hama_okamoto Fender Artist 10th Anniversary Event at Fender Flagship Tokyo

日本人ベーシストとして初めてフェンダーとのパートナーシップ契約を結んでから10周年を記念し、公開イベント〈hama_okamoto Fender Artist 10th Anniversary Event at Fender Flagship Tokyo〉が開催された。自身のシグネイチャーモデルについて、1時間たっぷりと語ったハマは観客のリクエストに応え、なかなか見ることができないベースソロ演奏も披露。そして、最後には重大発表も。その模様をお伝えする。

プレベをメインに弾いてきた人間なので、#4を一本目のシグネイチャーモデルとして世に出せたことは誇らしい


「本日の主役、ハマ・オカモトの登場です! 大きな拍手でお迎えください!」

マイク片手に自らを呼び込みながら、観客の前に登場したハマ・オカモト。

「フェンダーとパートナーシップ契約を結んで10周年。自分から“お祝いの会をやりましょう”と言いました(笑)」

早速、ジョークで笑いを取ったオープニングこそ、さすがテレビのバラエティ番組のMCも務めるだけのことはあると思わせたが、ハマのシグネイチャーモデルの開発に携わったフェンダーのギターテック/リペアマン、鵜飼修平をトークの相手に迎えてからは、音楽はもちろん、楽器をこよなく愛する一人のミュージシャンとして、この10年の間に発売してきた二本のシグネイチャーモデルと自ら監修したストラップについて大いに熱弁をふるった。

2016年に発売された一本目のシグネイチャーモデル、Hama_Okamoto Precision Bass “#4”(以下:#4)は、当時、ハマがメインとして使っていた68年製のPrecision Bassを踏襲しながら、初心者でも手に取りやすいものという大きなテーマのもと、10万円を切る価格(発売当時)をまずは決めてから、実現可能なこだわりの要素を落とし込んでいったと開発時のエピソードを改めて説明。ハマがこだわったのは以下の四点だったそうだ。

・ベースを始めた頃から憧れだったパドルペグにすること
・ハマ自身の手が小さいことに加え、初心者には握りやすいものがいいだろうということでJazz Bassのネックを使うこと
・パドルペグ同様、見た目のこだわりとして出荷時にブリッジカバーを付けること
・ボディにバスウッドを使うこと

バスウッドを使うことには価格を下げるためという理由がある一方で、“バスウッドは安いモデルに使われることが多い=音が良くない”という誤解とも言える固定観念を払拭したいという考えもあったそうだ。

「音に関しては他の木材と比べてちゃんと検証した上で、聴感上、差がなかったのでバスウッドを使うことに納得しました。バスウッドを使うことにはメリットもあって、木材として軽いことに加え、他の木材よりも68年製のプレベに近い発色になるんです」(ハマ)


ちなみに鵜飼が付け加えたところによると、#4にバスウッドを使ったことでバスウッドが見直され、フジファブリック山内総一郎のシグネイチャーモデルやMade in Japan Traditionalシリーズでも使われることになったそうだ。

「近年はジャズベを使うことが多いんですけど、デビューした時はプレベをメインに使っていましたし、今もそのつもりではあるんですけど」とプレベに対する愛着を語りながら、ハマはプレベでフレーズを作ったりレコーディングしたというOKAMOTO’Sの「BROTHER」「Phantom(By Lipstick)」「NO MORE MUSIC」のベースフレーズを#4で弾いてみせる。ハマのプレイを食い入るように見つめる観客たちが大きな拍手を送る。

「この感じはジャズベでは出ない。ジャズベとプレベ、どう使い分けるのか、質問されることもあるんですけど、フィーリングに近いものがあるから説明するのは難しい。楽器と楽曲の組み合わせは、いろいろな音楽を聴いたりたくさん楽器を弾いたりすると自然と見えてくるもの。感覚として養われるので、そういう引き出しが増えていくと自分の中でわかってくる。もしそこで疑問が湧いたら、楽器を触ってみるとか音楽をいろいろ聴いてみるとか。音楽をやる上で、練習することよりも音楽を聴くことのほうが大事だと僕は思っているので、参考になればと思います。プレベをメインに弾いてきた人間なので、これ(#4)を一本目のシグネイチャーモデルとして世に出せたことは誇らしいし、ベースってギターほど売れるわけじゃないのにたくさんの方に手にとって頂けている様で嬉しいです」(ハマ)

そんな一本目のシグネイチャーモデルが、大好きな故スティーヴィー・レイ・ヴォーンのメイン機、#1にあやかって四つのこだわりがあるから#4と名付けられたことはファンの間では有名な話。


#4について熱弁をふるいすぎたのか、その時点で時間が押していたため2020年にハマが監修したVintage Modified Monogrammed Strapについては、BREIMENのギタリスト、サトウカツシロやTWICEのチェヨン他、多くのアーティストに使えてもらえて嬉しいと若干駆け足の説明になってしまったが、2021年に発売した二本目のシグネイチャーモデル、Hama Okamoto Fender Katana Bassについては「僕がイチから作ったものではなくて、80年代にスクワイヤーが作っていたモデルを海外のネットで見つけて、こんなヘンなベースを使う奴はいないだろうって、けっこうメインとして使うようになっていったんですけど、フェンダーから75周年を迎える時に何か一緒にやりましょうと言っていただいたので、ビンタされる覚悟でKatanaを製品化したいと言ったら、まさかのOKをもらえた(笑)」と振り返りながら、オリジナルにはないピックガードのデザインを、鵜飼らフェンダーのスタッフと考える時に使ったというKatanaのボディをかたどった実寸大のスポンジや、デザインのアイディアを何通りも考えた型紙を披露。ハマたちが楽しみながら製作に取り組んでいたことを窺わせた。


また、後半のあらかじめ観客から募った質問に答えるパートでは、ベースを購入する時の選ぶ基準に対するハマの回答が彼のミュージシャンシップを物語っているように思えたので、記しておきたい。

「“弾いた時の感じ”という言い方しかできないけど、一本一本に個体差があるから、パッと見た時に気に入るポイントがどれくらいあるか。それを持った時、どのくらいテンションが上がるか。そういうところが大事。楽器屋さんに行ったら、どれも同じに見えるかもしれないけど、光って見えるものがあったり、光って見える日があると思うんです。直感に頼って、そういう基準で決めるのが一番気持ちいい」(ハマ)


最後は、お待ちかねのリクエストコーナー。観客のリクエストに応えて「Lagoon」「Misty」「NO MORE MUSIC」のベースフレーズのさわりを披露。間近でベースプレイを見ることができたこともさることながら、「Misty」と「NO MORE MUSIC」を演奏する時に、それぞれの曲に対して語った「(OKAMOTO’Sは)レッチリみたいって言われることが多いから、あえてレッチリを意識しながら作った曲」「CDに入っているフレーズとは変わっていて。なぜかと言うと、オカモトレイジさんがライヴで勝手にキックをいっぱい入れ始めたから(笑)。(この曲みたいに)オクターヴのフレーズを入れることが多いのは、シックのバーナード・エドワーズの影響です」という裏話はかなり貴重だったはず。

そして、一時間のイベントを締め括ったのは、パートナーシップ契約の10周年を記念して、ハマが持っているベースの中で一番古い59年製のプレベをFender Custom Shopで傷も含め再現することが決まったという重大発表だった。客席から拍手と歓声が沸く。


「僕のミュージシャン人生を支えてくれたベースです。本当にすごいやつを開発します。楽器をやっている人、楽器に興味がある人、楽器を愛する人にとって何かきっかけになるものになったら嬉しい。楽しみです!」(ハマ)

その気持ちを分かち合えるファンの存在は、ハマの宝だ。

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