Interview | 細野晴臣
フェンダーベースはプレシジョンから始まったとは言え自分にとっての定番はJazz Bassなんです
©Masashi Kuwamoto
はっぴいえんどやYMO、そしてティン・パン・アレーと日本の音楽シーンの礎を築いた最重要バンドに所属し、ソロアーティストとしても数々の偉業を成し遂げてきた日本を代表するベーシスト、細野晴臣。彼のシグネイチャーモデル、HARUOMI HOSONO 66 JAZZ BASS®がついにフェンダーから発売されることになった。70年代に入手し、今も愛用しているJazz Bassを元に開発されたシグネイチャーモデル。そのこだわりのポイントはもちろん、Jazz Bassにまつわるエピソードについて話を聞いた。
― 今回、自身のシグネイチャーモデルHARUOMI HOSONO 66 JAZZ BASS®JRN F3TS RWを制作することになった経緯を教えてください。
細野晴臣(以下:細野) おそらく年代物のJazz Bassのレア感と、それを長い間いろいろなセッションで使用していたことに着目していただいたのだろうと思います。制作を申し込まれた時にそう感じました。
― シグネイチャーモデルを開発するにあたって、特にこだわった点はどこでしょうか。
細野 枯れた感じです。そして、それを復元しようと頑張っていただいたフェンダーに敬意を評します。
― 元になったオリジナルベースから変更したかったポイントと、引き継ぎたかったポイントをそれぞれ教えてください。
細野 自分は家具などもアンティークが好きで、オリジナルの古さが馴染んでいました。しかし、今回のシグネイチャーモデルはその古さを真新しい素材に置き換えた不思議なオブジェで、未来に出現するであろうクローン人間もそういう感じなのかもしれません。
― 今回のシグネイチャーモデルの中で、特に気に入っているスペックや特筆すべきポイントを教えてください。
細野 オリジナルはあまりこだわったチューニングをしていませんでしたが、シグネイチャーモデルは想像以上のこだわりが細部に施されていてびっくりしました。ボディは木材の性質上、オリジナルの軽さには届きませんが、それでも極限まで絞られていて感激しました。
― 細野さんは、ベースを始めたきっかけとして“やる人がいなかったから”“みんなギターを弾きたがっていたから”と常々おっしゃっていますが、そんなベースの楽しさに気づいたのはどんな時だったのでしょうか。
細野 ザ・ビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソンも、ザ・ビートルズのポール・マッカートニーもベースを担当していました。彼らも“やる人がいなかったから”始めたんだと思います。一見目立たない存在の楽器ですが、そのことが逆に全体のまとまりを支える大事な存在だと教えられたものです。
― これからベースを始める人、ベースを始めたばかりという人へ、ベースという楽器の持つ“他の楽器にはない魅力”について教えてください。
細野 ベースはリズムと旋律を同時に表現できる、他に取って代わるものがない楽器だと思います。バンドの中に1人以上は必要がないということも、そのポシションが特異なものだと言えます。基本的にはグルーヴをキープすることが最大の快感で、アフリカ系のリズム遺伝子を自分の中に感じられたら、そういう人こそベースに向いているんじゃないかな。
― HARUOMI HOSONO 66 JAZZ BASS®JRN F3TS RWの元となったオリジナルベースにまつわる思い出を教えてください。
細野 ベースプレイヤーとしていいドラマーに巡り会えたことは幸運でした。林立夫、高橋幸宏です。最近では伊藤大地くんとやっていますが、ベースは伊賀航くんにやってもらっています。70年代に大貫妙子のアルバムで、クリス・パーカーとセッションしたことが印象深く、かなり緊張したものの結果は良かったので自信がつきました。
― 現在も使用しているというオリジナルベースは、細野さんにとってどのような存在なのでしょうか。
細野 今のJazz Bassを手に入れた時、すでに使われていたものだったので“慣らし運転”が必要なく、すぐにレコーディングで使用しました。新品に比べ軽量で、ボディの水分がゼロ、という印象でした。そこがとても気に入っています。
― 盗難に遭うまで一時期はフレットレスのPrecision Bassも愛用されていて、“もし盗難に遭わなければ今も使っていた”とおっしゃるくらいお気に入りだったそうですが、Precision BassとJazz Bass、それぞれの魅力の違いを教えてください。
細野 そもそもフェンダーベースはプレシジョンから始まったと聞いています。自分の印象ではJazz Bassとの違いはネックの感触で、ソリッドなリズムを弾きたくなるベースです。盗難に遭ったフレットレスは“自由自在”の演奏を引き出してくれたように思います。とは言え、自分にとっての定番はやはりJazz Bassなんです。
― 今回制作したシグネイチャーモデルは今後、どのような場面で使用していきたいと考えていますか?
細野 最近はレコーディングやセッションよりもライヴのほうが多くなっています。ですから、ライヴで使用し慣らしていこうと思います。このベースを活かすレコーディングもやりたいですね。まずは周囲の若い世代のベーシストに試してもらって、お墨付きをいただければ嬉しいです。
― 細野さんにとってフェンダーというメーカー、そしてFENDER CUSTOM SHOPについてはどんな印象をお持ちですか?
細野 ベースと言えばフェンダーでした。影響を受けた名人たちがこぞってフェンダーを使い、それが素晴らしい音と演奏でした。何よりベースとしてバランスがいいのでフィットします。そういうヴィンテージ楽器の良さを受け継いでいく試みは大事ですね。
― 細野さんに憧れてベースを始めた人、ベースを始めようと思っている人へ、上達するためのアドバイスとメッセージを最後にいただけますか?
細野 自分は音楽の全体像を聴くことが好きなので、その中でベースの良さを聴き取る癖がつきました。そうすると、テクニックよりも音やタイミングに影響されました。つまり好きな音楽を聴くことが基本です。そして、時折運指やスケールなどの猛練習をすれば上手くなるんじゃないかな。
HARUOMI HOSONO ’66 JAZZ BASS® JOURNEYMAN RELIC®
価格:価格:803,000 円(税込)
デラックスハードケース、ストラップ、正規製品認定書が付属
※ 販売方法や、入荷時期などにつきましては、全国のFENDER CUSTOM SHOP取り扱い店までお問い合わせください。
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