
ON ‘N’ OFF featuring Mateus Asato
僕はただ、つながることが好きなんです
新世代を代表するギタリスト、マテウス・アサトが来日を果たした。今回は、〈Fender Flagship Tokyo Special Event with Mateus Asato〉や、自身初となるフルアルバム『ASATO』のリリースパーティといった予定が詰まっている中、アーティストの“オン”と“オフ”を表現する「ON ‘N’ OFF」シリーズにて、フェンダー初のアパレルブランド「F IS FOR FENDER」が提案するスタイルでのフォトシューティングを行ったあと、インタビューを敢行。ファッションを愛するマテウスの服装における“オン”と“オフ”をはじめ、『ASATO』の制作秘話もたっぷり聞かせてもらった。
ギターは、言葉が届かないところまで届いてくれるもの
──マテウスは日本にはどれくらい来ているんですか?
マテウス・アサト(以下:マテウス) けっこう頻繁に来てます。もう10回くらい。初めて来たのは2017年くらいでした。
──それはすごい! そんなに何度も日本に戻ってきたくなる理由は?
マテウス 2年前に結婚して、ハネムーンで日本に来たんですけど、妻にとってはその時が初めての日本だったんです。そこで彼女はすっかりこの国に恋をしてしまって、それ以降だけでも5回は来ています。あと、僕は今、自分のアルバム(『ASATO』)をリリースしていろいろ活動しているんだけど、ターゲットの一つは日本なんです。僕は、日本には本当にいいギターのマーケットがあるし、今でもギターを買って支えてくれる人がたくさんいる国だと思ってるから、活動を日本に向けるのは自分にとってすごく自然なことなんです。そういうこともあって、しょっちゅう日本に来てるんですよ。
──では、マテウスにとって“オン”と“オフ”はどういうものですか?
マテウス 僕の妻はデジタルインフルエンサーであり、モデルでもあるんですけど、ファッションも大好きなんです。彼女と付き合い始めてから、ファッションに対する見方や服の選び方が大きく変わって、選択肢がすごく広がりました。でも、“これがオンでこれがオフ”みたいに、服について深く考えることはあまりないですね。僕はただ、つながることが好きなんです。
──というと?
マテウス 僕は、服も人とつながるための手段だと思っていて。僕にとって大事なのは、いい服と出会うこと、そして快適でいられること、つながりを感じることなんです。
──奥さんと出会う前は、どんな服を着ていたんですか?
マテウス 以前の僕は、だいたいスキニージーンズに黒いTシャツ。でも、妻と出会ってから少しずつ変わっていきました。あと、昔からずっとブーツを履いていたんだけど、彼女が“こういうタイプだけじゃなくて、別のも試してみたら?”と言ってくれて、バリエーションが増えたんです。
──今の自分のスタイルは気に入ってますか?
マテウス 実は、最初はいつも“いや、これ似合わないんじゃないかな”って思うんです。でも彼女は、“大丈夫、私を信じて。絶対いい感じになるから”って言う。それで実際に着てみると、少し時間が経ってから“ああ、なるほどね。確かにいいな”って思うようになるんだ。


アウターシャツ ¥49,500、Tシャツ ¥9,900、パンツ ¥49,500/F IS FOR FENDER(エフ イズ フォー フェンダー)
──服装における“オン”と“オフ”の切り替えはどうしていますか?
マテウス 僕はその中間のちょうどいいところを探すようにしています。もちろん、見た目がよくあることは大事です。特に日本ではなおさら。みんな本当にすごく素敵な服を着ているし、みんな本当にカッコいい。あなたもすごく素敵です(笑)。でも、僕にとって音楽で一番大切なのは、ちゃんといい演奏ができることなんです。演奏する時に大きなジャケットなんかを着ると、弦に当たってしまって邪魔になることがあるから。だからいつも、ちょうどいいバランスを探しています。逆に、曲を書いている時は快適さを重視するので、どちらかというとオフ寄りですね。でも、僕はどちらかというとオフのモードに入りやすいから、妻がいつもスイッチ役になってくれます。例えば、今夜のパフォーマンスに対しても、“いやいや、それじゃだめ、もっといいものを着なきゃ。もっとオンにならないと”って言ってくれたり。
──今回は2パターンの衣装を着ていましたね。最初に着たオフのほうはどうでしたか?
マテウス あれはすごく気に入りました。あのタイプのジャケットって、昔の僕ならあまり好みじゃなかったんだけど、妻が“その形、あなたの体にすごく合うよ”って言ってくれて。だから、あのジャケットを見た瞬間に“これはいいな、絶対いい感じになる”って思いました。すごく気に入りましたね。ああいうジャケットって肩の見え方にも変化が出るし、シルエットも少し変わる。きれいで、すごく良かった。
──もう一つのオンのほうはどうでした?
マテウス ロックンロールって感じがした。ああいう感じの服は僕のクローゼットの中にも比較的多いから、より自分のホームに近い感覚があるね。今改めて思うのは、音楽って本当にいろんなものとつながれるんですよね。服ともつながれるし、写真ともつながれる。音楽と結びつくものって本当にたくさんある。だからフェンダーのような会社がこういうことをやるのは素晴らしいことだと思います。ミュージシャンにとって、演奏しやすい服ってすごく大事なんですよ。普通、そういう服って演奏の邪魔になることもあるじゃないですか。今回着たのは長袖だったけど、充分に快適で、演奏するのに何も問題がなかった。すごく良かったですね。
──これらはすべて日本製だそうですよ。
マテウス 本当に素晴らしい。日本の人たちって、物のクオリティに対してすごくこだわりがありますよね。それも僕が何度も日本に来る理由の一つなんです。皆さんは服のクオリティについて本当にはっきりした基準を持っている。そこが大好きです。
──好きな服のブランドはありますか?
マテウス あります。まず、Yohji Yamamotoがすごく好き。今日着ているのもそうです。あとは Saint Laurent も好きですね。それからアメリカの John Varvatos も好きです。
──それも奥さんからの影響?
マテウス 妻に“歳を重ねたら、あなたはヨウジ・ヤマモトみたいな雰囲気になると思う。彼の服を見てみたら?”って言われて、見てみたらすっかり惚れ込みました。僕は暗い色の服が好きなんですよね。
──では、ギターの話に移りましょう。マテウスは9歳の時に、いとこがクラシックギターを弾いているのを見たのがきっかけでギターを弾き始めたんですよね。その時の話をもう少し聞かせてもらえますか?
マテウス 学校が休みになるたびに、いつもいとこの家に遊びに行ってたんです。当時は、彼のやること全部を真似したくて、そんな時に彼がギターを弾く姿を見て、その弾き方に惚れ込んで、いくつかバンドも教えてもらって。そこから先はもう、みなさんの想像どおりです。
──当時は、ギターのどんなところに惹かれていたんですか?
マテウス 子どもの頃は、歪んだギターサウンドのエネルギーにただただ圧倒されてました。でも、実際に楽器を学び始めると、ギターという楽器とすごく深い結びつきを感じるようになって。僕は内向的な人間なので、自分を助けてくれる芸術の手段があるのは本当に素晴らしいことなんです。その感覚は年を重ねるごとにどんどん大きくなっています。僕にとってギターは、言葉が届かないところまで届いてくれるもので、もちろん言葉でも自分を表現できるけど、時にはギターの助けが必要で。だから、ギターの一番素晴らしいところはそこだと思っています。僕にとって、ギターは自分をもっとも高いレベルで表現できるものなんです。
──本格的にギターを学び始めた頃、どんな練習を?
マテウス 僕が始めた頃は、今みたいにソーシャルメディアもYouTubeも、教材動画もある時代じゃありませんでした。だから、楽器店に行って教則ビデオを買ったのを覚えています。それを家で見ながら少しずつ練習していました。
──その頃から、自分には才能があるとわかっていました?
マテウス いや、そんなことはなかったですね。でも、10歳か11歳くらいの頃に教会で演奏するようになってから、礼拝が終わるたびにいろんな人が声をかけてくれて。“すごかったよ”“素晴らしかった”って。そういうポジティヴな言葉を受け取ることが僕にとって本当に大きくて、それがバッテリーを充電してくれるみたいに、また練習しよう、もっと上手くなろうと思わせてくれたんです。そのうち、ただ“頑張ってね”と言われるだけじゃなくなって、“君は特別だと思う”“何か違うものを持っている”と言われるようになって、そこから自分に対する見方が少し変わりましたね。“ああ、自分はギターに関して何かあるのかもしれない”って。
──誰かにそこまで褒めてもらえることは大きいですよね。
マテウス 本当に大きいです。でも、その言葉のかけ方もすごく良かったんです。本来、“褒める”というのは教会という場には少しそぐわないんですよ。教会は個人を称えるんじゃなくて、神を賛美する場所だから。なので、彼らは僕を持ち上げるような感じではなくて、“君がやっていることは素晴らしいよ。そのまま続けなさい”みたいに言ってくれて、そのサポートとポジティヴさの加減がちょうどよかった。だから僕も、“自分は最高だ、スターだ”みたいにはならなくて、“いま自分が歩いている道は正しいんだ”と冷静に思えた。それがすごく健全で良かったんだと思います。



アウター ¥55,000、パンツ ¥37,400/F IS FOR FENDER(エフ イズ フォー フェンダー)
なぜ音楽に恋をするのか。それは、人とつながれるから
──では、マテウスの初アルバム『ASATO』について聞かせてください。アルバムとしての全体像は最初から浮かんでいたんですか?
マテウス それは制作の過程で少しずつ育っていきました。でも一つ確信していたのは、日本との関係がどんどん深まっていったことで。それは国としてだけじゃなくて、人との関係も。僕は妻の影響で写真にも惹かれるようになったんですけど、写真という点でも日本は本当に特別な場所だと気づきました。写真を通じて出会ったのが濱田さん(濱田英明)で、彼は本当に素晴らしいフォトグラファーでありビデオグラファーでもあって、僕たちは友達になったんです。彼も音楽が好きで、ギターも弾くので、そこでもつながれたんです。だからアルバムの曲を書いていた時に、“まだアルバムのビジュアルははっきり見えていない。でも、濱田さんがいれば正しい形にしてくれるはずだ”って思っていました。実際、制作の途中で彼と話す機会があって、“いま自分の心の中にはこういうものがある。でも、それをどうやって形にするかはまだわからない。だけど、きっとあなたならうまく翻訳してくれると思う”と伝えたんです。そしたら本当に素晴らしい仕事をしてくれました。
──それが今回のアートワークなんですね。
マテウス 正確には、アートワークだけじゃなくて、すべてですね。僕の音楽はインストゥルメンタルだから歌詞がありません。だからこそ、作り手と聴き手を少しでも近づけるために、追加のメッセージが必要だと思ったんです。そういう意味でビジュアルはすごく大事でした。だから、濱田さんと僕はしっかり意思疎通をして、どんな質感で、どんなメッセージを出すべきかを話し合ったんです。
──あなたのギタープレイは本当に素晴らしいですが、自己満足で弾いているのではなく、しっかり曲に寄り添っている印象です。それが楽曲の世界観に合っているし、聴いていてとても心地良いんです。
マテウス ありがとうございます。そうですね、それは成熟とも関係していると思います。今32歳の僕が10年前に同じことを考えていたかというと、違ったと思う。でも、ブルーノ・マーズのようなアーティストと一緒にやってきたことで、曲に奉仕することの大切さを学んだし、それを今、自分の音楽に活かせていると思う。もちろん、輝く瞬間も必要だけど、それと同時に、その曲が本来持っているものをちゃんと生かすことも大切。そのバランスを見つけるのが一番難しいところでもあるし、面白いところでもある。だからこそ時間がかかるんです。
──では、曲について聞かせてください。日本人としてまず目を引くのは「Otsukare!」です。なぜ、“おつかれ”なんですか?
マテウス このタイトルは、以前日本に来た時に、友人のTakuに“What’s up?みたいなカジュアルな挨拶を日本語で言うとしたらどんな感じ?”って聞いたんです。そうしたら彼が、“おつかれ!って言うこともあるよ”と教えてくれて。それで、“なるほど、それは会話の始まりに近いな”と思ったんです。最初に誰かへ声をかける感じ。だからこの曲をアルバムの最初に置いたんです。僕からの“こんにちは、ようこそ”という意味。アルバムの始まりだから、ちょうどいいと思ったんです。
──「Kawaii」はどうでしょう。
マテウス 初めて日本に来た時、何もかもが新鮮だったけど、言葉が全然わからなかった。そんな中で強く印象に残った言葉の一つが“かわいい”だったんです。“ありがとうございます”みたいな言葉ももちろん覚えたけれど、“かわいい”は僕にとって特別でした。その言葉を、子どもとか赤ちゃんのイメージと結びつけていたんです。子どもや赤ちゃんってかわいいじゃないですか。だから、この曲を書いた時に、メロディを聴きながら“これはかわいいメロディだな”と思ったんです。だから、曲名を「Kawaii」にしました。
──この作品にとって、日本は本当に重要な存在だったんですね。
マテウス 間違いなくそうです。だからアルバムの名前も『ASATO』 にしたんです。僕はブラジル系日系人で、祖父母は沖縄生まれなんですけど、このアルバム全体のテーマは、自分のアイデンティティとギタリストとしての自分なんです。名字というのは、自分のアイデンティティを一番強く表すものでもある。だから、自分の日本のルーツである“Assato”をアルバムタイトルにしました。それが曲ともすごくつながっているんです。そもそも僕がインストゥルメンタル音楽を作り始めたきっかけも日本だったんです。
──え、そうなんですか⁉︎
マテウス さっきも話したように、僕は2017年に初めて日本へ来たんですけど、それはギタークリニックのようなワークショップをやるためだったんです。で、そのためには演奏用の曲が必要だったからインストの曲を書き始めて、その時に書いた曲に「Japan 1」「Japan 2」「Japan 3」みたいな仮タイトルをつけていて、今作に入ってる「Kyoto’s Jam」は「Japan 1」だったんです。そんなふうに、いろんなところで日本とのつながりがあるんですよ。
──アルバムがリリースされた今、次は何をやっていきたいですか?
マテウス このアルバムのプロモーションはこれからも続けていきたい。できれば、これに何曲か追加したデラックス版も作りたいですね。あと、このアルバムを広めるもう一つの方法は、やっぱりライヴをすること。もうすぐツアー日程を発表する予定なので、早くアルバムの曲をライヴで演奏したいですね。もちろん、日本もツアーのリストに入るはずです。あとは、ただひたすら仕事を続けて、もっともっと音楽を出していきたい。
──ということは、しばらくはソロ活動を続けていく感じですか?
マテウス 今のところはそうですね。これが今の自分に必要な章なんだと思っています。でも、もちろんオープンではあります。未来に何が起きるかなんてわからないですから。ただ、とにかく音楽を出し続けたいです。
──NHKの大河ドラマ『豊臣兄弟!』に楽曲提供をしていますよね。
マテウス あれは本当に素晴らしい経験でした。アルバムが完成する少し前、日本で自分の名前をもっと広める機会を探していたんです。そこで、ありがたいことにとてもいい機会をいただけて、ドラマ側からインストゥルメンタルのギターピースを求められたんです。曲自体はすでにあったから、“このメロディはきっとぴったり合うはずだ”と思って提案し、実際にやってみたらすごく良かった。本当にいい経験でした。
──最後の質問です。マテウスにとってSNSは、自分の音楽を世界中の人に届ける上でとても大きな役割を果たしましたよね。SNSを通じて音楽を世界に届けたいと思っている若いギタリストたちに向けて、何かアドバイスはありますか?
マテウス できるだけ人間らしくあること。世の中の流れ的にあらゆるものがテクノロジー化して、デジタル化していくのは自然なことです。でも、その中で僕たちはときどき忘れてしまう。そもそもなぜ音楽に恋をするのか。それは、人とつながれるからなんです。コミュニティというのは本当に大事なんです。若い世代の人たちはきっと、SNSの使い方を僕よりも10倍うまくマスターしていくと思うけど、彼らには、人と一緒に演奏すること、誰かと一緒に音楽を作ることを忘れないでほしいです。魔法が起きるのはそこなんです。他の人と一緒に演奏する時にしか生まれない何かがある。一人では決して得られないものがあるんです。だから、それを大事にしてほしいですね。
──カメラの前で一人でギターを弾くだけじゃなく。
マテウス まさに。ドラマーを見つけて、シンガーを見つけて、誰でもいいから、とにかく一緒にやること。それがいちばん大事だと思います。
Mateus Asato
ブラジル出身のギタリスト。9歳でギターを始め、技術的な卓越性と深い感情表現を融合させたスタイルを身に付けたロサンゼルスのミュージシャンズ・インスティテュートに進学し、主席で卒業。現代を代表する「最も影響力のあるギタリストの一人」としてメディアから高く評価されている。Guitar World Magazineによる「Top 10 Guitarists of the Decade(2020)」に選出され、Total Guitar(2020)では「Top Guitarist Right Now」第3位にランクイン。さらに2022年にはGuitar World Magazineに再び登場し、「Hottest Guitar Players In The World」ランキングで第14位に選ばれた。
また、ジャンルを超えて現代の音楽シーンを代表する数多くのアーティストと共演、コラボレーションを果たす。Bruno Mars、Silk Sonic、Jessie J、Tori Kelly、Selena Gomez、Carrie Underwood、Elevation Worship、Planetshakers、Israel Houghton、Oficina G3、Joe Satriani(G4)、Extreme、Sandy、Resgate、DJ Snake、The Band Camino、LANY、Polyphia、Kiko Loureiro、The Technicolors、Fresno、Jesus Molina、Anomalie、Kinga Glyk、Tiago Iorc、Luan Santana など、その共演歴は多岐にわたる。 長年“サイドマン”として世界のトップアーティストを支えてきたアサトは、いま自身の音楽的ビジョンを全面的に解き放ち始めている。ギタリストでありながら、メロディと感情で「歌う」ように奏でる稀有な存在として、彼のサウンドは国と言語を超えてリスナーの心をつかみ続け、2026年2月27日、満を持してデビューアルバム『ASATO』をリリースする。
https://mateusasato.com/en-us/
https://www.youtube.com/@MateusAsato
https://www.instagram.com/mateusasato/
Photo_Hirohisa Nakano
Styling_Yoshiyuki Shimazu
Text_Daishi Ato
Interpretation_Kyoko Maruyama

