
Special Interview | モノネオン
唯一無二のプレイスタイルと、カラフルで自由なビジュアルでも注目を集めるベーシスト、モノネオン。フェンダーのシグネイチャーモデルMonoNeon Jazz Bass Vは、そんな彼の感性と哲学が凝縮された1本だ。昨年リリースの最新作『You Had Your Chance…Bad Attitude』を携えて来日した彼に、音楽的ルーツから演奏スタイル、そしてこのモデルに込めたこだわりまで、じっくりと話を聞いた。
自分の音楽で、家族を支えられる存在になりたい
──最初にベースに触れたきっかけは?
モノネオン 4歳の時に父がギターをくれて、それをベースみたいに弾いていたのが最初かな。父もベーシストなのに、どういうわけかギターをくれたんだ。
──子どもの頃に夢中になっていた音楽や、影響を受けたアーティストはいますか?
モノネオン 父と祖母だね。祖母の影響でバプティスト教会の音楽をよく聴いていた。あと、祖父がジャズピアニストのチャールズ・トーマスで、ロン・カーターやビリー・ヒギンズと一緒に演奏してたんだよね。それを見て“音楽ってすごいな”って思ったのも大きい。好きだったのはバーケイズ。ちょっと大きくなってからはフランク・ザッパやジョン・ケイジにめちゃくちゃハマったよ。
──音楽だけでなく、ファッションや自己表現のスタイルもとても独自ですが、それはどこから来ていると思いますか?
モノネオン たぶん、祖母と一緒に過ごしていた時間が大きいと思う。好きな服を自由に着させてくれていたんだ。母は夜のうちに翌日に着る服を用意していたのだけど、朝になるとそれを着たくなくて自分の部屋に戻って好きな服を選んでた(笑)。祖母はいつも“OK、自分が好きなものを着なさい”と言ってくれたし。それがだんだん当たり前になって、大人になった今も“やりたいようにやる”って感覚になった。その後、ビジュアルアートにも興味を持つようになって、ダダやシュルレアリスム、ファンクアート的な感覚を自分なりに掘り下げ、気づいたらこうなっていたんだ(笑)。
──フェンダーとの関係はどのように始まったのでしょう。
モノネオン たしかコロナの頃だったかな。パンデミック真っ最中。フェンダーのアーティストリレーションのマイケル・シュルツが、ある日いきなりインスタで“何か一緒にやらない?”と連絡してきて。“いいよ〜”って返事して。あまり深く考えてなかったんだけど、自然と始まった感じ(笑)。
──当時、フェンダーのベースやギターにはどんなイメージをお持ちでしたか?
モノネオン ずっとフェンダーの楽器は持っていたんだよね。フレットレスのJazz Bassとか。でもその頃は、別に“これをメインにしよう”とまでは思ってなかった。だけど今は、フェンダーと組んで自分のシグネイチャーモデルも作れたし、めちゃくちゃ満足してる。Jazz Bassって、ほんと万能だよね。どこでも使えるし、どんな場面でもハマる。指で弾くスタイルも好きだし、弾いていて気持ちいいし音も良い。本当に“ちょうどいい”っていうか。特にシグネイチャーモデルは自分のために作ってくれたってのもあるけど、それ抜きにしても“これ、自分にぴったりだな”って思える楽器なんだよ。

──そのシグネイチャーモデル、MonoNeon Jazz Bass Vの特にこだわったポイントはどこでしたか?
モノネオン まずね、色は絶対に自分の好きなやつにしたかった。ネオンイエローとネオンオレンジ。あの2色は俺の中で鉄板。大好きなカラーなんだよね。エレクトロニクスに関しては、そこまで細かく言わなかった。“ハムバッカータイプのピックアップにしてほしい”と言ったくらいかな。俺、シンプルな設計が好きなんだ。ただ、ネックのデザインはものすごくこだわった。弾いていて気持ちいいかどうか、あとはちゃんと安定感があるか。その二つはすごく大事だった。やり取りとしては、けっこうシンプルだったと思うよ。“これ試してみて”って言われて、“OK、弾いてみる”って返して、で“これいいじゃん”みたいな(笑)。最終的にばっちりハマった感じ。だから特に“ここを変えてほしい”とかはなかったな。
──実際にこのベースを演奏してみてどうですか?
モノネオン 色がめちゃくちゃ創作のインスピレーションになるんだよ。見た目が自分を引き上げてくれる感じ。もちろん音も最高だけど、俺ってけっこう静かなタイプだからさ、こういう見た目があることで、自分がパッとクリアになるような、そんな感じがある。レコーディングでもライヴでも使っているけど、本当に信頼できる楽器。すごく満足してる。
──このベースを、どんなタイプのベースプレイヤーにおすすめしたいですか?
モノネオン 試してみたいって思う人なら誰でもアリ。めちゃくちゃ上手い人じゃなくてもOK。うちの祖母でも、“弾きたい”って言うなら弾いてもらっていい(笑)。だからさ、誰にでもフィットするベースって感じなんだよね。
──あなたのベースプレイは、すごく遊び心があって、ときに“クレイジー”だけど音楽的な知識にも裏打ちされている。このバランス感覚はどう生み出しているんですか?
モノネオン うーん…正直わかんない(笑)。ただ、ほんとに音楽が大好きで、気づいたらずっとそばにあったんだ。プレイアーでは、シャギー・オーティスやバーナード・エドワーズのような、音と音の間を大切にする人たちにすごく影響を受けている。実は僕、もともと右利きなんだよね。なのに、どういうわけか左手でベース弾くようになっちゃって。自分でもよくわかんないんだけど、気づいたらそうなってた。今思えばその弾き方だからこそ、音の隙間とか、ニュアンスみたいな部分をすごく意識するようになったのかもしれない。ちょっと変なスタイルだけど、それが自分にとってはしっくりきてる。
──なるほど。
モノネオン もちろん練習もするし、理論的なことも学んだよ。バークリー音楽大学に2年間通っていたし。たしか2008年か2009年くらいだったと思う。ギタリストのデヴィッド・F・ジンスキーに師事していた。でも途中で辞めて地元に戻ったんだ。そこからだね、“MonoNeonスタイル”を発展させていったのは。なので、音楽について深く考えすぎないようにしているのかも。そのほうが、自分らしくいられる気がする。正直に言うと…バークリー自体はあまり好きじゃなかった。ジンスキーと勉強できたのは本当に良かったけど。あの先生との時間だけは、すごく楽しめたんだよ。彼は微分音(マイクロトーナル・ミュージック)についていろいろ教えてくれたし、それだけじゃなくてビジュアルアートにもすごく興味があって、そういうところでも気が合っていたんだよね。
──ちなみに、ベースの練習法は?
モノネオン 最初の頃は、祖母のリビングでラジオに合わせてベースを弾いていた。それから、父が関わっていたレコーディング──たとえばデニース・ラサールとかバーケイズとか──そういうのを聴きながら一緒に弾いてみるようになった。あとは、祖母と教会にもよく行ってクワイアと一緒に演奏もしていた。子供の頃からすごく自然な流れで音楽と関わっていたんだよね。“よし、今から練習!”って感じじゃなくて、ただ好きで、そこに音楽があって、自然に導かれていったような感じ。
──即興演奏や作曲をする時って、どんなことを考えているのですか?
モノネオン うーん…ちょっと抽象的に聞こえるかもだけど、やっぱり“今、自分の人生で起きていること”なんだよね。最近も祖母と一緒に曲を作ったりベースを弾いたりしてるのだけど、彼女の歌い方とか、トーンとか、イントネーションにすごく刺激を受けている。すごく独特だよね、あの抑揚。自分の中に新しい何かを呼び起こしてくれる感じがしている。
──お祖母さまの存在って、やっぱりあなたにとってすごく大きいんですね。
モノネオン うん、本当に。ただ、今は祖母が認知症になってしまって…だから、そういう一瞬一瞬をちゃんと大切にしたいなって思っている。そういう時間が、今の僕の音楽の原動力になっているんだよね。特に“歌い方”とか“演奏に込める感情”とか、めちゃくちゃ影響を受けているよ。
──ベースを始めたばかりのプレイヤーに伝えたいアドバイスはありますか?
モノネオン そうだね…たぶん、いろんな人がいろんなことを言ってくると思う。“こう弾くべきだ”とか“こうしなきゃいけない”とかね。でも一番大事なのは、自分の心に従うことなんじゃないかな。自分の耳とか自分の感覚って、ちゃんと教えてくれるんだよ。だから、あまり周りの声に流されすぎないでほしい。何があっても、自分の心を信じて進んでいってほしいな。自分の心に従う。それが、いつだって一番大切なことだから。
──最後に、今後チャレンジしてみたいことがあれば教えてください。
モノネオン もっと、自分の音楽をちゃんと書けるようになりたいし、ステージに立つことも、もっと上手になりたいと思ってる。正直言うと、まだ自分が“こうなりたい”と思っている演奏レベルには、まったく届いてなくて。頭の中ではちゃんと音が鳴っているのに、それを現実に出せてないんだよね。だから、そこをもっと磨いていきたい。それと…シンプルに“ちゃんと生きること”も大事にしたい。もっといい人間になりたいと思っているんだ。年を重ねるごとに、人生そのものへのリスペクトがどんどん深まっていっている気がする。祖母や母が年をとっていくのを見ていると、“自分が支えていかなきゃ”って自然に思うようになってきて。“音楽でどうなりたいか?”よりも、“自分の音楽で、家族を支えられる存在になりたい”っていう気持ちがすごく大きい。それが、今の僕にとって一番のテーマだね。


モノネオン
アメリカ・テネシー州メンフィス出身のベーシスト。現代ファンク、R&Bシーンを代表する最重要プレイヤーの一人であり、プリンスが生前最後に活動を共にしたメンバーとしても知られる。グラミー賞を受賞したNasのアルバム『King’s Disease』(2020年)へ参加。2022年、フェンダーよりシグネイチャーモデルMonoNeon Jazz Bass Vが発売。メイヴィス・ステイプルズ、ジョージ・クリントン、ピート・ロック、ニーヨ、マック・ミラー、ジョージア・アン・マルドロウ、ゴースト・ノートなど、数々のアーティストとコラボレーションを行っている。
https://www.mononeon.com/