The Rock Freaks Vol.9 | 雫(ポルカドットスティングレイ)

ROCK FREAKS VOL.9

アーティストとフェンダーによるケミストリーを写真で切り取るエキシビジョンシリーズ「THE ROCK FREAKS」。第9回目は、7月17日に開催される初の日本武道館公演を即完させた、今もっとも勢いがあるバンドのひとつ、ポルカドットスティングレイから雫(Vo & Gt)が登場。


PCで音楽が作れる時代だけど
ギターを弾き始めるのって憧れからだと思う

結成から4年、メジャーデビューからわずか2年。今年7月に早くも日本武道館でのワンマンライヴを控えている4ピースバンドのポルカドットスティングレイ。通称、ポルカ。そんなポルカの作詞・作曲、さらにCDジャケットなどのビジュアル面も担当するのがヴォーカル&ギターの雫だ。そんな彼女、音楽やギターへの向き合い方がとにかくユニーク。

「ちゃんとギターを始めたのは、大学を卒業してゲーム会社に就職してポルカを結成してから。4歳の時にゲームに触れて以来、ゲームが好きでずっとゲームを作りたいと思っていました。大学卒業時、早くゲームを作らせてもらえそうなゲーム制作会社に入って、20代前半からゲーム作りをやらせてもらっていたんです。その歳でゲームディレクターをやっている人はかなり珍しく、取材をたくさん受けるようになりました。自分が作ったものを自らPRして、それが自分のゲームクリエイティヴにプラスになれば、こんなにいいことはないなって。音楽との関係も同じなんです」

そう開口一番に教えてくれた。雫はミュージシャンとしても、ライヴやマスコミに出る“表の自分”を“裏方の自分”がプロデュースしているという。

「例えば撮影をして自分の写真をチェックする時、ここをレタッチしたら見れる顔になるなぁって、裏方の自分が表の自分を客観的に見ているんです。なので、表の自分はあくまでも素材です。そして、音楽もギターも素材なんだと思っています」

そして、包み隠さずにこう続けた。

「作詞も作曲もしていますが、自分の中から“これを伝えたい”って湧き出てくるものは何もないです。ハッキリ言って、私には音楽の才能はありません。その代わり、ビジネスの才能はあると思っています。最大限に勉強したマーケティングで楽曲を作り、PRで売り切っているんです」

作詞も作曲もマーケティングを駆使して行い、それを有効な方法で大勢の人に届ける。だからわずかデビュー2年で日本武道館のステージに立てるのだ。マーケティングを使って、具体的にはどのような方法で作詞・作曲を行っているのだろうか。

「お金を出して買ってもらうものなので、買う人にどんなものが欲しいのか聞くのが一番なんです。私の場合はSNSです。私のTwitterには15万人のフォロワーがいて、そこに投げかけるんです。例えば学生向けの失恋ソングを書こうとしたら、学生のみなさんの失恋の思い出、その時のシチュエーション、その時に聴いていた歌を募集するんです。そうするとたくさんの答えが書き込まれます。で、集まったものを数字化して、一番多かったものをサビの歌詞に、次に多かったものをAメロのフックにと、そんな風に作詞していくんです。メロディも同じです。ヒット曲やYouTubeで再生回数が多いものをデータ化しておきます」

自分から湧き出るものではないので、ネタが尽きることはないという。当然、作詞・作曲でのスランプも少ない。

ROCK FREAKS VOL.9

Photo by Maciej Kucia (AVGVST)

マーケティングによる作詞・作曲は理解できたが、ギターを弾く理由は何なのだろうか?これも雫らしい答えが返ってきた。

「大学時代、軽音楽サークルに入って、コピバンのヴォーカルをやっていたんですけど、歌っている自分の姿を動画で見たらとにかくダサくて。何か持たないと格好がつかないなぁと思って、ギターくらいしか思いつかなくてギターを持ちました(笑)。あと、ポルカって楽器隊が男性で私だけが女性なんだけど、そういう編成の場合、女性はたいがいピンヴォーカルなんです。私がピンボだと、他のバンドと差別化するのにひとつハードルが上がるでしょ? あと、ギターを持っていないと、パッと見で作詞・作曲をしているように見えないんです。その誤解をいちいち解くのは面倒なので。そんな感じでろくにコードの名前も知らないので、いつもギターのエジマハルシに教わっています。でも私、ギターを弾いている姿には自信があるんです。ギターの練習はしなかったんですけど、ギターが上手い人の動画を研究したので(笑)」

雫のこうした新しいマインドが、音楽の新しい可能性を開こうとしていることは、日本武道館ライヴや次々にタイアップを行い楽曲のセールスが好調なことが示している。

「音楽業界って不景気というけど、確かにCDを売るだけだと厳しいと思います。でも、クロスメディアで考えたら音楽業界の可能性は無限大です。だって、どんなものにも音楽は不随していますから。私も未開拓なジャンルに切り込むために、今は映像の研究をしています。それと、私の場合、音楽をやめてもまたゲームクリエイターとして生きていける。その心の余裕が、いい感じでクリエイティヴに働いているようにも思えますね」

データやマーケティングを重視する雫が、バンド、そしてギターを続けていることが、バンドもギターもまだまだ勢いがあることを証明してくれているようで嬉しい。そんなことを雫に告げると、こんな風に返してくれた。

「PCで音楽が作れる時代ですけど、ギターを弾き始めるのって憧れからだと思うんです。憧れに近づくものは、効率じゃなくて本能です。その本能をくすぐることができれば、若い人ももっとギターを弾くと思います。私は裏方として若い人たちにどうやったらギターの魅力を伝えられるかを考え、さらに表の人として若い人に届けるためのコンテンツのパフォーマンスもやります。それくらい自由にいろんなことをやりたいし、そうしたチャンスに溢れていますね、今の時代は」と雫は自信に満ちた表情で語ってくれた。


ポルカドットスティングレイ
福岡出身、4人組ギターロックバンド。2015年活動開始。メンバーの交代を経て、2015年8月に現体制になる。メンバーは雫(Vo & Gt)、エジマハルシ(Gt)、ウエムラユウキ(Ba)、ミツヤスカズマ(Dr)。2016年11月、初の全国流通盤「骨抜きE.P.」をタワーレコードにて限定発売。2017年11月、1stフルアルバム「全知全能」でメジャーデビュー。2019年7月17日、初の日本武道館ワンマン公演を開催。
› Website: https://polkadotstingray-official.jimdo.com

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