
吉川晃司 × ポール・ウォーラー | Fender Experience 2025
ジャンルや世代を超えた注目アーティストによるライヴ、名器たちとの出会い、音楽と触れ合うワークショップ。音楽、クリエイティビティ、そして人とのつながりが交錯する体験型イベント〈FENDER EXPERIENCE 2025〉が、10月11日(土)〜13日(月・祝)の3日間にわたり原宿・表参道エリアの3会場にて開催された。ここでは、吉川晃司がFender Custom Shopのマスタービルダー、ポール・ウォーラーに理想のギターをオーダーする“スペシャルオーダー”の模様をお届けする。
鳴るギターを求めて──吉川晃司、Fender Custom Shopで究極の1本をオーダー
フェンダーのプロダクトマネージメントディレクター、藤川真人氏がFender Custom Shopについて説明したあと、ステージに現れたシニアマスタービルダーのポール・ウォーラー。続いて吉川晃司も登場すると、待ちわびていた観客の間から歓声が沸き起こった。
「緊張しています。ギター作りの神様にお会いしていますから(笑)。It’s a pleasure to meet you. 何てお呼びすればいいですか?」(吉川)
「ポールでいいですよ」(ポール)
2人が挨拶を交わしたあと、早速ギターに関するトークが始まった。最初に吉川が語ったのは、ギターを始めたきっかけ。
「我々の少年時代、ロックミュージシャンはもっとも素敵な職業の一つ。ギターが弾けたら宇宙まで飛んで行けるような感覚があったというか、まあ夢でしたよね。ギターが手に入って弾けたら、何だってできるくらいの想いがありました」
そして、ギターを弾き始めた吉川少年にとって、フェンダーは憧れの存在だったという。
「フェンダーはギターショップの上のほうに飾ってあって、店のお兄ちゃんたちが機嫌のいい時にだけちょっと触らせてもらっていました(笑)」
「Stratocaster、Telecasterはずっと好きです。僕はリッチー・ブラックモアへの憧れからStratocasterを弾き始めました。リッチーの真似をして指板を自分で削って、台無しにした仲間を何人も見ましたよ。音が全部シャープしちゃって(笑)」という、当時の日本のギターキッズによくあった失敗を聞いてポールは大笑いしていた。

吉川は1958年製のStratocasterを今回のイベントのために持ってきていた。弾いた際のボディの鳴りが良いギターを探していた中、ついに出会ったのがこれだったのだという。アンプにつないで鳴らしたサウンドが素晴らしい。シャープなカッティングプレイから放たれた粒立ちの良いクリーントーンを聴いて、観客も思わずどよめく。
「この音は何て言うんだろう? クリスピー? 一番好きな音なので持ってきたんです。でも、今は良い木材がなかなか手に入らないじゃないですか? そういう難しさとの戦いを、ポールさんはどう考えているんでしょうか?」と聞かれたポールは、「ローステッドすることによってヴィンテージの木材に近づける手法を取り入れています。木を乾燥させるという理由もありますが、ローステッドすることによって木の細胞が結晶化する。それがヴィンテージギターの音に近づけるための新しい製法なんです」と説明した。
そしてトークは、いよいよ本題のギターオーダーへ。吉川が求めているのは、“ボディの鳴りの良さ”と“カッティングでのキレの良いサウンド”。あまり歪ませないギターサウンドの楽曲を制作することが増えてきた中、先ほどプレイした1958年製Stratocasterをレコーディングで頻繁に弾いているが、頼りになるもう1本が欲しいのだという。しかし、ギターの種類に関して迷いがあるようだ。
「テレキャスのソリッドボディでないもの(Telecaster Thinline)はまだ持っていないので、そこへ行くかどうしようか相談しようと思って。シンラインも興味深いんですよね。ちょっと大人っぽい音が行けるんで」
有力候補として挙がったのが、セミソリッドボディ構造のTelecaster Thinline。「良い選択だね!」というポールの言葉に後押しされて、「じゃあ、これか!」と即決に至っていた。
「ナチュラルで木目が出ているのがいいなと。だんだんと渋いのが良くなってくるんですよ。仕事柄、ギラギラした衣装を着ることが多くて(笑)」という理由でボディもすぐに決まりそうだったが、幅広いカラーバリエーションが選択可能である旨が紹介されると、「そんなこと言われると迷うじゃないですか(笑)」と再検討し始めた吉川。仕上げに関しては一旦保留にして、ボディ材を先に検討することになった。

ステージに運び込まれたアッシュ材、アルダー材のTelecasterやTelecaster Thinlineを試奏しながら、サウンドの特性を楽しそうに確認する吉川。トークを忘れて夢中で弾き続ける姿は、ファンにとっても心和む光景だったはず。ギターキッズのような無邪気な表情を浮かべながら1本1本の音を楽しんでいた。
「このギターは、アッシュボディにメイプルネック。“アヒルの鳴き声”のような音という表現もできると思います。おそらく吉川さんは、そのコンビネーションの音を気に入っているのではないでしょうか。所有している1958年製Stratocasterをベースに製作するのであれば、マホガニーのような茶色のローステッドアッシュを使用して近いサウンドを作れると思います」
ポールの説明を聞きつつ、かなり長い時間をかけて試奏。その感触に基づいた判断で、ローステッドアッシュをボディ材に使用したTelecaster Thinlineの製作が決定した。ボディのトップ材にメイプルを使用すると高級感が出るという提案もあったが、吉川が求めているイメージとは異なるようだ。
「削ぎ落したシンプルなものがいいです。おすすめはありますか? 色は木目を出すのがいいなと思っているんですけど」と聞かれ、「吉川さん自身が派手なので、ギターが派手である必要はないと思います」と答えたポール。「今日の俺、派手じゃないじゃん(笑)」という反応を聞いて観客は大爆笑。ローステッドアッシュの木目と色を活かしたナチュラルボディに決定したあとは、ピックアップについての検討が重ねられた。
「カチッ!とした音がいいです。言い方が間違っているかもしれないけど、欲しいのはマイク(ピックアップ)のパワーがあり過ぎてマイクが鳴っているタイプのギターじゃないんです。ギターの胴(ボディ)が鳴ってほしい」という要望を踏まえて、フロントピックアップにポールがすすめたのはシングルコイルのTwisted Tele。「一旦Twisted Teleで仕上げてみて、そのあとに調整することも可能です。歌声に合せてのカスタマイズはいくらでもできますので、それでいかがでしょうか?」という提案を聞いて、「プレッシャーがかかってくる(笑)。ありがたいプレッシャーです。頑張ります」と吉川は答えていた。
伝説的ピックアップ職人、アビゲイル・イバラの一番弟子で、現在はフェンダーで高品質なピックアップの製作に携わり続けているホセフィーナ・カンポスが手掛けるピックアップが搭載されるのも喜んでいた。
「完成したら、まずはレコーディングで使います。いつもツアーメンバーでレコーディングをするので、2人のギタリストと“ああだこうだ”とギターについて話し合いたいと思います」と完成を楽しみにしていた吉川はポールと握手。製作されるギターは、いつかライヴでもプレイされるかもしれない。ギターオーダーを通して、吉川のギターに対するこだわりや深い愛情が伝わってくるイベントであった。


