Special Interview | 新井和輝(King Gnu) -前編-
見た目はアメデラだけど中身はウルトラ。ある種“いいとこ取り”したベース
King Gnuやmillennium paradeのベーシストとして活躍する新井和輝。2021年に自身のシグネイチャーモデルを初めて制作した彼の、新たなモデルDeluxe Jazz Bass® V, Kazuki Arai Editionが8月22日に発売された。限定モデルだった前作の基本コンセプトを踏襲しつつ、求めやすい価格に抑えたという新モデルについて、本人が語ってくれた。
──まずは、今回のシグネイチャーモデルであるDeluxe Jazz Bass V, Kazuki Arai Editionを制作するに至った経緯からお聞かせください。
新井和輝(以下:新井) 2021年に自分のシグネイチャーモデルを初めて制作しました。その時は、常田(大希)のシグネイチャーモデルDaiki Tsuneta Swingerとの同時発売で、展開の仕方を考えた時に“限定販売にしよう”という話になったんです。その直後に僕が、フェンダーさんとエンドースメント契約をさせてもらうこととなり、それを経て“シグネイチャーモデルをレギュラーラインナップとして出しませんか?”という打診をいただいたという経緯です。
限定販売だったこともあり、前回のモデルはすでに完売してしまって。もちろん、限定ゆえにそれと同じものは出せないにせよ、僕が使っているベースはずっとこの形なので、“前回のモデルを踏襲する形でもよければ”ということで今回の発売に踏み切ったという流れでした。
──前回のモデルのどのあたりを踏襲したのでしょうか。
新井 American Deluxe Jazz Bass Vを基にしたディンキーシェイプのボディと5連ペグ、それから心臓部であるウルトラのピックアップ(Ultra Noiseless™ Vintage Jazz Bass)とプリアンプ。オリジナルのネックシェイプ、そして前回の大きな特徴の一つだったアノダイズドピックガード(アルミニウムの表面に保護のための皮膜を付ける加工処理がされたピックガード)ですね。とにかく僕が“こうしたいな”と思い描いていたわがままを、全部乗せしたのが前回のDeluxe Jazz Bass V Kazuki Arai Editionでした。
ただ、それに付随して値段も上がってしまったので、今回はできるだけ値段を下げたいと思いました。もちろんクオリティは担保しつつ、そこをどうバランス取っていくかが課題だったのですが、フェンダーのスタッフさんと何度も話し合いを重ねていく中で、すごくいい着地点を見つけられたと思っています。
特にピックアップとプリアンプに関しては、本国のフェンダーから出ているAmerican Ultraシリーズのをそのまま搭載しているのですが、フェンダーが出しているアクティヴ回路のとしては、もうこれが一つの正解になっていますよね。“アクティブベースのサウンドと言えばこれ”みたいな。しかも超万能なんですよ。どんなスタイルの音楽にもバッチリ対応できるサーキットだと僕は思っていますね。
──American Deluxe Jazz Bass Vの特徴であるディンキーシェイプや5連ペグについては?
新井 もともと“弾きやすいから”という理由でアメデラ(American Deluxe)を選んだというよりは、まず見た目がカッコ良くて、手にしたら結果的に弾きやすかったということなんです。僕のベースヒーローであるデリック・ホッジが使っているというのも決め手の一つでしたしね。5連ペグも発売当初から“かっこいいな”と思っていて、自分のシグネイチャーを出すとなった時にはぜひとも取り入れたいと思っていました。自分自身のトレードマークというか、アイデンティティと言えるかもしれない。
ウルトラ(American Ultra Jazz Bass V)は音がいいのだけど、個人的にはちょっとボディが大きかったり、ネックの指板や弦間が広かったりして。“もうちょっと小ぶりのベースが出ていたら嬉しいんだけどな”と思っている人は、きっと僕だけじゃないと思うんですよね。それを踏まえて僕のシグネイチャーモデルは、見た目はアメデラだけど中身はウルトラみたいな、ある種“いいとこ取り”したベースになっている(笑)。アノダイズドピックガード仕様になっていることも含め、一つひとつのパーツはスタンダードなものを使用しつつ、それを今までにない組み合わせで完成させていて。そういうコンセプトが自分の性にも合っているんですよね。
──では、今回のモデルならではの特徴について教えてください。
新井 もっとも変わったのは、塗装がラッカーからポリになっているところ。そもそも前回ラッカーにしたのは、個人的な探究心が大きかったんですよ。“ラッカー塗装を施した5弦のアクティヴベースって、実はそんなにないよね?”みたいな話から始まって、しかもフェンダーだとほとんど見たことないし“だったら作ってみよう”というわがままを通してもらったのが前回のモデルだったんです。本来、アクティヴベースの5弦と言えばポリ塗装が主流じゃないですか。おそらくそれは、重量感や環境に左右されずプロダクトを安定させる理由でもあったと思うんですよね。なので今回、主流であるポリ塗装に戻したことでより王道のアクティヴベースらしいサウンドになったと思います。しかも価格を抑えることもできたので、良い方向性だったのではないかと。
──それと今回、ゴールドアノダイズドピックガードの下に薄いピックガードを挟んでいます。
新井 前回のモデルは、ヴィンテージの風合いを再現した粒子の粗い2-Color SunburstとVintage Naturalの2色で展開したのですが、2-Color Sunburstにはゴールドアノダイズド、Vintage Naturalには1プライのべっ甲柄と、それぞれ本モデル限定のピックガードを装備したところ、弾き比べた時にアノダイズドのほうが少し薄くて、スラップしづらかったんです。要するに、ピックガードの厚みによって、スラップした時の違いが如実に出たわけです。
けっこうスラップする人ってピックガードの厚みにこだわるというか。人差指が深く入ってしまうので、指弾き専門の人よりもそこはシビアだと思うんですよ。それをフェンダーのスタッフさんに相談したところ、アノダイズドピックガードの下に薄いピックガードを挟むことで、ナチュラルのピックガードと同じ厚みにしてくれて。おかげでスラップもめちゃくちゃしやすくなりました。ミリ単位の超細かいこだわりですけど(笑)、実際の弾き心地が全然違いますね。
>> 後編に続く(近日公開)
Deluxe Jazz Bass V, Kazuki Arai Edition
新井和輝
ヒップホップや黒人音楽好きの母親のもと育つ。中学生時代、友人達とのバンド結成をきっかけにベースを始めた。高校に入学すると軽音部に所属。先輩に連れられて観たジャズ・セッションのライヴでジャズに目覚め、ブラック・ミュージックに深く傾倒する。日野“JINO”賢二、河上 修に師事し、ピノ・パラディーノ、ミシェル・ンデゲオチェロ、マーカス・ミラー、レイ・ブラウンなどから影響を受ける。大学時代に西荻窪Clop Clopで出会った勢喜遊を通じ、常田大希、井口理と前身バンド、Srv. Vinciとして活動を開始。2017年4月のKing Gnu始動以降も、多種多様なアーティストのライヴやレコーディングに参加し活動の幅を広げている。
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