Holiday Special Interview | Char × アンディ・ムーニー -3-

Holiday Special Interview

ホリデーシーズンを迎えた我々フェンダーミュージックに、サプライズともいえる超ビッグなクリスマスプレゼントが届いた。フェンダーブランドをグローバルに統括するフェンダー ミュージカル インスツルメンツ コーポレーションCEOのアンディ・ムーニー氏と、日本を代表するギタリストであり、自他共に認めるフェンダー・ラバーでもあるChar氏とのトークセッションが実現したのだ。ナビゲーターはブロードキャスターのピーター・バラカン氏。ともに1955年生まれ・62歳であるアンディ&Char両氏が、音楽との出合い・キャリアの歩み・そして音楽の未来について語り尽くすスペシャル対談を全3回でお届けする。音楽の世界が前に進むためのヒントがたくさん詰まった本セッション、ギタープレイヤーや音楽関係者はもちろん、プレイヤーに憧れる人もぜひ五感を研ぎ澄まして、彼らの熱きグルーヴを共に体感してほしい。

ISSUE 3: THE NEXT LEADERS’ PURSUIT(新時代の音楽カルチャーを創造するマスターたちの挑戦)

 

アンディ・ムーニー(以下:アンディ)   CharさんはMustangを愛用していますよね。“ステューデント・モデル”をあなたのようなプロフェッショナルが使うのは珍しいのでは? プロの視点から感じるMustangの魅力を教えてください。

Char   16歳からギターを仕事にしていますが、本物のフェンダーが欲しかったんです。18歳のころだったかな、友人から中古のStratocasterを買ったのですが、わずか1年後に盗まれてしまって。その後、帰国するアメリカ人の友人のガレージセールでMustangを見つけて、5000円で買い取りました(笑)。Mustangは触ったことがありませんでしたが、ギターを失くしたばかりだし、アーミングバーもついているし、フェンダーはフェンダーだからいいかなって(笑)。もともといわゆる“初心者用”モデルだということは後で知ったんですが、ショートネックなので、日本人や女性にはとてもフィットするのではないでしょうか。まあともかく…MustangはとってもMustangなんです。まるで女性のように、扱いが非常に難しい(笑)。

アンディ&ピーター・バラカン(以下:ピーター)   (大爆笑)

ピーター   今のはロッカールーム・トークということで(苦笑)。

アンディ   しかし、それだけMustangを愛してくださっているCharさんとはぜひ一緒に何かしなければいけませんね。

Char   ありがとうございます。もちろんTelecasterもStratocasterも最高のギターですが、Mustangのことを忘れてもらっちゃ困ります!

アンディ   MY FIRST FENDERはMusic Masterです…確か1960年代の。

Char   そうなんですか!

アンディ   Mustangと同じで、ショートスケールでネックの細いギターです。チョーキングもしやすいですし。

ピーター   子ども用にデザインされたものではないのですよね?

アンディ   Music Master、Duo Sonic、Mustangなどの一連のシリーズは“スチューデント・モデル”として作られました。創業者のレオ・フェンダーは、TelecasterやStratocasterをプロのアーティスト向けとしてデザインし、新しいプレイヤーを獲得しました。そこに私のようなコレクター、とくに日本人が参入し始めたんです。Stratocasterのヴィンテージモデルの価格は高騰し、それにTelecasterも続きました。そしてまたグランジというパンク・ブームが起き、シアトル・グランジ・バンドが出てきました。StratocasterやTelecasterを買うお金がなかった彼らは、Jazzmaster、Jaguar、Mustangを求めたのです。エルヴィス・コステロはJazzmasterを持ち、カート・コバーンはハイブリッドのJag-StangやMustangを使いました。そしてマーケットには「ギターを始めたい!」という多くの女性がエントリーしてきました。

ピーター   それは面白い現象ですね。レオには先見の明があったのでしょう。

アンディ   当初は、今でいうテイラー・スイフトようなヒロインに憧れてアコースティックギターを求める女性が多かったと思いますが、アコギは非常に難しい楽器です。そこで挫折した多くの女性がエレクトリックギターへと向かいました。目指すべき女性エレクトリック・ギタリストも多く誕生しましたね。

ピーター   ロールモデルとして、ボニー・レイットは年上すぎますか?スーザン・テデスキは少し若すぎるのかな…もっと若い世代もいますか?

アンディ   ええ。日本にはSCANDALが、オーストラリアにはコートニー・バーネットがいます。女性向けには、ネックシェイプなどを手や体の大きさに合わせたモデルが必要でしょう。Duo SonicやMustangはサイズ的にぴったりでしょうし、私個人としてはクリッシー・ハインド向けのTelecasterもおすすめします。

ピーター   Charさんは気になる女性ギタリストはいますか?

Char   ボニー・レイットは素晴らしいと思います。あとはオーストラリアのオリアンティですかね。前にマイケル・ジャクソンのバンドにいた…。

Holiday Special Interview

アンディ   おお、彼女は今アリス・クーパーと一緒にやっていますよ!

Char   そうなんですか! いいギタリストだと思います。彼女が15歳くらいのころから知っています。

ピーター   ギターを若い世代に普及させるための戦略はお持ちですか?

アンディ   はい。フェンダーへ入社して2年弱ですが、まずアメリカ国内で大規模なコンシューマー・リサーチを行いました。すると、新規購入者の約50%が女性、さらに多くがアコースティックギターをオンラインショップで購入していることがわかりました。ギターユーザー全体の男女比を比較してみると、おそらく70〜80%が男性でしょう。多くの女性にとって、ギターショップは敷居の高い存在なのかもしれませんね。 さらに驚くべきことに、ギターの年間売上の約45%が初心者による購入でした。しかし残念なことに、その約90%が最初の1年でギターをあきらめてしまうのです。でも残り10%は、Charさんや私のようにギター・アディクトとしてプレイスキルを向上させつつ、コレクターとなります。ギターがDNAの一部に刻み込まれているのでしょう(笑)。さらに重要なのはレッスンです。初心者は普通のプレイヤーより2〜4倍のお金をレッスンに使っているというリサーチ結果に注目しました。最近は、タブレット端末やスマートフォンを使ったオンライン・レッスンの人気が高いです。私たちの教育部門では、デジタルラーニングでも扱いやすいプロダクトを2017年7月より開発し始めました。こうしてビギナーの助けとなり、コーチし、励まして、最初の1年を乗り越えて10%の脱落者を減らすことでギター人口を倍増させられると考えています。これは大きなビジネスチャンスです。

ピーター   レッスンに関しては何がいちばん大切だと思いますか?

アンディ   まず1曲を覚えてもらうこと。そのために必要なスキルやテクニックが自然と身につきます。たった1曲でも確実に弾くことができれば、鏡の前でも友だちの前でも、あるいはステージ上でだってプレイする快感を味わえますし、自分に自信が持てて「次の曲を学ぼう!」というポジティブな前進につながります。なので、私たちのラーニング・プロダクトは完全に“曲”をベースにし、アコースティックギターでもエレクトリックギターでも、カントリーでもロックでも、レッスンの方針を立て「今日はコードをたくさん覚えた」「今日はレパートリーを増やした」などのスコアをつけます。若い世代にはこのようなゲーム感覚を持ったプロセスの方が楽しみながら続けてもらえると思っています。

ピーター   楽しくなければ続きませんからね。

アンディ   セミプロ時代にコーチングした私自身の経験も活かしています。当時は、若い生徒が数回でレッスンに来なくなってしまう理由を知る術がなく大変悩みましたが、現在のオンラインレッスンなら、利用したプロダクトの種類や使用時間を正確に把握できますし、メリット&デメリットに関する意見交換をユーザーと直接行えるので、コンスタントに改良できます。2018年にはさらに、インストラクターが対面式で生徒の様子をチェックしながらレッスンを進められる「インストラクター・エディション」の開発を計画しています。

ピーター   私も生徒に戻るべきですね。実は昔、10年ほどギターを弾いていましたが、ライ・クーダーを聴いてあきらめました(笑)。

アンディ   現在のシステムですと、1ヶ月あたり20ドルの登録制で、いつでもサインイン&アウト自由です。対面式レッスンは1回45分で60ドル。iTunesに月9.99ドルを払っている今の若い人たちにとって、月20ドルはとても高く感じるかもしれませんので、より多くを惹きつけるためにどうするかが課題です。

ピーター   Charさんは、ギターを教えてくれと頼まれたことはありますか?

Char   あります。

ピーター   もちろん有料ですよね(笑)?

Char   いやいや(笑)。実は僕の息子(=RIZEのJESSE氏)になのですが、まさか彼がパフォーマーになるとは思っていませんでした。彼は僕の仕事が嫌いだったみたいで…いつもツアーに出ていて家に居つかないし、長髪でだらしないなって思っていたようです。でもある日「Charさんの息子さんなら、ギターが上手いんでしょうね」と聞かれたらしくて。「いいえ」と答えるとその人が「ぜひやるべきですよ」と勧めたそうなんですよ。その後、スタッフのひとりが彼に『Purple Haze』の弾き方を教えたようで、ある日家に帰ると彼の部屋から騒音が聴こえてきて、よ〜く聴くとヘンドリックスだった。息子が弾いていたんです! 子どもというのはもともと、興味のあることに対してなら、親や学校が教えようが教えまいが、やり方をおのずから覚えると思うのですが…今の時代は、進むべきベクトルや方法を示してあげる必要があるのではと感じています。60歳を超えた今、若い世代に対して、何かを教えるというよりも「何かしなければ」と強く考えます。

ピーター   そのための具体的なアイディアはありますか?

Char   先ほどアンディが言ったようなアプリケーション・システムは素晴らしいと思います。ギターの弾き方はもちろん、チューニングなどもゲームのように遊ぶ感覚で学べるような。

アンディ   私たちと一緒に「自分の曲を正しく教えたい」と思うベテランアーティストたちも徐々に増えてきました。今考えているのは、それを技術的にどう実現するかです。たとえば、もし「Fender Play」(注)を通じて教えたいと思うアーティストが、次のアルバムに収録されるなかの1曲を自分のソーシャルネットワークで宣伝することによって、他の曲を学びたいと思う人たちを誘導できます。「Fender Play」で教えるすべての楽曲に対して著作権料を支払っていますし、曲の弾き方を伝えられるだけでなく、アルバムのプロモーションにもなります。ティーチング・プロセスを確立することで、新たなビジネスになるのです。

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ピーター   なるほど、そういうことをやると色々な可能性が開けてきますね。

アンディ   たとえば、トム・モレロは私のお気に入りのギタリストの一人ですが、偶然、彼の息子と私の娘がクラスメイトでして。年に1度の学校主催のバザーで、トムが自分のレッスンをオークションに出しました。それを私が1ドルで落札したんです(笑)。私は彼の家へ行き、彼にコーチしてもらいました。Rage Against The Machineの多くの曲の弾き方は知っていますが、彼のプレイニュアンスを直接教わりたかったのです。私たちはコラボできないか話し合い、とても乗り気になってくれました。今、自分たちのスキルを次の世代へ伝えるという私たちのビジネスに興味を持ってくれるアーティストは多いと思います。

ピーター   ポピュラー音楽のスタイルや流行は常に変化しますよね。トム・モレロはもちろん現代の人ですが、1960〜70年代など前の世代にも多くの素晴らしい音楽があります。私はラジオの仕事をしていますが、ここ日本では、多くの若い人が日本以外の音楽を聴いたことがない状況が続いています。歴史に残る素晴らしい音楽を、既に知っている人たちだけでなく、より多くの若い人の耳にどうしたら届けられるかをいつも考えています。一度聴けば、彼らは自分たちで深く掘り下げて行きますから。

アンディ   私には11歳の娘がいますが、Twenty One Pilotsなどのコンテンポラリー・ミュージックが大好きです。私がAmazonのスマートスピーカー(Alexa)を買って家へ持ち帰ったら、娘は早々に使い方をマスターし、瞬時にThe Beatlesを見つけてすべての楽曲にアクセスしていました。60〜70年代の音楽へ惹きつけられるようです。

ピーター   お嬢さんはThe Beatlesにすぐ反応しましたか? 古くさいサウンドだと思んですか?

アンディ   いいえ。私も一緒にThe Beatlesの時代に戻れて気分がよかったです(笑)。

Char   クラシックロックは“古い音楽”ではなく、もはやひとつのカテゴリーになっていますよね。たとえば僕らはベートーベン、バッハ、メンデルスゾーンなど17〜18世紀の有名な作曲家を知っていますが、その時代にはもっともっと多くの作曲家やピアニストがいたはずです。ではなぜ彼らをクラシックと呼ぶのか? それは時代を超えて「これがベートーベン」「これがバッハ」「これがメンデルスゾーン」だと“ブランド化”して聴き継がれてきたからでしょう。エリック・クラプトン、ジェフ・ベック、サンタナ、ヘンドリックスなどにも同じことがいえると思います。時代や年齢は関係ないのです。 僕には7歳の孫娘がいますが、彼女も音楽を聴いて「Charちゃん、これいいね」とか言いますし、The Isley Brothersに合わせて踊ったりもしますよ。

ピーター   私も自分がやっているラジオ番組で、ある若い夫婦からメールがきて、4歳の子どもがラジオから流れるサム・クックに合わせて踊るんだそうです(笑)。

Char   音楽もファッションもカルチャーもすべて時代ごとに流行こそ発生しますが、そんな子どもたちを含む新しい世代においても“スタンダードなベース”というのは必ずあって、どんな流れに乗っても常にそこへ戻るんだと思います。

アンディ   実に興味深い指摘です。スタンダードをしっかり踏まえたうえで、彼らが好きなことや得意なことを思うままにのびのびと楽しめる“ポジティブな力“が働くと、より魅力的なアーティストが多く成長し、カルチャー全体も面白く豊かになると思います。たとえば私の娘はピアノを習っていますが、続ければそこそこのピアニストにもなれるでしょうし、Charさんのようにギタリストにもなれるでしょう。しかし彼女は集中力に欠けています。でも、私が無理して集中力をつけさせようとすれば、それは圧力でしかなくなってしまう。常に違う角度から才能やスキルを眺め、自分自身がポジティブなアプローチで意欲や長所を引き上げていくことが大切です。デジタルでもアナログでも、プロセスやアウトプットはなんでもいい。

Char   クラシック音楽は、レッスンがあり、楽譜があり、私が子どもの頃から現在まで変わらないスタイルを貫いています。しかし、ギターはただの楽器ですから、今日からでも弾き始めることができます。ギターを持った日から、誰でもギタリストになれるのです。その自由さと親近感に気がついて、ぜひたくさんの方にプレイを楽しんで欲しいですね。


プレイヤー、ブランドメーカー、そしてブロードキャスター。至高のマスターピースたちが集った奇跡のセッションは、音楽とギターの世界の魅力をあらためて悟り、その未来を実に彩り豊かにきらめかせるものだった。誰もが固定観念にとらわれず、気の向くまま自由に好きな音楽を好きな楽器で楽しむことを、ぜひ新年の目標に掲げてみてはいかがだろう? あなたと出会うその日のために、マスターたちは今日も努力を続けている。

(注)Fender Play™:2017年にフェンダーが開始した、画期的オンライン・ラーニング・システム。現在は英語圏のみで行われている。


› ISSUE 1: HEROES MET THE SOUND(音あるいは音楽との出会い、そして歩み)
› ISSUE 2: THE PROSPECTIVE NEW ERA(デジタルストリーミング時代における音楽そしてギターの未来)
› ISSUE 3: THE NEXT LEADERS’ PURSUIT(新時代の音楽カルチャーを創造するマスターたちの挑戦)

PROFILE


Char(チャー)
Artist本名・竹中尚人(たけなか ひさと)。10代からバックギタリストのキャリアを重ね、1976年『Navy Blue』でデビュー。ソロと並行してJohnny, Louis & Char、Phychedelix、BAHOなどのバンド活動も精力的に行い、2009年にインディペンデントレーベル「ZICCA RECORDS」を設立し、2017年WebメディアOfficial ”Fun”club 「ZICCA ICCA」を開設。ギターマガジン主催「ニッポンの偉大なギタリスト100」グランプリに選出されるなど、日本を代表するプレイヤーのひとり。

Artist 2017年末より自身初となるアコースティックツアーを開催中。また、ツアー全公演をレコーディングし、ライブの約3週間後にお届けする企画CD「ZICCA PICKER」も自主レーベルZICCAサイトにて好評発売中。

› Website
http://top.zicca.net/


Peter Barakan(ピーター・バラカン)
ロンドン大学日本語学科を卒業後、1974年に音楽出版社の著作権業務に就くため来日。現在フリーのブロードキャスターとして「バラカン・ビート」(インターFM)、「ウィークエンド・サンシャイン」(NHK-FM)、「ライフスタイル・ミュージアム」(東京FM)、「ジャパノロジー・プラス」(NHK BS1)など多数の番組を担当するほか、執筆業、都市型音楽フェスティバルLive Magicのキュレーションなど精力的に幅広く活動中。
› Website:http://peterbarakan.net


Andy Mooney(アンディ・ムーニー)
ナイキ、ディズニー・コンシュマー・プロダクツ、クイックシルバーといったアパレル&ライフスタイル&エンタテインメント業界のグローバルブランドでCMOやCEOを歴任したのち、2015年6月、フェンダー ミュージカル インスツルメンツ コーポレーションのCEOに就任。豊富なビジネス&マーケティングスキルを生かし、デジタル施策を含めた大胆な取り組みをグローバル展開中。プライベートでは自身でもバンドを組むほどの音楽好きで、ギターコレクターでもある。

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