山内総一郎 The Hole In The Wall

今年2月から活動休止期間に入ったフジファブリック。7月9日に東京・EX THEATER ROPPONNGIで開催されたワンマンライヴ〈The Hole In The Wall〉は、山内総一郎(Vo,Gt)のソロ活動への期待を大いに高めてくれた。披露されたのは既発曲、他アーティストへの提供曲のセルフカヴァーのほか、新曲が8曲。愛用のフェンダーギターが大活躍したこのライヴの模様をレポートする。

オーガニックで温かい音色を奏でるSouichiro Yamauchi Stratocaster Custom

開演を告げるSEが鳴り響き、伊藤大地(Dr)、砂山淳一(Ba)、大樋祐大(Key)に続いて山内総一郎(Vo,Gt)が登場すると、待ちわびていた人々の大きな拍手が出迎えた。1曲目に届けられたのは、新曲「あやかし音頭」。ミステリアスな音像とダンサブルなビートを融合させたサウンドは、睡眠と覚醒の狭間を漂うかのようなアンニュイな昂揚感を噛み締めさせてくれた。

曲に合わせて頻繁にギターを持ち替えていた山内。アコースティックギターやエレキシタールを弾く場面もあった中、もっとも使用頻度が高かったのは、トレードマークと言っても過言ではない62年製Stratocaster(Fiesta Red)だった。星街すいせいへの提供曲をセルフカヴァーした2曲目「先駆者」で手にして以降、瑞々しい歌声を随所で絶妙に彩ったこのギターは、低音から中音域にかけての響きが温かくて心地良い。「風を切る」で響かせたコードに耳を傾けると、夏の爽やかな風を鮮明にイメージできた。

「やっと会えたね。〈The Hole In The Wall〉というこのライヴタイトル、心に穴が空いたような状態が続いていたんですけど、その穴から見える光や景色をみんなと一緒に確かめたい。そこからまた進んで行きたいと思って名付けました」

そう最初のMCで語りながら明るい笑顔を浮かべた山内。「今日は僕のスタートを感じてもらいたいし、新曲が良かったら大きな拍手で応えてもらえたら嬉しいです」と呼びかけると、力強い歓声が彼を包んだ。

空に住んでいる羽根を持った猫を通じて人生の選択を描く「ソラネコ」。自宅で育てているシルクジャスミンの生命力に心打たれて作ったという「Jasmine Flower」。込めた想いを伝えつつ新曲を次々届ける中、山内が中3の時に初めて手に入れたエレキギター、Stratocaster 40th Anniversary Model(Blue Metallic)を使用したのが「海に来てしまった」だった。フジファブリックの活動が休止期間に入ったあと、「これからどうやって音楽をやっていこう?」と考え続けていた頃を振り返った彼は、「どれだけ悩んでも全然答えが出なくて。そんなある日、部屋でギターを弾いていたんです。“このギターから自分は始まったんやなあ。いろんな人に支えられてきた”と考えてたら“あっ、そうだ! やりたいことあったやんか!”と思って。そこからポジティヴでもネガティヴでもない普通の俺になったんです」と語った。

そして披露された「海に来てしまった」には、「光や闇じゃない、自分の気持ちの淡い部分を見つけられて、ようやく山内総一郎としてやっていこうと思えたんです。本当に自分にとって希望の曲です」という言葉が添えられた。クリーントーンのアルペジオによる幕開けを経て、空間系のエフェクトも交えながら雄大な音色を響かせていたのが思い出される。新たな一歩を踏み出す決意を穏やかに告げるかのようなギタープレイだった。

バンドメンバーたちとの間にある深い信頼関係、ともに音を奏でる喜びも様々な場面で伝わってきた。ライヴで一緒に演奏するのは、今回が初めての大樋。中学時代に隣のクラスだった頃からの付き合いの砂山。そして今年の2月以降、次のライヴが何も決まっていなかった山内をスタジオに誘ったのが、サポートドラマーとしてフジファブリックを長年にわたって支えてきた伊藤。「“山内総一郎としてやろう”という意識になったのも、大地くんのおかげと言っても過言ではない。ありがとうございます」と感謝された伊藤は、「やり続けようぜ!」と元気いっぱいに返していた。

そして突入したライヴ後半は新曲「スロウダンス」からスタート。SUPER EIGHTへの提供曲のセルフカヴァー「群青の風」「最愛の生業」では、62年製のStratocasterが活躍。抜けの良いサウンドが観客の手拍子を誘い、オーバードライヴをかけたソロでは1音1音の粒立ちの良さがメロディを明るく躍動させていた。そして新曲「彗星たちのカンタータ」では、最近手に入れたというAmerican Vintage II 1975 Telecaster Deluxe(Black)をプレイ。ハムバッカーならではの骨太さを帯びたクリーントーンでバッキングを奏で、ソロでは程よく歪ませながらブルージーな音色を響かせていた。

「僕にとって音楽、ライヴは自分の居場所でもあり、旅の地図みたいなものでもあるんです。みんなと一緒に旅がしたいです。最後の曲は新たな始まりを思い描いて、穴から這い出た自分の気持ちを入れて作った曲です」(山内)

という言葉を添えた「旅に出る」で締め括った本編。62年製のStratocasterによるミュートの刻みは、前に進み続ける意志に満ちた穏やかな足取りのようだった。そして、アンコールの1曲目、20th Centuryへの提供曲「あなたと」でプレイしたのは、ボディのシンライン構造によるサウンドがオーガニックで温かかったSouichiro Yamauchi Stratocaster Custom。ボトルネックプレイも駆使しながら観客を盛り上げた直後、今回のライヴで披露したセルフカヴァーの3曲を振り返った山内は、「いい曲書いてるじゃないか!」と誇らしげに胸を張った。

cutting edgeからのメジャーデビュー、ソロプロジェクト・A-UN始動、7月16日よりLIVEショートムービー&生配信企画がスタート、10月22日に「Good Fellows」と新曲を収録したシングルを配信リリース、10月25日に山内総一郎バースデイライヴ〈OCTOBER SONGS〉を東京・昭和女子大学人見記念講堂で開催――今後の活動に関する発表をしたあと、ラストを飾る新曲「人間だし」について語った山内。

「矛盾だらけの人間なんですけど、自分を赦して進んで行けるようなものしたいなぁと思って作った曲。テーマはあなたとの並走。背中を押すとか支えるとかではなくて、“並んで一緒に走って行きましょう”という気持ちを込めました」(山内)

62年製のStratocasterによるバッキングのカッティングではシャープな音色を響かせ、ソロではパンチの利いたロックンロールなフレーズが炸裂。伊藤、砂山、大樋のプレイに刺激されながらサウンドの熱量を高める姿は、無邪気なバンド少年を思わせるものがあった。爽やかな熱気で会場全体を満たした末にエンディングを迎えた瞬間、ステージに向かって観客が送った拍手と歓声は特大サイズ。新曲をたっぷりと披露したこのライヴで感じた手応えは、今後の山内の活動を支える大きな力となるに違いない。

【SET LIST】
1. あやかし音頭
2. 先駆者
3. 風を切る
4. ソラネコ
5. Jasmine Flower
6. 地下鉄のフリージア
7. GOOD FELLOWS
8. 大人になっていくのだろう
9. 海に来てしまった
10. スロウダンス
11. 群青の風
12. 最愛の生業
13. 彗星たちのカンタータ
14. 旅に出る

ENCORE
1. あなたと
2. 人間だし


山内総一郎:https://avex.jp/yamauchi/

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