間もクセで手が動いてしまうのだという。“ソングライティング”という、ゼロからイチを作り出す才能が開花したのは、この10年間の“創作活動”が役に立っているのではないか?と彼は自己分析する。

川谷絵音。indigo la Endやゲスの極み乙女。のリーダーであり、ジェニーハイやichikoroのギタリスト、さらにはDADARAYへの楽曲提供のほか、さまざまなアーティストのプロデュースなど多岐にわたる活動をしている彼は、今や日本の音楽シーンにおける最重要人物の1人だ。国内外の音楽に造詣が深く、J-POPやジャズ、オルタナ、ヒップホップ、シューゲイザーなどありとあらゆるスタイルを取り入れながら、そのどれでもない楽曲を生み出し、中性的なファルセットヴォイスで歌い上げる。

「物心がついた時には音楽が好きでした。7歳年上の兄と6歳年上の姉がいるので、俺が幼稚園の頃から家ではさまざまな音楽が流れてたんですよね。サザンオールスターにMr.Children、シャ乱Q…。T.M.Revolutionが大のお気に入りで、彼の『HIGH PRESSURE』を聴いた時に“歌手になろう”と決心したんです」

小学校に上がると、父親とレンタルCDショップへ行き、その週のオリコンチャート1位から10位までのCDを全部借りて聴くことを、高校生になるまで毎週続けていたという。川谷は今もビルボードのヒットチャートや、Spotifyのプレイリストなどをマメにチェックしているが、そうした習慣も子供の頃に身についたものだったのだろう。

高校を卒業し東京の大学へ入学すると、すぐにバンド活動を開始。最初のうちはACIDMANやELLEGARDENなどのコピーをしていたが、大学2年の頃に知り合った“ヘンな先輩”の影響で、UKインディやUSオルタナ、日本のインディーロックなどへ次第に傾倒していく。

「ゆらゆら帝国とレディオヘッドが特に好きでコピーしまくりましたね。ゆら帝はライヴ映像を観て、例えば『午前3時のファズギター』のめちゃめちゃ長いソロとか、アドリブを丸ごとコピーしたり(笑)。レディオヘッドは『Paranoid Android』のPVをYouTubeか何かで観たのかな、気持ち悪いアニメだったから余計に気になって(笑)。それでライヴ映像を観て、ジョニー・グリーンウッドのギターをギターらしくない音で鳴らしているのに衝撃を受けました」

そこから一気にアンダーグラウンドへ。大学時代は毎日のようにライヴハウスへ通いつめ、シューゲイザー、ドリームポップ、ポストロックのバンドを浴びるように聴いた。中でも、川谷に計り知れない影響を与えたのがthe north endというバンドだ。「とにかく、あんなギターの音を出すバンドは他にいない」と彼は断言した。大学4年の頃に結成したindigo la Endは、彼らからの影響がバンド名にまで及んでいる。

「indigo la Endも最初はシューゲイザーだったんです。歌詞もほとんど意味がなくて。でも、それだとまったく伝わらないことに気づいて歌詞を書き始めたのが、人生のターニングポイントかもしれない。しかも、すぐに書けちゃったんですよ(笑)。“ああ、俺は歌詞を書ける人だったんだ”って。理系だったし、本もほとんど読まず数式しか見てないような人間だったのに。でもきっと、最初に話したように小さい頃から指を使った物語をずっと作り続けていたので、それが役立っているような気がします」

ROCK FREAKS VOL.7

Photo by Maciej Kucia (AVGVST)

そんな彼だが、フェンダーとの出会いは実はまだ日が浅い。最初に手に入れたのは3年ほど前だった。「あれ? 俺はなぜ大定番のフェンダーを1本も持ってないんだ?ということに今さら気づいて。人と違う形がいいなと思って自然と避けてたんでしょうね」と笑う。それから68年製のTelecaster Thinlineと71年製のStratocasterを購入し、少しあとに61年製のJazzmasterを手に入れた。

「フェンダーの魅力ですか? まずは見た目の美しさ。そして、どんなシチュエーションでもオールマイティに対応してくれるのが本当に心強いんですよね」

しばらくはヴィンテージ一筋だった川谷が、現行のフェンダーに興味を持つようになったのは彼のすべての楽曲でレコーディングエンジニアを手がける美濃隆章(toe)の影響だという。

「美濃さんとは年間50日くらい一緒に仕事をしているのですが、会う度に“現行モデルがいい”って言うんですよ。それで、60周年記念モデルのJazzmasterを触る機会があって、すごく良かったのでindigo la Endのライヴで使ってみることにしたんです。しかもサマソニのぶっつけ本番で(笑)」

時おり川谷は、こういう“スタッフ泣かせ”なことをする。しかも大抵は“やらなきゃ良かった”と後悔するらしいのだが、この時は大満足だった。

「歪みもクリーンも、欲しい音がすぐに出てくれて。何の問題もなく弾くことができました。長田(カーティス)も『めっちゃいい音じゃん!』って大絶賛してましたよ」

さまざまな場所でギタリストとしても活躍する川谷だが、やはりバンドごとにギターの役割も違ってくるのだろうか。

「indigo la Endでは、リードギターがいるのでバッキングが基本。ソロもないし、基本的に支える系のギタープレイをしてますね。ゲスに関してはソロもあるし、クリーントーンでカッティングする場合もある。繊細な音が多いから音作りは難しいです。ピアノとの帯域の被りにも気をつけなければならないし」

さて、8月にはゲスの通算4枚目のアルバム『好きなら問わない』がリリースされた。前作『達磨林檎』からおよそ1年ぶりとなる本作は、川谷が新たに立ち上げたレーベルTACO RECORDSからの第1弾アルバムとなる。いつものようにコンセプトなどは決めず、まずはタイトルを“ネタ帳”の中から見つけ出し、曲名や曲順も最初に考えてしまうという。

「そうしないと、やる気が出ないんですよ。完成形をある程度カタチにすることで、向かう先も何となくイメージできるというか。だから、ある程度曲ができた段階で“あ、このアルバムはこういう(サウンドの)傾向になるんだろうな”とわかってくるんです」

そうして出来上がった本作には、前作で意識的に排除したという“ゲスらしさ”が思う存分詰め込まれている。一度聴いただけでは全貌を把握できないほど、練りに練られた濃密なアレンジ。ギターの音色も、ハードロックばりに歪んだものから透き通るようなクリーントーンまで、曲によってさまざまだ。

「とにかく、飽きないアルバムにしたくて。違う種類の曲をたくさん入れて、聴き終わった時に、すぐまた聴きたくなるような。そういうアイディアは、昔からヒットチャートや、今だとプレイリストなんかをずっと聴きまくってきたから生まれたんでしょうね」

驚異的なスピードで、次々と名曲を生み出す川谷。彼にとってギターの魅力とは何か、最後に聞いてみた。

「不安定なところ、かな。ピアノって鍵盤を押せば必ずその音が出るけど、ギターはチューニング狂うし弦は切れるし、脆いところもある。電気系統も、メンテを怠ればガリが出るじゃないですか。僕は割と緻密な音楽を作っているんだけど、ギターのそういう不安定なところに惹かれるんですよね。その時に何が出るかわからない、出たとこ勝負のところが大好きです」


川谷絵音
88年、長崎県出身。2012年、indigo la End名義でミニアルバム『さようなら、素晴らしい世界』をリリース。同年5月、ゲスの極み乙女。を結成。2014年4月、メジャー1stミニアルバム『みんなノーマル』をリリース。2017年、小籔千豊、野性爆弾のくっきー、tricotの中嶋イッキュウ 、作曲家・ピアニストの新垣隆により結成されたジェニーハイのプロデュースおよび楽曲制作を担当しリードギターも担当。2018年には、ギタリストのichikaが立ち上げたインストバンドichikoroに加入。同年、テレビ東京系ドラマ『恋のツキ』で俳優デビューも果たす。
› Website: http://gesuotome.com /  https://indigolaend.com /  http://genie-high.com /  http://ichikoro.com

ゲスの極み乙女。
好きなら問わない
【通常盤(CD)】¥3,240(tax in)
【初回限定盤(CD+DVD)】¥4,860(tax in)
TACO RECORDS
2018/08/29 Release

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