
弓木英梨乃 | Fender Experience 2025
ジャンルや世代を超えた注目アーティストによるライヴ、名器たちとの出会い、音楽と触れ合うワークショップ。音楽、クリエイティビティ、そして人とのつながりが交錯する体験型イベント〈FENDER EXPERIENCE 2025〉が、10月11日(土)〜13日(月・祝)の3日間にわたり原宿・表参道エリアの3会場にて開催された。ここでは、11日にFender Flagship Tokyoの地下1階イベントスペースにて行われた、弓木英梨乃によるトークセッション「ギターを始めよう!」の模様をお届けする。
ギターは死ぬまで上達し続ける楽器──弓木英梨乃が語る“続けること”の力
シンガー/ギタリストとしての活動はもちろん、月刊『ギター・マガジン』の付録小冊子「弓木英梨乃の放課後エレキ部」での連載や、YouTubeやInstagramなどSNSでの動画配信など多方面で活躍する弓木英梨乃。この日はあいにくの小雨模様にもかかわらず、朝からイベント会場には多くの観客が詰めかけていた。
「3人くらいしか来なかったらどうしようって不安だったんですけど、こんなにたくさん来てくれて嬉しいです」。冒頭からそんな飾らない言葉で観客を和ませた弓木は、「この場所でイベントをやるのも3回目なので、この距離感にも慣れてきました」と笑顔を見せる。冒頭で述べたように、本イベントのテーマは「ギターを始めよう!」。その名の通りギターに初めて触れる人や、ギターを再開したい人に向けた優しいヒントに満ちたトークとなった。


「皆さん、私とギターの出会いなんて興味ありますか?(笑)」と前置きしつつ、自身の原点を話し始めた弓木。きっかけは中学生の頃、父親が家でかけていたザ・ビートルズの「オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ」に衝撃を受けたこと。“ギターが弾きたい!”という衝動に駆られ、毎日のようにビートルズを聴き込むようになったという。
そんなある日、父に大阪・曽根崎のライヴハウスへ連れて行ってもらい、ビートルズのカヴァーバンドで初めて生演奏に触れた。「ジョージ・ハリスンのパートを演奏していたギタリストのプレイを見て、私も練習しようと思ったんです」と振り返る。
最初は父から「レット・イット・ビー」のコード進行を教わり、ビートルズの全楽曲を網羅した分厚いバンドスコアを手にしてひたすら耳コピをする日々。「『オール・マイ・ラヴィング』の間奏のソロがすごくカッコ良くて毎日練習してましたね。とにかく200曲以上を全部コピーしたくて、朝起きたら“今日はこの曲をやろう”ってタブ譜を開いてました」
さらに高校生になってからは、知人のギタリストから“ギター演奏のすべての基本はカッティングにある”と教わり、右手と左手の動きを含めて実践的な練習も重ねていった。クロマチック練習など地道なメニューも経験しながら、自分なりのスタイルを築いていく。
「ギターってすごく難しい楽器ですよね。だからこそ、無理に“毎日1時間やらなきゃ”と気負うより、“10分だけでもいいから触ってみよう”という感覚のほうが大事。私は始めた頃、1日15時間くらい弾いてたこともありますけど(笑)、それって“やらされてた”わけじゃなくて、自分が夢中になってたからできたんです。皆さんも自分のペースで大丈夫です」
弓木いわく“基本的にズボラで何も続かない”タイプ。それでもギターだけは20年も続けてこられた理由について、「常に目標があったから」と述懐する。ライヴの予定や動画投稿の締め切りなど、自分を少しずつ追い込む環境を作ることで、楽しみながら練習を積み重ねてきたのだ。
「ギターって始めても9割の人が辞めちゃう。でも続けていれば、ちゃんと少しずつ上達していくんです。私も、できなくてもずっと弾いてました。そしたらいつか弾けるようになってた。そういうものだと思うんです」

そんな彼女が最初にフェンダーのギターに触れたのは中学生の頃。父親が所有していたTelecasterがきっかけだったという。「家にはいろんなギターがあって、その中にTelecasterがあったんです。『オール・マイ・ラヴィング』も最初はそれで練習していました。あと、早い段階でStratocasterにも触れる機会があって。今思えば本当に恵まれていたなと思いますね」。以来、彼女にとってフェンダーのギターは文字通り“日常の風景”となり、演奏活動の中で欠かせない存在へと育っていった。
「やっぱり“フェンダーにしか出せない音”ってあるんですよね。例えばStratocasterのハーフトーン。あの柔らかくてきらびやかな感じって、他のブランドではなかなか再現できない。デザインもめちゃくちゃかわいいじゃないですか。実用性とルックスの両方を兼ね備えているのもフェンダーの魅力だと思います」
現在彼女がメインで使っているのは、リアにハムバッカーを搭載したUltraシリーズのStratocaster。「とにかく弾きやすいし、ネックの握り心地がすごくしっくりくる。あと、私は新しい楽器が好きなんです。ヴィンテージももちろん魅力的だけど、壊したらどうしようって気後れしてしまう。でもこのウルトラは丈夫に作られていて、音のレンジも広くて、とにかく頼れる1本なんです」と熱く語る。アームやピックアップの構成、カラーリングに至るまで、「このギターに出会ってから、もっと弾けるようになるかも、こんなプレイができるんじゃないかって、すごくイマジネーションが膨らんだ」と、その出会いがもたらした精神的な変化にも触れた。

「できればギター1本だけ背負ってスタジオに行って、1本だけで帰りたいんですよ。そういう意味でも、1本で何でもこなせるギターってありがたい。ただ、その1本を見つけるにはやっぱり基本的な知識も必要です。ピックアップの種類とか、出したい音のイメージに合っているかどうかとか。感覚も大事だけど、理屈も少し知っておくと、ギター選びが楽しくなると思いますよ」
これから初めてギターを購入する人に、おすすめのモデルを聞かれた弓木は、思わず「安いのでいいんじゃないですか?」と本音を漏らして会場を沸かせる一幕も。「でもほんとに、フェンダーが出している入門用のギターもすごくクオリティが高いんです。今は選択肢が多いし、自分がビビッとくる1本を見つけてほしい。音でもデザインでも何でもいい。“これ弾きたい”って思えるギターが練習のモチベーションになると思います」
トークセッション後半には質疑応答のコーナーも設け、来場者の質問に対してフレンドリーに対応する弓木。これからギターを始めたいと思っているビギナーへのメッセージを求められると、「私は、完璧なギタリストになりたくて焦っていた時期もありました。でもある時、ギターって“死ぬまで上達し続ける楽器”なんだなって思えた。だから、続けていればきっと弾けるようになる。皆さんも気楽に、でもしぶとく続けてください」と、温かく力強い言葉でイベントを締めくくった。
参加した多くの人が、彼女の言葉によりギターへのモチベーションをアップさせたことは間違いない。


