Interview | Char -後編-

このMustangを使って、また新しい音楽とか表現が生まれてほしい

Char

長年、Mustangを愛用し続けるCharが、フェンダーとコラボレーションすることで新たなモデル“Char Mustang”が誕生した。“Char Mustang”は、Mustangとともに演奏を続け、そのすべてを知り尽くすCharだからこそ生まれた新世代のMustangだ。インタビュー後編では、新たな“Char Mustang”誕生のきっかけやこだわり、魅力について話を聞いた。原点に立ち返り、若手ギタリストにも求めやすい価格の入門モデルとして発売される“Char Mustang”には、ギタリストCharのさまざまな想いが込められていた。

新しく“Mustang”っていうチョイスが
加わったら単純に面白いでしょ
 

―  フェンダーとCharさんがコラボレーションして開発した“Char Mustang”は、どのような経緯で製作することになりましたか?

Char   ひとつは、1964年に行なわれた東京オリンピックって俺も体験していて。その頃は、本当にギターを始めた頃。それこそ、楽器屋さんに自転車で行っては、ギターをよく眺めていてね。2020年に東京オリンピックが決まった頃に、フェンダーのオリンピックホワイトっていうカラーを思い浮かべて、何かつながりがあるかなって思ったのがきっかけで。このカラーで新しいMustangを作れないかなって考えたんだよ。それが始まり。

―  オリンピックからイメージが膨らんだんですね。

Char   初めはそう。これまでフェンダーのカスタムショップでオリジナルのMustangを作ってもらって、もともとステューデントモデルってところに目線を戻して2020年までに発売したいって、こちらからフェンダーさんに発信させてもらったんだよね。最初は単純にオリンピックホワイトの日本製のMustangを出そうっていうところから始まったんだけど、どうせやるんだったら少し手を加えて2020年モデルを作りたいなと思って。

―  それで具体的に話が進んでいったんですね。

Char   そうだね。それで考えたのが、ビギナーから上級者まで“これいいじゃん!”って思えるMustangがあったら、世界中で好まれるんじゃないかなって。今までMustangにお世話になってきた恩返しじゃないけど、Mustangに何かできることがあるんじゃないかなと思って。だから、Mustangのウィークポイントを少しだけ改善する方向で新しく作れないかなってね。ただ、Mustangの魅力である“じゃじゃ馬”な部分とか、そういうスタイルは残しつつ弱点を克服したようなハイブリットにしようと。カラーはオリンピックホワイトが基本だけど、オリンピックにちなんで他に5色も作れれば面白いかなと思ってそれも作ってもらった。

―  求めやすい値段設定にすることで、新しいギタリストにMustangを手にしてほしいという想いも強かったんですか?

Char   もちろん。特に今、女の子がバンドをやっていたり、ギターを弾いている子も多いし。街を歩いている時に、女の子が“Fender”って入ったソフトケースを背負っているのを見ると、“すごい時代になったなぁ”って感じるよ(笑)。エレクトリックギターに限らず、ギターを弾いてプロになる女の子も多くなってきたよね。俺らの時代の男は、スポーツか勉強に夢中になるか、グレるか(笑)。その中にギターも入ってきたから、グレないで済んだ子も多かったと思う。今の男の子は、俺らの時代みたいにギターに憧れるってことも少なくなってきたんじゃないかな。ギターって、弾き始めるのは簡単だけど、ハマると奥が深いから、面倒くさくなってきているのかも。俺らはバンドを作るっていうのがひとつの夢でもあった時代だし。今はいろんな意味でデジタルになってきて、音楽を作るのもデジタルで完結できるから、楽器を弾く必要もなくなってきて。そんな時代に、ギターヒーローやギターヒロインでもいいんだけど、出てきてくれるためには、その入り口(楽器)が大切だと思ってね。子供の頃ってカッコいいか悪いかだけだから、このギターをカッコいいと思ってもらえれば選んで使ってもらえるわけ。そこに新しく“Mustang”っていうチョイスが加わったら、単純に面白いでしょ。

―  Mustangのサイズは、女の子でも弾きやすいですしね。

Char   海外ではいっぱいギターヒロインがいて、日本でも専門誌を読んでいると、けっこう出てきているんだよね。ただ、まだ代表的なギタリストみたいなところに俺みたいなオッサンたちが君臨している。それでいいのかなって(笑)。そろそろ新しい世代のギターヒーローやヒロインが出ないと。

―  ギターの楽しさを改めて次世代に引き継いでいくという気持ちもあるんですね。

Char   そう。そういう曲も、このギターで書きたいね。

―  ボディカラーに関してはオリンピックがあるので、オリンピックホワイトがスタンダードだったんですよね。

Char   まずはそこ。オリンピックホワイトには思い入れもあるしね。

―  このモデルの大きな特徴は、ブリッジをシンクロナイズドトレモロにしたという点ですね。長年、MustangとStratocasterを愛用しているCharさんらしい発想ですね。

Char   俺も単純にこの仕様で弾いてみたかったから。

―  チューニングを狂いづらくする目的ですか?

Char   そこは狂っても狂わなくてもいいんだけど(笑)、ユニットを変えることで絶対に音も変わると思って。そのユニットの音で、どういう音が出るのかなってことに興味があって。Mustangの音って、実はダイナミックトレモロが生み出していて。ピックアップとか回路とか、いろいろと特徴的なところはあるけど、そこじゃなくてブリッジの音なんだよ。だから、あえてそこを変えることで新しいハイブリットな燃費のいいMustangが生まれるような気がして。少しじゃじゃ馬感はなくなるかもしれないけど、使いやすくて自分であまり調整しなくても済むモデルもいいかなって。俺はジェフ・ベックみたいに、車の下に潜るのは得意じゃないから(笑)。


Mustangってすごくオシャレだと思う
だからボディ形状やヘッドは変えたくなかった
 

―  実際に新しい“Char Mustang”を弾かれてみてどう感じましたか?

Char   やっぱり音は変わったよね。特に低音の5〜6弦のテンションが変わったと思う。そこがよく鳴るようになったよね。Mustangの一番の弱点はそこだから。Mustangは歪ませてそこを弾くと、音像がぐちゃぐちゃになりがち。そこの音像がハッキリしたと思うよ。そうなると書ける曲も変わってくるかな。

―  また「Smoky」のような代表曲が生まれるかもしれないですね。

Char   そうだね。でもアームがあるのにまったく使わない曲だったり(笑)。

―  ピックアップに関しては、一般的なMustangと変わっていないですね。

Char   そこはエンジンの部分だから、そのままじゃないとね。あとはアンプで音を作っていけばいいわけだから。俺はどんなギターを借りても、結局は自分の音になっちゃう。たぶん、このギターを使ってもそこは大きく変わらないかもしれないけど、新しいMustangは6弦×22フレットの使い勝手が広がると思うよ。今までずっと使ってきたから、オリジナルのMustangの鳴る場所と鳴らない場所を知っていて。そうすると鳴らない場所は避けて弾くよね。でも今回の新しいMustangは、オリジナルよりもかなり広い範囲で鳴ってくれるから、自然と演奏のアプローチも変わっていくよ。

―  近年のギター奏法はさまざまなテクニックも増えて、広範囲を弾くことも多いですし、使いやすそうですね。そういう意味でも現代仕様のMustangと言えそうですね。

Char   まさにその通り!

―  それから、ピックアップの切り替えを3ウェイのセレクターに変えていますよね。これは?

Char   単純にスライドスイッチじゃなくていいかなって。音が出なくならないし(笑)。

―  新しい“Char Mustang”は、どのポジションで弾くことが多いですか?

Char   まだ徹底的に弾き込んでいないから決まってないけど、これからライヴで使い込んでいってからだね。ただひとつ感じるのは、ライヴの時にStratocasterとMustangを使い分けることがあるけど、出力が違うことがネックだったりする。その点、このMustangは問題ない気がするね。

―  特にこだわった点はボリュームの位置ということですね。

Char   そう。そこはやっぱりライヴ中にも頻繁に調整するところだから。ユニットを変えて、もともとのデザインの位置にボリュームノブがあると、指がボリュームに届かない。フェンダーさんには苦労していただいて、オリジナルみたいに金属のプレートに載せるタイプじゃなく、ピックガードにそのまま付けるようにして、ボリュームとトーンの位置を使いやすいところに持ってきてもらって。時間とか費用の問題もあるけど、俺が常に使っている楽器と同じじゃないと、アームを変えた意味もなくなってしまうからね。

―  すごくいいアイデアですね。最近のギタリストは、ボリュームで音をコントロールする方が少ないですし。

Char   少ないかもね。特にMustangの場合は、ボリュームを調整することでトーンが変わる感じがあるんだよね。何でそうなのかわからないけど。本当に10のボリュームの中で、10×10くらいの微妙なことをやっているからね。レコーディングであれば、カッティングはカッティング、ソロはソロみたいに弾き分けることもできるけど、ライヴは一筆書きだからボリュームで音がコントロールできないと困るよね。

―  この新たなギターで、まだ「Smoky」を演奏されていないと思いますが、少し変化があると思いますか?

Char   たぶん変わるよね。それもこれからかな。

―  今回、金属のプレートはなくなりましたが、大きくデザインは変更していないですね。

Char   Mustangってコンパクトでかわいらしくて、すごくオシャレだと思う。だから、ボディ形状とかヘッドは絶対に変えたくなかった。マッチングヘッドも美しいしね。まずはこのMustangを多くの人に手に持ってもらって、鏡を見てもらいたいね。誰でも似合うと思うよ。

―  日本人の体型に合いますしね。それに男だけじゃなく、女の子でも弾きやすい。

Char   これからギターを始める方も、例えばオヤジバンドで長年ギターを弾いている方でも、このMustangを使えば弾きやすいからいろんな表現がしやすくなると思うよ。

―  それに軽いのも魅力ですね。年を重ねると重いギターはつらいですし。

Char   そうそう。軽いギターはいいよ。

―  このギターのお披露目も兼ねた、9月23日(月・祝)恵比寿ザ・ガーデンホールにて行われるイベント「Fender presents “Meet the Legend」では、若手の人気バンドCHAIとポルカドットスティングレイと共演されるようですね。

Char   そう。この前も、10代〜60代のギタリストが出演したイベントがあったけど、それもすごく面白かったね。若手でも、根本的なエレクトリックギターの面白さを知っているなって感じたし。エレキだからこそできることがあって、それをみんなよく知っていて。それに誰がギターヒーローだったのかとか、どんな音楽を聴いてきたかとかがハッキリとわかったし。だから、今度のイベントも楽しみだね。

―  エレクトリックギターの面白さは次世代にもしっかり受け継がれていますね。

Char   俺らの時代が異常だっただけで、ギターを弾くやつが少なくなっても、そこは変わらないよね。昔は、誰もが何かしらは弾けたし、その中から抜け出すにかなり練習する必要があったと思うよ。それに先輩や後輩とか関係なく、ギターを持って常に挑んでいたよね。

―  この新しいMustangを手にした若手ギタリストが、いつかCharさんに挑む日が来るかもしれないですね。

Char   そうあってほしいね。何かのきっかけで、MustangとCharっていう人に興味を持ってもらって、例えば俺がエリック・クラプトンを知ってブルースに興味を持ったように、遡っていくこともできるから。それから、これが弾けなければギタリストじゃないなんてこともないから。そういう意味では、Mustangを手にして、コード2つで作曲家になっても構わないし。そこから俺を通して、楽器の歴史を遡ったり、60年代、70年代の音楽を聴いてくれれば、どれだけギターが楽しいか、いろんなやつがいたのかがわかると思うしね。それを知るきっかけに、このMustangがなればいいよね。

―  もしかしたら近い将来、この“Char Mustang”を手にしたギタリストが、「Smoky」のような名曲を書くかもしれないですしね。

Char   本当にそう。それは日本に限らず、世界中にこのMustangが届いて、そうなってほしいね。

―  新しいギターが、新しい音楽を生み出しますからね。

Char   ジミ・ヘンドリックスもStoratocasterで本当に美しい音を鳴らしていたし、そのイメージをさらにジェフ・ベックは更新したから。だから、俺のことを知らなくても良くて、このMustangを使って、また新しい音楽とか表現が生まれてほしいね。で、Mustangを遡ったら、Charって人がいたでいいと思う。もう“Char=Mustang”っていうイメージは払拭できないし、今さら“テレキャスが”とか言ってもねぇ(笑)。どれだけテレキャスで名曲を作っても、“Telecaster=Char”にはもうならないでしょ。それにテレキャスじゃ「Smoky」を演奏できないし。アームがないから、Telecasterにアームを付けた“テレタング”でも今度は作っちゃおうかな(笑)。それだけMustangは俺にとって大切なギターだし、新しいMustangで新しい音楽が生まれたら最高だよね。

› インタビュー前編はこちら


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PROFILE

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本名・竹中尚人(たけなか ひさと)。10代からバックギタリストのキャリアを重ね、76年にシングル「Navy Blue」でデビュー。ソロと平行してJohnny, Louis & Char、Phychedelix、BAHOなどのバンド活動も積極的に行い、2009年にインディペンデントレーベル「ZICCA RECORDS」を設立し、2017年にWebメディアOfficial ”Fun”club「ZICCA ICCA」を開設。ギターマガジン主催の「ニッポンの偉大なギタリスト100」でグランプリに選出されるなど、日本を代表するプレイヤーのひとり。
› Website:https://www.zicca.net

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