“音楽に潜む悪魔”と呼ばれたコードの歴史

Holst、Jimi Hendrix、そしてBlack Sabbathを魅了した、ヘヴィメタルの代名詞トライトーンの不穏な響き

まるで獣のよう、その音は”音楽に潜む悪魔”と称されます。悪魔の音は、全三度、すなわち減5度(増四度)を含む三和音で構成されます。「Diabolus in musica (devil in music)」というラテン語の名称が示すとおり、このコードが持つ不穏な響きはその場の空気を一変させてしまうほどです。

聴き手を不快な気分にさせるとされたことから、そのコードは不吉な名前で呼ばれるようになりました。トライトーンがロックにおいて広く使われるようになる以前、人々がアーティストに求めたのは穏やかなコードやパターンばかりでした。決して心地いいとは言い難いトライトーンのようなコードが登場するたびに、当時の人々は馴染みのないその響きを不快に感じたのです。

トライトーンは減5度、つまり完全5度から半音下げた音を指します。Gのパワーコードを鳴らすには、まず人差し指で6弦の3フレットを押さえます。これがルート音のG(ソ)です。次に、薬指で5弦の5フレットを押さえます。これがルートから見た完全5度の音で、このケースではD(レ)になります。パワーコードを完成させるには、小指で4弦の5フレットを押さえます。これは1オクターブ上のルート音Gです。この3つを同時に鳴らすと、調和のとれた心地いい響きがします(G、D、G)。ここで薬指を左隣の4フレットに移動させてみましょう。これが減5度の音で、このケースではD♭になります。6弦のGに続いてこの音を鳴らすか、あるいはG(ルート)、G(オクターブ)、D♭(減5度)の順でゆっくりと鳴らしてみると、どこか不吉な響きがするはずです。ディストーションをかければ、そのダークさにさらに拍車がかかります。


ヘヴィメタルのバンドが多用するこのシンプルなテクニックを世に広めたのは、1970年発表のBlack Sabbathのデビューアルバムに収録された『Black Sabbath』における、Tony Iommiのギターリフだと言われています。Iommiは決して音楽理論に詳しくはありませんでしたが、ベーシストのGeezer ButtlerとともにGustav Holstの組曲『The Planets』(1914年)の一部である『“Mars, The Bringer of War』を聴いていた時に、彼はあの有名なパッセージのアイディアを思いついたと話しています。この曲が持つムードをギターで再現しようとしていた時に、Iommiはその不穏な響きの虜になったといいます。彼はそのパッセージのスピードをぐっと下げ、トライトーンのD♭とDを繰り返すトリルに加え、その他の音には緊張感を演出するビブラートを多用しました。『Black Sabbath』をヘヴィメタルの起源とする見方は少なくありません。


スピードやコードを変えながら、その他の多くの曲でもIommiが多用したトライトーンは、バンドが成功を収めるにつれて、ヘヴィメタルにおける定番テクニックとして定着していきました。Judas Priest、Metallica、Slayer、Marilyn Manson、Slipknot等、その後数十年間で登場した多くのバンドが、曲にダークなパワーをもたらすこの悪魔のインターバルを活用してきました。このテクニックへのオマージュとして、Slayerは1998年発表のアルバムを『Diabolus in Mu-sica』と名付けています。

Jimi Hendrixの『Purple Haze』のオープニングを除けば、Black Sabbath以前はロックにトライトーンが用いられることはほとんどありませんでしたが、1934年にこの世を去ったHolstよりもずっと前から、このテクニックは数多くのクラシック音楽の作曲者たちによって活用されてきました。Beethovenが1805年に作曲したオペラ『Fidelio』、Richard Wagnerが1848年に作曲した『Gotterdammerung』などでは、トライトーンが大々的に活用されています。またBlack Sabbathが同曲でシーンにその名を轟かせる何年も前から、不気味なホラー映画のサウンドトラック等では、トライトーンのサウンドが頻繁に使用されていました。意外なところでは、Leonard Bernsteinによる『West Side Story』の『Maria』に登場する、「Ma-ri-a」というシンプルなコーラスでトライトーンが用いられているほか、Astrud GilbertoとStan Getzのヒット曲『The Girl From Ipanema』でも、この悪魔のインターバルを耳にすることができます。

70年代と80年代には、数多くのプログレロックのバンドがトライトーンを活用しました。Rushの『YYZ』のイントロや、King Crimsonの『Red』における下降メロディ、そしてPrimusが手がけた『South Park』のテーマ曲など、至るところでトライトーンを耳にしました。最近では、オルタナ系のバンドやラッパーがトライトーンを取り入れるケースも珍しくありません。『The Simpsons』のテーマ曲(Danny Elfman作曲)の最初の3音、EとB♭を行き来するThe Strokesの『Juice Box』、そしてBusta Rhymesの『Woo Hah!! Got You All in Check』におけるベースラインなど、その響きはますます一般的になりつつあります。


中世の時代にはその不穏な響きに悪魔が宿るとされ、作曲家やシンガーたちはトライトーンの使用を禁じられていたという説もあります。「Diabolus in Musica」というフレーズが、その不吉なトーンは神に対する冒涜だとした司教の言葉であることは事実ですが、その使用が正式に禁止されていたという記録は残っていません。それでも当時の作曲家たちは、教会という場に似つかわしくないその不穏な響きを積極的に活用しようとはしませんでした。

おそらくはBlack Sabbathのおかげで、ラップからエクストリームなメタルまで、今日では減5度のサウンドを至るところで耳にすることができます。音楽に潜む悪魔、その影響力は絶大なのです。

By: Jon Wiederhorn

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