Cover Artist | キタニタツヤ -後編-

可能性が広がりすぎると動けなくなるけど、ギターはあればあるだけいい

TVアニメ『呪術廻戦』第2期「懐玉・玉折」のオープニングテーマ「青のすみか」が大ヒットを記録し、『第74回NHK紅白歌合戦』への出演を果たすなど、ミュージシャンとしての存在感をますます強固なものにしているキタニタツヤがFenderNewsのCover Artistに登場。インタビュー後編では、入手したばかりの70th Anniversary American Professional II Stratocasterについて、そしてアーティストとしての今後の展望について語ってくれた。

70th Anniversary American Professional II Stratocasterはハイファイな曲を作る時にバンバン使える

──さて、今日はストラトキャスター70周年記念コレクションの70th Anniversary American Professional II Stratocasterを試奏していただきました。印象を聞かせてください。

キタニタツヤ(以下:キタニ) ストラトだなぁって感じですよね。フロントピックアップを常時オンにできるスイッチが本当に素晴らしくて、それで今は頭がいっぱいです(笑)。宅録する人間としては、ピックアップの選択の幅が広いことがどれだけ救いになるか。バカみたいな感想ですけど、結局ストラトっていろいろな音を出せるからいいギターってみんな思っていると思うんですよ。僕は曲によって全部のピックアップポジションを使うのですが、今までは“フロントとリアを混ぜられたらなぁ”とか“でもわざわざカスタムに出すのも面倒くさいなぁ”と思っていたので、ゲットできて嬉しいです(笑)! とりあえず家に帰ってアンシミュ(アンプシミュレーター)に通して弾きたい。こういう時にアンプじゃなくて“アンシミュに通して”って言葉が出るのがデジタル人間なんですけど(笑)。

──キタニさんのミュージックライフを物語っていますね。

キタニ 同じギターを何本も所有することへのロマンって、ギタリストだったらあると思うんです。“テレキャスだけで10本持ってます!”みたいな。正直、そういうのは自分としてはわからなかったんですけど、現時点でフェンダーのストラトが2本ありますし、微差が好きになる人間になってきたんだなって。70th Anniversary American Professional II Stratocasterはツルっとキレイな感じなので、ハイファイな曲を作る時にバンバン使えるなって。そういう意味でも家にあるストラトとはキャラが違いますね。

──ディティールに神が宿るじゃないですけど、クリエイティヴは細かいところに意識がいくので、キャリア上そうなってきたんだと思うんですよね。

キタニ そういうことですかね。逆に選択肢が多くなりすぎてもよろしくないなと感じるようになってきたんです。可能性が広がりすぎると動けなくなるけど、ギターはあればあるだけいい(笑)。

──曲のイメージに合うギターを持つのか、それともギターの音に導かれて曲が生まれるのか、キタニさんはどうですか?

キタニ どちらもあるし、どちらもあるようにしたいんですけど、最近はギターで実験することが減ってきていて。これは自分の中で良くないポイントなんです。本当は子供のようにギターを弾いて、弾いているうちに曲が作れるようになりたいんですよ。自分の中の初期衝動を呼び戻さないといけないけど、楽器を買うとそれが手っ取り早くできる。新しい楽器を買うと、それと遊んでいるうちに曲ができることがあるので、こいつにはそれを期待します。

ベーシストとしていい仕事をしているのを感じてほしい

──活動は多岐に渡りますが、今後の活動の軸などは考えていますか?

キタニ ちゃんと考えていないんですよね。ただ昔から有名になりたいという欲がやたら強くて、自分の音楽が知られていないことに対する我慢のできなさが今もあるんです。最近は“名前は知っている”と言ってもらえるようになったから少し成長したのですが、“じゃあ何で俺の曲を聴いたことがないんだよ!”と新たな欲求が生まれて。ライヴの話で言うと、東京で大きな会場でやるよりも、どんな田舎であろうと1,000〜2,000人のホールを埋められる人にまずはなりたいんです。それが国民的アーティストだと僕は思っているので。あとは、いい音楽を作り続けられればいいな。

──その先は海外進出も?

キタニ 海外はあまり望んでいなくて。それを目標にしちゃうと、日本人として無意識にやっていた音楽の良さを忘れちゃう気がするんです。最近はYOASOBIがめちゃくちゃいいなと思っていて。歌謡曲のメロが世界で聴かれているわけじゃないですか。それこそ世界で売れている日本の漫画やアニメもそうで、それでいいんだろうなって。自分が好きなものはだいたいの日本人も好きだろうという感覚で、いいクリエイティヴをやっていきたいですね。その結果、世界中にいる物好きな人たちが“いいじゃん”と言ってくれて、世界で聴かれているように感じる。そういう聴かれ方が一番いいと思います。

──楽器の可能性と並行して聞きたいことがあるのですが、生成AIで曲を作ることについてどう考えていますか?

キタニ 音楽に関わるAIテクノロジーに今のところ興味がなくて、全然チェックしていないんです。ただ可能性として、例えば叩き台を作ってもらってそれをグチャグチャにミックスする過程を自分がやるとか、コライト相手としてAIが入るのはいいと思うんですよね。自分がデモを作って、AIに“もうちょっとここをこうしたいんだよね”と投げかけて、戻ってきたものをまた自分が作業して。それを何往復かして出来上がる曲も面白いですし、そういう共存ができればいいなと僕は思っています。ただAIは楽器が弾けないから、楽器が弾ける以上は人間側にアドバンテージがあるんだろうなぁ。

──キタニさんの直近の活動は?

キタニ アニメ『戦隊大失格』の主題歌「次回予告」が出ます。面白い曲だと思うので聴いてほしいのと、1月に『ROUNDABOUT』というアルバムが出ているので聴いてほしいです。僕の曲って、ベースやギターがカッコいいとあまり言われなくて寂しいので、ベースとギターを聴いてください(笑)。“ここのギターがいいんだよな”って思いながらやっているんですけど、ギターのフレーズを作っている時は、ギタリストとしての自我があってもミックスやアレンジをする過程で邪魔だと思ってしまうので、そこがバンドとは違うところで。うるさくて邪魔でも、そこにロマンがあれば聴いた人は覚えているじゃないですか。20年後も覚えているのは、結局はギターのイントロだったりするので、みんな頑張ってイヤホンで聴き取ってほしい(笑)。

──この曲のここを聴いてほしいという部分はありますか?

キタニ 「憧れのままに」と「旅にでも出よっか」は実はベースがカッコいいんです。僕はベーシストのフォロワーが少ないので、ベーシストとしていい仕事をしているのを感じてほしいですね(笑)。

──最後に、ビギナーに向けてメッセージやアドバイスをお願いします。

キタニ 好きなことだけをやったほうがいいですね。あとは練習だと思わないように。ついついゲームをしちゃう、スマホをいじっちゃう感じでギターやベースに触れるといいですね。あと、うるさいおじさんの言うことは聞かないほうがいい。僕のこの言葉もそうなんですが(笑)。

──まだおじさんじゃないですよ(笑)。

キタニ でもギターを持つ人は、もしかしたら10代かもしれないじゃないですか。そしたらおじさんです。夢中になれば絶対に上手くなるので、人の言うことを聞かず夢中になればいいと思います。

左:Vintera II 60s Precision Bass | 右:70th Anniversary American Professional II Stratocaster

>> 前編はこちら


キタニタツヤ
2014年頃からネット上に楽曲を公開し始め、ボカロP“こんにちは谷田さん”として活動をスタート。2017年より、高い楽曲センスが買われ作家として楽曲提供をしながらソロ活動も行う。シンガーソングライター以外にも、サポートベースや楽曲提供など、ジャンルを越境した活動を行う。
https://tatsuyakitani.com

Related posts