My Original Playlist | 安部勇磨(never young beach)

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デビュー当時から“西海岸のはっぴいえんど”と称されたネバヤンことNever young beach。心地良いグルーヴに乗る日本語歌詞+アナログ感満載だが、どこか今っぽいサウンドはむしろ“21世紀のはっぴいえんど”と言いたくなる。そのネバヤンのフロントマンであり、作詞・作曲を手掛ける阿部勇魔のプレイリストを紹介。ルーツミュージックを下敷きにした阿部の音楽論は、目から鱗の連続だ。


すごくないですか? 音色なんだけど人間性が出ているなんて

 

―  はっぴいえんど、細野晴臣、鈴木茂。期待通りの名前が挙がって安心しています(笑)。やはり、前の世代の音楽で最初に触れたのははっぴいえんど周りの音ですか?

安部勇磨(以下:安部)  そうですね。あの年代の音楽に初めて触れたのは20歳ぐらいの時で、はっぴいえんど、細野さんの「HOSONO HOUSE」とかですね。それまでは、フランツ・フェルディナンドやザ・ストロークスとかを聴いていたので、初めて聴いた時に“何だこのギターの音は!”みたいな衝撃を受けました。それが鈴木茂さんのストラトでした。

―  安部さんの琴線に触れた、鈴木茂さんのギターの魅力を言葉にすると?

安部  音にしてもフレーズにしても、本当にシンプルで、要らない音が一つもないと思います。ギュッと濃縮して聴こえます。引き算の美しさというか、ひとつひとつのフレーズがとても濃く、耳に残る。だけど!全部さりげない。余白があるけど濃厚なんです。

―  確かにそうですね。

安部  鈴木茂さんのギターを聴くたびに「うま!すごい!」と言ってしまうのですが、でも最後に心に残るのは「ただただかっこいい」なんです。音色から伝わってくるのはマンパワーや人間性なんです。ただただかっこいいんです。すごくないですか? 音なんだけど人間性が出ているなんて。それは鈴木茂さんのギターに限らず、はっぴいえんど周辺の音はそうだと思います。

―  ええ。

安部  何か音が匂うんですよね。ギターだけでなく、ベース、ドラム…全部の空気感が生きている感じだし、土臭いというか野性味があるんです。それは今の時代とは匂いが違う気がしますね。50年代、60年代、70年代の音ならではです。昨日、この取材用に「HOSONO HOUSE」を聴き直したんですけど、やっぱり匂いを感じるんです。アメリカのバンドを聴いて、そのバンドのメンバーの体臭がしてきそうで“この人汗臭そうだな”とか“汚ったねぇ服着てたんだろうな”みたいなことが出ている音なんですよね。しかもその音に、日本語が見事に乗っかっている。僕にとっては、日本語のリズムを消化している音楽はルーツとしては絶対に外せないなぁと思って、はっぴいえんど、細野さん、鈴木茂さんを入れるのはミーハーだなぁと悩んだんですけど、赤裸々に告白してみました(笑)



―  意地悪な質問なんですが、90年代にサニーデイ・サービスがやった“はっぴいえんどリバイバル”“日本語ロックリバイバル”と、ネバヤンの違いはどこになるんでしょうか?

安部  いろいろあるとは思いますが、一番はアレンジだったり、リズムをどう使っているかだと思います。僕らは割とリズムよりだと思うんですが、昔のサニーデイの印象だと、リズムよりも歌が聴こえてくる気がします。日本語の豊かな響きを感じます。コード進行なのか、曽我部さんの歌声なのか、僕らよりも清潔感を感じます。風の抜け方が違うというか。最近の新譜は今までと違う音作りだったり、リズムの出し方でめちゃくちゃかっこいいんですけど。

―  確かにサニーデイは、初期に関しては歌モノというかフォークっぽいところがありましたよね。

安部  そうですね。初期の頃は。日本人にとって、やりやすさで言ったら絶対に歌のほうだし、歌に比重を置いたほうが聴き手に響くと思うんです。リズムが邪魔になる場合があるので。日本人は本当に素晴らしい歌の感覚があると思います。でも僕らがやるにはやっぱりリズムをうまく取り入れないと埋もれてしまうというか。沢山素敵なバンドが既にいますから。その中で自分たちはどう変化をつけるか、はっぴいえんどにもっと自分達が影響されたようなリズムを足したらどうだろうかと。ベースとドラムとリズム隊ではなく、ギターで。ギターでもっとリズムを出してみたい、そんなことを最近までは考えていました。

―  素晴らしいです! しかも音にもかなりこだわっていますしね。

安部  細野さんとお話する機会があって、音の話になったんです。僕らも「HOSONO HOUSE」のような生々しさを出したくて、いろいろ試行錯誤しているけど、どうしてもあの音に近づけなくて。何が違うんだろうってずっと悩んでいて、細野さんに“電圧なんですかね?”って聞いたら“そういうのは関係ないかも。実は…僕も分からなくて。それが面白いから未だに音楽をやってる”と言っていました。

―  深いなぁ。はっぴいえんど周り以外のプレイリストの話をすると、90年代のフリーソウルブームで脚光を浴びて盛り上がったオデッセイやレッドボーンの名前を挙げていますね。

安部  オデッセイは、レコード屋さんでジャケットにやられて買って聴いたらめっちゃカッコ良くて。僕らって他の日本人のバンドよもりリズムはあるけど、それでもまだ歌がメインで、そこに限界を感じてきていたんです。だから、僕らなりに、黒人ファンクやソウルを消化していかないと、自分にも飽きてしまう気がしていて。それでこの類の音も聴くようになりました。

 

日本は余白に対しての美意識が他の民族よりもあると思う

 

―  黒人には独特のリズム、グルーヴがあるわけですが、安部さんは日本人のグルーヴについてどんな風に考えていますか?

安部  最近アメリカに行ったんですけど、体のデカさや筋肉量とかって楽器演奏やグルーヴに影響するんだと思うんです。それだけではなく、生活する環境も影響すると思っていて。日本は道や家が狭く、その代わりに高速道路も建物も上に高いですよね。アメリカは横に広い。そういう文化や環境の違いもグルーヴに入っているんだなってすごく感じました。だから、今の日本人はJ-ROCKのグルーヴにハマるんだと思います。

―  と言うと?

安部  今のJ-ROCKって、規則正しい4つ打ちが基本のビートです。それって今の日本人のタイム感ですよね。アメリカ人のルーズな生活に比べて、日本人は物すごくミニマルで、小さい生活圏の中で過ごしていてレスポンスが早いわけです。なので、そういう4つ打ちのほうがハマってるんだなぁと思うんです。逆に言えば、アメリカは広大な空間、ルーズな生活がベースにあるから、ルーズなグルーヴが生まれる。あくまでもイメージで、実際全くルーズじゃないし、物凄い縦のリズムも合ってるんですが、なんだろう、機械的じゃないというか。生きてるんですよね。

―  鋭い考察ですね。

安部  日本人の真面目さ、時間に遅れてこないといった几帳面さ、そういうのも全部込みで、きっちりとした“ドンツードンツー”の4つ打ちが今は合うんだと思います。だから日本人はエレクトロみたいな緻密さが売りになる分野で強いんじゃないのかなぁとか考えます。

―  ルーズなビートやグルーヴよりも、緻密なビートやグルーヴが今の日本には合うと。

安部  ルーズなビートは、今の日本の生活だと馴染まないでしょうね。人間味とか、許せない性格だったりを考えると、ルーズなビートになかなか行く余裕がないと思うんです。

―  そうですよね。電車が数分遅れただけでも車内アナウンスが流れる国は他にないですもんね。

安部  そうなんです。だからこそ、日本人はアメリカのビートやグルーヴに未だに憧れるんだと思いますし。でも、そこに憧れて、それをそのままやっていても、海外では勝てないし、そもそも海外の人にとってそんなのは面白くも何ともないんです。日本的な感じがそこにはないから。だから、どんなに僕らが黒いリズムをやってみたいと思っても、僕らなりに崩して、日本の湿り気みたいなものを入れていかないとダメだと思います。とは言え、難しい挑戦ですよね。

―  だと思います。しかも英語もネイティヴじゃないわけですし。

安部  そうなんですよ。でも日本には歌舞伎とか能といった独自の文化があり、無音を休符として考えず、無音は無音と考えるよう音に対しての価値観があります。つまり余白に対しての美意識が他の民族よりはある民族性だと思うんです。



―  鈴木茂さんのギターはまさにそれですよね!

安部  そうだと思います。日本人の本来のルーツはその余白の美学なのに、今の社会は全然違う方向に行ってしまっていて。今の生活、今の皆さんの精神面を考えると、その余白とか無音に行く余裕がないし、生活のリズムがそうじゃないので、4つ打ちに身をゆだねるしかないというか。でも本来は、同じようなループのリズムで繰り返し踊って盛り上がる文化は、僕らにはないんだと思います。そういう風に本質的なものとはかけ離れた状態にあればあるほど、ルーツがいかに大事かを感じますね。

―  そんなところまで見えているネバヤンの次がすごく楽しみです。

安部  実はこの間が初のアメリカだったんです。なので、広いとこでめっちゃドラムを叩いてみてー!みたいな、アメリカへの憧れがまだあります。その憧れでやれるだけ頑張ってみて、こんなもんかと思えたら初めて日本人としての自覚が芽生え、そこを目指すんだと思います。

―  プレイリストに戻ります。最近の楽曲でバフペックを挙げているもの流石だなぁと。

安部  バルフペックはファンクなんですけど、なぜか土臭くなくて。やってることもフレーズも土臭いはずなのに、メンバーの風貌や服装とか活動の仕方含めて、今に消化してから出してるんですよね。昔のままではないのがすごいし、参考になります。しかも曲もめちゃくちゃ良くて好きです。



―  今回の撮影で持ってもらったフェンダーのAmerican Originalもヴィンテージのリイシューで、ヴィンテージの良きところを残しつつアップデートをしているわけですよね。

安部  実は最近、やっとこういうギターがあるとすごくいいんだってことに気が付いたんです。ちょっと前までヴィンテージじゃないと嫌だったんです。どんなにヴィンテージに近づけようとしても今は今なので。でも、最近の音楽の作り方とか移動の仕方を考えると、ロマンだけではなく、アップデートされた実用性も兼ね備えたリイシューもはすごいんだっていうことに気付きました。僕もやっと大人になったかもしれないですね(笑)。

【安部勇磨のMy Original Playlist】


  • 1.ODYSSEY / Georgia Song
  • 2.Redbone / I want you back
  • 3.JACKSON 5 / You Really Got Me
  • 4.はっぴいえんど / しんしんしん
  • 5.細野晴臣 / 恋は桃色
  • 6.鈴木 茂 / 砂の女
  • 7.Vulfpeck / Mr Finish Line
  • 8.Bahamas / Opening Act
 

never young beach
never young beachは、土着的な日本の歌のDNAをしっかりと残しながら、USインディなど洋楽に影響を受けたサウンドと極上のポップなメロディー、そして地に足をつけて等身大の歌詞をうたった音楽で、音楽シーンに一石を投じる存在として、今最も注目を集めるバンド。2014年春に結成、2015年5月に1stアルバム「YASHINOKI HOUSE」、2016年6月に2ndアルバム「fam fam」をリリース、それぞれ2016年、2017年上半期の「CDショップ大賞」ノミネート作品に連続で選出、2017年は入賞と関東ブロック賞を受賞し現在もロングセールスを続けている。ライヴシーンでも「FUJI ROCK FESTIVAL」「COUNTDOWN JAPAN」をはじめとした全国のフェスティバルや、スペースシャワーTVが主催する「スペースシャワー列伝 JAPAN TOUR 2017 ~10th ANNIVERSARY~」への出演で人気が広がっており、4月に開催した初のワンマンツアー「April O’Neal」は、2日間のLIQUIDROOMを含む全公演のチケットが即日完売となった。

公開されているミュージックビデオも話題を集め、その最新作「お別れの歌」は、アーティスト写真も手がけている写真家・映像作家の奥山由之が監督、女優・小松菜奈が出演。昨年12月に公開され、YouTubeでの再生回数は180万回を突破している。2017年7月19日にメジャーデビュー作となる待望の3rdアルバム「A GOOD TIME」をビクターのスピードスターレコーズから発売、夏は全国のフェスを各地周り、9月に開催した全国ワンマンツアー「A GOOD TIME」TOURは赤坂BLITZほか全国11都市全12公演完売となり、新木場STUDIO COASTにて行われた追加公演ではDevendra Banhartをゲストに迎え、大盛況にツアーの幕を閉じた。
› never young beach | http://neveryoungbeach.jp/


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