American Vintage II Pop-up in Tokyo | 新井和輝(King Gnu)×たかはしほのか(リーガルリリー)公開取材

American Vintage IIシリーズの発売を記念し、表参道BA-TSU ART GALLERYにて2日間にわたり開催された体験型イベント〈Fender Presents : American Vintage II Pop-up in Tokyo〉。フェンダーにゆかりのあるアーティストによるトークショー&スペシャルステージの模様をお届け。第2回は、一般のお客様50名を対象に実施された新井和輝(King Gnu)とたかはしほのか(リーガルリリー)によるFenderNews公開取材の様子をレポートする。

フェンダーは安心感というか“捉えている感”がある

──お二人ともご出身は東京の福生ですよね?

新井和輝(以下:新井) 大きく言うと福生です。

──小耳に挟んだのですが、通っていた楽器屋さんが同じだったとか。

新井 THREE SISTERZという楽器屋さんですね。米軍通り沿いでおばちゃんがやっている楽器屋さんで、今でも僕らの周りのミュージシャンが掘り出し物を見に通っているようです。ヴィンテージもすごく置いてあります。

──福生にはUZUとChicken Shackという有名なライヴハウスもありますよね。

新井 Chicken Shackは高校1年生の時から入り浸っていました。人前で演奏するようになったのはそこからですね。当時、毎週木曜日にセッションをしていました。

たかはしほのか(以下:たかはし) それが水曜日に変わって、何回か行ったことはあります。

新井 今でもミュージシャンをやっている友人はそこで出会いました。君島大空とか岡田拓郎君はChicken Shackで出会ったミュージシャンですね。

──その当時からお二人は面識があった?

新井 ないですね。ほのかちゃんはちょっと歳が下なんですよね。それこそ君島とか高井息吹ちゃんが立川エリアでライヴをするようになって、それ伝いにほのかちゃんの話は聞いていました。それで、高井息吹ちゃんと僕のデュオで福生でライヴをしていたんです。当時、息吹ちゃんがバイトをしていたジャズとバーボンとステーキのお店で。

たかはし そのライヴを家族で観に行きました。

──じゃあ、ほのかさんにとって和輝さんは地元の憧れの先輩?

たかはし そうですね。すごく上手いベーシストがいるってみんな言ってました。

──お二人が初めて会ったのはいつですか?

たかはし 2017年ですね。

新井 高井息吹と眠る星座というバンドで名古屋に行った時に僕らとリーガルリリーとドミコでスリーマンのライヴをしたこともありましたね。

──和輝さんから見て、ほのかちゃんはどんな印象ですか?

新井 立川エリアは僕らのバンドシーンにとって身近だったので、そこでグッと頭角を表してきたというか。その頃、僕はバンド活動よりもプレイヤー寄りの活動をしていたので、シーンから離れていたんです。King Gnuの前身バンドを組んだ時から、名前はずっと聞いていました。

──さて、改めてお二人が楽器を始めたきっかけを教えてください。

たかはし 父親が昔ハードコアバンドをやっていまして、ギター&ヴォーカルだったんです。実家にたくさんギターがあって触れてはいたのですが、指が痛かったりするのであまり弾いていなかったんです。なぜか中学生くらいで歌を始めたのですが、中学生にとってカラオケに行くお金は高いじゃないですか。そこで無料で伴奏ができたらいいなと思って、家にあるギターで弾き始めました。

新井 僕はベーシストあるあるなんですけど、中学生の頃にバンドブームが起こって、楽器をやっている奴はカッコいいみたいな、学校の空気感に飲まれた奴からバンドを組もうって誘われて。みんなギターを持っていたので、僕は余りもののベースを始めました。ベーシストの8割はそれで始めていると思いますね(笑)。

──確かに(笑)。では、お二人のフェンダーとの出会いを教えてください。

新井 もともとは別のメーカーのベースを使っていたんです。ASIAN KUNG-FU GENERATIONやRADWIMPSがすごく好きな時期があって、武田さんが使ってるベースに憧れて中学3年生の時に買ったものを使っていました。それから音楽を深めていく中で、聴いていた音楽のルーツが基本的にフェンダーのベースで成り立っていることが多いことに気付いて。マーカス・ミラーなど挙げればきりがないですが、ずっとシンパシーを感じていて、それから僕の音楽志向もジャズのほうに変わっていきました。デリック・ホッジというベーシストがいるのですが、彼のプレイがずっと好きで、ここまで好きなら彼の持っているベースを買おうということで、憧れ半分、音半分で初めてフェンダーを手に取ったんです。それが2014〜15年ですね。

──7〜8年はフェンダーを使い続けているということですね。

新井 そうです。その時のベースを今でも使っていますし、そのベースをもとにフェンダーから僕のモデル(Deluxe Jazz Bass® V Kazuki Arai Edition)を出させてもらっています。

──ほのかさんの初フェンダーは?

たかはし フェンダーを初めて購入したのは、さっきも話に出たTHREE SISTERZというお店です。大好きなニルヴァーナのカート・コバーンが使っているMustang®︎というギターがすごくかわいくて、私もああいう風にギターを弾いて歌うことができたらいいなという憧れから、ヴィンテージのMustangを買いました。それが2015〜16年です。

──それからフェンダーのギターを使っていただいているということですが、フェンダーの特性、楽器として優れている点を教えてください。

新井 僕もフェンダー以外の楽器を使ってきましたが、フェンダーを使っていない人って“フェンダーは使わない”と思って使っていない人が多いんですよね。多くの人が使っているし、あまりにスタンダードだから他の人と被るのが嫌だという人もいます。それでも、ここまで多くの人が使っているのを考えると、やっぱり安心感というか“捉えている感”があるんですよ。芯があって楽器による個性がある。芯が太い感覚かな。それこそニルヴァーナからジャコ・パストリアスまで幅が広いですが、結局、フェンダーを使っているので。

たかはし 全部言われてしまった(笑)。個人的には歴史を感じる瞬間、塗装が剥げていたり、色が焼けていたりとか、そういった時代の流れを感じ取るのが好きなんです。あと、フェンダーというロゴがあると、より真実味が増すという魔法のようなものがあって。ボロボロであるほどすごくカッコいいなと思います。

──“歴史を感じる瞬間”という言葉が出たので、ヴィンテージというキーワードでお話を伺っていきます。そもそも楽器以外でヴィンテージものは好きですか?

たかはし ワンピースがすごく好きで、ヴィンテージのワンピースをよく買います。見かけるとすぐにお店に入ってしまいます。買うためにというよりも、デザインを見るためにお店に入るというか。あぁ、いいデザインだなって、満足することが日常的にあります(笑)。

──新品ではダメなんですか?

たかはし 一点物というところに目が輝いてしまいますね。想像力が働くというか。誰が着ていたんだろう?とか、ちょっとほつれていても“あ、前の持ち主の性格なのかな”とか。

──今日お召しの服は?

たかはし 実は古着屋さんで購入した、ヨーロッパから渡ってきたものなんです。

──とても素敵です。和輝さんはどうですか?

新井 けっこうシャツを着るんですけど、気づいたら50〜60年代のものが多いですね。楽器みたいに詳しいわけではないけど、いいなと思って手に取って買ったものが50〜60年代のものが多いですね。これも古着です。

──さて、お持ちのフェンダーのヴィンテージギター、ベースについて聞かせてください。

たかはし 78年製のMustangと72年製のTelecasterを使っています。

──ヴィンテージ楽器の長所と短所を教えてください。

たかはし 長所は、今ではもう伐採してはいけない木を使っているものが多いので、希少価値がとてもあるところです。カート・コバーンの名言に“ギターは死んだ木だ”というものがあるんです。木って水分を吸っているじゃないですか。水分を吸うのをやめた時から、経過する時間が長ければ長いほど良い音が鳴ると思っていて、それが本当にいいなと。自分が音を鳴らして息を吹き返すというか、命を芽生えさせるというか、そういう感覚があるところが長所です。短所はあまり考えたことがないんですけれど。(価格が)高いとかですか?

新井 1本目でヴィンテージを買ったの?

たかはし フェンダーの1本目がヴィンテージです。

──和輝さんがお持ちのヴィンテージベースについて教えてください。

新井 ちょうどAmerican Vintage IIシリーズのベースのラインナップにAmerican Vintage II 1966 Jazz Bass®がありますが、このモデルにもなった66年製を持っているんです。61年製のプレベも持っているので、今回出たプレベ(American Vintage II 1960 Precision Bass®)とジャズベのヴィンテージを持っています。

──ヴィンテージの長所と短所を挙げるとすると?

新井 ベースで言うと、ヴィンテージは魔法みたいなことが起こるんですよね。というのも、ほのかちゃんは“枯れた”という表現をしていましたが、間違いなく枯れているんだけど、当たりのヴィンテージに関してはあり得ないくらい新品よりも元気なんですよね。余計な部分は年月が経っているから淘汰されているけど、必要な部分だけが残っているから、結果、情報量が増えている。でもこれって誰も証明できていなくて、楽器屋さんもよく“枯れているよね”とか言うんですけど、プレイヤーの体感でしかなくて。実証されているわけではないけど、全員がこのことをわかっている。言葉は違うかもしれないけど、肌でわかるようなことが起こっているんだと思います。

──ヴィンテージのネガティブポイントを挙げるとしたら?

新井 やっぱり替えが利かないのが、最大の良さであり最大のネックですよね。その楽器ありきでサウンドを作り切ってしまうと、何かトラブルがあった時に違うモデルだと音も足元のセッティングも全部作り直しになっちゃう。あと、竿そのものの音が違うとプレイにも影響が出たり。しかも壊れやすい。電装系統は金属で摩耗していくので、そういう問題はついて回るというか。旧車と同じですよね。

──今回発表になったAmerican Vintage IIシリーズですが、お二人も大好きな50年代、60年代、70年代のアイコニックなモデルを可能な限り忠実に再現していますが、当然お値段も抑えられています。お二人には事前に試奏をしていただいて、好きなモデルを1本ずつ選んでいただいています。ほのかさんはAmerican Vintage II 1966 Jazzmaster®ですが、選んだ理由を教えてください。

たかはし ギターは洋服と一緒で、一目惚れをして買うことが多いんです。ヴィンテージのギターでよく見る赤み(Dakota Red)だなと思って、このギターを弾きたいなと思いました。

──この赤、素敵ですよね。

たかはし はい。何とも言えない色で、けっこうルックスで決めさせてもらいました。

──試奏していただいた感想は?

たかはし 手はあまり大きくないんですけれど、手の平に吸い付くような感覚があります。ネックも太さを感じないというか、特有の痛みを感じないですね。

──和輝さんはAmerican Vintage II 1966 Jazz Bass®を選びましたね。

新井 はい。興味としては66年製のジャズベを持っているのでAmerican Vintage II 1954 Precision Bass®も弾きたいのですが、良さを伝えるという意味では66年のジャズは馴染みがあるので、そういうところを優先しました。

──66年製のオリジナルと今回のAmerican Vintage II 1966 Jazz Bassを比べて、ずばり率直な意見をお願いします。

新井 僕的には“66年なんだ”というところがあって。ヴィンテージのジャズベに限った話だと、64年とか65年がわりと全盛期のモデルなので、66年に目を付けたのがいいなと(笑)。あと、僕が持っている66年製と比べて芯の部分はほぼ変わらないなって。もちろん新品なので新品の音はするんです。だって、60年くらい弾かれている楽器と生まれたばかりの楽器に差がないわけはなくて。そういったシンパシーというか、共通項みたいなものは感じました。

──このAmerican Vintage II 1966 Jazz Bassはどんなシーンで弾いてみたいですか?

新井 すごく元気なサウンドなので、基本的にこれで不足が出るようなことはないんじゃないかなと。さっき音を出した限りですけど、そう思いましたね。

──ではオールラウンドにいける?

新井 絶対にオールランドにいけると思います。

──American Vintage IIシリーズはどんなプレイヤーにオススメですか?

たかはし こういうヴィンテージ系のギターは長い目で見てもらいたくて。もしかしたら自分の命よりも長いものですし、そういう存在が欲しいなと思っていつも私はギターを買っています。自分の魂をギターに込めたいなと思ったら、ぜひ買ってください。

新井 すべてのジャンルとか現場を網羅できるという話をしましたが、本当にプロにも向いている楽器だと思います。プロが現場で使ってもまったく違和感がないし、ビギナーの人が初めに使ったとしても、楽器に導かれるってことがあるのでオススメです。よく言うじゃないですか。最初はケチらないで良いものを買っておきなさいって。僕は最初、1万円くらいのベースを買いましたが、今考えると言っていることはすごくわかるんです。それも含めて、本当の意味ですべての年代とキャリアの人に使ってもらいたいなと思います。

──最後に、FenderNewsを読んでいる方々へメッセージをお願いします。

たかはし 私は言葉が下手だったりするんですけれど、楽器を通じて自分の言語として表現できる唯一の“口”だと思っているんです。そういったものを皆さんも見つけられたらいいなと思います。なので、ぜひフェンダーのギターをお願いします(笑)。

新井 ほのかちゃんが言った“楽器は言葉”ということに尽きると思います。それで言うとフェンダーは歴史もノウハウもあるし、ヴィンテージも新しいプロダクトもあるので、ぜひフェンダーに触れてもらえたらと。こういう場も音楽や楽器があってこそなので、これからも音楽や楽器を大切にしていきたいですね。


新井和輝(King Gnu)
東京都出身。ヒップホップや黒人音楽好きの母親のもと育つ。中学生時代、友人達とのバンド結成をきっかけにベースを始めた。高校に入学すると軽音部に所属。先輩に連れられて観たジャズ・セッションのライヴでジャズに目覚め、ブラック・ミュージックに深く傾倒する。日野“JINO”賢二、河上 修に師事し、ピノ・パラディーノ、ミシェル・ンデゲオチェロ、マーカス・ミラー、レイ・ブラウンなどから影響を受ける。大学時代に西荻窪Clop Clopで出会った勢喜 遊を通じ、常田大希、井口 理と前身バンド、Srv. Vinciとして活動を開始。2017年4月のKing Gnu始動以降も、多種多様なアーティストのLIVEやレコーディングに参加し活動の幅を広げている。
https://kinggnu.jp
https://millenniumparade.com

たかはしほのか(リーガルリリー)
東京都出身の3ピースバンド、リーガルリリーのヴォーカル&ギターで全曲の作詞・作曲も手掛ける。メンバーは、たかはしほのか(Vo,Gt)、海(Ba)、ゆきやま(Dr)。高校在学時にバンドを結成すると、国内大型フェスの出演のみならず、カナダ、アメリカ、香港、中国といった海外でのライブ公演も行う等、グローバルな活動を見せる。2021年には1st EPや初のアニメタイアップなど精力的に楽曲を発表し、2022年1月に2nd Full Album「Cとし生けるもの」をリリース、全国13箇所を巡るワンマンツアーを開催。8月10日にはデジタルEP「恋と戦争」をリリースした。11月からは東名阪で羊文学、My Hair is bad、くるりの3組を招いた自主企画 『cell,core 2022』を開催する。
https://www.office-augusta.com/regallily


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