
Cover Artist | never young beach -後編-
フェンダーにしか出せない音ってありますよね。懐かしいのに、ずっと新しい
FenderNewsが毎月一組のアーティストにフォーカスする「Cover Artist」。後編となる今回は、フェンダーとの出会いから現在の愛用機材、そして音楽を続ける上での哲学までを語ってもらった。中学時代のリサイクルショップでフェンダーを見つけた思い出から、ヴィンテージへのこだわり、そして新品との付き合い方まで、フェンダーの楽器とともに歩んできたネバヤンの3人が、それぞれの視点で“本物の音”を追い求める理由を明かす。
フェンダーには長い歴史の中で培われた“音の哲学”がある
──フェンダーとの出会いについて教えてください。
巽啓伍(以下:巽) 僕は中学生の頃です。友達とギターを始めた時、家の近くのダイエーにあったリサイクルショップに、フェンダーの古いJVシリアルやEシリアルの楽器が数万円で並んでいたんです。当時は“どこ製か”なんて意識していませんでしたが、フェンダーという名前にはすでに強い憧れがありました。あのロゴを見ただけで興奮したのを覚えていますね。そのあと映画『69』を見て、クリームの音に出会ったのも大きい。エリック・クラプトンのギターサウンドを聴いて、“これがフェンダーの音か”と衝撃を受けました。そこからフェンダーの音を意識するようになりましたね。
最初に買ったのは74年製のPrecision Bassです。もう塗装もだいぶ剥がれてきてますけど(笑)。もう1本、72年製のJazz Bassも持っていて、この2本が自分の原点という感じですね。メインとして使用しているのは63年製のプレシジョンベースです。これは7年前くらいに購入しましたが、ネックの手への馴染み方や全弦の出力のバランスやトーンを絞っても減衰する帯域が少なくて、とても気に入っています。70年代や60年代のプレベを弾くうちに“スタンダード”とされてきた理由がわかってきました。やっぱり弾いた瞬間の納得感が違うんですよ。手の馴染みというのは、手の形が十人十色という点においても、とても重要だと思います。
安部勇磨(以下:安部) 僕はネバヤンを始めて3〜4年経った頃に初めてフェンダーのギターを買いました。それまでは、いわゆるビザール系のギターを使っていましたが、違うギターが欲しくなって、最初に買ったのがMustang。そこからアンプにも興味を持つようになり、フェンダーのVibroluxやTwin Reverbを使い始めました。特にアンプの音には本当に衝撃を受けましたね。ギターの表現力をここまで引き出してくれるのかと。今はPrinceton AmpやDeluxe Amp TV Frontのような小型アンプが好きですね。スピーカー1発で出る“スッキリした鳴り”が心地良くて、フェンダーらしい奥行きを感じます。
鈴木健人(以下:鈴木) 僕は、地元のリハスタでTwin Reverbを使った時に“フェンダーってこんなに音が違うんだ”と衝撃を受けました。長い歴史の中で培われた“音の哲学”があるなと。
安部 家の一室がほとんど機材部屋になっていて、フェンダーの楽器や機材もたくさんありますね。アンプは3〜4台あって、楽器もストラト、テレキャス、ベースとひと通り触ってきました。やっぱりフェンダーにしか出せない音ってありますよね。懐かしいのに、ずっと新しい。国や文化を越えても“いいもの”はちゃんと伝わるんだなと改めて感じます。
──フェンダーを使っているアーティストで特に好きな人は?
安部 思い浮かぶのはバハマスですね。一時期ずっと聴いてました。ネバヤンでも凄く意識してたときがあります。彼がずっと使っている改造されStratocasterがとてもカッコ良いんです。
巽 ジャコ・パストリアスです。すでに方々で語り尽くされていて、何を今更と恥ずかしいのですが、僕は全くもってジャコ・パストリアスと通ってきていない人生だったんです。けど、ECM Recordsに傾倒して掘り下げていくうちに、ミロスラフ・ヴィトウスを知って、そこから彼や彼の周辺作を聞いているうちに、ジャコに行きつきました。彼の演奏は、曲が持っている感情や抒情を想起させるトーンや、フレットレス故の繊細なピッチの表現にとても驚きました。彼以外にはサム・ウィルクスでしょうか。技巧派でありながら、彼が弾くPrecision Bassのコードトーンは幽玄的なエフェクトも相まって、参考にする部分は多いです。
音楽って人と話すのと同じで、その時々の感情や空気を楽しむものだと思う
──来年はバンドのデビュー10周年。日本武道館での単独公演も控えています。
安部 まだ実感がないんですよね。武道館って特別な場所だというのはもちろんわかっているんですけど、自分たちがそこに立つということが、まだ現実味を帯びてこないというか。変に気負わず、いつも通りの自然体で楽しみたいと思っています。バンド全体の空気もすごくリラックスしていて、いい状態で本番を迎えられそうです。
巽 僕も同じ気持ちですね。武道館は、これまでで一番多くの人が集まってくれる場所になると思うので、10年間応援してくれた人たちへの感謝を込めて、楽しんでもらえるライヴにしたいです。こちらもあまり気負わず、肩の力を抜いて臨みたいですね。
──10年という月日で楽器を振り返ってみて、どんな感覚ですか?
安部 やっぱり、楽器がどんどん高くなってますよね。20代の頃に“そんな値段なんだ!”って驚いていたけど、そこからさらに上がっている。数も減ってるように思います。好きなものを迷わず手に取ることの大切さを実感しています。特にヴィンテージはもう手に入りにくいので、今あるものを大事にしようと思うようになりました。
巽 若い人がヴィンテージに触れられなくなっているのは少し残念ですよね。だからこそ、自分たちの音でその魅力や背景を伝えたい。新しいモデルを入り口にして、昔のサウンドや文脈に興味を持つ人が増えてくれたら嬉しいです。
──ちなみに新品の楽器や機材を買うことはありますか?
鈴木 最近は少し増えましたね。ドラムセットやスネアはずっとヴィンテージを集めてきたのですが、持ち運びやレコーディングの都合で現行品も試してみるようになりました。最近は、ヴィンテージのエッセンスを取り入れた現行モデルも多くて、“これはこれでいいな”と思えるものが増えた。レンジが広くて扱いやすいし、やっぱり現代の機材は進化しているなと感じます。
安部 僕は新品だとエフェクターが多いです。ギターの場合、新品特有のシャキッとした立ち上がりに戸惑うことがあって、レスポンスが速すぎると逆に表情が単調に感じることもあるんですよね。もちろん現場では新品の安定感が必要なことも多いので使い分けています。録音ではヴィンテージを使うことが多いですが、現行品にも“これはこれで面白いな”と思うことが増えました。
巽 最近ちょっと気になっているのがスタックノブ仕様のJazz Bassです。オリジナルのヴィンテージはとんでもない値段がしますし、フェンダーでもなかなか復刻されない仕様なので、現行モデルでその雰囲気が味わえるのは魅力的だなと。ただ、カスタムショップの価格になると“もう少し足せばヴィンテージが買える”と思っちゃうんですけどね(笑)。
安部 素材とか巻線の違いもあって、やっぱり昔の音は昔の音なんですよね。でも、新品ももっと使いこなしていきたい気持ちはあります。車や家と同じで、ピカピカすぎると落ち着かない(笑)。ちょっと使い込まれてるくらいが心地いいというか。でも、今買ったものが何十年後かにヴィンテージになるかもしれないし、そう考えると新品との関係をイチから育てていくのもロマンですよね。
──これから楽器を始めたいと思っている人たちへ、アドバイスやメッセージをお願いします。
安部 その瞬間のグルーヴや遊び心を大事にしてほしいなと思います。音楽って、人と話すのと同じで、その時々の感情や空気を楽しむものだと思うので。
鈴木 今から始めようと思っている人には、“悩まずにまずやってみたほうがいい”と伝えたいです。最初は不安もあると思うけど、思い立った情熱があるうちに動くのが一番。誰かに否定されても、“やってみたい”と思った気持ちは本物だから、考えすぎずに行動して、実際に音を出してみてほしいですね。あと、できればいろんな国の音楽を聴くことが大切。文化の違いを感じたり、思わぬ発見があったりして視野が広がりますし。過去を掘り下げることも新しい発見につながるから、“掘る”ことを怖がらずに続けてほしいなと思います。
巽 僕は上手い、下手を評価の一番手前の基準にしてほしくないですね。音楽ってもっと感情的で、もっと自由な体験のはず。ある曲を聴いて悲しくなったり嬉しくなったり、そういう自分の感情を楽器を通してどう表現したいかを大事にしてほしいです。自分自身もその探求を今でも続けています。それは自分が演奏する時も、リスナーとしてもです。今はSNSで“こんなに弾けるぜ”みたいな競争的な文化があって、もちろんそれも素晴らしいけど、それだけが音楽の豊かさじゃない。自分にしか出せないグルーヴや表現を見つけて、それを楽しみながら続けていってほしいですね。

American Professional Classic Jaguar(Faded Sherwood Green Metallic) | American Professional Classic Mustang Bass(Faded Dakota Red)
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never young beach
2014年、東京を拠点に結成された安部勇磨(Vo/Gt)、巽啓伍(B)、鈴木健人(Dr)からなる3人組バンド。
2015年5月に1stアルバム『YASHINOKI HOUSE』をリリースし、“70年代日本語フォーク+2000年代以降のインディーロック”という独特のサウンドが話題を呼ぶ。その後、2016年に2ndアルバム『fam fam』を発表し、絆や変化をテーマにした創作姿勢を打ち出しながら、2017年にはメジャーデビュー作『A GOOD TIME』で広く注目を集める。2019年の4thアルバム『STORY』では、音数を削ぎ落としたミニマルな音像に挑戦し、ライヴやフェスのステージでも確固たる存在感を示す。2023年には約4年ぶりとなる5thアルバム『ありがとう』をリリース。国内ツアーに加え、アジア圏や北米への挑戦も視野に入れた活動で新たなフェーズに突入。2025年12月8日には、10周年イヤーの締めくくりとなるキャリア初の日本武道館公演を開催する。
https://neveryoungbeach.jp/

