
Cover Artist | 小原綾斗(Tempalay) -後編-
楽しければそれでいい。ギターって一生弾ける楽器ですから
FenderNewsが毎月一組のアーティストにフォーカスする「Cover Artist」。後編では、Tempalayのフロントマン・小原綾斗が、自身とフェンダーとの出会いから現在のギター観、そしてライヴや制作における哲学までを語る。80年代製のストラトとの出会いを皮切りに、MustangやAcoustasonicなど“鳴り”にこだわって選び抜いてきたギターたち。さらに、日本武道館公演を経て制作された最新EP『Naked 4 Satan』や11月からの全国ツアーに向けた意気込み、そしてギターを“楽しむ”ための極意まで、小原のリアルな言葉で紡がれる。
それでもやっぱり、ライヴでは“ギターヒーロー”でありたいなと思ってます
──初めてフェンダーと出会ったのは?
小原綾斗(以下:小原) 最初に持ったのはたしかストラトですね。80年代くらいのモデルで、ボディが少し小さめの青いモデルでした。たしか20〜21歳くらいの時に知人に譲ってもらったんです。
──そこから今まで、どんなフェンダーのギターを使ってきましたか?
小原 もう“ボロ”ばっかりですね(笑)。リフィニッシュされたMustangでボディだけ56年製みたいな。本当にガラクタみたいなギターばかりいじってました。
──(笑)。最近、Acoustasonicも使われていると伺いました。
小原 弾き語りの時にアコギを持っていなかったので人から借りました。めちゃくちゃ弾きやすかったですね。アコギってサイズが大きくて、正直あまり家に置いておきたくないんです(笑)。でもAcoustasonicは見た目もすっきりしているし、それでいてアコギの木の響きもちゃんとする。弾き語りでも使えるし、エレキの音も出せるところも気に入りました。持ち運びが便利なのも助かりますね、弾き語りライヴをする時は一人で移動する場合も多いので。
──ギターを選ぶ時は、いつもどんなことを基準にしていますか?
小原 見た目ももちろん大切ですけど、一番大きいのはネックの鳴り。振動感というか、木が鳴ってる感じがちゃんとするかどうかを確認しています。僕の感覚では、鳴りの良し悪しはネックで決まると思っていて。ボディも関係あるけど、やっぱりネック。握った感触も含めて、振動がビリビリ伝わってくるような木が好きなんですよ。ピックアップとかはあまり関係ないと思ってますね。
──ご自身が理想とするギタリスト像はありますか?
小原 今の自分は“ギタリスト”っていう感覚があまりないんですけど、昔はジャック・ホワイトが好きでした。彼もガラクタみたいなギターを使うタイプじゃないですか。あと、ジミ・ヘンドリックスやジョン・フルシアンテもそうだけど、“ブルースの精神”を感じるギタリストが好きですね。僕もロックというよりはブルース的な精神を大事にしていて。いわゆる3コードとか理屈の話じゃなくて、匂いとか色気みたいなもの。チョーキング一発でその人の色気が出るような、そういうプレイヤーに惹かれます。
──ライヴでのギターの立ち位置については、どのように感じていますか?
小原 僕、歌ってるんで…正直めちゃくちゃ大変なんですよ。他のメンバーもそうですけど、全員が同時にいろんなことをやっている感覚がある。でも最近は、サポートメンバーにも少しずつ分担してもらってて。それでもやっぱり、ライヴでは“ギターヒーロー”でありたいなと思ってますね。カッコいい音を鳴らしたい気持ちは、今でもすごく強いです。ライヴでは思い切りかき鳴らしていますし。
──最近リリースされたEP『Naked 4 Satan』も、これまでとギターの使い方が変わってきた印象があります。
小原 今回のEPは、日本武道館公演が終わってすぐに制作に入ったもので、僕自身の今の“備忘録”みたいな作品です。1ヶ月間、富谷にある建物(ジャケットにも写っている場所)を借りて、そこにスタジオを組んで、みっちり音だけを録りました。歌録りは一切せず、音の質感に集中して。そのあとポスプロ(ポストプロダクション)にも時間をかけて、かなり新しいサウンドになったと思います。実験的で、音だけで構築していくような制作でしたね。
──ギターの聴きどころを挙げるとしたら?
小原 2曲目の「かみんち」ですね。これはもう“がっつりギター”の曲で、途中のギターソロも完全にアナログ。3人くらいでリアルタイムにペダルをいじりながら録ったんですよ。その瞬間しかできないようなアプローチなんで、再現は不可能です(笑)。Tempalayって音源的なアプローチが多いから、ライヴでそのまま再現しようとすると無理が出る。でも、それはそれでいいと思ってます。ライヴにはライヴの表現があるし、音源との“差異”こそが面白いんじゃないかなと。
もっと新しいTempalayを明確に打ち出したい
──11月から始まるツアー〈Tempalay “Naked 4 Satan” Tour 2025〉について、意気込みを聞かせてください。
小原 もう“スタートダッシュ”って感じですね。1曲目から全力でかまして、あとはその勢いのまま、余力で最後まで走り抜けるようなライヴになると思います。
──日本武道館公演を経て、ライヴに対する意識は変わりましたか?
小原 変わりました。あの公演をきっかけに、メンバー全員がより前向きにライヴに取り組むようになりました。やっぱり10周年という節目もあって、“これからTempalayをどうアップデートしていくか”という意識が強くなったんだと思います。海外でもっと評価されたいという気持ちも出てきて、演出や映像などアート的な側面も含めて、より見せ方を意識するようになりましたね。演出や映像、アート的な側面も含めて、もっと新しいTempalayを明確に打ち出していきたいなと。サウンドもそうですけど、表現全体をトータルで見せていくライヴにしたいです。
──今後、挑戦してみたいギタープレイやサウンドのアプローチはありますか?
小原 これはソロのほうでやってみたいんですけど、“完全にエフェクターなし”でライヴをしたくて。アンプ一発だけで、海外を廻るみたいな。曽我部(恵一)さんが“ディレイは気持ちで鳴らすんだ”って言ってたんですよ(笑)。あの人、実際にディレイを一切使わないんですよね。でも本人は“ディレイを鳴らす気持ちで弾けば、音にディレイがかかる”って本気で言ってて。そういう境地に憧れますね。
──では最後に、ギターを“楽しく続ける”“上手くなる”ためのコツを教えてもらえますか?
小原 いやぁ、しんどい思いをするしかないですよ(笑)。僕もそうでしたし、みんな練習はしんどいもんです。楽しくないですよ、普通に。でも、やるんですよね。学生の頃に始めたから続けられたけど、社会人になってから始めていたらたぶん無理だったと思います。結局、好きこそ物の上手なれって言葉に尽きますね。今はもう一切練習していないです。指先は柔らかいままなので(笑)。リハーサルの時しか弾かない。でも、あの“キッズ時代”に全部詰まっている気がします。あの時期の情熱で止まってる感じですね。結局、音楽って趣味でいいと思うんです。楽しければそれでいい。ギターって一生弾ける楽器ですから。ドラムみたいに音量や場所の問題もないし、コードを弾くだけでも気持ちいい。だから、“極める”よりも“楽しむ”ほうがずっと大事だと思います。

American Professional Classic Jaguar(Faded Sherwood Green Metallic)
>> 前編はこちら
小原綾斗(Tempalay)
2014年に結成されたロックバンド。メンバーは小原綾斗(Vo,Gt)、藤本夏樹(Dr)、AAAMYYY(Syn,Cho)。2015年9月、EP『Instant Hawaii』でデビュー。サイケデリックやオルタナティブロックを軸に、ポップスやエレクトロなど多様な要素を取り込みながら、国内シーンにおいて独自の存在感を築いてきた。2018年7月、サポートメンバーとして活動していたAAAMYYYが正式加入し、現在の体制に。結成当初から自主制作での作品リリースや海外ツアーを行うなど、型にとらわれない活動姿勢も注目を集める。『from JAPAN 2』『ゴーストアルバム』などのアルバムを経て、幅広いリスナーを獲得。国内外のフェスティバルにも多数出演し、ライヴバンドとしての評価も高い。2024年には結成10周年を迎え、日本武道館で単独公演〈惑星X〉を開催。11月より、EP『Naked 4 Satan』を携えた全国リリースツアー〈“Naked 4 Satan” Tour 2025〉を行う。
https://tempalay.jp/

