Cover Artist | 春畑道哉 -後編-

もう十分だと思っていたら、フェンダーは常に進化している

Haruhata

日本人で初めてフェンダーギターとエンドースメント契約を結んだ春畑道哉は、これまでカスタムショップ製作のシグネイチャーモデルを3機種製作。いずれもコンセプトの異なる仕様が特徴になっており、春畑のこだわりのギターとなっているが、初めてのフェンダーギターから現在使用頻度の高いAmerican Elite Stratocasterまで、ストラトの魅力について語ってもらった。

“憧れのギタリストが使っていたギターをついに手に入れたぞ!”と思いました
 

―  若い頃はテクニカルなプレイを追求していたということですが、フェンダーを手にしたことでプレイスタイルは変わりましたか?

春畑道哉(以下:春畑)   変わりましたね。フェンダーを手にしたのはプロになってからだったんですけど、“憧れのギタリストが使っていたギターをついに手に入れたぞ!”と思いましたね。

―  初めてのフェンダーは何でしたか?

春畑   94年頃に手に入れたレフティのStratocasterでした(笑)。

―  完全に左利き用だったんですか?

春畑   そうです。弦を逆に張るためにナットを削り直しました。リバースヘッドになるので、チューニングがしづらかったですし、弾く時に手がボリュームノブに当たるんですけど、“このサウンドだよな!”って思いました。ハイポジションが弾きづらかったので、ヒールを削ったんですよ。“じゃ、右利き用を買えよ”ってしばらく経ってから思いました(笑)。そこからストラトにハマって、山ほど家にあります。

―  シングルコイルサウンドに惹かれたわけですか?

春畑   アルバム「ゆずれない夏」(95年)は全曲ストラト1本でレコーディングしましたね。ライヴでもハムバッキングで弾いていた曲がいっぱいあったのに、シングルコイルで弾いていました。

―  そして、2002年に日本人で初めてフェンダーとエンドースメント契約を結ぶことになりますが、嬉しかったんじゃないですか?

春畑   正直、“俺でいいの?”という感覚はありましたね。

―  第1号モデルのMichiya Haruhata Stratocasterは、リバースヘッド以外はノーマルに近い仕様になりましたね。

春畑   初めてジョン・イングリッシュが作ったStratocasterを弾いた時、自分が持っている1954年製とか1959年製みたいな枯れた音が出て、ヴィンテージと同じサウンドだと思ったんです。それで、エンドースの話が来た時に彼に作って欲しいと思ったんです。彼は歴史あるサウンドの第一人者でもあるので、1号機はヘッドがリバースということ以外はこれぞフェンダー!というスタンダードな音が欲しいと思いました。でも、それだけじゃなくて、そこに細かなアイディアがたくさん入っていて、ノーマルなサウンド以外に、普通にはないピックアップの組み合わせの配列ができたり、スイッチング奏法もできるようにしています。

―  ピックアップは?

春畑   有名なアビーさん(アビゲイル・イバラ)に手巻きで作ってもらっています。

―  アビーはもう引退されているし、ジョンも亡くなっているので、歴史的にも価値のあるギターですよね。

春畑   そうですね。

―  ネックの指板がメイプルですが、基本的に春畑さんのギターはメイプルが多いですよね?

春畑   そうですね。明るさとか、立ち上がりの速さが好きなんですよ。

―  次に2005年に製作された2号モデルのMichiya Haruhata BWL Stratocasterは、1号モデルとは異なり、フロイドローズやリアにハムバッカーを搭載するなど、モダンな仕様になっていますね。

春畑   僕はビル・ウォールのシルバーアクセサリーが好きで、自分のハーレーダビッドソンのシートとかをビル・ウォールに作ってもらっていたんですけど、1号機とは真逆のものを作りたいと思って、ビル・ウォールと一緒にギターを作ってもらえますか?と言ったんです。それで、ジョンとビルが“試しに遊びで1本作っていい?”みたいな話から作ったのが、レザーで包んだギターだったんです。レザーで包んだギターは鳴らなそうだし、特に欲しいと思っていなかったんですけど(笑)、2人のアイデアは流石にぶっ飛んでいるなと思って、“面白そうなので、ぜひ!”と言いました。確かジョンは音の保証はしないからと言っていたような気がします(笑)。でも、実際に弾いたらいい音が出るんですよ。レザーのモデルは市販されていないんですけど、次に正式に作ったMichiya Haruhata BWL Stratocasterは、ビル・ウォールがボリュームノブまで1個1個掘っています。

―  3号モデルのMichiya Haruhata Stratocaster IIIはどういう要望があったのですか?

春畑   ボディにピックアップを直付けしたいと思ったんですけど、実はこれより先にジョンが“こういうのはどう?”って、ボディがメイプルトップのモデルを送ってくれたんですよ。ジョンは伝統的なものだけじゃなく、革新的なこともやりたいと思っていたので、そこから生まれたギターですね。昔の自分のプレイはフロイドローズ、ハムバッキングだったので、このギターがあればシグネイチャーモデル3本ですべてに対応できると思ったんです。この3本目ができた時はこれ以上、春畑モデルは作らなくても大丈夫だと思いました(笑)。


もう十分だと思っていたら、フェンダーは常に進化している
 

―  そして、最新シングルの【Re:birth】ではAmerican Elite Stratocasterを使ったということですが、これはどういう経緯で手に入れることになったのですか?

春畑   フェンダーさんによくメンテナンスとか改造の相談に行くんですけど、その時に“これ触っていいですか?”って弾いていたら、パッと見は普通のストラトなのに、ボリュームが凄く滑らかで、どの位置にしても音が曇らないし、どのポジションでも欲しい音が出せるんですよ。ヴィンテージだとあるポジションでしかいい音が出ないことがあるんですけど、これは全域キレイな音がするなと思いました。ボリューム奏法をしても滑らかで、キレイだったんです。これは僕が持っているギターと違うなと思いましたね。アームを触りながらメロディーを弾くことがあるんですけど、滑らかだし、ビックリしました。自分のモデルでもう十分だと思っていたら、フェンダーは常に進化しているんですよね。

―  すでに春畑さん仕様に改造されていますね。

春畑   リアをハムバッカー(EVHのフランケンシュタイン)にして、斜めに付けてもらっています。“この角度でしょ”って、何度も試して付けてもらったんですよ(笑)。あと、ブリッジのコマだけヴィンテージタイプに替えています。2基のシングルコイルはノイズレスだし、S-1スイッチでいろいろな音の組み合わせができるんですよ。カラッと明るいストラトのサウンドから、ハムバッキングのハードな音も出せるし、これ以上の組み合わせが思い浮かばないほど、いろいろな音が出せます。チューニングは狂わないし、アームは滑らかだし、これ1本で何でもいけると思いましたね。

―  最近のモダンなスペックのモデルはプレイアビリティにも優れていますよね。

春畑   突発的にやりたくなったことが、サッとできます。不器用なギターを持つのもそれはそれでいいんですよ(笑)。でも、このギターは即何にでも対応できるし、我慢する部分が全然ないんです。しかも、スペックは進化していても、好きなストラトの形とルックスはそのままですからね。

―  ところで、6月から音楽と映像のコラボレーションコンサート「live image 18 dix-huit」に出演されるようですね。

春畑   僕のファンではない方が、たくさんいらっしゃる会場で演奏してみたいというのがあったんです。このコンサートには、沖仁さんやゴンチチさんといった素晴らしいミュージシャンが出演されるので、そういった方を観に来られる人の前で自分の曲を聴いていただければと思っています。今、どういう曲をプレイしたらいいか、何度も話し合っているところです。

―  最後に、ギタープレイヤーとして何か展望はありますか?

春畑   時代の流れもあって、楽器の魅力とか、ギターの可能性を知らないままバンドをやっていたり、コンピュータだけで音楽を作っている人がドンドン増えていると思うんですよ。でも、ギターには、PCで切り貼りしただけでは得られない、興奮、感動があることを若い人たちに何とか伝えたいと、ギターの仲間ともよく話しているんです。そのために自分たちがもっといい演奏をして、いい作品を作って、いいライヴをやって、ギターを手にしてみたいと思ってもらえるようなパフォーマンスをしなければいけないと思っています。実際、ギター教室じゃないけど、子供や若い子にギターやバンドの面白さを伝えにいくようなことができないかとフェンダーとも話をできたらなと考えています。ガンガンにテクニックを教えるというのではなくて、ギターを持ってコードを弾いたり、弾きながら歌ったりしたら、こんなに楽しいんだよといったことを広めたり、伝えていきたいですね。

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春畑道哉
85年、TUBEのギタリストとして「ベストセラー・サマー」でレコードデビュー。86年、3rdシングル「シーズン・イン・ザ・サン」の大ヒットでバンドとしての地位を確立。87年、TUBEと並行してソロ活動を始め、現在までにシングル3枚とアルバム12枚をリリース。92年、シングル「J’S THEME」が日本初のプロサッカーリーグであるJリーグのオフィシャルテーマソングとなる。93年のJリーグオープニングセレモニーでは音楽を担当、国立競技場の約6万人の観衆を前にライブを行った。2002年5月9日、フェンダーと正式にアーティストエンドース契約を締結。日本人のギタリストとしては初めてのシグネイチャーモデルを発売。これまで、Michiya Haruhata Stratocaster、Michiya Haruhata BWL Stratocaster、Michiya Haruhata III Stratocaster Masterbuilt by Jason Smithという3本のシグネイチャーモデルを発表している。ソロデビュー30周年を迎え、2016年11月に発売した最新アルバム「Play the Life」がオリコン週間ランキング9位を獲得し、インストアルバムとして異例のヒットを記録した。
› http://www.sonymusic.co.jp/artist/MichiyaHaruhata

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