Interview | 向井秀徳

「テレキャスターしか弾けないんです」

interview-shutoku-mukai

カスタムモデルを弾いたときに「こういう音が欲しかった!」と感じた。
 

1990年代後半から2000年代頭を全速力で駆け抜けたNUMBER GIRLから、その後のZAZEN BOYSに代表されるバンド活動、また映画音楽の制作まで、常にジャパニーズ・オルタナティブを体現しているといっても過言ではないギタリストであり表現者、向井秀徳。昨年から、ソロでのライブ活動=向井秀徳アコースティック&エレクトリックの良き相棒として、アメリカンエリートテレキャスターのシンラインを使用している向井。その感想とともに、テレキャスターへのこだわりを改めて聞いてみた。

―  向井さんが昔から使用しているテレキャスターのピックアップって、アメリカンデラックスのノイズレスピックアップに交換してあるんですよね。で、アメリカンデラックスの流れを汲む最新型のアメリカンエリートが出たってことで、昨年ご連絡をいただいて。

向井秀徳(以下、向井)   エリートシリーズが出たっていうニュースをギター雑誌で見て、えらいまた未来的なピックアップだなと思って。で、一番興味深かったのは、シンラインね。シンラインギターは、人から借りて弾かせてもらったことがあって、そのときはハムバッカー2つのモデルだったんだけど、今回アメリカンエリートでシンラインがリリースされるってことで、フェンダーにお邪魔して触らせてもらったわけです。シングルピックアップのシンライン。弦が裏通しじゃないから、テレキャスターとはちょっと違うのかなと想像していたら、まさにテレキャスターのサウンドで、いいなあと思って。なんか洒落てるし(笑)。ホロウボディのギターってルックスが渋いじゃないですか。

―  はい。

向井   自分はずーっとテレキャスターを使ってるもんですから、もうテレキャスターしか弾けないんですよね。これ、不思議なことに。もっと言えば、ジャズマスターを弾いても「あ、ぜんぜん違う」と感じる。弾くのが、難しいんです。テレキャスターしか弾けない体になってしまってるんですね。で、ヴィンテージショップとか行くとホロウボディのギターってカッコいいなと時々思うんですけど、弾けないから鑑賞して楽しむだけ。そしたらシンラインっていうのがあると知って、これはぜんぜん行けると。

で、このアメリカンエリートのシンラインを実際使ってみて感じたのは、サウンド面については、やはり上品で非常にバランスがいいですよね。6本の弦が、コード弾きしたときも分離してきれいに鳴ってる印象がある。このモデルはもっぱら私のソロである向井秀徳アコースティック&エレクトリックでメインに使ってます。ただね、1弦が外れて落ちるんですよ(笑)。

―  (笑)。

向井   これね、私の弦高などのセッティングと関係あると思うんです。あと弾き方ももちろん。

―  向井さんは弦高が低いですもんね。だからテンションも緩くなっている。

向井   弾いてると外れるときがあるので、外れるたびに直さないといけない。これはフェンダーの方に今後調整してもらうんですけど、そういう繊細さがありますね。私が荒いだけかもしれないですが(笑)。でも、すごく艶っぽいギターですよ。

―  向井さんのテレキャスへの情熱っていうのは、ずっと変わらないんですか?

向井   テレキャスターを使いたい!と決めて使い始めたわけじゃないです。人から借りたテレキャスターを使ってたらいい感じだなと思って、そっからですね。自分の弾き方とかコードの鳴らし方とかにしっくりきたんでしょう。で、テレキャスターを弾くことで、自分のスタイルが決まっていった感じですね。最初手にしたのはストラトキャスタータイプのギターだったんです。これも人の借り物(笑)。

―  (笑)自分でお小遣いを貯めて買ったギターというと?

向井   それもストラトキャスタータイプのギターでした。これは兄の影響で、うちの兄はプリンスの大ファンだったから、それもあってテレキャスタータイプを買えと言ってきて。でも、いざ小遣いが貯まって、兄貴と買いに行ったら「こっちのほうがオールマイティーだから」という理由で覆されたわけですよ(笑)。その後、NUMBER GIRLを始めて田渕ひさこのお姉さんが持ってたフェンダージャパンのテレキャスターを借りて使わせてもらって。で、ライブ中にぶん投げたんですよね。

―  借り物なのに(笑)。

向井   そしたらポキっといっちゃったんだ。あと、バイトの先輩の借り物で、同じくフェンダージャパンのオールローズウッド。ナンバーガールの初期のレコーディングでたくさん使ったし、テレキャスターといえば、このオールローズの印象は強かったです。

―  パキッとした感じですよね。

向井   ローズウッドテレキャスターと当時初めてローンを組んで購入したマイアンプでもって、これが俺のサウンドだ!と衝撃を受けて。それ以来、バンドで鳴らすときはずっと同じ組み合わせですね。


テレキャスターの魅力は軋轢サウンド
 

―  セッティングについて聞かせてください。弦高が低いのは、そのほうが弾きやすいからですか?

向井   そうですね。弾きやすいっていうのもあるし、フレットに擦れる感じが軋轢サウンドみたいになって、それが気に入ってるんです。ただしベタ付けなので、2フレットで音が出なかったりすることもあったり。

―  ベタベタすぎて。

向井   ネックに感しては、正直あまり良くないセッティングなので、フレットやナットは長く持たんのですよ。そういう意味では、かなり雑に扱ってるかもしれないですね。ネックが「もう、これどうにもならんな」と思って、使わなくなったやつも多くあるんですけども。

―  テレキャスの墓場があるという噂ですが(笑)。

向井   テレキャスター墓場? ありますよ。本数でいうと20本強ぐらいじゃないですかね。「ザ・テレキャスターズ」って全部並べて、もう、記念写真でも撮りたいもんですよ(笑)。私は回路をいじくったりとか、そういうのが非常に苦手かつ、面倒くさがりなんで。だから自分で何かすることはあまりないんですけど、過去にピックアップをノイズレスピックアップに交換しようとして、失敗して配線がズタボロになって、そのままになってしまってるやつも多いですね。

―  ポジションはいつもリアですか?

向井   センターです。

―  あ、センターなんですね。

向井   フロントは使うことありますけど、リアは使わないです。基本的に混ざったサウンドが好きですね。テレキャスターっていうのは、自分の中にある鳴らしたい欲求――そのハートをサウンドで表現してくれるギターだと思っているから、もちろんリアとセンター、どっちもないといけないです。テレキャスターの魅力である軋轢サウンドも、それで成立している。ハムバッカーとかだと、ちょっと変わってきてしまうので。

―  確かに。

向井   僕はフロントピックアップ、時々好きですよ。磨くと鏡みたいになって、それが気持ち良いですよ。きれいですよね。なぜこれカバーしてるんでしょうね? やっぱり磁場?

―  諸説あるんですけど、磁場とかだと思いますよ。フェンダー発祥のギターって、ラップスチール/スチールギターで。

向井   リップスティックピックアップね。

―  そうなんですよ。ピックアップのあるところに手を乗せて爪弾くので、カバーが必ずしてあるんですね。で、それがなぜ金属になったかっていうのはよく分からないんですけど、絶対音に影響あるパーツですからね。

向井   リアピックアップのブリッジプレートあるじゃないですか。ここにね、明らかに荒ぶる磁場が生まれてるんですよ。何かが反射して、それがサウンドになってると思うので。

―  向井さんのスパークするようなギターのサウンドって、リアのみで鳴らしているのかなというイメージがありました。

向井   ああ、なるほど。リアのみだけでもワイルドには当然なるんですけど、ちょっと飽和する感じになるから、芯をしっかり通すにはフロントピックアップとの組み合わせのような気がします。トーンコントロールとかは、まったくしないんでね。ただ、ボリュームは8割くらいにして弾く場合もあるんです。そうすると、よりジャキったりするわけですよ。ボリュームコントロールの効き具合っていうのも、独特なんじゃないですかね。

―  ずっとテレキャスを使い続けてきて、何か一つのことを極めてきた実感みたいなものは今ありますか?

向井   そういう実感はないですね。あくまで、道具ですから。自分にしっくりくる、使いやすい道具。そういう意味で不満もありませんし、使い勝手もいいので、他のものを使うとか、変えたりする必要は自分にとってはないです。自分の鳴らしたいサウンドを、今のところしっかり表現してくれる道具であるから。

―  バンド以外のサントラのお仕事とか、そういうときもテレキャスで曲を書く?

向井   そうですね。今、テレキャスター以外にないからね、ギターが。でも、ギター以外の楽器で作り始めるパターンだったら、いっぱいありますよ。鍵盤で始まるときもあるし、もちろんギターのコード一発から広がることも絶対あるし。

―  5月6日には日比谷野外大音楽堂で『THE MATSURI SESSION』が開催されます。

向井   はい。私のソロ、KIMONOS、LEO今井、吉田一郎のソロなど、自分の身内がそれぞれの形で出ていくイベントです。

―  リリースはまだなさそうですか?

向井   ぼちぼち制作に取り掛かりたいなとは思ってますけどね。

―  ZAZEN BOYSは前作から4年ぐらい経ってますよね。

向井   そうなんです。もう5年ですよ。どれだけ大御所だっていう。

 
interview-shutoku-mukai

向井が長年愛用している日本製のテレキャスター。


向井秀徳
1973年生まれ、佐賀県出身。1995年、NUMBER GIRL結成。99年、『透明少女』でメジャー・デビュー。2002年解散後、ZAZEN BOYSを結成。自身の持つスタジオ「MATSURI STUDIO」を拠点に、国内外で精力的にライブを行い、現在まで4枚のアルバムをリリースしている。また、向井秀徳アコースティック&エレクトリックとしても活動中。2009年、映画『少年メリケンサック』の音楽制作を手がけ、第33回日本アカデミー賞優秀音楽賞受賞。2010年、LEO今井と共にKIMONOSを結成。2012年、ZAZEN BOYS 5thアルバム『すとーりーず』リリース。今作品は、ミュージック・マガジン「ベストアルバム2012 ロック(日本)部門」にて1位に選ばれた。 著書に『厚岸のおかず』。

THE MATSURI SESSION
5月6日(土)東京・日比谷野外大音楽堂
吉田一郎不可触世界/ZAZEN BOYS/LEO IMAI(LEO今井、岡村夏彦、シゲクニ、白根賢一)/KIMONOS/向井秀徳アコースティック&エレクトリック(出演順)。

› 向井秀徳:https://www.mukaishutoku.com/main.html

Related posts