Interview | 小曽根真 × 山岸竜之介 -前編-

小曽根真 × 山岸竜之介

ジャズピアニストの小曽根真率いるビッグバンド“Makoto Ozone featuring No Name Horses”のライヴが昨年6月、ブルーノート東京にて開催され、スペシャルゲストとして20歳のギタリスト山岸竜之介が参加し大きな話題となった。ステージで山岸は、American Performer Jazzmasterを使用。そこで今回、2人のスペシャル対談を敢行し、出会いの経緯や異色とも言えるセッションの印象などについて語ってもらった。

“自分の思いをどうやって伝えていくか” それが実は音楽でもっとも大事なこと
 

―  まずは、お2人が出会った経緯を教えてもらえますか?

小曽根真(以下:小曽根)   もともとのきっかけは、あっくん(金子ノブアキ)からの紹介ですね。ちょうど去年の今頃、僕が組んでいるNo Name Horsesというビッグバンドで“ロックをやりたい”というアイディアがあって。すでに書いてあった曲を実験的に試してみたところ、すごく評判が良くて。これをちゃんと形にするためには、ギタリストが必要だなと思ったんです。  もちろん、ジャズギタリストならジョン・マクラフリンやマイク・スターンなど、付き合いの長いプレイヤーはいるんですけど、そうじゃなくてジャズを知らない若い人、それでいて当然プレイはしっかりしている人がいいなと。それでいろいろと探していた時に、偶然あっくんとお会いする機会があって。初対面だったのですが、挨拶もそこそこに“誰かいないですか?”と聞いたら、“います”と即答してくれた(笑)。思えばあの日は、竜之介がNAMM SHOWで素晴らしいパフォーマンスをして話題になった翌日だったんですよね。

山岸竜之介(以下:山岸)   そうだったんですか!

小曽根   今考えると必然だったのかもしれないね。それですぐにあっくんに動いてもらって、横浜で一緒にご飯を食べた。その時に竜之介が“僕、譜面が読めないから、同じことを2回弾けないんですけど、それでもいいですか?”と聞くので、“俺も2回弾けないから大丈夫”と答えました(笑)。その場で彼に弾いてもらいたい曲のデモ音源を渡し、“もし気に入ってくれたら一緒にやりましょう”と言って別れたんだよね。

山岸   1時間くらいお話しさせていただきましたよね。いただいた音源は帰りの新幹線ですぐに聴いたんです。実は僕、ジャズやプログレというジャンルにまったく触れてこなかったんですけど、聴いた瞬間に“絶対やりたい!”と思いました。この曲を弾いている自分を想像したら、ワクワクしてきて。ただ、小曽根さんに何て返事したら失礼に当たらないんだろう?と悩んでしまったんですよ(笑)。

小曽根   なかなか連絡が来なかったから、“やっぱりアカンかったのかな…?”って思ってたよ。

山岸   いえいえ、そうじゃなかったんです(笑)。もう毎日ずっと、どんなギターを弾こうか考えていました。ジャズギターのことも調べようと思って、ネットでウェス・モンゴメリーを検索して、それを家で耳コピしてみたり。それもまた自分が新しい扉を開いているんだと思ってワクワクしたんですよね。

小曽根   そんな竜之介から出てくるプレイが、僕らの中から何を引き出してくれるか楽しみでしたね。怖いもの知らずで演奏しているからこその情熱というか。だから今“新しい扉の前でワクワクした”という話を聞いて、俺の見立ては間違っていなかったなと確信したよ。

山岸   ありがとうございます!

―  初めて一緒に音を出したときの印象は?

小曽根   最初は僕と竜之介と、国立音大の僕の生徒と3人でスタジオに入ってセッションをしたんです。その時に竜之介が、事前に渡した曲を完コピしてきたんですよね。あれ、相当弾き込んできたやろ(笑)?

山岸   はい(笑)。とにかく、楽曲を細胞レベルまで自分の体に取り込まないといい演奏ができないと思ったんです。

小曽根   あんな複雑で長い曲を、2曲も完璧に覚えてきたことにびっくりしました。作った僕自身が暗譜していなかったというのに…(笑)。しかもコピーした上で、自分の世界観をちゃんと入れた演奏を聴かされた時、“やっぱりこの子はハンパないな”と思いましたね。そんなこと、本人の前で言ったら恥ずかしいだろうけど。

山岸   嬉しいです。その日はめちゃくちゃ緊張していたんですけど、スタジオに入ってアンプにギターをつないで音を出した瞬間、小曽根さんが“最高!”と言ってくださったんです。“そうそう、その音が欲しかったんだよ”って。その時点で“小曽根さん大好き!”ってなりました(笑)。

小曽根   あはははは!

山岸   自分の演奏テクニック云々よりも、まずはギターを鳴らした瞬間に“この曲には竜之介のギターじゃなきゃアカンわ”と思ってもらえるようなサウンドを作りたいと思ったので。

―  現在、山岸さんが使っているのはAmerican Performer Jazzmasterですよね?

山岸   はい。このギターとは、フェンダーさんのショールームに遊びに行かせていただいた時に出会いました。例えば古着屋さんに入った瞬間に“あ、この服!”って思う時があるじゃないですか。もうまさにそういう感じで一目惚れでしたね。“これや!”って。  やっぱり、見た目がカッコいいのが一番ロックやと思うんですよ。ジミヘンのライヴを観ていても、ステージの袖から登場した瞬間にカッコいいじゃないですか。それがギターヒーローだなと思うし、自分もそうなりたいから、やっぱり持った時に“カッコいい!”と思えるギターを弾きたい。そういう初期衝動を思い出させてくれるのが American Performer Jazzmasterなんです。

小曽根   確かに、竜之介と初めてセッションした時に“この曲のこの世界観に対して、俺はこの音でいきたいねん!”という意思をものすごく感じた。それって一夜漬けで身に付くものではないと思う。悩みに悩んで、考えに考えた先に出てきた1音に乗っかってくるんやろなって。もちろん上手く弾けることは大前提なんだけど、“自分の思いをどうやって伝えていくか”が、実は音楽でもっとも大事なことなんです。

山岸   僕、エフェクターやアンプにめちゃくちゃ興味があるくせに、あまり音のこととか詳しくなくて(笑)。とにかく“このギターだったら信頼してステージに立てる”と思えるのが一番大事で、それをこの American Performer Jazzmasterには感じるんです。本当に運命的な出会いだったと思いますね。

 

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PROFILE

小曽根真
1983年バークリー音大ジャズ作・編曲科を首席で卒業。同年米CBSと日本人初のレコード専属契約を結び、アルバム「OZONE」で全世界デビュー。以来、ソロライブをはじめゲイリー・バートン、ブランフォード・マルサリス、パキート・デリベラなど世界的なトッププレイヤーとの共演や、自身のビッグ・バンド「No Name Horses」を率いてのツアーなど、ジャズの最前線で活躍。2003年、グラミー賞ノミネート。2011年より国立音楽大学(演奏学科ジャズ専修)教授に就任し、2015年にはJazz Festival at Conservatory 2015を立ち上げるなど、次世代のジャズ演奏家の指導、育成にもあたる。近年はクラシックにも本格的に取り組み、国内外の主要オーケストラと、バーンスタイン、モーツァルト、ラフマニノフ、プロコフィエフなどの協奏曲で共演を重ね、「比類のない演奏で、観客は魅了され大絶賛した」(北独ハノーファー新聞)など高い評価を得ている。 ‍2010年、ショパン生誕200年を記念したアルバム「ロード・トゥ・ショパン」を発表し同名の全国ツアーを成功させ、 ポーランド政府より「ショパン・パスポート」を授与される。 ‍2014年にはニューヨーク・フィルのソリストに抜擢され、韓国、日本、ニューヨーク公演で共演。以来、サンフランシスコ響、デトロイト響、ラビニア音楽祭(シカゴ響)に招かれるなど、米国でも躍進を続けている。 2016年には、チック・コリアとの日本で初の全国デュオツアーを成功させ、2017年にはゲイリー・バートンの引退記念となる日本ツアーを催行。また、秋には10年ぶりに小曽根真THE TRIOを再結成し、最新アルバム「ディメンションズ」をリリース。また、11月には再びニューヨーク・フィルに招かれ、”バーンスタイン生誕100年祭”の定期演奏会に出演。アラン・ギルバートの指揮のもと、「不安の時代」とガーシュイン「ラプソディ・イン・ブルー」を3日連続で熱演し、リンカーン・センターの満場の聴衆から大喝采を得た。このライヴ録音は、2018年3月、ユニバーサル・ミュージックより「ビヨンド・ボーダーズ」と題して、小曽根真の初のクラシックアルバムとして、CDリリースを果たした。 映画音楽など、作曲にも意欲的に取り組み、多彩な才能でジャンルを超え、幅広く活躍を続けている。 2018年春、紫綬褒章受章。
› Website:https://makotoozone.com


山岸竜之介
幼稚園年長の頃、『さんまのスーパーからくりTV』にてCharとギターセッションをし一躍注目の存在となる。その後、プロのアーティストと共演を重ね、ギターの殿堂、EXPERIENCE PRS in JAPANへの出演も果たす。KenKen、ムッシュかまやつとともに結成したファンクバンド“LIFE IS GROOVE”では、RISING SUNやSUMMER SONIC、台湾の大型フェスにも多数出演。10代にして、音楽の聖地であるBlue NoteやBillboardでのバンドとして単独ライヴも果たした。ソロ活動も積極的に行い、昨年2019年初のミニアルバム「未来アジテーション」とデジタルシングル「Way to life」をリリース。また、ギタリストとしても数々のミュージシャンとコラボしている。
› Website:https://ryunosuke-gt.com/

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