Fender Flagship Tokyo First Anniversary Special Event with Michiya Haruhata
Fender Flagship Tokyoのオープン1周年を記念したFenderNews公開取材イベント〈Fender Flagship Tokyo First Anniversary Special Event with Michiya Haruhata〉が7月2日に開催された。2002年5月にフェンダーと正式にアーティストエンドース契約を締結し、日本人のギタリストとしては初めてのシグネイチャーモデルを発売したTUBEの春畑道哉。2003年に60本限定でリリースされた初代シグネイチャーモデル、日本人初のCustom Shop製シグネイチャーモデルでもあるMichiya Haruhata Stratocaster(White Blonde)に関する貴重なエピソードが語られた。リバイバル販売されたこのギターの、期間限定のオーダー受付も行われたイベントの模様をレポートする。
多彩なニュアンスと音色を響かせる、春畑のプレイを間近で聴ける素晴らしい体験
雑誌『ギター・マガジン』編集部プロデューサー、河原賢一郎氏の紹介でステージに登場した春畑道哉。イベント会場はFender Flagship Tokyo 3階だったのだが、多数展示されているCustom Shop製のギターに囲まれた春畑は「本当に楽しい場所です。ギターを眺めているだけで何時間でもいられる(笑)」と笑顔を輝かせていた。
初代シグネイチャーモデル、Michiya Haruhata Stratocaster(White Blonde)は2002年に完成した。「手元に届いて、軽くてびっくりしたんです。アッシュ材でここまで軽いのは、珍しいんじゃないかなと思います」という第一印象だったこのギターを手掛けたのは、フェンダーの伝説的なマスタービルダーであるジョン・イングリッシュ。
「フェンダーと契約する前にジョンの作ったギターを弾く機会がありまして、僕の持っているヴィンテージギターと変わらない音だったんです。新品なのにそういう音だからびっくりしたんですよね。だから、シグネイチャーモデルの制作をぜひお願いしたかったんです」
ジョンと春畑の親交は最初のギターの製作後も続き、TUBEのライヴを見てくれたこともあったという。2本目の製作の際は、「シルバージュエリーブランドのビルウォールレザーのデザインを盛り込んだらカッコ良くなるんじゃないか?」と、ジョンはレザーを着せたギターを提案。惜しまれながら2007年に逝去した名匠は、遊び心にも溢れた職人だったのだ。
「生音も良いんですよ」と言いながらギターを奏でつつ、細部についても紹介した春畑。「野外でも使うから、少しずつ焼けてきました。最初は白かったんです。家とかで弾いていても、変わっていくんですよね」と言っていた通り、経年変化によって色合いの深みを増していたWhite Blondeのボディ。愛用されていることが、全体の佇まいから自ずと伝わってきた。春畑の歴代のシグネイチャーモデルには、一貫してリバースヘッドが取り入れられている。
「ジミ・ヘンドリックスの影響ですけど、チューニングしにくいです(笑)。リバースヘッドの弦のテンション感に慣れてしまっているので、ノーマルのStratocasterを弾くと独特な感触です。チョーキングした時の感触が違うんですよね。僕はハムバッキングのピックアップとフロイドローズを搭載したギターも好きなんですけど、3シングルコイルの“これぞStratocaster”というギターも大好きなんです。だから最初の自分のシグネイチャーモデルは、“これぞStratocaster”というものにしたくて。でも、少し変えているところもあります。真ん中のノブはセンターピックアップのヴォリューム、一番下のノブはマスタートーン。センターピックアップのヴォリュームをオフにすると、スイッチング奏法ができるんです」
今回の製品版には春畑のギターに搭載されているピックアップと同じく、1950年代の仕様をベースにしたハンドワウンドによるピックアップがマウントされる。
「このギターのピックアップの組み合わせはノーマルのStratocasterよりも2パターン多いんです。マスタートーンは、プッシュ/プッシュスイッチになっていて、フロントピックアップのオン/オフを切り替えられるんですけど、これによってフロント+リアでも鳴らせますし、フロント+センター+リアを同時に鳴らすこともできるんです。これは普通のStratocasterにはないんですよね」と説明しながら次々と奏でたサウンドは、とても多彩だった。
手元の操作によって音色を細かく調整できるので、レコーディングの際も非常に頼りになるのだという。「このギターが届いた時は嬉し過ぎて、TUBEのライヴをこれ1本でやっていました。ライヴを見てくださった織田哲郎さんが、“ストラト、めちゃくちゃ良い音してたね”とおっしゃっていました。それ以来、一度も褒められていないんですけど(笑)」というエピソードも紹介してくれた。
「ボディの裏を見せてください」という観客からのリクエストにも応えた春畑。「表面ほどではないですけど、裏側も色が焼けていますね。あと、ベルトのバックルの傷がすごいです。これはギタリストあるあるですけど、バックルが当たる部分のTシャツの裾に、虫食いみたいな穴が空くんです(笑)」と語っていた。日本人初のCustom Shop製シグネイチャーモデルであることを示す文字が彫られた、ネック裏のジョイント部分の金属製プレートもお気に入りのポイントの一つらしい。これは製品版のMichiya Haruhata Stratocaster(White Blonde)とは唯一異なる、彼のギター限定の特別仕様だ。
トークコーナーのあとは、演奏でもシグネイチャーモデルの魅力が示された。披露されたのは、公益財団法人日本バドミントン協会のアンセムとして書き下ろされた最新曲「We can Fly ~もっと高く、もっと強く~」。なんと観客の前で演奏するのはこの日が初めてだった。歪みからクリーンまでを駆使し、多彩なニュアンスと音色を響かせる春畑のプレイを間近で聴けるのは、本当に素晴らしい体験であった。
「お忙しい中、お集まりいただきありがとうございます。Fender Flagship Tokyoの1周年、おめでとうございます。このギターはものすごく良いので、届いたら経年変化も楽しんでください。そして、ギターを存分に楽しんでください。ピックアップのセッティングはどれも好きなんですけど、三つ全部鳴らすのは普通のStratocasterでは出せない音なので、ぜひ試してみてください」と春畑が挨拶をして、イベントは終了。ファンにとってはもちろん、70周年を迎えたStratocasterの愛好家にとっても興味深い内容が満載だった。