Cover Artist | 山口隆 & 近藤洋一(サンボマスター)-後編-
エレキギターくらい自分に寄り添ってくれるものは珍しいと思う
今年バンド結成20周年という大きな節目を迎えたサンボマスターから、山口隆(Vo,Gt)と近藤洋一(Ba,Cho)がCover Artistに登場。インタビュー後編ではギター/ベースを始めたきっかけ、音楽に衝撃を受けた原体験、そして2人が愛用しているフェンダーの楽器についてたっぷりと話を聞いた。
― お2人がギターとベースを始めたきっかけは?
近藤洋一(以下:近藤) 中学生の時に家にあったクラシックギターを弾いたのが最初で、ベースはサンボマスターを始めるタイミングで始めました。
― え!? そうなんですか?
山口隆(以下:山口) 近藤洋一くんはとにかく、ハンパじゃないカリスマだったんですよ。近藤くんの家には本人はいないけどずっと玄関は開けっ放しでみんな来ていて。どれだけ大物かと思うわけです(笑)。みんなが近藤くんの家にずっといるんですよ。それこそ僕も勝手に帰ってきて(笑)。だから、楽器は何でも良かったんです。近藤洋一が出陣、動いてくれたら。
― あの近藤洋一が動いたと(笑)。
山口 そうなんです。で、たまたまベースがいなかったので、“近ちゃん悪いけど、明日練習で気合いを入れたいから10万円のベースを買ってきて!”と言ったら、即日、近藤くんが買ってきたの(笑)。10万円といったら大金でしょう?
近藤 10万円というのは、当時のアメリカ製フェンダーの最低価格なわけですよ。フェンダーのJazz BassのAmerican Standardです。
山口 10万円のベースを買ったら、その気合いだけで完璧だと(笑)。
近藤 僕も音楽サークルにいたんですけど、10万円の楽器を持っているのが大事なわけです。決意表明でしたね。池袋の楽器屋に買いに行きました。
― 10万円と言われた時、思い浮かんだのはフェンダーだったんですね。
近藤 ベースと言えばやっぱりフェンダーのJazz Bassだと思いました。大してベースの知識なんてなかったんですけど、ジャズベが思い浮かびましたね。
― 山口さんはギターはいつから?
山口 中学生くらいだったと思います。ロックンロールに夢中になってしまって。でも自分には経済力がないから、英検3級が受かったら買ってくれと親に頼んで買ってもらったんです(笑)。まぁとにかく学生で、毎日ロックとかパンクとかソウルのことを考えていたから。早く欲しかったですよ、エレキギター。
― その時、憧れていたギタリストは誰ですか?
山口 アルバート・コリンズさんです。
― 中学生でアルバート・コリンズはかなりマニアですね。
山口 すごいギタリストがいっぱいいて、少年心に“こんなに俺のことを救ってくれる世界があるのか”と思いましたよ。キース・リチャーズさん、ロン・ウッドさん、ロバート・クレイさん、バディ・ガイさん、B.B.キングさん、アルバート・キングさん…自分を救ってくれるスターがいっぱいいるわけですよ。だからもう大変ですよ。1日でも早くエレキギターを持ちたい気持ちでいっぱいでしたね。
― 最初にエレキギターを鳴らした瞬間はどうでしたか?
山口 最初はチューニングがわからないですよ。だから思った感じにならない。入門セットを買ったんですけど、本当はバチッ!ていうのをやりたかったんです。歪んだ音を出したくて、キンクスがアンプにナイフを差したら出たんだっていうのをどこかで聞いたことがあって、台所から包丁を持ってきて、それで差すしかないと。そんなんで音が出るわけがなくて。よく見たらGAINって書いてあるツマミがあって、それを回せば出るじゃねぇかって(笑)。だから本当に純粋培養ですよ。ずっとそのことを考えているというか、何て俺の居場所なんだろうと思っていましたね。現実では味わえないような居心地の良さ、大興奮がこのロックの世界にはずっとあるんだろうという感じでしたね。
― 最初から1人でではなく、バンドでやりたかったんですか?
山口 いやいや、その時は音楽をやろうとは思っていなかったです。その近くにいられれば、その人たちと同じ服を着ていれば幸せだって。別に話せる人も少なかったし、自分だけの世界でしたから。
― その世界を動かすのに、近藤さんが必要だったんですね。
山口 近藤さん、木内くんがね。木内くんは、とんでもなく才能があるなと思いましたね。何でこんな風に(ドラムを)叩けるんだろうと思いました。
― 近藤さん、今はベースを何本お持ちですか?
近藤 その10万円のフェンダーのAmerican StandardのJazz Bassは盗難に遭ってしまったんです。そこから買い足して…今は5本です。そのうち4本はフェンダーです。結局、フェンダーなんですよね。
― フェンダーを使い続けている理由は?
近藤 特にJazz Bassだと、メモリの組み合わせ、ツマミのトーンも含めると音作りの選択肢が無限にあって楽しいんです。これから一生違う音を作り続けられるくらい、ひとつの楽器でいろいろなことができるなと感じています。今年でサンボマスターを始めて20周年ですけど、20年前に中古で買った楽器はもうヴィンテージと言われる域に達しているんですよ。楽器っていうのは、そうやって長い付き合いをしていくもんなんだなと思っています。
― 近藤さんの中で、Precision BassとJazz Bassはどのような使い分けを?
近藤 アンサンブルの中で、キックの上に行くか下に行くかだと思っています。ドラムセットの兼ね合いで。あとは歌に近いところにいるか、歌から離れたところにいるかという捉え方で決めています。
― 今日持ってきていただいたジャズベとの出会いは?
近藤 2005年です。「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」という曲を出した年で、その曲で弾いています。最初に買った10万円のジャズベが手元になくなって、いろいろな楽器を試したんですけど、いまいちしっくりこなくて。で、フェンダーカスタムショップの楽器を一度弾いてみたくて、試してみようと思って買った楽器です。
― 何が良かったのですか?
近藤 まずは見た目がカッコ良かったです。サンバーストの黄色具合が最高でした。あとは、音が段違にいい。音が散らないんですよ。僕はまとまって音を出すのが好きなんです。やっぱりカスタムショップはいい楽器なんだなって思いましたね。
― 山口さんのフェンダーへのこだわりは?
山口 実はアンプがずっとフェンダーです。フェンダーのアンプを使うようになったきっかけは、フジロックに出演する時にアンプを持っていなくて(笑)。リハーサルスタジオにあるStage 100を、“これ借りていいですか?”とお借りしたんです。
近藤 そうそう! Stage 100ってフェンダーの中ではエントリーモデル的な立ち位置なんですけど、それを持ってたんですね。
山口 今はフェンダーのTone Masterを使っています。ロックンロールな感じがするんですよね。“ジャカジャーン!”って、自分が好きな生きているロックンロールの世界の音がすると思います。
近藤 アンプは使い出すと長いんですよね。僕らはライヴが日常生活に近いじゃないですか。どうしてもそこに置いた時に馴染みやすいものがありますよね。“山口さんはTone Masterを使っているんだ”ってみんなけっこう見てますよね。
― では最後に、楽器ビギナーの人たちに向けてメッセージをお願いします。
山口 僕はエレキギターを弾くんですけど、エレキギターくらい自分に寄り添ってくれるものは珍しいと思うなぁ。“あ〜今日も疲れた”ってソファに寝転んで、生音でジャーン!って弾けるでしょう。G、D、Cコード…これだけのコードでどれだけ曲が作れるんだって話だし。俺、20年くらい同じフレーズを弾いてるけど飽きないし、1人でも楽しめるし、バンドも組めるし、年齢問わず楽しめると思います。
近藤 僕らはロックをやっていますが、音符以外のところも大事な音楽なんですよ。ギターとベースは好きで弾いていれば、自分にしか出せない音を出せる楽器です。“この音はこの人にしか出せない”っていうのが、本当にある。
山口 僕、何をやるにも不器用なんです。でもなぜか、ギターはフィットするんです。もっと器用になったほうがいいかもしれないけど(笑)、自分を形にしてくれるこのギターが好きです。
近藤 不器用でも、それが味になっていくんですよね。
› 前編はこちら
サンボマスター 使用機材
近藤洋一(左):Fender Custom Shop TIME MACHINE SERIES ’64 Jazz Bass Closet Classic 3 Tone Sunburst(2005年製)
山口隆(右):Fender Custom Shop ’62 Jazzmaster Relic, Lake Placid Blue(2016年製)
PROFILE
サンボマスター
山口隆(Vo,Gt)、近藤洋一(Ba,Cho)、木内泰史(Dr,Cho)からなる3ピースロックバンド。2000年結成。2003年、オナニーマシーンとのスプリットアルバム『放課後の性春』でメジャーデビューを果たす。2021年1月9日(土)に初の横浜アリーナ公演〈ラブ フロム サンボマスター at 横浜アリーナ〉を開催。
› Website:https://www.sambomaster.com