Special Interview | 山内総一郎(フジファブリック) -前編-

僕の夢、遊び心、いろいろな人との出会いを通じてもらった気持ちを全部注ぎ込みました

フジファブリックのヴォーカル&ギターとして活躍する山内総一郎の新シグネイチャーモデル「Souichiro Yamauchi Stratocaster®︎ Custom」と、数量限定モデル「Limited Souichiro Yamauchi Stratocaster®︎ Custom」が10月25日に発売された。愛用しているStratocasterとTelecasterの長所を融合させ、斬新な要素も盛り込んだこのギターには、彼の理想が集約されている。完成に至るまでの試行錯誤、求めたサウンドについて本人が語ってくれた。


──新たなシグネイチャーモデルは、愛用しているFiesta RedのStratocasterと54年製のTelecaster、それぞれの良さを併せ持ったギターを具現化したんですね?

山内総一郎(以下:山内) はい。僕のメインギターはずっとStratocasterで、最初に弾いたエレキギターも日本製のStratocasterなんです。とにかく弾きやすくて、身体の一部になっていて、自分の感覚をアウトプットしやすいシェイプがこれです。そういう中で1stシングルからTelecaster Customを使ってきて、3枚目のアルバム『TEENAGER』で弾いたのはほぼTelecaster Custom。そのあとに54年製のTelecasterを手に入れて、ものすごく惹かれました。リアピックアップの太くて乾いた音がとても好きなので、“ああいうサウンドをStratocasterのシェイプでどうにかして出せないものかな”と形にしたのがこのモデルです。

──完成に至るまでにどのような試行錯誤がありましたか?

山内 まずは、デザインが難しかったです。フロントピックアップをオリジナルのアルミ削り出しエスカッションにマウントしたのですが、形やサイズ感にこだわりました。僕が想像したこのギターは“スライドギターが合うだろうな”というイメージで、CuNiFe®︎ Wide Range Humbuckerを多用すると思ったので良いデザインにしたくて。ビザールギターまではいかないけれど、どこかガレージ感があるものにしたかったんですよね。手で削って試作を重ねるという大変な作業をしていただけたことに本当に感謝しています。いろいろと考えた末に、ピックガードは最終的にStratocasterのスタンダードなものに戻しました。手にしてくださる皆さんの一生もののギターにしたかったので、ピックガードで主張し過ぎるのは違うなと。

──スタンダードな要素を踏まえつつ斬新さも盛り込みましたね。注目は、サテンフィニッシュを施したアッシュボディ。センター部分を残して左右をくり抜いたセミホロウ構造です。

山内 はい。Stratocasterのシェイプでセミホロウ構造をやってみたかったんです。豊かな箱鳴りを得る目的と、軽量化のためにやってみることにしました。ぜひ開放弦を使うローコードを弾いていただきたいですね。“ジャリーン!”っていう感じで、本当に気持ちいい音が鳴るんです。セミホロウのボディならではのサウンドだと思います。

──以前に発売されたシグネイチャーモデル「Souichiro Yamauchi Stratocaster」のボディはバスウッドでしたが、今回アッシュにした理由は?

山内 普段使っているTelecasterのボディがアッシュなんです。重量感の点で敬遠していたのですが、そのTelecasterを手に入れてから“アッシュ材で軽いものは倍音が多いんだ”と感じました。各弦の明瞭感があるので、生鳴りを良くする上でもアッシュが良いのかなと。あと、エレキギターはネックも音質にすごく関係があって、ネックとボディのバランスも重要なんですよね。

──ネックは所有している54年製のTelecasterを元にしたんですか?

山内 そうなんです。あのTelecasterが今まで弾いてきたエレキギターの中で一番好きなネックなので、それを採寸していただきました。

──ネックはメイプル、指板はローズウッドですね。

山内 はい。僕のTelecasterはメイプル指板なので見た目は違いますけど、握りは一緒です。シェイクハンドのフォームでも親指を自由に動かせて、大胆かつ細かく弾ける握りのネックですね。

──ネックのグリップ形状にはU型やV型などがありますが、本機はどのようなニュアンスですか?

山内 U型に近い感じで握れるんですけど、握り込んだ時にV型の利点である親指を支点としたフィンガリングがしやすいネックです。U80%、V20%くらいのイメージです。

──全体的には太めでしょうか?

山内 はい。これは主観の話になりますが、太いネックのほうが脱力できる良さがあります。僕は歌も歌うので、右手と左手の両方に力が入っていると声が出しづらいんです。

──ピックアップは、フロントピックアップがCuNiFe Wide Range Humbucker。これをオリジナルのアルミ削り出しエスカッションにマウントしています。ハムバッカーにした理由は?

山内 僕は70年代のTelecaster Customも持っていますが、CuNiFeはゴワつかなくて上も下もシャープでありつつ太いんです。パンチがあるピックアップですが邪魔しないです。

──エスカッションにマウントしたことによって得られるサウンドはどのような印象ですか?

山内 太いです。高音が丸くなって太く感じるのではなく、ちゃんと上が出ていて太く感じるというニュアンスですね。そして、音量に関してリアのシングルコイルとのバランスに違和感がないです。

──リアは、このギターのために開発されたCustom Wired Vintage Style Single Coil Teleです。54 年製のTelecasterの仕様を踏襲しつつ、よりパワフルなトーンを求めたそうですね。

山内 はい。ライヴではヴィンテージも新しいギターも両方使うのですが、共通して必要なのは抜けの良さなんです。でも、これがなかなか難しくて。高音は耳が痛くなるような感じにはしたくない。そうなると太くするしかない。太くするならローを増やせばいいのか?どうしたらいいの?という悩みを、オリジナルのピックアップを作ってもらうことで解消していただきました。違和感がなくて、太さと温かさもあって、エッジもあるピックアップがこれです。

──このピックアップをTelecasterのお馴染みのブリッジプレートに載せていますが、これも重要みたいですね。

山内 はい。最初はStratocasterのブリッジにしようと思っていたのですが、“このブリッジが重要なんです”と言われました。このブリッジに固定すると弦振動がシングルコイルにダイレクトに伝わって、トゥワンギーなあのTelecasterサウンドになるんです。ブリッジによってTelecasterスタイルの暴れ馬感が生まれるのは、僕も初めて知りました。このギターはホロウボディなので、“サウンドがぼやけるんじゃないか?”と想像する方もいると思うのですが、こういう要素も盛り込んだのでそうではないものになっています。ソリッドボディとアコースティック、それぞれの良さの融合になりました。

──ピックアップ関連ですと、フロントピックアップのダイレクトスイッチを搭載しているのも気になる仕様です。

山内 僕は足元の操作をスタッフさんに任せないで自分でやるようにしているんですけど、ステージで動き回ると戻るのが大変なことがあるんです。だから、ミッドブースター的な機能が欲しくて相談したら“ダイレクトスイッチはどうですか?”という提案をいただきました。二つ目のトーンがダイレクトスイッチになっています。ライヴで使ってみて“音、太っ!”って思いました。このオリジナルモデルを発表するにあたって映像を作ったのですが、それを見ていただけたら音の雰囲気がわかると思います。


──どのようなサウンド特性を持ったギターになったと思いますか?

山内 言葉にするのはすごく難しいのですが、“何倍音まで出てるんだ?”というような倍音感を各弦に持たせることができているギターです。ジャリンとした鈴鳴りのような倍音を、ぜひ皆さんにも味わっていただきたいですね。和音を鳴らしても単音で鳴らしても、どのアンプでも良い音です。

──どのような曲に合うと感じていますか?

山内 ライヴではギター&ヴォーカル的な曲でよく使っています。アルペジオからコードバッキングにいくような曲ですね。あとはスライドプレイをする曲。特にリアでアルペジオを弾くと、とても良いです。

──レギュラーモデルとリミテッドモデルが発売されますが、いくつかの違いがありますね。リミテッドモデルのネックは、1ピースのクォーターソーンメイプルと厳選されたローズウッド指板で、ボディはアッシュ。さらに、山内さんが使用しているモデルと同じニトロセルロースラッカーフィニッシュが採用されています。

山内 木目や目の詰まり方、見た目の美しさという点で素晴らしい木材が揃いました。完成したリミテッドモデルを見たのですが後ろ姿も美しかったです。メイプルネックもすごく良いんですよ。アッシュはそもそも重い材で個体差が大きいんですけど、リミテッドモデルは僕が使っているのと同じ3㎏くらい。ギターヴォーカルとしては3.2㎏くらいまでが嬉しいんです(笑)。

──(笑)。リミテッドモデルはブリッジも特別仕様です。USA製のPure Vintage 3-Saddle Tele® with Brass Barrel Saddlesが採用されています。

山内 憂いのあるトーンはブラスならではです。レギュラーモデルは日本製ですが、これもサドルがブラスです。Telecasterならではの乾いたサウンドの要因として、このブラス製サドルも大きいと思います。僕はブラスのスライドバーをメインで使っていますが、それとの相性も良いです。和音を弾いた時の倍音がダルくならなくて音の締まりが良い。あと、高音の伸びもあるんですよね。

──レギュラーモデルとリミテッドモデルではネックプレートも違いますね。

山内 はい。どちらもフジファブリックのロゴが入りますが、リミテッドモデルはナンバリングがされています。リミテッドモデルは、ハードケースにもこだわりました。外側の生地は和風な雰囲気がある高級感のある素材です。このギターの白色はすごくキレイなので、それに合う生地を探すのにも時間をかけました。ケース内側のギターを保護するクッション材は、高校生の時に乗っていた大好きな阪急電鉄の座席に近い色を選びました(笑)。

──(笑)。あらゆる点にこだわり抜いたんですね。

山内 そうなんです。僕の夢、遊び心、いろいろな人との出会いを通じてもらった気持ちを全部注ぎ込みました。神は細部に宿ると言いますけど、細部まで突き詰めたのがこのギターです。こんな経験をさせていただいたことに本当に感謝しています。

>> 後編に続く(近日公開)

Souichiro Yamauchi Stratocaster Custom


山内総一郎
81年、大阪府茨木市生まれ。15歳より音楽を始める。2004年、フジファブリックのギタリストとしてメジャーデビュー。現体制となってからヴォーカル&ギター、作詞作曲を手掛ける。2014年にはデビュー10周年を迎え、初の単独日本武道館公演を開催。2016年、フェンダー社とエンドースメント契約を締結、アンバサダーとして活動。2022年3月にはソロアルバム『歌者-utamono-』をリリース。
http://fujifabric.com

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