Brand New Vintage | 鈴木茂

ヴィンテージギター/ベースをこよなく愛しながら、現在進行形の新しい音楽を生み出すアーティストに登場してもらう「Brand New Vintage」。今回のゲストは、伝説的バンド“はっぴいえんど”のギタリストとして活躍し、解散後に単身L.A.に渡りソロアルバム『BAND WAGON』を完成。その後、ティン・パン・アレーのメンバーとして数多くのセッションを重ね、現在も精力的な活動を続ける鈴木茂が登場。長年の愛機であるFiesta RedのStratocaster®︎のエピソードを交えながら、新たなAmerican Vintage IIシリーズの可能性について話を聞いた。


新しいものよりも、古いもののほうが好きなのかもしれない

──茂さんは若い頃からアメリカでレコーディングをされていますが、ギター以外にヴィンテージで凝っているものはありますか?

鈴木茂(以下:鈴木) ヴィンテージかどうかは分かりませんが、最初にアメリカに行った時に古着のコートを買いました。黒の毛皮のロングコートがすごく安くて。真っ黄色のバスケットシューズを履いてサンフランシスコを歩いたなぁ。特に意識していなかったんですけど、新しいものよりも、古いもののほうが好きなのかもしれないですね。

──ギターで言うと、62年製年のFiesta RedのStratocasterが茂さんのトレードマークですよね。

鈴木 あれもたまたま民家の居間に楽器が置いてあるような変わったお店があって、そこの壁にピンク色のギターが掛かっていて、面白い色だなと思って手に入れたんです。

──色から入ったんですか!

鈴木 色から入りましたね(笑)。

──そのストラトを愛用し続けている理由は?

鈴木 最初に持った時から気に入ったんだけど、実はいろいろな問題があるギターで低音が足らないんですよ。それでずっと悩んでいたけど、ある時に気が付いたのは低音が少ないぶん、高音域で弾いた時にちゃんと音の下に“肉付き”が残っているなと。だから、メロディを弾いた時に存在感があるんです。低音がないことでブースターやコンプレッサーを使ったりと工夫するようになって、そのおかげで音作りに人一倍ハマりました。あのギターに関しては、もういろいろなことをやりました。音の流れをよくする布があるんだけど、中を開けてそれを貼ったり、ギターに合うエフェクターを使ったりとかね。随分と苦労はしたけれど、その成果はありました。

──低音を補うためにいろいろと探求したと?

鈴木 そうなの。もともとストラトはシングルコイルだし。子供の頃にザ・ベンチャーズが来日して、そこで僕はギターを弾くようになったんだけど、ベンチャーズはJaguarとJazzmasterとStratocasterを使っていて、たしかサイドギターの人がストラトを使っていたのかな。とにかく、当時のStratocasterはどちらかと言うと2番手、3番手のギターだった。みんなが憧れていたのはJaguarとかJazzmasterだったんだけど、ジミ・ヘンドリックスがマーシャルのアンプとStratocasterのコンビネーションで衝撃的な音を作った。正確にはシャドウズのハンク・マーヴィンさんが元祖かもしれないけど、とにかくStratocasterの魅力って繊細な音からハードな音まで幅が広いところなんです。その繊細な音は、このギターにしか出せないような、とってもキレイな鈴鳴りのような音。モジュレーションをかけた時に、信じられないくらいキレイな音が出るんですよね。

──今日弾いていただいたAmerican Vintage II 1957 Stratocasterは、茂さんが所有しているFiesta Redよりも4年古いモデルですが、弾いた感想を教えてください。

鈴木 僕が使っているストラトよりもちょっとネックが太いのですが、握り心地はとても手に馴染むというか、良いですね。指板はメイプルで、ローズウッドとの違いは、ローズウッドのほうがしっとりとした落ち着いた音で、メイプルはわりと派手な音という印象。今まで好んでローズウッド指板を弾いてきたので、これからメイプル指板の音を追求していこうと思っています。あと、何と言ってもとっても響きがいいですよね。この色もキレイです。

──どんなシーンで使ってみたいですか?

鈴木 単純な話かもしれないけれど、フェンダーのギターってバラエティに富んだ色から選べるのがとっても魅力だと思うんです。このAmerican Vintage II 1957 Stratocasterがステージに置いてあるといいなって気はしています。お客さんも形とか色に反応してくれるから、同じギターばかり弾くのではなくて、曲によって使い分けたいなと思っていますね。 あと最初に言ったように、ローズウッド指板とメイプル指板では音の印象が違うんだよね。簡単に言うと、メイプル指板はエリック・クラプトンの最近の音みたいにちょっと枯れた印象がある。たおやかというか、可憐な感じがするのであれば、そこにもうちょっと強い部分を足してあげたりと工夫をしたら面白いと思っています。


ギターはミュージシャンの感情のニュアンスを出しやすいところが面白い

──2022年もまもなく終わりますが、どんな1年でしたか?

鈴木 今年はSKYE(鈴木茂、小原礼、林立夫、松任谷正隆)をやったり、新曲をライヴで披露したりしました。あと、年末にCOTTON CLUBでライヴをやります。27日なので〈Winter Live〉というタイトルなんだけど、クリスマスの曲をやろうと思っています。案外、精力的に動きましたね(笑)。

──今年のギター関連のニュースとしては、“若い人たちがギターソロを飛ばして聴く”という問題もありました。

鈴木 ありましたね。ただそれってギターソロの内容だと思うんだよね。何か訴えるものがあれば聴いてもらえるだろうし、“質”と言ったほうがいいのかもしれない。ギターがおろそかにされているってことではなくて、気持ちが込められたソロを弾かないミュージシャン側に原因があるのかな(笑)。

──なるほど。

鈴木 ギターはミュージシャンの感情のニュアンスを出しやすいところが面白いんです。とても個性的で深みがある。だから工夫次第だよね。これがまた大変難しいんだけど、いろいろな機材を試して“あ、この音は今までになかったな”というような音を一つひとつ作っていく感じかな。ギターはミュージシャンの感情が入った音になるよね。そこがギターの面白さというか。

──パーソナリティが音に出るってことですよね。

鈴木 そうですね。だからジミ・ヘンドリックスが演奏する「All Along the Watchtower」は、どんなに上手い人、例えばヴァン・ヘイレンが弾いても出せないニュアンスが出ている。指の太さや硬さも音に影響するし、そういった意味ではギターってとても繊細だよね。

──今の若い世代に残したいギターの魅力や音はありますか?

鈴木 昔からそうなんだけれども、キレイな音から完全に歪んだ音まであったとして、その真ん中ぐらいの音がとっても大切だし、そこに美味しさがあるということですね。

──そこを意識しようと思ったら、やっぱりギターが大事になってくるんですか?

鈴木 そうですね。American Vintage II 1957 Stratocasterもいいと思うし。あと、いい音を知るためにはいい音を出している人の演奏を聴くことだよね。それを知らないと基準がわからない。僕も音楽を好きになった時に、“自分にとって何がいい曲なんだろう?”というのがわからなくて。音楽を聴いていくうちに心に入ってくるものがあって、少しずつ“いい曲ってこういうことなんだ”ってわかり始める。いきなり“良い音色はこれだ”ってわかるはずないんだよね。長く残っている名曲とか名演奏とか、素晴らしい音色に触れて少しずつ自分の中で形成されるものです。だから、いい音楽に触れることはとても大切です。

──例えばストラトの音であれば、どこから聴けばいいでしょうか?

鈴木 スタートラインを覗くことがとっても大切。ロックやポピュラーの場合は50〜60年代だけど、50年代はかなり原形的なもので、60年代になると原形のロックをクラシックだとかいろいろな音楽とミックスして面白くなった時代なので、60年代を聴くと面白いと思う。さっきも言った「All Along the Watchtower」は、これ以上のストラトの音はないんじゃないか?ってくらいカッコいいと思うよね。

──ご自身のプレイの中では?

鈴木 『BAND WAGON』がいいかもしれないですね。スライドギターだったら「八月の匂い」だと思うけど、カッティングなら「砂の女」だと思いますね。

──来年のご予定は?

鈴木 曲は少しずつ出来ているんだけど、アルバムまでには至っていないので、早くアルバムを出してそれを披露したいなと思っています。

──楽しみです。アルバム制作のお供にぜひAmerican Vintage II 1957 Stratocasterを!

鈴木 いろいろと試してみたいですね。

American Vintage II 1957 Stratocaster


鈴⽊茂
51年、東京都⽣まれ。68年にスカイを結成しプロデビュー。69年、細野晴⾂に誘われ、松本隆、⼤滝詠⼀とヴァレンタイン・ブルーを結成。翌年、バンド名を”はっぴいえんど”と改名し、アルバム『はっぴいえんど』でデビュー。アルバム『⾵街ろまん』『HAPPYEND』を残し、72年末に解散。74年、単⾝L.A.に渡りソロアルバム『BAND WAGON』を完成させる。帰国後ティン・パン・アレーのメンバーとして数多くのセッション活動を重ね、ソロとしても7枚のアルバムを発表するかたわら、スタジオワーク、ライヴサポート、アレンジャー、プロデューサーとしても活躍。2000年、ティン・パン・アレーのメンバーだった細野、林⽴夫とともにTin Panを結成し、アルバム『Tin Pan』をリリース。2019年に活動50周年を迎え、現在も伝説的ギタリストとして幅広い世代からリスペクトされている。12月27日(火)COTTON CLUBにて〈鈴木茂 Winter Live〉を開催。
http://suzuki-shigeru.jp

Related posts