フジファブリック LIVE at NHKホール

2025年2月をもって活動休止するフジファブリックが、休止前最後のワンマンライヴ〈フジファブリック LIVE at NHKホール〉を2025年2月6日(木)東京・NHKホールにて開催した。デビューから約20年の活動を支えたファンに対する愛に溢れたライヴの模様を、フェンダーギター/ベースが活躍した場面を交えてレポートする。


ファンと一緒に育ってきた、育ててもらったのがフジファブリック。
僕はそんなバンドをずっとやってこられたことを、すごく誇りに思います

《悲しい思いは それなりでいい/笑いあう声を 聞く方がいい》──山内総一郎(Vo,Gt)が高らかに「Portrait」を歌い始まった、活動休止前ラストライヴ。振り返るとこの一節は、ライヴを会場や配信で見守っていたファンへのメッセージのように感じられた。約3時間に及んだ本公演は、感傷的なムードを最小限に抑え、温かな雰囲気に包まれていたからだ。


冒頭から心揺さぶるパフォーマンスで魅せた彼らだが、2曲目の「LIFE」以降は穏やかな空気で満ちていく。山内がトレードマークの1962年製のFiesta Red のStratocaster(以下:Stratocaster)を軽やかに爪弾き、金澤ダイスケ(Key)のダイナミックな鍵盤がバンドサウンドを彩り、加藤慎一(Ba)の1959年製Precision Bassの重厚で深みのあるサウンドがアンサンブルを引き締める。その後はサポートの伊藤大地(Dr)によるタイトなドラムが躍動感を生んだ「流線形」、StratocasterやPrecision Bassの艶やかな音色が楽曲をメロウに仕立てた「赤い果実」、ジャジーなキーボードを軸にバンドサウンドが次第に熱を帯びていく「robologue」と、久しぶりに披露する楽曲たちが続く。一回一回のライヴに全身全霊をかけてきた彼らの演奏はこの日も“いつも通り”全力ではあったが、3人のプレイには万感の思いが込められていたように思う。それを感じ取ったファンの拍手は、1曲1曲、いつにも増して大きく鳴り響いていた。

一気に5曲届けたところで、山内が“改めましてこんばんは。フジファブリックです!”と挨拶。“一瞬一瞬を刻みながら今日はやっていきたいと思いますので、どうぞ最後までよろしくお願いします”と意気込むと、3人のハーモニーが美しく響いた「楽園」を披露。さらに山内と加藤が楽器を持ち替え、緊迫感のあるプログレッシヴなナンバー「KARAKURI」へ。山内のシグネイチャーモデル、Souichiro Yamauchi Stratocaster Custom(以下:Stratocaster Custom)の粒立ったサウンドや加藤のCustom Shop製Jazz Bassの蠢くような重い低音が、金澤の雄大な鍵盤の音色と相まって妖しさを醸す。

「Water Lily Flower」では山内の1954年製Telecaster(以下:Telecaster)の温かくきらびやかな音色が聴く者の琴線に触れ、涙腺を刺激。「ブルー」では山内がBlue MetallicのStratocasterを手にエモーショナルなプレイで魅せ、会場に歓声がこだますると、輝かしい日々を思いながら再び歩き出す決意を歌ったミディアムチューン「Light Flight」へ。彼らの音楽性の振れ幅を実感するバラエティに富んだ楽曲群を、立て続けに届けていく。

圧倒的なパフォーマンスとは対照的な和やかなMCもフジファブリックのライヴの魅力だが、本公演でもほのぼのとした雰囲気は相変わらずだ。山内が“曲をえらい連続でやるなーって思ってるよね(笑)? 今日はいっぱいやりたいの、曲を。まだまだあるから、みなさん一回NHKホールの椅子の感触を確かめてみてはどうですか?”と着席を促すと、金澤がすかさず“よくさ、「椅子の感触を〜」って言うよね。みんな始まる前にもう確かめてるかなって(笑)”とツッコむ。山内は“今日は緊張感が漂っているんですけども、フジファブリックはけっこうほんわか、ゆる~い感じでやってます(笑)”と述べ、笑いを誘った。


さらに山内の唐突な振りで、デビュー初期からのファンにはお馴染みである加藤のソロトークコーナー、通称“加トーク”が開幕。急に話を振られた加藤だが“今日僕は、何の柄(の衣装)だと思う? そう、パイソンだ。何でパイソンにしたと思う? 巳年だからって思うでしょ? 今日はライヴで元気がないヤツを丸飲みにしてやろうと思って、蛇柄にしたんだ。だがしかし! そんな必要はない。みんな今日は一緒に楽しみましょうね!”と滔々と語ってみせた。続くアコースティックコーナーでは、金澤が奏でる鍵盤ハーモニカの音色が郷愁を誘う「月見草」、温もりのある華やかなサウンドで届けた「夜の中へ」、陰のある歌が観客をほの暗い世界へと引き込む「音の庭」を披露し、観客はじっと聴き入る。

山内は“やっぱり、いい曲をいっぱい作ってきたなぁ。いろんな人に支えられてたくさん音楽をこの世に生み出すことができて、嬉しく思っています”と感慨深そうに述べる。金澤は過去のNHKホール公演を回顧して“あれ(パイプオルガン)を何度も弾いたんですよ。初めて弾いた時はめっちゃ盛り上がったんですけど、回を増すごとに「どうせ弾くんでしょ?」って、だんだん普通になっちゃって(笑)”と振り返る。加えて“パイプオルガンを弾いて笑われたのは、たぶん僕1人だと思いますね”とこぼして、会場に笑いが起きた。

また、MC中には客席から何度も“大好き!”という声が飛び、そのたびに笑顔を見せたメンバー。山内は“自分から言うのは小っ恥ずかしかったけど、20年強やってきて、バンドを通して「愛って素晴らしいんだな」ということを知ることができました。ファンの皆さんと一緒に育ってきた、育ててもらったと言い切れる…それがフジファブリックです。僕はそんなバンドをずっとやってこられたことを、すごく誇りに思います”と語った。

そして、山内と加藤が再びメイン機のStratocasterとPrecision Bassを手にした「ショウ・タイム」を境に、ライヴは後半に突入。パワフルなギターサウンドや朝倉真司(Per)によるパーカッションが色鮮やかなアンサンブルを創出した「シャリー」、加藤の1970年代製Precision Bassのふくよかなサウンドがうねりを生んだ「ミラクルレボリューション No.9」で勢いを加速したかと思えば、爽快感がありながらセンチメンタルな感情を誘う「Green Bird」で緩急をつける。パワフルなStratocaster Customのサウンドは、楽曲の切なさを一層引き立てていた。

ライヴの定番ナンバー「Feverman」では山内がお立ち台に上り、Stratocasterの鋭いサウンドを生かしたギターソロで圧倒。これに触発された金澤も激しいソロプレイを展開し、加藤がステップを踏みながら観客を鼓舞する。振り付けも交えて会場は一体感に包まれ、曲終わりには金テープが舞った。さらに疾走感のある「電光石火」や、2012年に3人体制で初めてリリースしたシングル曲「徒然モノクローム」と畳みかけ、会場の熱は最高潮に。


一呼吸を置いて静まり返ったステージで、金澤がしっとりとキーボードを奏でると、そこに山内や加藤の演奏が加わり、3人はほほ笑みながら音で戯れる。山内はTelecasterを爪弾きながら“今日からフジファブリックは新たなスタートを切ることになります。どんな未来がこの先に待っているかは僕らもわからないですが、これからもフジファブリックを聴き続けてください”と、ひと言ひと言を噛みしめるように語り、本編ラストの「STAR」へ。3人体制で再出発した2011年にリリースされ、当時の3人の決意が込められたこの曲は、これまで数多くのライヴの重要な場面で披露されてきた。この日の「STAR」もまた、メンバーそれぞれの決断と新たな旅路、そしてそれを見守るファンに寄り添うように力強く鳴り響く。パフォーマンスを見守りながらフジファブリックとの思い出を振り返り、改めてバンドに想いを馳せたファンも多かったはずだ。

アンコールでステージに再び現れた3人は、登場するやいなや“バイソンとパイソンってどっちがどっち?”という取り留めもない話を始め、客席から笑いの声が漏れる。気を取り直して山内が観客を煽ると、躍動感と勢いのあるナンバー「SUPER!!」で会場の心は再び一つに。山内は“フジファブリックはたくさんの人に支えられてここまで来れました。この場を借りて、心からお礼を言わせていただきたいなと思います”と、スタッフやサポートミュージシャンへの感謝を伝える。さらに“何より、会場に足を運んでくださった皆さん、配信をご覧になっている皆さんの支えがあって、僕らはこうやって笑いながら真剣にライブができる。フジファブリックに関わってくれた皆さん、本当にありがとうございます。みんなと出会えて、最高のバンド人生でした。また次に会う時は笑顔で再会しましょう”と再会を誓った。

ラストナンバーは、山内がTelecasterを、金澤がStratocasterを手にした「破顔」。ドラマチックなサウンドが会場を希望で満たし、ライヴを温かく締めくくった。最後のメンバー紹介では、山内が天を見上げて“ヴォーカル&ギター、志村正彦!”とオリジナルメンバーである志村の名前を呼び、客席から歓声が上がる。サポートメンバーを見送ったのち、山内は“まだ、感謝を伝えてない人がいるんですよ。ダイちゃん、加藤さん、一緒にバンドをやってくれてありがとうございます”と、2人に想いを伝えた。加藤は照れながら“こちらこそよ、ありがとね”と返し、金澤も“20年間やってきた中で、加藤くんと総くん、そして志村に、一番の感謝の気持ちを伝えたいと思います。どうもありがとう”と天を仰いだ。

人気曲を軸としつつ、レアなナンバーも織り交ぜた全23曲をパフォーマンスした本公演。そのすべてを2011年以降の3人体制の楽曲からセレクトしたのは、決して平坦とは言えない道のりでもフジファブリックとしての音楽を止めなかった3人を応援し、バンドを“育てた”ファンに向けて、成長した姿を示すためだったように感じる。フジファブリックからファンへの最大限の愛が伝わり、ファンもまたバンドへの愛を叫んだ、心温まるライヴであった。

“フジファブリックはこれで終わったわけじゃないんです。未来がどうなるかわかりませんが、次に会う時まで、皆さん元気でいてください”と山内が締めると、3人は笑顔で肩を組み、ステージをあとにする。メンバーに向けて贈られた盛大な拍手は、しばらく鳴り止むことがなかった。

【SET LIST】
1. Portrait
2. LIFE
3. 流線形
4. 赤い果実
5. robologue
6. 楽園
7. KARAKURI
8. Water Lily Flower
9. ブルー
10. Light Flight
11. 月見草
12. 夜の中へ
13. 音の庭
14. ショウ・タイム
15. シャリー
16. ミラクルレボリューション No.9
17. Green Bird
18. Feverman
19. 電光石火
20. 徒然モノクローム
21. STAR

ENCORE
1. SUPER!!
2. 破顏


フジファブリック:https://www.fujifabric.com/

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