Cover Artist | 菊地英昭(THE YELLOW MONKEY、brainchild’s) -後編-

とにかくギターを手に取って、ずっと一緒にいるだけでいい。それが一番、楽器と仲良くなれると思うんです

日本のロック史に大きな足跡を残したTHE YELLOW MONKEYに加え、自身のソロプロジェクトであるbrainchild’sでも活躍しているギタリスト、菊地英昭がCover Artistに登場。インタビューの後編では、American Vintage IIシリーズのインプレッションや今後の活動の展望について語ってもらった。

American Vintage II 1972 Telecaster® Thinlineは自分が次に使いたいと思うギター

──本日はAmerican Vintage IIシリーズを試奏していただきました。その中から1972 Telecaster Thinlineを選ばれたのはどんな理由からでしょうか?

菊地英昭(以下:菊地) 僕の今の戦力にないからです(笑)。今、僕がフェンダーの中で一番使っているのは51年製のBlackguardなんですけど、すごくいいギターなんです。巡り合えたのは運命だと思っていて、一生手放さないと思っているくらいなんです。ただ、そうは言ってもハムバッカーを使うことが多いので、アンプはそのセッティングになっているんですけど、そのセッティングのまま使えるのがBlackguardなんですよ。そういうところもすごいと思うし、音の太さと立ち上がりもずば抜けているけど、もう持っているからいいんです(笑)。

やっぱり自分が次に使いたいと思うギターが欲しいじゃないですか。それが1972 Telecaster Thinlineだったんです。自分が持っているところにはまったくないタイプのギターなので、すごく使ってみたいし、試奏してみたらすごく良かった。本物の70年代のシンラインは個体差があって、いいやつはいいんですけど、自分が体験した中ではそういうギターに巡り合えるのは3本に1本ぐらい。極々たまにパキーンと音が出てくれるシンラインに巡り合えるんですけど、それに近い感じがしました。太いけどパキっとした音が出ていて、しかもセミホロウだからソリッドにはない音の甘さもある。一番持っていないタイプのギターだと思ったのと、自分がいいなと思ったシンラインを弾いた時のイメージに近いという理由で選びました。

──どんな時に使いたいですか?

菊地 曲を弾いていて“これシングルコイルかな。ハムバッカーかな。どっちだろう?”と思った時に使えると思います。さっきはちょっと歪んだ音で試奏させてもらったんですけど、メロウな音で弾いたら逆にすごくいいだろうなとか、コード感もジャジーな曲をやる時にクリーンっぽく弾いたらすごくいいんだろうなとか…と言いつつ、このルックスなのにバリバリのロックもできると思う。

──American Vintage IIは50〜70年代のオリジナルのフェンダーギター/ベースのスペックに基づいたリイシューとして出ているのですが、どんなプレイヤーにおすすめしたいですか?

菊地 新しいデザイン、新しい素材、新しい製法で作っているギターは弾きやすさを求めているから、もちろん弾きやすいと思うんですよ。例えば塗装の仕方とか、太さを含めたネックの処理とか。もちろん、それも全然ありなんですけど、ギターが持っている魅力ってそれだけじゃないと思うんです。時代が変われば、使う材質だったり、仕様だったりは変わって当然なんですけど、ヴィンテージを使っていて思うのは、ヴィンテージの人気のあるギターってやっぱりいい音が鳴るから人気が出るんだなって。それを踏襲するのは絶対にいいことだと思います。特にフェンダーってその最たるものだと思うんですよ。だから、そういうギターをできるだけ多くの人に手に取ってもらいたいと思います。それに見た目も美しい。それはみんなから愛され続けてきた楽器たちなので、当然と言えば当然ですけどね。個人の好みもあるけど、楽器であると同時に芸術品だとも思うから、見て愛でるという視点から手にするのもありだと思います。

イメージを持っているだけで楽器を演奏するのが楽しくなる

──さて、ここからはミュージシャンとしての今後のお話を聞かせてください。昨年末、THE YELLOW MONKEYはデビュー30周年を迎えましたが、今後の活動についてはどのように考えているのでしょうか?

菊地 せっかく再集結したんだから、できる時はちゃんとやりたいですね。年齢もそれなりにいっている連中がやるバンドって、どんなバンドなのか見せていきたいっていうのもあるから、動けるうちはやり続けたい。それには毎晩飲んだくれたらダメだと思うし、お腹が出たらギターの角度も変わっちゃうから(笑)、締めるところはしっかり締めつつ、初期衝動も忘れないバランスが大事ですよね。若返っても変だし、だからって座ったままブルースを演奏するのも違うし、そういうバランスはちゃんとキープしたい。THE YELLOW MONKEYの4人はみんなそう思っているはずだから、それを突き詰めていくんじゃないかなと思います。誰も行っていない世界ではあるから逆に楽しみではあるんですけど、ずっと模索し続けるんでしょうね。それぞれにソロもやっているから、自分の好きな音楽性はそこで発揮すればいいし、バンドはバンドで4人集まった時のスタイルを重視してできるだろうし。

──ソロという意味では、菊地さんはbrainchild’sの活動にも精力的に取り組んでいますね。

菊地 そうですね。自分の好きな音楽性はそこでバンバンやっていますし、ギターもガンガン弾きまくっていますし。

──ミュージシャンとしてある意味、理想的な活動ができている、と。

菊地 たまに“勘弁してくれよ~”っていうスケジュールになる時もありますけどね(笑)。動けるからこその充実感もあるし、それぞれにやっていることがまた違うところで味として身に付くこともあるし、すごくいいなと思います。バンド一筋も素晴らしいんですけど、いちギタリストとして、いちミュージシャンとしては今のスタイルがすごくいい。

──THE YELLOW MONKEY、brainchild’s、サポートで、ギタープレイやサウンドメイキングの使い分けってあるのでしょうか?

菊地 全然違います。THE YELLOW MONKEYはそれこそハムバッカーが多いけど、brainchild’sと吉川晃司君のサポートはシングルコイルが多い。brainchild’sがTHE YELLOW MONKEYの再集結前に作ったミニアルバム『6 continents』は、8割ぐらいStratocaster®︎とかTelecaster®︎でレコーディングしているんです。思いきり歪ませたり、逆に吉川晃司君の時には同じシングルコイルでもクリーントーンでカッティングしてみたり、ギタリストとしてハムバッカーとシングルコイル両方の使い分けができているし、両方の良さもわかりつつあるから、その醍醐味もありますよね。

──brainchild’sが昨年開催したツアーから中野サンプラザ公演を収録したBlu-ray『brainchild’s “sail to the coordinate SIX” Live at Nakano Sunplaza』が8月30日にリリースされました。

菊地 brainchild’sとしては初めてのホールツアーだったので、今までにないbrainchild’sの感じを見てもらえると思います。brainchild’sの“7期。”と自分たちで言っているんですけど、brainchild’sがちょうど15周年ということもあって、そのアニバーサリー感もありながら“7期。”の集大成感も詰め込みつつというライヴだったので、内容は濃いと思います。

──今後の活動予定としては、brainchild’sの15周年を記念した11月・12月の東名阪ツアーと12月28日のTHE YELLOW MONKEYの日本武道館公演が決まっています。それぞれの意気込みを聞かせてください。

菊地 brainchild’sの東名阪ツアーはライヴハウスということに加え、アニバーサリー感もさらに出すという意味で、今は参加していない前のメンバーも呼んでライヴを盛り上げようかなと考えています。もう15年もやってきたんだと思って、早いなと思う一方では、本当にいろいろなことをやってきたという思いもあるんです。それを1回振り返ることができるタイミングかなと思って、さらにいい音楽を作れるにはどうしたらいいか考えつつ東名阪ツアーをできたらいいなと思っています。

──THE YELLOW MONKEYの日本武道館公演はいかがでしょうか?

菊地 久しぶりにファンの皆さんに会えるので、はっちゃけようと思っています(笑)。

──最後に、これからギターを始めようという人にメッセージをお願いします。

菊地 気楽に考えたほうがいいと思います。上手くならなきゃなんて最初は考えずに、とにかくギターを手に取って、ずっと一緒にいるだけでいいと思います。それが一番、楽器と仲良くなれると思うんですよ。自分もそうでしたけど、やっぱり誰かのフリとか形から入るのは正解なんだと思います。自分がギターを弾いているところがイメージできるから、弾けるような気持ちにもなるし、そうなると自ずと練習もするようになる。イメージってすごく大切で、それを持っているだけで楽器を演奏するのが楽しくなるし、それがいずれはテクニックにもつながってくるし。僕だったらジョー・ペリーやマイケル・シェンカーというギターアイドルがいましたけど、そういうアイコンがいるだけでだいぶ違うと思います。それだけでも気分が上がるからスタートが全然違いますし、そういう人をぜひ見つけてほしいですね。

American Vintage II 1972 Telecaster Thinline

>> 前編はこちら


菊地英昭(THE YELLOW MONKEY / brainchild’s)
64年、東京都日野市生まれ、八王子市育ち。86年、KILLER MAYのギタリストとしてメジャーデビュー。89年に解散し、同年THE YELLOW MONKEYに参加。2004年の解散後、吉川晃司のレコーディング、ライヴへの参加やアーティストへの楽曲提供なども行い、2008年にインディーズレーベル「Brainchild’s Music」を設立。2016年1月、全国10カ所20公演にわたるアリーナツアー〈THE YELLOW MONKEY SUPER JAPAN TOUR 2016〉を発表。THE YELLOW MONKEYとして15年ぶりの再集結を果たす。2018年、brainchild’sとしてメジャーアルバム第一弾『STAY ALIVE』を発表し、全国14カ所のライヴハウスツアー〈brainchild’s TOUR 2018 -STAY ALIVE-〉を開催。すべてソールドアウトさせる。2023年8月30日(水)、Blu-ray『brainchild’s “sail to the coordinate SIX” Live at Nakano Sunplaza』をリリース。12月28日(木)にTHE YELLOW MONKEYとして日本武道館公演を開催する。
http://theyellowmonkey.jp
https://www.brainchild-s.com

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