緑黄色社会×日本武道館 “20122022”
“リョクシャカ”こと緑黄色社会が9月16日と17日の2日間、〈緑黄色社会×日本武道館 “20122022”〉と題して日本武道館公演を開催した。“多くのバンドがこのステージでさまざまな決意をしてきた”と語ったリョクシャカにとっても、結成10周年を記念する挑戦は、新たな決意と新たなスタートの機会になったようだ。この記事では、特に長屋晴子(Vo, Gt)、小林壱誓(Gt)、穴見真吾(Ba)がステージで使ったギターおよびベースに注目しながら、2日目の熱演をレポートする。
4人のキャリアにおける“マイルストーン”として記憶され続ける日本武道館2days
緑黄色社会(以下:リョクシャカ)の魅力に、長屋晴子の圧倒的なヴォーカルを挙げることに異論のある人はまずいないと思うが、もう一つ、小林壱誓、peppe(Kb)、穴見真吾の3人が、場合によってはヴォーカル以上に主張するダイナミックなバンドアンサンブルもリョクシャカの大きな魅力として、決して忘れることはできない。“×”という記号が両者の間に起きるに違いない化学反応や相乗効果を期待させる〈緑黄色社会×日本武道館 “20122022”〉というタイトルを掲げた日本武道館2days公演の2日目は、前述したバンドアンサンブルをアピールするニューウェーブ調のロックナンバー「Alice」から始まった。
ライヴの流れにはずみをつけるために、後半戦に演奏することが多い印象があるこの曲のグルーヴを担うのが、穴見がメタリックグリーンのボディが目にも鮮やかなフェンダーのPlayer Plus Precision Bass®︎(Cosmic Jade)で鳴らす重低音のリフだ。早速、観客が手拍子で応える中、畳みかけるようにつなげた「merry-go-round」で頭を振りながら、穴見が「Alice」同様に重低音で唸らせるリフに絡みつくように小林が高音を際立たせながらコードをカッティングで鳴らす。小林が手にしているのは、深紅のボディと黒いピックガードの組み合わせが渋いAmerican Professional Telecaster®︎(Crimson Red Transparent)。アンサンブルの中から抜けてくる高音が耳に残る。「Alice」「merry-go-round」、そして、穴見がスラップを鳴らした「Bitter」まではスタートダッシュだったのだろう。
「みんな、ここが武道館だよ! 今日は私たちの音とみんなの気持ちでこの武道館をいっぱいにしたい。何も心配しなくていい。全部、私たちに預けて、心の底からこの空間を楽しんでください!」
長屋が観客に呼びかけ、客席も照らしたまばゆいライトの中、演奏したアンセミックな「始まりの歌」でぐっと熱を上げると、サポートドラマーを含む5人はたっぷり2時間半、10年の軌跡を振り返る新旧の全23曲を披露していった。
「今日集まれたことは、本当に奇跡だと思います。感謝しています。ありがとう!」(長屋)
メンバー全員でハーモニーを重ね、長屋がマイク片手にステージを上手から下手へと動き、客席の隅々にまで歌声を届けた「愛のかたち」からはバラードを含むミッド~スローテンポの曲をじっくりと聴かせていく。「愛のかたち」でクリーントーンのフレーズをビブラートで揺らした穴見は、シーケンスでストリングスも鳴らしたピアノバラードの「想い人」では、「Alice」他で重低音を鳴らしたPlayer Plus Precision Bassを使いながら、弦のしなりまで聴かせるような繊細なプレイを披露して、ベーシストとしてのスキルの高さと楽器が持つポテンシャルもアピールしたのだった。
その「想い人」からつなげた「夏を生きる」の聴きどころは、何と言っても小林が弾いたイントロのリードフレーズとギターソロだろう。特にギターソロはそれまでカッティングしていた小林がボリュームペダルを踏んだ途端、ブーストするように轟音が鳴った。その立ち上がりの速さに驚かされたが、それもAmerican Professional Telecasterのポテンシャルなのかもと思ったりも。
「高校生の時、メンバーに出会って、リョクシャカの1人として音楽活動がスタートしました。そのことはこれからずっと誇りに思います。音楽でみんなを笑顔にすると約束します」(peppe)
「ビートルズをはじめ、数々のミュージシャンが名ライヴを残してきた同じステージに立てることはシビれるほど嬉しい。でも、ここに立つことがゴールじゃない。武道館が決まった時、ここからがスタートだという決意を心に刻み込みました。これからに期待してほしい。圧倒的な演奏をしていきます」(穴見)
「リョクシャカという何の意味もないバンド名に、みんなが大きな意味と意義をくれました」(小林)
「バンドを組んだ頃から漠然と国民的なバンドになりたいと思っていました。こうやって日の丸の下でライヴができたんだから、その夢に近づけた気がします。ここに連れてきてくれてありがとう!」(長屋)
メンバーそれぞれに武道館のステージに立つ気持ちを改めて言葉にすると、4人はバンドを組んで、初めて作った曲だというロックンロール調の「マイルストーンの種」を「10年経って、こんなに聴いてくれる人が増えました!」(長屋)と披露。長屋と小林が歌を掛け合う一方で、4人がそれぞれに主張するように音を詰め込んだアンサンブルは、今現在のリョクシャカからしたら、粗削りという言葉が相応しいのかもしれないが、逆にそこが聴きどころだったと思う。この10年を振り返りながら、改めてその軌跡を噛みしめるなら、「マイルストーンの種」は外せなかったのだろう。バンドの原点を知ることができたという意味で、観客にとっても貴重な体験になったと考えれば、この日のハイライトの一つだったと言っていいのかもしれない。
そこから長屋が黒いボディがクールなAmerican Acoustasonic™ Telecaster®︎(Black)で温もりあるトーンのコードストロークを奏でた「時のいたずら」と「Re」のバラード2曲を披露して、前半戦は終了。「Re」では、長屋の歌とpeppeのピアノにAmerican Professional Telecasterの単音フレーズで寄り添う小林と、Player Plus Precision Bassでカウンターフレーズを加える穴見のプレイに、プレイヤーとしての性格の違いが表れているように思え興味深かった。
シンセオリエンテッドな壮大なインストナンバー「Actor」をインタールードとして流しながら、全員が白いツナギに着替えたメンバーたちが再びオンステージする。後半戦はアーバンなダンスポップナンバー「キャラクター」から、アップテンポのロックンロール「S.T.U.D」、まばゆい光の中、メンバー全員が声を重ねたゴスペル風のコーラスに観客がハンドクラップで応えた「あのころ見た光」、曲のスピード感を際立たせるPlayer Plus Precision Bassのソリッドな音色が印象的だった「sabotage」とつなげ、リョクシャカのアンセムのオンパレードで一気に会場を盛り上げる。そして、peppeのピアノの音が跳ねるファンキーなポップナンバー「Mela!」では金色のテープが放たれ、クライマックスに相応しいきらびやかな光景が目の前に広がった。
「(デビューする前に)とあるバンドコンテストの決勝戦で、日比谷野音で演奏した時、“ここに出ただけのバンドで終わらせないでください”と言いました。生意気だったと笑ってしまうけど、思い返すと、よく言った。カッコいいと思います。今、あの時と同じことを思っています。私たちを武道館に出たバンド、それだけで終わらせないでください。それを叶えるためには私たちの音楽を愛してくれるみんながいないとダメ。みんなともっと先の景色を見たい。同じ気持ちかな? どうかな? もっといろいろな夢を目指していきたい。もっと大きな場所で会えたら嬉しいです!」
新たな決意を長屋が語りながら、バンド結成10周年の記念日である7月4日に配信リリースしたバラード「ブレス」で本編を終えると、ボーナスステージとしてさらに2曲、切ない曲調と向こう意気溢れるバンドアンサンブルの組み合わせがリョクシャカらしい「またね」とアンセミックな「これからのこと、それからのこと」を披露。
「すごくいい景色を2日間、楽しませてもらいました。すごく楽しかった。バンドって超楽しい。音楽って超楽しい。みんなともっと大きなステージを目指していきたいと思いました!」(長屋)
「これからのこと、それからのこと」のアップテンポの演奏と長屋が伸びやかな声で歌う《残すところはスタート切るだけの伸び代ばかり》という歌詞が印象づけたのは、結成から10年を経たリョクシャカの新たなスタートだった。American Professional Telecasterを手にした小林がハイトーンを際立たせたプレイで演奏にきらめきを加える。一方の穴見はPlayer Plus Precision Bassをスラップして、グルーヴをさらに加速させると、スライドで弦をしならせる。バンドアンサンブルの中から抜けてくる伸びやかな低音の鳴りが心地いい。
日本武道館2days公演の大団円を飾った渾身のプレイには、やり切ったというメンバーたちの達成感とともに清々しさが満ち溢れていた。リョクシャカのキャリアにおける“マイルストーン”の一つとして、これからも記憶され続けることだろう。
【SET LIST】
1. Alice
2. merry-go-round
3. Bitter
4. 始まりの歌
5. アウトサイダー
6. 陽はまた昇るから
7. 愛のかたち
8. inori
9. 想い人
10. 夏を生きる
11. Shout Baby
12. マイルストーンの種
13. 時のいたずら
14. Re
15. Actor
16. キャラクター
17. S.T.U.D
18. あのころ見た光
19. sabotage
20. Mela!
21. ブレス
BONUS STAGE
1. またね
2. これからのこと、それからのこと