
THE ONE. FOR YOSHIYUKI SAHASHI.
かれこれ四半世紀、メインのStratocasterとして使っています
アーティストが日頃より愛用しているフェンダーギターと、新たに発表されたAmerican Professionalシリーズのギターをまったく同じ環境で演奏し、見た目、弾き心地、トーンなどの違いを語ってもらう“THE ONE. FOR ALL.”。当企画の肝は、新モデルがどんなものなのか事前にまったく知らされないまま初対面を果たすということ。だからこそリアルな反応を見ることができる。今回は、ギタリストの佐橋佳幸が登場。愛用ギターについて語ったあと、いよいよ新モデルとご対面。その反応やいかに。
大量生産の楽器でも、時々大当たりがある
──まずは今お持ちの愛用ギターとの出会いから聞かせてください。
佐橋佳幸(以下:佐橋) Candy Apple RedのStratocaster。これ、昔から手に入れたいなと思っていて。ある時、亡くなられた大村憲司さんと、とあるスタジオで初めてお会いして、少しお話をさせていただいたんですね。憲司さんはヴィンテージの素晴らしい楽器を持っていらしたのですが、その日はピカピカのStratocasterかなんかを持っていて、“憲司さん、これ、何ですか?”と聞いたら、“日本製のフェンダーなんだよ”って。だから、値段がとっても安い。大量生産の楽器でも、時々大当たりがあったりするもので、楽器店に行っていろいろ弾いてみたらすごく良いのがあって、それを手に入れたんだって。
──そういうものなんですね。
佐橋 で、その日の仕事終わり、僕は速攻で楽器屋さんに行きまして、“このお店にある日本製のフェンダーをあるだけ出してください”とお願いして7〜8本くらい弾いたら、1本だけ当たりがあって。それが、60年のCandy Apple RedのStratocasterを模したモデルだったんですね。で、その場で即購入。買ったのは90年代の頭で、4万円台だったような気がします。ただ、買ったあとにどうしようかなと思ったのが、仕事で使うつもりだったのでフライトケースみたいなきちんとしたケースも欲しいとお願いしたら、ギターと同じくらいの値段だったという(笑)。ちなみに、その4万円台のストラトはですね、皆さんご存じ、小田和正さんの「ラブ・ストーリーは突然に」のイントロを弾いたギターというオチがあるんです。
──そうなんですね!
佐橋 その後、懇意にしている楽器屋さんに、いつか本物のCandy Apple Redのストラトが欲しいんだよねと話したら、“じゃあ探しときますよ”なんて言ってくれて。それで2000年頃に、アメリカの楽器店に良さそうなものがあるから輸入しちゃっていいですかという連絡があって、手に入れたのがこの子です。初めて試奏した時、それまで愛用していたギターには失礼なんですけど、だいぶ違うと感じましたね。それ以来、かれこれ四半世紀にわたってメインのStratocasterとして使っています。
──かなり年季が入っていますね。
佐橋 今日、フェンダーのスタッフの方に調べてもらおうと思っているんですけれども、これ、リフィニッシュなんですね。もともとこの色じゃなかったから、わりとお安い値段で手に入れることができたのですが、こんなにボロボロになっているので、以前が何色だったのかがよくわからないんです。ピックアップはオリジナルのままですけど、消耗品や糸巻きはダメになって新しくしていますし、ピックガードも歪みきってしまったので6年前に替えたり、コレクターズアイテムと呼ぶにはだいぶいじってしまっていますね。僕、フェンダーのStratocasterは何本か持っていますけれども、やっぱりお仕事で使いたいので、オリジナルのパーツのままということにあまりこだわらずに使わせていただいています。
──このストラトでさまざまな楽曲を弾いてきたと思いますが、印象に残っているレコーディングやライヴはありますか?
佐橋 これはよくあることで、「ラブ・ストーリーは突然に」もそうなんですけど、ツアーのサポートメンバーの方たちは毎日演奏されると思うんですが、僕らスタジオミュージシャンはその曲をレコーディングで弾くだけなので、“ちょっとあれ、弾いてみて”と言われても、全然覚えていないことがほとんどなんです。なので、小田和正さんの番組に出演してこの曲を弾くことになった時は、事前に一生懸命コピーしました(笑)。“俺、こんなことしてたんだ…”みたいな。その時に改めて思ったのが、ちょっとファンキーなR&Bっぽいタイプの曲で自分のパートを考える時、マイケル・ジャクソンの『オフ・ザ・ウォール』からの影響がすごく大きいんだなって。この前もマイケルの映画を観に行って、『オフ・ザ・ウォール』の曲を聴いていたら、“あ、これと同じようなパターンやったことあるな”と思いました。あとは、3年ぐらい前に卒業させていただいた山下達郎さんと、奥様の竹内まりやさんの現場でも、このギターは大活躍していて。昨年だったか一昨年だったか、まりやさんのツアーの告知で、いろんなワイドショーで僕がまりやさんと一緒に弾いている映像が流れていたんですけど、その時もほぼこれを持っていて。今よりももうちょっとキレイでしたね。やっぱり汗とかのせいでだいぶ剥がれてきてしまっていて、そろそろなんとかしないとね。年をとったら手に汗をかかなくなって、弦もあまり死ななくなりました(笑)。それはともかく、このギターで印象に残っているレコーディングは、『めざましテレビ』のテーマ曲だったまりやさんの「毎日がスペシャル」ですね。

1本で二度三度おいしい感じはありますね
──では、新製品(American Professional Stratocaster)の試奏を、ケースを開けるところからお願いします。
佐橋 変なとんがったギターじゃないだろうね(笑)? じゃあ、早速開けさせていただきますよ…。へぇ、こういうカラー(Oxblood)があるんですね。メイプル指板か…これ、なんですか?
──トーンのつまみを押すとフロントピックアップが足されます。リアを選んでいる時に押すと、リアとフロントのミックスになります。
佐橋 そうするとテレキャスっぽくなるってことか。これは良いですね、慣れてしまえばけっこう使えそう。こういうスペックの楽器はこれまでにもあったように思いますけれども、この組み合わせがあると一気にバリエーションが増えますね。エフェクト類を通す前の段階でけっこうな数の音色が作れるから、1本で二度三度おいしい感じはありますね。
──音の印象はいかがですか?
佐橋 僕が普段使っているモデルに比べると出力が少し大きいのか、エフェクト類のかかりが強くて少し歪みがあるのと、上下が伸びる感じがする。これは面白い。使いやすそうなギターだね。ネックの感じも嫌じゃないな。あとは、最近の楽器にしては重くない。新しい楽器って重いものが多いじゃないですか。2時間、3時間と持っているときついんですよね。そういう意味では、これは良いかなと思います。このアームってどうやってつけるの?
──アームはグッと押すと入ります。
佐橋 あ、そうなんだ。僕、普通にアームを使いますけど、バッキングの時はミュートをきちんとしたくて、ここ(ブリッジ)に手を置く癖があるんです。アームをフローティングにしているとピッチが上がってしまうので、絶対そうしないんですけど。まあ、用途によるんですかね。亡くなったジェフ・ベックさんみたいに、アームを駆使したい人はそうやって使えばいいんだろうし…これ、いくら?
──30万円前後です。
佐橋 それ、今どき安くないですか? ちょっと頑張ってバイトすれば学生さんでもいけるね。Masterbuiltとか立派なやつは、良いのはわかるんだけど、学生さんたちにはなかなか手の届かない値段だなと思っていたんですよね。日本製のフェンダーが出た時に画期的だと思ったのは、下手すれば中学生でもフェンダーのロゴが入った楽器を手に入れられるということで。最近は全体的に輸入楽器が高騰していますから、この値段はかなり安いですね。
──今回試奏していただいたのは、メイプル指板のモデルです。
佐橋 この仕様の色違いとか、ローズ指板のものとかも用意されているのではないかと思いますけど。僕、Stratocasterは57年、59年、61年、64年、77年と5本所持していますが、57年のメイプル指板のもの以外は全部ローズ指板なんですね。メイプルはガッツがあって、ソロを弾く時にはぶっとくて派手な音がしますけど、僕らの仕事は基本的に歌の伴奏をすることなので、ソロを弾くよりもバッキングをしている時間のほうが長いんですよ。そう考えると、ローズ指板のほうが収まりが良いんです。このシリーズの次回があればですけど、ローズ指板のギターも試してみたいなと思いました。
──ビジュアル面はいかがですか?
佐橋 若い子が持ったほうがいい色かな。自分が使うならもうちょっと渋めのものを選ぶと思う。でも、これは少しラメが入っているのかな? ステージ映えしそうだね。そういうところも含めて、これは普通にお仕事で使える楽器だなと思いました。あと、普通のヴィンテージストラトに慣れていると、フレットが多くてちょっと得した気分になりますね。上のレなんて、いつも大変な思いをして出していますから(笑)。
──では、最近の活動についても話を聞かせてください。9月は、EPOさんのツアーに帯同されていましたね。
佐橋 はい。つい最近、LINE CUBE SHIBUYAで終わりました。そのあとに続くのが、10月10日から始まっている、ピーター・ゴールウェイさんという東海岸のシンガーソングライターの方とのツーマンでのライヴハウスツアーで。2025年に連名で『EN』というアルバムをリリースしまして、それに伴ってバンドツアーも行ったんですけど、そのツアーの模様を『“EN” Live in Japan at Billboard Live TOKYO, 2025』というライヴ盤に収めまして。そういう作品を出したことと、ピーターさんからのリクエストもあって…これは海外アーティストあるあるなんですけれども、来日ツアーってだいたい大都市しか行かないじゃないですか。でも、2人っきりだったら細かい場所にもいろいろ行けるんじゃないかという話から、今回のツアーが実現しました。
──11月にはフェンダーのイベントにも出演されますね。
佐橋 そうです。11月9日と10日に、Billboard Live TOKYOで開催される〈Fender x Billboard Live TOKYO presents THE NIGHT OF TELE & P-BASS 〜The 75th ANNIVERSARY〜〉に参加させていただくことになりました。亀田誠治率いるバンドのサポートメンバーとして、フェンダー三昧の夜を過ごしたいと思っております。
──Telecasterが主役のイベントですが、佐橋さんはTelecasterも弾かれるのですか?
佐橋 僕にはStratocasterのイメージがあるのか、いろんなプロデューサーやアレンジャーの方がお声がけしてくれる時に求められるのは、基本的にStratocasterの音色なんですね。それはそれでとてもありがたいことなんですけれども、やっぱり他の楽器も弾いてみたいんですよね。2拍4拍のリズムギターとか、そういうのは意外とTelecasterのセンターポジションが王道だったりするので、録音の時にはTelecasterも愛用しております。僕は、2025年に他界されたサザンソウルの名ギタリスト、スティーヴ・クロッパーさんのサウンドには痺れっぱなしだった世代です。この2日間はストラトとテレキャスしか持って行かないかも。ぜひ、そのサウンドを楽しんでいただければと思います。

左:ご本人私物 | 右:American Professional Stratocaster(Oxblood)
佐橋佳幸
1961年、東京都生まれ。高校時代にEPO、清水信之と出会い、1983年にUGUISSのギタリストとしてデビュー。解散後はセッションギタリストとして、渡辺美里のバンドマスターを務めたほか、小田和正、桑田佳祐、坂本龍一、佐野元春、竹内まりや、山下達郎ら日本を代表するアーティストのレコーディングやライヴに参加。小田和正「ラブ・ストーリーは突然に」の鮮烈なイントロのカッティングをはじめ、その音色は数々の名曲に刻まれている。作編曲家、プロデューサーとしても藤井フミヤ「TRUE LOVE」などを手掛け、小倉博和とのギターデュオ、山弦としても活動。2025年にはピーター・ゴールウェイとの連名アルバム『EN』を発表し、2026年7月には同作のリリースを記念した公演を収めたライヴ盤『“EN” Live in Japan at Billboard Live TOKYO, 2025』をリリースした。

