
Signature Model Interview | Char -前編-
コツはないけど、ムスタングの弾き方みたいなのは身に付いちゃってる
2025年7月4日、Charは古希(70歳)を記念して日本武道館で、“Char Nippon Budokan Live 2025 – Purple Phase Jam”を開催した。その日に、70歳にちなんで70本のみの限定発売となったのが、“Char Mustang Pink Paisley”。Charは、フェンダーカスタムショップ製Char Signature Mustang “FreeSpirits”のペイズリー柄にカスタマイズされた個体を愛用していたが、今回発売となるのは日本製シグネイチャーモデル“Char Mustang”のペイズリー版だ。前編では、Charのムスタングとの出会いや、Charにとってムスタングがどういう存在かなどについて語ってもらった。
ムスタングの音を生で初めて聴いたのは、ビアガーデンのハワイアン
──まずはムスタング全般についてお話を伺いたいと思います。ムスタングはCharさんの象徴だと誰もが思っていますが、ご本人にとってはどういう存在ですか?
Char 俺にとっては当たり前のもんだからね。ストラトをせっかく買ったのにかっぱらわれて、落ち込んでるところに入ってきた子だから(1975年のこと)。もしストラトをかっぱらわれてなかったら、ムスタングを買うことも触ることもなかった可能性が高いね。俺はすでに(スタジオ・ミュージシャンとして)仕事してたから、あえてムスタングを買おうとは思わなかったと思うんだ。
──それまでに弾いたことはあったんですか?
Char ない。だいたい外国製のギターなんか、楽器屋で試奏させてもらえなかったから。先輩とかでも使ってる人はいなかったし。ムスタングベースの人はいたような気がするけども。初めてムスタングを見たのは、子どものころに銀座の山野楽器で。青でストライプ(コンペティションライン)が入ってるやつで、憧れたよね。そんなデザインのギターなんかなかったし、プロで使ってる人も見たことなかったから、「へー、ムスタングっていうんだ?!」みたいな。フォードのギターかと思ったよ(笑)。そういうストライプが入ってるフォードのムスタング(クルマ)は知ってたからさ。しかも、フェンダーのギターがずらっと並んでる中で、唯一20万を切ってたんだよ。子どもにとっては、少しでも手に入れられる可能性が高いと思えたね(笑)。
──でも、音を聴くチャンスはなかなかなかったわけですね。
Char 初めて音を聴いたのは、熱海からフェリーで20~30分のところに初島っていう島があって、高校時代にそこに佐藤準(高校時代以来Charの盟友となったキーボーディスト)と海水浴に行ったの。その島に一つだけ大きいホテルがあってさ、そのホテルのビアガーデンで、ハコバンのギタリストがムスタングを弾いてた(笑)。ハワイアンみたいなのやってたんだけど、一番前まで見に行って、「おー、ムスタングじゃん!」みたいな。だから、ムスタングの音を生で初めて聴いたのは、初島のビアガーデンのハワイアン(笑)。
──そうだったんですか(笑)。
Char 音がすごく太く聞こえたんだよ。ベースより太かったもん。騙されたね(笑)。たぶん音が細いから、やたらと(アンプの)ベースとミドルを上げてたんだよ。
──初めてムスタングを入手したのは、1975年に知り合いを通じてのことですね。
Char そうだね。(佐藤)準にはいつも、もっとチューニングの合うギター使えよって言われてたけど(笑)。よくピアノでEの音を鳴らされてさ、「ハイハイ」みたいな(笑)。でも、人のレコーディングで使ったことはないんだよ。あんだけチューニングが狂うと、さすがにね。
──でも、そのムスタングでCharさんは数々の名演を残してこられて、ムスタングはCharさんを象徴するギターになりました。
Char まあ、結果そういうことになっちゃったけど。だからと言って、俺のあとにムスタング使うやつなんかいないわけでさ(笑)。
──扱いにくいところはありますからね。
Char 野生馬だからね(笑)。
──野生馬であるムスタングを使う時に、アンプのセッティングなど、Charさん流のコツはあるんでしょうか? ムスタングでCharさんみたいな音を出すのって、なかなか難しいと思うのですが…。
Char 俺は弾きながら歌う人だから、ムスタングに限らず、アンプはカッティングとリードの両方がやれる程度の歪ませ方にしちゃうけど。ただ、ストラトで作った音でムスタングに替えちゃうと、一気に音量が下がるってことはあるけどね。でも、改めて自分の1枚目(1976年の『Char』)とかを聴くと、全然歪んでないんだよね。ハードロック的な音は、最初から俺は求めてないみたいで。カッティングがメインで、あとはある程度のサスティンがかかる程度のオーバードライブがあればそれでいいと思っちゃってるんだよね。
──それであれば、ムスタングでもああいう良い音が出せるっていうことですね。
Char 良いかどうか分かんないけど。だから、まあ、コツはないね(笑)。
──やっぱりCharさんだから、ですかね(笑)。
Char でも、ムスタングの弾き方みたいなのは身に付いちゃってる。音の出し方とか、どのへんの弦が鳴りが良くて、どのへんが鳴りが悪いかとか。例えばコード1個にしても、鳴りが良いポジションがある。ストラトはストラトであったりするし。だから、その楽器の良いところを探すのが、俺は上手いのかもしれない。そうやってずっと弾いてるから、良い音に聞こえるんじゃない?
──鳴る場所が違うから、それによって作る曲も変わってくるということですよね。ムスタングでないと「Smoky」はできなかったと思いますし。
Char うん、あれはムスタングだからできた曲だよね。だから、ストラトで「Smoky」やると変な感じがするよね(笑)。

フェンダーのコロナ工場で、「あれはお前のせいだったのか!」って言われた
──数多くのムスタングを使ってきたCharさんにとって、忘れられない1本というとどれでしょうか? やはり、最初の1本になりますか?
Char 神田のすずらん通りにあった古道具屋で買った黒のやつかな(1978年製で、1986年に購入)。あんまり黒って見たことなかったし。ギターを買いに行ったわけじゃなくて、Jesse(Charの息子で、RIZE、The BONEZのボーカリスト/ギタリスト)がミニトランペットを買いたいっていうから行ったんだけど。雨が降ってるのに、軒下みたいなところにぶら下がっててさ。5万円ぐらいで。かわいそうに、と思って買った(笑)。楽器屋ではないにしろ、店で俺が買った唯一のムスタングじゃないかな。あとは人から買ったり、もらったりだから。
──あの黒のムスタングは、Pink Cloud時代にしばらく使われていましたね。
Char うん。あいつは、あんまりチューニング狂わなかったんだよ。俺に引き取られたから良い子にしてたのかもしれない。猫かぶって(笑)。「あんたのためにフェンダーに量産されたものの、手放された」って思ってたかもしれないけど(笑)。
──確かに(笑)。1970年代にアメリカのフェンダーは、「なんで日本ではこんなにムスタングが売れるんだろう?」って思いながら製造してたそうですからね(笑)。
Char そうそう。フェンダーのコロナ工場に行った時に、古くから勤めている従業員のお爺さんに、「あれはお前のせいだったのか!」って言われたよ(笑)。
──ファンからすると“気絶ムス”も印象深いですね。「気絶するほど悩ましい」(1977年)のころに使っていた、ブルーでコンペティションラインが入って、フロントがハムバッカーの。
Char “気絶ムス”っていうの? 知らなかった(笑)。色とかストライプとかが、子どものころに最初に山野楽器で見たのと同じだったね。あれは本当に良い音したよ。誰が改造したのか覚えてないんだけど。リードを弾く用に、フロントをハムにしてくれって頼んだんだと思うんだけど。スイッチの位置も変えてもらって。
>> 後編に続く(近日公開)
Char
1955年6月16日東京生まれ。本名・竹中尚人 (たけなか ひさと)。ZICCA REDORDS 主宰。8歳でギターをはじめ、10代からバックギタリストのキャリアを重ねる。1976年『Navy Blue』でデビュー以降、『Smoky』『気絶するほど悩ましい』『闘牛士』等を発表。Johnny, Louis & Char 結成翌年、1979年に日比谷大野外音楽堂にてフリーコンサート「Free Spirit」を行う。1988年 江戸屋設立以降、ソロと並行して、Psychedelix、BAHO での活動を行う。2009年にはWEB通販主体レーベル「ZICCA RECORDS」を設立し、TRADROCK シリーズを発表。2015年5月、還暦アニヴァーサリーアルバム『ROCK 十』を発表。2016年、ギターマガジン誌による、プロギタリストを中心とした音楽関係者へのアンケート投票「ニッポンの偉大なギタリスト100」にて1位に選ばれる。2018年、Fender Custom Shop にて日本人初のプロファイルドモデルを発表、オリジナル楽器ブランドZICCA AX にて、様々なオリジナル楽器アイテムを展開中。2020年、ギターマガジン誌投票「ニッポンの偉大なギター名盤」にて、1stアルバム「Char」が一位に選ばれる。2021年9月、16年ぶりのオリジナルアルバム「Fret to Fret」を発表。12月にはデビュー45周年武道館公演を開催。2022年4月、同公演の映像作品を発売。2023年7月、最新アルバム『SOLILOQUY』を発売。2024年11月25日より自身の69(ROCK)イヤーを記念した全国ツアー”69 SPIRITS” Tour 2024を全国8箇所で開催。2025年2月11日(火・祝)に有明アリーナでCharがホストとなり、ジェフ・ベック・バンドのメンバーに加え、布袋寅泰さんと松本孝弘さんも参加される一夜限りのコンサート、「A Tribute to Jeff Beck by Char with HOTEI and Tak Matsumoto featuring The Jeff Beck Band -Rhonda Smith, Anika Nilles, Jimmy Hall & Gary Husband-」を開催。2025年7月4日には、Charの古希 (70 歳) を記念して日本武道館ライブ「Char Nippon Budokan Live 2025 – Purple Phase Jam」を開催。
https://www.zicca.net/