The Players | 七尾旅人

多様なサウンドをもたらす刺激的な楽器を求める、次世代のミュージシャンのためにデザインされた「Acoustasonic®︎ Player Telecaster®︎」。唯一無二の音世界でシーンを切り開くアーティストに、その前衛的なモデルのインプレッションを聞くとともに、ギターとの関係について迫る「The Players」。第5回目は、シンガーソングライターの七尾旅人が登場。近年はエレキギターだとTelecaster®︎を愛用しているという彼に話を聞いた。


Acoustasonic Player Telecasterは5年くらい使っても“まだこんなことできるんだ”みたいな

―音楽に目覚めたきっかけを教えてください。

七尾旅人(以下:七尾) 父親が家で一日中ジャズをかけていたので、音楽は身近でしたね。自分が楽器を弾くようになるとは全く思ってなかったのですが、15歳の時に阪神・淡路大震災があって。祖父が福祉関係の仕事をしていたんですが、不登校児でフラフラしていた僕を見かねて震災直後の神戸に連れて行ったんです。あんな美しい街がめちゃくちゃになっていて、ショックが大きくて。高知に帰ってきてすぐ歌を作るようになりました。最初はラジカセに声だけ吹き込んでいたのですが、アカペラで録っても誰にも聴かせられないから伴奏をつけようって。叔父が若い頃に趣味で作ったガットギターが家に一本落ちていたので、それを弾くようになりました。正直に言っちゃうと、ただ歌うためだけに、最低限の伴奏ができればいいって根性でやっていたので、ギターに対して消極的でした。

―それからのギターとの関係はいかがでしたか?

七尾 16歳の時、高校を辞めて“ミュージシャンになる”って東京に行きました。最初は専門学校のエレキギター科に入ったんですけど…3日しか行かなくて(笑)。ずっと四畳半の部屋にこもって曲を作って、それをデモテープ・オーディションに出してみたりして。運良く10代でメジャーデビューしたのですが、長続きしなかったですね。二十代序盤にインディペンデントで活動するようになってから、ギターへの愛情が深まったかなと思います。自力で食っていかなきゃいけないので、ギターを抱えて、東へ西へと旅をして日銭を稼ぐ。こんな小さいギターが自分の生活を支えてきたんです。最大の恩人ですね。遅まきながら38歳の時に、ギターが魔法の杖のように人生をずっと支えてくれていたことに気づいて(笑)。今まで申し訳なかったと思って、ギタープレイ自体にも以前より意識を注ぐようになりました。

―そしてギターに目覚めた、と。

七尾 もちろんずっと憧れはあったけど、周りのミュージシャンはすごい人ばかりだし、自分には上手に弾きこなせないと思ってた。でもそれゆえに、ギターの間口の広さを知っているんです。この楽器は、僕みたいな意識の低い人間でも包摂(ほうせつ)してしまう。たいした素養がなくても鳴ってくれる。そこが初心者向けだと思ってて。みんながみんな最初から才能に満ち溢れた青年ではなかったわけですよね、ロックンロールやパンクって。僕にとってギターの魅力は、そういう圧倒的な敷居の低さですよね。フェンダーは、まさにそれを推し進めてきた、世界中にカウンターカルチャーの波を起こしてきたブランドですよね。

―近年まで、エレキギターはあまり弾かなかったのでしょうか?

七尾 エレキギターにもずっと憧れやコンプレックスがありました。若い頃はやっぱりアコギよりもかっこいい感じがしましたしね。一応持ってはいるんだけど、手が伸びなくて。そういうのを変えてくれたのがTelecasterです。友人の向井秀徳氏と九州ツアーしている時、彼が「テレキャス旅人に合うと思うよ」って薦めてくれて、手に入れてみたら本当そのとおりで。その勢いで30代後半で初めてメトロノームを買って(笑)、バンドも組んで。そうすると、一人でやっていた時よりも楽器の役割がよく見えてきました。あまりにも遅すぎる展開なんですが。

―そのTelecasterが初めてのフェンダーですか?

七尾 ファーストレコーディングの時にメジャーレコード会社の人が制作予算で買ってくれたのが一本あるんですけど、使ったら負けな気がしてずっと封印してて。ストラップで2弦だけベンドできるんですよね(B-Bender Telecaster)。特殊な作りで重量もあるから、初心者には敷居が高い感じで。でもすごくいいギターで、20年以上クローゼットに放り込んであったのに、今引っ張り出してもいい音がするんです。これがフェンダーの底力ですよね。安物だったら壊れるけど、フェンダーの楽器は20年放置してもOK。これ、見出しにしてもらっていいですか(笑)?

―(笑)。愛用のTelecasterはどういった点が気に入っていますか?

七尾 御茶ノ水の楽器屋でTelecaster Thinlineに惚れ込んで、今エレキのメインはそれを使っているんですけど、ガットギターで弾き語りしている時とあまり差がないんですよね。シンプルだけど、トーンの変化は大胆かつ明快。欲しい音にすぐ手が届く。そういうところが好きですね。単純明快で無駄なことが一個もなくて、深い音が出る。そこはアコギっぽいです。

―Acoustasonic Player Telecasterはいかがですか?

七尾 これはもっとハイテクだと思う。シミュレーターが入っているし、思考しているように賢い。15歳からナイロン弦のガットばかり弾いていたから、フォークギターとエレキギターは近くて遠い憧れの存在だったんですが、その夢をいっぺんに叶える一本だなって。ガットギターのようなぬくもりを感じるデザインで、軽量で親しみやすいけど、二つの楽器がここに共存している。発明的ですね。
音の変化もわかりやすいですし、これだけ変わってくれたら掘りがいがありますね。5年くらい使っても“まだこんなことできるんだ”みたいな、そういう楽器だと思います。演奏性もめちゃくちゃ快適です。自分がなんでガットギターだけは毎日弾き続けられたかというと、やっぱり軽さと速さからなんです。エレキはプラグをインしたり電気を通したりっていうのが面倒くさくて(笑)。とにかく思いついた瞬間に作曲したいんです。Acoustasonicはそういう即効性、軽さ、身近さをすべて満たしてくれた上で、エレキの音もフォークギターの音も出せるし、調節するとガットに近い雰囲気まで出せてしまう。可能性がありますね。フェンダーは楽器の世界のスタンダードみたいなモデルをたくさん作っているのに、まだ冒険しようっていう気概があるのが素晴らしいですね。

―最新作『Long Voyage』のサウンド面での聴きどころをお聞きします。今作は多くのミュージシャンが参加していますね。

七尾 今までに比べると、ガットギターが一番いい音で録れたなと思います。エレキに関して、前作では僕が自宅でTelecasterをデラリバで鳴らしてマイク録りしてたんですけど、今回は小川翔くんや細井徳太郎くんという素晴らしいギタリストに弾いてもらいました。才能のある後輩に頼んで、自分の代わりにフェンダーを弾かせる、という作戦ですね(笑)。フェンダーの音がやっぱり好きなんですよ。
『Long Voyage』は40代になって最初のアルバムなんですけど、年月を経て、今はプレイヤー仲間がたくさんいるので。自分としても悔いが残らないように、集大成と思えるようなものを作りたいと思っていました。みんな大好きな人たちなので、聴き返していると、音が鳴るたびにそれぞれの顔が浮かんでくるのが嬉しいですね。

―最後に、これから楽器を始める方へメッセージを。

七尾 ギターって、手に入れやすくて敷居が低いんですよね。どこか適当に押さえてかき鳴らせばいいから、ルールがあまりない。左手は指一本のみで押さえて少しずつズラしながら右手でジャンとかき鳴らすだけでも和音は変化していく。その上でちょっと鼻歌を歌ってみる。これだけで楽しくなれちゃうので、特別な才能とか根性は、最初は要らないんです。プロになるためにはいろいろ必要なのかもしれないけど、ファーストステップは簡単に踏めるので。持たざる者にとっての究極の武器という側面があると思います。
今、音楽ビジネスは過渡期でソフトが売れなくなっているけど、音楽自体はかつてなく盛り上がっていると思います。タダ同然で音楽が聴き放題で…ミュージシャンとしてはつらい部分があるけど(笑)。YouTubeを見るとアマチュア、セミプロ、プロといろんな人がレクチャー動画をアップしてて、楽器を始めるには最適な時代になっていますよね。そんな時に、安定した高いクオリティで、誰でも手が届くような価格帯の楽器を出してくれているフェンダーみたいなメーカーは心強いパートナーになると思います。

―環境的にも楽器を始めやすくなっていますよね。

七尾 実際に始める人は増えていると思いますね。楽器って一回買っちゃえばお金がかからないし、どこまでも深めていけるじゃないですか。一生続けられる趣味で、無限に何かを生み出せる。そのうえ今は最高の音楽にすぐにアクセスできるし、ネット上で素晴らしい講師のアドバイスも受けられる。若い世代の才能がどんどん萌芽していくという意味では、今ほどすさまじい時代はないですよね。楽器や周辺ツールも洗練されて、非常に高いクオリティのアイテムが安価で手に入る。だから、音楽を始めるには最良の時だと思う。プロになろうとかそういうのじゃなくても、確実に生活が素敵に、楽しくなると思います。ギター一本抱えていればどんな曲だって作れるし、どんな夢だって叶う気がしてきますよね。魔法使いの杖みたいなもの。だから、まずは一本買ってみるといいと思います。


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フェンダーの革新的なAcoustasonicプラットフォームは、Acoustasonic Player Telecasterによって進化を続けます。このアコースティック/エレクトリックギターは、6つのユニークなヴォイシングにより、その個性を確固たるものにします。洗練された3ウェイスイッチングが、アコースティックトーンとエレクトリックトーンを隔てなく、自在に行き来することを可能にします。


七尾旅人
シンガーソングライター。98年のデビュー以来、ファンタジックなメロディで世界の現実を描き続けて「うた」のオルタナティブを切り拓き、音楽シーンの景色を少しずつ変えてきた。パンデミックのなか放置された感染者や困窮者に食料を配送する「フードレスキュー」を継続しつつ完成させた2枚組ニューアルバム『Long Voyage』を9月14日にリリース。愛犬家だが、犬に振り回されっぱなし。日々の情報はTwitterやnoteで発信中。
https://tavito.net

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