Cover Artist | Official髭男dism -前編-
各プレイヤーが入れたい音、全員が表現したものをただ切り取った
今、日本の音楽シーンを席巻している4人組ピアノPOPバンド、Official髭男dism。楢﨑誠(Ba,Sax)と小笹大輔(Gt)へのスペシャルインタビュー。前編では10月9日リリースのメジャーファーストアルバム「Traveler」のことを中心に話を聞いた。
そういう旅の記録のようなアルバム
― ニューアルバム「Traveler」のリリース前に、アルバム収録曲でもある「Pretender」のストリーミングでの再生回数が“史上最速”で1億回を超えました。この事態をお2人はどのように受け止めていますか?
小笹大輔(以下:小笹) ビックリはしています。
― 想定内? 想定外?
楢﨑誠(以下:楢﨑) 僕は想定外ですね。いい曲だと思っていましたし、認められるとは思っていたのですが、こんな形で反響が出るとは想定していなかったですね。
― 嬉しいとは思いますが、戸惑いもあるのでしょうか?
楢﨑 聴いてくださった人数が増えたのは嬉しいことですけど、正直、あまり関係ないって思っている部分もあるんですよ。というのも、記録とは関係なく、たくさんの人が僕らの曲を聴いてくれているので、人が増えてくれたことに対しては、いい曲が認められて、聴いてくれて嬉しいなっていうぐらいにしか思っていないですね。
― 小笹さんはいかがですか?
小笹 「Pretender」のアレンジは、大衆に向けたヒットを目がけたわけではなくて、割と攻めたことをしたというか、面白いことをやりたくて楽しみながら作ったんです。そういう意味で予想していたか?と聞かれたら、チャートの1位に入るような曲だとは思っていなかったかもしれないです。それよりも、僕たちが本当にやりたいことをやれた曲です。今の音楽シーンって、わかりやすい曲がヒットする時代から、音楽的に美しいものがヒットする時代に変わってきているなと思っているんです。米津玄師さんの「Lemon」のような楽曲がこんなにヒットするって、たぶん5年前だったら考えられないと思っていて。今はアーティストの方も楽しんで曲を作っているし、リスナーもそれをキャッチするアンテナの感度が上がってきている気がしています。それは本当に嬉しく思いますし、「Pretender」がチャートに入ってくれたことは、これから僕たちが曲を作る時に、好きなことをやっていいんだなって思える感じがして嬉しいですね。
― そんなタイミングで「Traveler」がリリースされるわけですが、アレンジも攻めていますし、とても音楽的な作品です。アルバムを作るにあたって、何かコンセプトはあったのですか?
楢﨑 コンセプトということで言えば、今までもコンセプトを立てて作ったことはなくて、単純に“こういう音楽を次は作ってみたい”と。今回は僕たち2人も作曲させてもらったんですけど、メインでコンポーズしている聡(Vo,Pf)がやりたいものや、各プレイヤーが入れたい音、全員が表現したものをただ切り取っただけという形ではあると思うんですよ。本当に写真のアルバムみたいな感じで、“ここからここまでの思い出”じゃないですけど(笑)、今回もそういう形ですね。
― 「Traveler」というタイトルは?
小笹 “Traveler”は夏ぐらいにさとっちゃん(藤原聡)が、“アルバムタイトルを思いつた!コレだ!”と言って持ってきたものです。MVを撮るためにたくさん海外に旅をしたし、ツアーも全部旅ですからね。そういう旅の記録のようなアルバムにしたいなって。そのタイトルが決まってから、制作に臨んだ曲も5曲ぐらいはありますね。
― サウンド的な面でまずはギターからいくと、けっこう攻めている曲が多いですよね。ハードなリフがバンバン出てきたり。
小笹 はい! 好きなので(笑)。
― ルーツはメロコアですもんね?
小笹 はい。完全にメロコアがルーツなので、「宿命」や「Amazing」ではかなり好き勝手にやっていますね。
― 現場で思いつきで入れたりするんですか?
小笹 リフは、デモの段階からさとっちゃんと決めていたりするんですけど、ソロとか転調部分の遊びでは、みんなでスタジオに入っているうちにできたりしますね。
― じゃあ、レコーディング自体もパートパートで録るのではなくて、みんなで集まって録る感じですか?
小笹 曲によりけりですね。打ち込み主体とかループものの曲は別録りの時もあるんです。このアルバムだったら「ビンテージ」や「最後の恋煩い」は、みんなで“せーの”で一発録りしました。
― 「最後の恋煩い」は一発録りなんですね。この曲はベースラインが素晴らしいですね。
楢﨑 この曲は、デモが仕上がってから録りまで確か1日しかなかったんですよ。でも、サビのフレーズだけあまりしっくりきていなくて、どんなフレーズがいいんだろうと思って、録りの前夜にヴルフペックやORIGINAL LOVEを聴いてみたりしたんですけど、“わかんねぇや!”と思って寝たんです(笑)。でもあまり寝られなくて。レコーディング最中は弾いているんですけど、何を弾いたか覚えていない(笑)!
― 寝不足の無意識で弾いたフレーズですか(笑)?
楢﨑 ええ。本当に何を弾いたか覚えていなくて。自分でも面白いなと思ったのが、後半とサビ終わりあたりで同じフレーズを弾いているんですけど、半音間違えて弾いている箇所があるんですよ。間違えているというか、どちらかが間違いでどちらかが正解だと思うんですけど。同じ手の動きだけど、半音だけ違う音が入っちゃってて。それは弾いた時に気付いたんです。でもプレイバックしている時に、こういうのもアリだなと思って(笑)。結局は残しちゃってます(笑)。
― ヒゲダンの場合、軸として“ピアノと歌”という大きなイメージがあると思うのですが、その中でのベースの役割や立ち位置をどのように考えていますか?
楢﨑 そこがけっこう難しくて、実はベースラインの作り方は当初から比べるとだいぶ変ってきています。当初はベースを持たずにフレーズを口ずさんで、そのラインをベースでなぞってみるとか。あとは、オブリガード的な動きが多かったんです。でも最近は、一言で言えば“カオス”ですね(笑)。自分でもルールに乗っ取って作っている感覚はないですね。ただ、他の楽器は尊重したいなと思っています。ピアノも、ギターも、ドラムも、ヴォーカルも尊重して、バンドのボトムを支えたいという気持ちがありながら、グルーヴが良くなればいいなって思って。そういうルールだけは守って作っているつもりです。
一生続けていくと思う
― アルバムジャケットもいいですよね。ちゃんと音楽を伝えていこうとするバンドの姿勢が出ているジャケットですね。
楢﨑 タイトルが先にあって、そのイメージで作ったジャケットです。プラスティックのケースじゃなくてデジパック仕様なので、洋楽の名盤にありそうじゃないですか。そうならねえかなぁ、みたいな(笑)。でも真面目に、ちゃんと名盤と思われるような見た目であってほしいし、内容であってほしいとみんなで話し合って作っていったんです。
小笹 ストリーミングで音楽を聴く人がすごく増えているけど、CDもやっぱり大事だし、手に取りたいと思ってもらえるものにしたかったので、アートワークにはすごくこだわった。たぶん実物を見たらもっとビックリしてもらえるというか、触りたくなる。質感がめっちゃいいですよ。
楢﨑 ずっと撫でていたくなります(笑)。
― (笑)。さて、10月から全国ホールツアー、来年3月からは全国アリーナツアーも始まりますね。
楢﨑 嬉しいですね。いい感じでやります。アハハハハ!
― もうちょっと具体的に(笑)。
楢﨑 めちゃくちゃ作戦はあります。ホールもアリーナも両方来てくれる人もいるかもしれないので、ちゃんとアルバム「Traveler」を意識して、アリーナならアリーナの見せ方、ホールならホールの見せ方で面白いものを作っていきたいなと思ってます。サポートメンバーとも、曲のアレンジなどについて話し合っていますし。
― ライヴハウスからホール、そしてアリーナとなると、ある意味仕掛けも必要になってくると思うのですが、そのあたりはいかがですか?
楢﨑 海外アーティストをフェスで観たり、他の人のライヴを観に行ったりして感じるのは、音楽だからグルーヴも音もあるし上手い下手とかもあるんですけど、視覚的に見ても面白くて。会場が広くなればなるほど、ちゃんと大きく表現できればいいと思っていて。そういう仕掛けは、やっぱり作っていきたいなと思っています。ただ正直言うと、ホールまでは音楽と照明の演出でいけると思うんですけど、アリーナになると大きく見せるような仕掛けとか、音楽とアートみたいなものの融合を図ったほうがいいんじゃないかなと思っています。具体的にはまだイメージできていないですけど。
― 小笹さんは?
小笹 ホールとアリーナだったら動きも変わってくると思うので、大きいステージで先輩方がどんなライヴをしているのか、最近はそういうのも積極的に観に行っているので、イメージを膨らませている最中ですね。
― アリーナツアーを成功させたら、次はドームツアー?
楢﨑 どこを目指すかは、どういうライヴや見せ方ができるかで選択していきたいなと思っています。ドームでやれる自信があるとか、そういう根性論じゃなくて、ドームでやった時にこういう風に観てくれて、こういうライヴができるっていうイメージができてからじゃないと、ドームの選択はしたくなくて。アリーナでのライヴは、ホールを経て経験した音楽とか技術を使ってこそ面白いものができるイメージがあるんですけど…。ステップアップだと思うので、ドームでライヴはやってみたいなと思いますね。
小笹 ドームでバンドがライヴをすることに対して、個人的にはいいイメージがあまりなかったんですよ。音もいいわけじゃないですし、海外のアーティストを東京ドームで観て残念な思いをすることもあったんですけど。今年、ポルノグラフィティの「神vs神」っていうイベントを観に行った時に、ドームでこんなに良い音で音楽を届けられるんだって体感しちゃったんです。演出もカッコ良かったのですが、音が良くて音楽がカッコ良かったっていう感想が第一にあって。ドームでちゃんと音楽を届けられるってことを知ってしまったので、こういうライヴをもっとたくさん観て経験していけば、ドームで僕たちがやりたい音楽が絶対にできるようになると思うのでやりたいですね。
― ぜひ近い将来、ドーム公演を実現してほしいですね。思えば、去年の夏フェスではまだメインじゃないステージでヒゲダンを観たので何だか感慨深いです。そういう意味では、下積み時代はあまりない感じですか?
楢﨑 あります! 上京して1〜2年は食えなくて普通にアルバイトしてました。とは言え人並みの生活はしていましたけど。音楽だけに集中できるわけではなかったですね。
― それでも音楽を続けた理由は?
楢﨑 それは、メンバーそれぞれで意識が違って。僕なんか、強い意志を持ってバンドをやっているというよりは、ただ単純に楽しくてやっています。何と言っても、自分の未来についてさほど設計していないから(笑)、アルバイトをして、お金をゲットして、ご飯を食べて、ライヴをして、それで成立していた感じです。そうしていたらいろんな人が評価をしてくれて、バンドでご飯を食べられるようになったんです。
― ものすごく野心があったとかではなく?
楢﨑 ずっと音楽を続けたいなとは思っていましたし、いつか誰か認めてくれるだろうと思っていましたけど、将来的な設計はしていなかったです。
― 小笹さんは?
小笹 僕は食いたいという思いはあまりなくて、やりたくてやっているほうが大きかった。やっぱり楽しいから。まさに「ラストソング」を録り終わったあと、さとっちゃんと“こんなに面白いんだったら、別にお金なんてもらえなくても一生続けていくと思う”っていう話をしていたんです。
― 素敵な話ですね。
小笹 最初の頃って、お金なんか関係なくやっていたわけですから。新しい曲ができて、“すごくカッコいいものができた”“すごく楽しい”っていうだけで、仕事をしながら、学生をしながら、空いている時間は全部バンドに使っていたので。だから、気持ち的には今も全然変わっていないですね。
› 後編に続く
楢﨑誠:Made in Japan Hybrid 60s Jazz Bass® Sherwood Green Metallic(左)
小笹大輔:Made in Japan Hybrid 60s Jazzmaster® Olympic White(右)
PROFILE
Official髭男dism
4人組ピアノPOPバンド。メンバーは、藤原聡(Vo,Pf)、小笹大輔(Gt)、楢﨑誠(Ba,Sax)、松浦匡希(Dr)。2012年6月7日結成、島根大学と松江高専の卒業生で結成されており、愛称は「ヒゲダン」。このバンド名には髭の似合う歳になっても、誰もがワクワクするような音楽をこのメンバーでずっと続けていきたいという意思が込められている。2015年4月、1stミニアルバム「ラブとピースは君の中」でデビュー。ブラックミュージックをルーツにJ-POP新時代の旗手を目指す新しい才能である。
› Website:https://higedan.com/
RELEASE INFORMATION
NEW ALBUM
Traveler
¥3,780(tax in)
ポニーキャニオン
2019/10/9 Release
【初回限定盤】(CD+Live Blu-ray盤/CD+Live DVD盤)
¥5,000(+ tax)
※デジパック仕様
【通常盤】(CD Only)
¥2,800(+ tax)
ポニーキャニオン
※デジパック仕様
TOUR INFORMATION
《Official髭男dism Tour 19/20 – Hall Travelers -》
10/26(土)千葉・市川市文化会館 公演より全29公演
SOLD OUT
《Official髭男dism Tour 2020 -Arena Travelers-》
3/14(土)15(日)北海道・北海道立総合体育センター 北海きたえーる
3/21(土)大阪府・大阪城ホール
3/30(月)31(火)福岡県・福岡国際センター
4/4(土)5(日)愛知県・ポートメッセなごや3号館
4/28(火)29(水・祝)徳島県・アスティとくしま
5/5(火・祝)新潟県・朱鷺メッセ・新潟コンベンションセンター
5/18(月)19(火)神奈川県・横浜アリーナ
5/26(火)27(水)東京都・有明ホール(仮称)
6/13(土)14(日)広島県・広島グリーンアリーナ
6/27(土)28(日)宮城県・セキスイハイムスーパーアリーナ