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Cover Artist | Kj(Dragon Ash)-後編-

自分のために心が豊かになる時間を確保できるんだったら、ギターは最高だと思う

今回は、6月30日にニューシングル「NEW ERA」をリリースしたDragon Ashから、圧倒的な存在感でシーンを牽引するKjがFenderNEWSのCOVER ARTISTに登場。インタビュー後編では、音楽シーンも揺るがしたコロナ禍で感じたこと、そして強固たる決意を、飾らないストレートな言葉で話してくれた。

ライヴは、誰も邪魔のいない空間で音楽だけで対話をする神聖な場所

― コロナ禍とともに過ごした去年一年間を振り返っていかがでしたか?

Kj 個人的には、ライヴハウス支援プロジェクト“LIVE FORCE, LIVE HOUSE.”で「斜陽」という曲を仲間たちと作ったり、ソロ活動を止めてバンド“The Ravens”(ザ・レイヴンズ)としてアルバムを作っていました。

― アルバムは年内には発売できそうですか?

Kj いや、発売してもライヴができないとロックバンドは意味がないので。ライヴがちゃんとできないんだったら発売しない。だけどアルバムはもうすぐできるかなって感じ。

― ニューシングル「NEW ERA」が6月30日にリリースされました。

Kj この曲は1年前くらいの曲です。コロナ禍に突入して、今よりもうちょっと緊迫感があった頃、絶対に人と会っちゃダメみたいな状態で、全員家にギターがあるんだし、リモートで曲を作ってストックできる環境を作ろうっていうことで一発目に作ったのが「NEW ERA」です。いずれこの恐怖は必ず去るから、その時にこういう明るい曲を出して、高らかに再開できるようにしようと去年に作ったんだけど結局は一切再開もせずに。で、いい加減リリースしようということで、じゃあ「NEW ERA」も作っているし、ちょいちょいライヴができているので出そうかという感じですね。

― 去年はライヴができない状況が続きましたし、ようやくライヴができるもののオーディエンスは声を発しちゃいけない中、ロックバンドにとっては手足をもがれている状況かと思いますが、どのように感じていますか?

Kj ライヴはただの生き甲斐。本当に大切な人たちと自分たちの、誰も邪魔のいない空間で音楽だけで対話をする神聖な場所で、印税で生活をするライフスタイルだったんですよ音楽家は。だけど、CDという、印税という片翼がもがれたわけだね。もう片方しか羽がないわけですよ。“片方の羽だって不恰好に飛んでやる”というのがちょっと前のバンドマンの生き方。みんな年間50本以上ライヴをして、各地を廻りまくって、金がなかったらハイエースで行って宿泊もなし。それは大きいバンド、小さいバンドに関係なく、やる気のあるバンドは常にどっかの板(ステージ)の上に立っていた。で、その板の上で披露するために楽曲やアルバムを作り、そこでTシャツやグッズを買ってもらうことで利益を得る。実際、ライヴをやるだけでは利益は得られないから。そんな最後の羽だけで、不恰好でも飛んでやるっていうライフスタイルが今もがれたわけですよね。だからバンドマンは、どちらの羽もない状態になっちゃった。それが今です。

俺ができることって、いい曲を作っていいライヴをすることしかないんです

― だからと言って死んでいくわけにもいかないですよね? 音楽を求めてくれてる人たちもたくさんいるし。そこからどうやって這い上がっていくんですか?

Kj これも超ぶっちゃけだけど、コロナはいつか終息すると思う。でも、その終息した先に、モッシュやダイブがありになるかどうかは別次元の話だと思う。モッシュやダイブがこのまま禁止っていうルールで世界が回っていくのであれば、ラウドロックは完全に死ぬだろうし、俺はもうやらない。意味がないから。何で激しい音楽をやっているかって、普段はちゃんとした服を着たり、嫌なことを我慢している奴らが、ライヴハウスでバンドTシャツでぐちゃぐちゃになって、我慢も上下関係もなくて、知らねえ奴をリフトしたり知らねえ奴が頭の上に降ってきて泳がせしたり、そういう狂気乱舞を見るのがめちゃめちゃ楽しいから。要は、みんなが走るガソリンを作っている感覚でドラゴンをやっていたから、その着地点がないなら、ほとんどのやる意味が削がれるんですよ。なので、もしそういう世界になるんだったらやらないです。

― …。

Kj でも、音楽が俺の中で死ぬわけじゃないから。音楽家としていろいろな方法論やアウトプットがある中で、Dragon Ashっていう大きなものがあるんだけど、それがなくなるからって俺の音楽が死ぬわけじゃないし、俺の音楽人生が終わるわけではない。他に、その時にできることをいくらでもやります。表現欲求が枯渇していることも一切ないので。The Ravensのアルバム曲はどんどん増えているし、いい感じではあるのでね。ただ、“激しいロック”というその一点だけで言ったら、このままでは死ぬと思う。俺たちは、“椅子(客席)ありでやるくらいならライヴしない”とずっと言ってきたバンドだから。そんな奴らはいくらでもいると思う。でも今、ゼロかこれしかやることがないんだったら、ゼロよりはまだまし。何もできないか配信をやるか、何もできないか条件をつけてライヴをやるかだったら、クソだけど何もできないよりかはずっといいからやっている感じ。

― そこで満足しているわけでもなく。

Kj 全然。これがやりたくて毎日毎日楽器を練習してきたわけじゃないし。だけど、“やらない”“やる”の究極の選択だったらやっぱりやる。プロだし板の上に立ってなんぼだから。ただやる度に窮屈なら、俺たちじゃない。俺たちがマスクをして椅子がある状態でライヴをやってるわけじゃなくて、窮屈なのはお客さん。だから毎回、本当に複雑な気持ちでライヴをやっているけど、ゼロかやるかなら俺はやるっていうだけで、これがデフォルトになるんだったら辞める。まだわずかでも光があるし、それでも観に行きたい、観てやるっていう人たちがいるから。どのフェスに行っても、やっぱり楽しそうにしてくれているし、それがあるからやっている感じ。

 言っても俺はバンドマンじゃないですか。じゃあ俺が法律を変えられるの?今のルールを変えられるの?と言ったら変えられないですよ。バンドマンは、できることなんていつでも超シンプルなんです。曲を作る、いいライヴをするっていうこの二つだけなんです。俺は活動家じゃないし、アーティストだから。俺が好きでやっていたものが、結果的に誰かの肩の荷を下ろしたりするのは最高だけど、そのためにやっているわけじゃない。俺ができることって、今がどうであれ、いい曲を作っていいライヴをすることしかないんですよ。結局はそれに尽きるから、超ハッピーなシチュエーションでも、今みたいなネガティヴなシチュエーションでもやることは同じ。そこが見えているからまだ笑っていられる。ただ、このままではシーンは死ぬけどね。じゃあ何なの?お前も死ぬの?お前は音楽を辞めるの?と言ったら絶対に辞めないから。その時にできる曲をやるに尽きる。

― 最後に、楽器を始めたばかりのビギナーにアドバイスをお願いします。

Kj すごくわかりやすく言うと、筋トレにかなり近いと思っていて。俺、トレー二ングもすごくするんですけど、0から10までやっても、次の日に10にはならないんですよ。0から10をやっても、0から1にしかならない。単純にその積み重ねでしかなくて。逆に言っちゃえば、絶対になるんですよ。0から1に、1から2に。不確かなものばかりだけど、トレーニングとか楽器の練習って、やったら必ず身に付くから。それがプロのレベルに達するか、誰かの目に留まるか、評価してもらえるかは別の話であって、絶対に弾けるようになるから。もし時間があって暇なら、テレビゲームでもいいしスマホゲームでもいいし、その同義語としてギターでもいい。誰かのためにではなくて、自分のために心が豊かになる時間を確保できるんだったら、ギターは最高だと思う。それこそ70代、80代の方がまだ現役でいらっしゃるシーンって、役者とか絵描きとかカメラマンとか彫刻家とか音楽家とかあるけど、やっぱりさ、きっと一回の人生じゃ極められないのよ。納得がいかないからそんなにやると思うのよ。そのくらい奥が深く、コンプリートするなんてまず不可能だから、絶対に全クリアできないゲームをやっている感じ。時間潰しにやろうかなって思う人には最高だと思う。

前編はこちら


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American Acoustasonic® Telecaster®


Dragon Ash

97年、Kj(Vo,Gt)、IKUZONE(Ba)、櫻井誠(Dr)の3人でデビュー。 BOTS(Dj)、hiroki(Gt)、ATSUSHI(Dance)、DRI-V(Dance)が加入し7人編成になる。 2012年、オリジナルメンバーのIKUZONEが急逝。 2020年、DRAGONASH LIVE “DEPARTURE”をもってATSUSHIとDRI-Vが脱退し、5人編成に。デビュー時よりあらゆるジャンルを驚異的なスピードで横断し、これからもDragon Ashとしか表現しようのない音を鳴らし続ける。常にオルタナティヴな道を自ら選びながらも、圧倒的なファンの支持を得続ける日本の音楽シーンを代表する怪物バンド。
› Website : https://www.dragonash.co.jp

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