Brand New Vintage | くるり

古き良き時代の音楽・楽器を愛しつつ、現在進行形の新たな音を生み出すアーティストに、新旧両方のクラフトマンシップについて語ってもらう「Brand New Vintage」。今回のゲストは、1996年京都での結成以降、常に第一線で活躍するくるり。岸田繁(Vo,Gt)と佐藤征史(Ba,Vo)に、音楽の歴史を変えてきた革新的なヴィンテージギター/ベースを極めて正確に再現したシリーズ「American Vintage II」を試奏してもらい、そのインプレッションを語ってもらった。


“ヴィンテージ”と言われる時代には、“奏でる音”があった

──お二人は、フェンダーのヴィンテージとヴィンテージラインの楽器は何をお持ちですか?

岸田繁(以下:岸田) フェンダーのヴィンテージギターであれば、僕は61年製のTelecaster®︎と、何年か前に仙台の楽器屋さんで手に入れた66年のマスタービルダーのTelecaster Thinline。それから具体的な年は忘れてしまいましたが、佐藤さんのお父さんから譲り受けた90年代のカスタムショップ製のStratocaster®︎の3本ですね。

佐藤征史(以下:佐藤) 僕は66年のPrecision Bass®︎と69年のJazz Bass®︎、それと僕も詳細な年は忘れてしまいましたがおそらく70年代のJazz Bassです。66年のプレベは買った時にブリッジを新品に替えたのですが、それも錆びてしまったので家にある別のプレベのブリッジを取り付けて、それを調整して使っています。69年のジャズベは、当時ローンを組んで自分で購入した初めてのベースです。ジャズベは今から10年くらい前に、当時メインで使っていたベースと同じような音がする“即戦力のあるサブ楽器”が欲しいと思って楽器屋さんへ行ったのですが、求めていたのとはまったく違うけど音色が気に入って購入し、結局レコーディングでしか使わなくなってしまったものです(笑)。

──これまでさまざまなヴィンテージ楽器を手にされてきたと思うのですが、岸田さんはギター、佐藤さんはベースを選ぶ時に何か基準のようなものはありますか?

岸田 一言で言えば“好みの音が出るかどうか”なのですが、好みの音と言っても、例えばジャズっぽいトーンが出るとか、ロックっぽいフレーズが弾きやすいとか状況によっていろいろあって。オールマイティな楽器ももちろん魅力的だけど、“やっぱりロカビリーを弾くならこれやろ”みたいな感じでギターを選ぶこともありますし…。なかなか一言で言うのは難しいですね(笑)。ネックをつかんで弦を押さえた時のフィット感みたいな要素もものすごく大事ですから。
あと色ですかね。どれだけいい音がしても、色がイマイチだったら“どうしようかなあ”と思って結局買わないこともありますね。楽器も人と一緒で“ご縁”だと思うので、たまたま楽器屋さんに行って、ピンと来たギターをちょっと試奏させてもらうと当たりの場合が多いんですよ。そうやってご縁があって選んだやつは色も好き、みたいな。なかなか普段そういうことを思わないので不思議だなぁと思います。

佐藤 ギターにしてもベースにしても、年代によって音の特徴っていろいろあると思うんですけど、僕はネックを持った瞬間に“こういう音が出るやろ”と思った音が、ちゃんと出た時にそれを選ぶという感じです。そういう楽器はコントロールがしやすいので。

──では、ヴィンテージ楽器の長所と短所ってどういうところだと思いますか?

岸田 エレキギターの場合、大体50年代から70年代あたりに作られたものがいわゆる“ヴィンテージ”と言われていますよね。もちろん当時からヴィンテージだったわけではなく、エレキギターもそれを演奏して作られる音楽とともに発展していった。つまり“奏でる音”があったということですよね。そうやって同じ時代にいろいろな楽器メーカーやビルダーがしのぎを削っていた歴史があるわけだから、当然素晴らしい楽器がたくさん生まれるし、それ以降…つまり80年代や90年代に製造されたギターよりもクセが強いというか、当時の音楽との相性が濃かったと思うんです。一方で少しギターの話とは離れますが、例えば現代的な解釈でポップソングを作ろうとした時に、突き詰めるとどんなに新しいことをやっていても古典を参照するポイントが増えていくと考えているんです。そういう時には、どういうアンプやピック、ケーブルを使うか、あるいはどういうストラップを着けてどういう気分で弾くかに至るまでヴィンテージならではのルーツ的な親和性が絶対的にあると思うんですね。
短所で言うと単純に年代が古いので物理的な劣化や故障、あるいは盗難の危険性(笑)が出てきてしまうところだと思います。ただ、今は修理の技術も発展しているので、ヴィンテージをちゃんと長く使ってあげるという気持ちで付き合っています。

佐藤 例えばこのプレベも、元々はフレットレスだったベースにフレットを打ち付けることでピッチを正確にした。だからPrecision(精度の高い)Bassという名前になったそうですが、とは言え昔の楽器は今と比べると“曖昧さ”が残っている気がして。そこが、岸田さんがおっしゃったような“クセの強さ”にもつながっていると思うんです。それこそ昔のピックアップは職人さんが一つひとつコイルを巻いていたり、ボディには現在使われていない木材が使われていたり、最近の楽器に比べると個体差も大きく、そこがプレイヤーにとっては“つけ入る隙”でもあったと思うんです(笑)。「この子ここの音めっちゃ良いのにここら辺あかんなあ」とか(笑)。例えば、さっき話した自分が初めて手に入れた60年代のジャズベに関して言うと3弦9フレットの音が一番好きだったので、そこを活かすようなフレージングを考えたりして。そういう楽器が持つクセが、自分のプレイスタイルに影響を与えるところに楽しさがある気がします。
逆に今話したジャズベはレギュラーチューニングにして2日間リハーサルを終えるとネックが曲がってしまうので半音下げでしか使ってあげられないなどといった制限はありますよね。不得意なところは不得意といった部分も含めて可愛いと思える個性が、メリットでもありデメリットでもあると思います。


American Vintage IIは新品なのにヴィンテージの持つ“使用感”や“クセ”がちゃんと出ている

──今回、お二人に試奏してもらったAmerican Vintage IIシリーズは、往年の名機を現代に蘇らせたシリーズです。岸田さんはAmerican Vintage II 1972 Telecaster Thinline®︎、佐藤さんはAmerican Vintage II 1954 Precision Bass®︎をチョイスされましたが、それぞれどんな印象をお持ちになりましたか?

岸田 とにかくヴィンテージギターの持つトーンを忠実に再現していると思いました。おそらくオリジナルは相当個体差があるので、モノによってはこちらのAmerican Vintage IIのほうが全然良い音が鳴ってるんちゃうかなと。宣伝誇張忖度抜きで(笑)、本当にいいギターだなと思って夢中で演奏しましたね。“これ作ってくれた人、ありがとう!”という感じです。特に気に入ったポイントは、弾いた時の音量感。しっかり音が鳴るギターが好きなんですよ。ツイードのアンプにつないで弾いたのですが、相性もバッチリでした。

佐藤 まず、フラットワウンドの弦が張ってあるのが反則ですよね(笑)。僕、実は新品の楽器の音よりも、人の手垢にまみれた音のほうが好きなんです。でもAmerican Vintage IIは新品なのに、ちゃんとそういうヴィンテージの持つ“使用感”や“クセ”がちゃんと出ているというか。しかもそのクセは、“これ、いい音するけどどこで使ったらええんやろ?”みたいな限定的な用途ではなくて(笑)、ちゃんと実用的な音がすると思いました。個人的には、弾いた瞬間に“これ、バイオリンベースの代わりになるな”と思ったんですよね。それでいて、プレベならではの正確なピッチとパンチのある低音も感じられたのが嬉しかったです。

──楽器を長く続けるにはどうしたら良いでしょうか?

岸田 自分にハマるやり方を見つけてそれを楽しみながら追求すれば長く続くのかなと思いますね。よく“どうやったらプロになれるんですか?”っていう質問もされるのですが、ついついプロミュージシャンは“何かをしなくてはならない”ということをやり続けてプロになっていると思われがちなのですが、自分の感覚としては“自動的”だった。漫画家の水木しげる先生がおっしゃった“やるなと言われてもやってしまうことだけやり続けなさい”という言葉が僕はすごく好きで、僕の場合はそれだったんですね。“ギター弾くな”と言われても弾いてしまうみたいな(笑)。

佐藤 やっぱり愛着。自分の楽器が鳴らす音を理解して好きになってあげることかなと思います。ジェームス・ジェマーソンがずっと使っていた弦を張り替えていないベースを息子に渡したという逸話があるのですが、たまに張り替えると“こんな表情だったのね”という感動がありますよね。調子が悪くなった時に触ってあげる愛着があればそれに応えてくれるものだったりするし、そうすると相乗効果で楽器も長く続けられると思います。

──ところで、くるりは10月9日にニューシングル『真夏日』をリリースしました。〈FUJI ROCK FESTIVAL ’21〉や〈くるりライブツアー2022〉でもすでに演奏されており、ファンからもリリースを待ち望む声が上がっていた楽曲ですね。

岸田 最近作った曲の中ではシンプルで私小説的になりました。聴きどころとしては、意外とギターが重なっていて、凝ったことをやっているパートもあり、長々としたギターソロのようなものも入っています。

佐藤 自分たちのシングルでは、珍しく即興性やバンド感のある曲になりましたね。“この音は、この子(楽器)だからこういう音がする”というプレイを、レコーディングに参加してくれたメンバー全員がしているんじゃないかと思います。

──では最後に、今回試奏してくださったAmerican Vintage IIシリーズをどんな人におすすめしたいかを聞かせてください。

岸田 “ヴィンテージ”というとハードルが高いと感じるかもしれませんが、楽器を始めてもっと本格的に追求したいと感じた方が、2本目に持つギターとして最適だと思います。ヴィンテージと言いつつもスタンダードというか。さっきも言ったように、どんな音楽をやっていても突き詰めればルーツに向かっていくわけですし。

佐藤 今や状態の良いヴィンテージなんてなかなか手に入らない“幻”みたいなものじゃないですか(笑)。もちろん、お金をかければ出会えるのかもしれないけど、“それだととても無理…”と諦める前にぜひこのAmerican Vintage IIを弾いてみてほしいです。楽器を始めてしばらくすると、“自分はこういう音がほしい”“いい音ってなんだろう”と考えるようになると思うし、そんな時に自分の“個性”みたいなものを感じることができるのが、このAmerican Vintage IIだと僕は思いますね。

佐藤:American Vintage II 1954 Precision Bass | 岸田:American Vintage II 1972 Telecaster Thinline


くるり
1996年9月頃、立命館大学(京都市北区)の音楽サークル「ロック・コミューン」にて結成。古今東西さまざまな音楽に影響されながら、旅を続けるロックバンド。2022年10月9日には〈京都音楽博覧会2022〉を開催。同会場にて京都音博2022開催記念シングル『真夏日』を発売、同時に楽曲配信もスタートしている。
https://www.quruli.net

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