Cover Artist | Tele -前編-

テレキャスの音を聴くと夏だなって思うんですよね

毎月注目アーティストを紹介する「Cover Artist」。今回は、コロナ禍の2022年に突如音楽シーンに現れた新進気鋭のアーティスト、Teleが登場。作詞・作曲・編曲までをすべて一人でこなし、2024年には驚異的なスピードで日本武道館公演を完遂、2025年には横浜アリーナでの単独公演を成功させるなど、注目アーティストの筆頭格として熱視線が注がれている。インタビュー前編では、幼少期の原体験からフェンダーとの出会い、さらにMade in Japan Traditional 2025 Collection, 60s Telecasterのインプレッションについて語ってもらった。

音楽とかギターに触れる時間が一つの救いでした

──まずはアーティスト名の由来から教えてください。

Tele 実際にフェンダーのテレビジョン放送が始まった時代にTelecasterという名前をギターにつけた話が好きだったんです。その頃に、高校2年生で地元のライヴハウスの大会に出るために急遽バンドを組んで、意味のない名前にしようと思ってTeleとつけました。名前って額縁のようなもので、その中に入っているものが大事なので、額縁そのものはなるだけシンプルに、いい意味でどこにでもあるようなものであるべきだと。それこそTelecasterのギターとしての思想は、自分にとって納得のいく考え方だったんです。

──すでにその時にフェンダーのギターを弾いていた?

Tele 弾いていなかったですね。フェンダーのギターは高かったから(笑)。ただ、フェンダーのマインドはずっと好きで、楽器自体が値上がりしている中で初心者用のモデルを出し続けたり、あの時代に楽器を大量生産するという良い意味でのプライドのなさとか。まずは広めることが大事で、そのために敷居を低くするマインドが高校生の時からずっと好きだったんです。

──まさかこういう形でフェンダーと一緒になる運命が回ってくるとは。

Tele そうですね。だから今回“TeleがTelecasterを持つのはちょっと恥ずかしいかも”とか“媚びていると思われたらどうしよう”とか思ったんですけど、TeleがStratocasterを持つのもそれはそれで恥ずかしいなと(笑)。

──(笑)。そもそも音楽に目覚めたきっかけは?

Tele よく音楽が流れている家庭ではあったと思うんですよね。あまりテレビを見ない家庭で、ラジオがけっこうかかっている感じ。母親はR&BとかJ-POPとか幅広く聴いていましたし、父親もジャズが好きだったのもあってよく音楽が流れていました。ピアノを弾いている友達がいて、自分も弾きたくてピアノを始めたけど全然続かなかった。初めてギターを買ったのは14歳の頃で1万円のギターです。きっかけは…本当にやることがなかったんですよね。あと僕、小学生の頃はちょっといじめられていても気づかないぐらいのほほんとした人間だったんですよ。だけど中学生になって勉強ができるようになると、急に社会の一つのパーツにならなきゃいけない感覚が息苦しくて、どうにか逸脱したくてギターを買って始めました。周囲に音楽をやっている人は一人もいなかったので、ずっと一人でギターを弾いていて、内にこもることが唯一できた反抗だったのかもしれないですね。

──社会のシステムにビルトインされないための防御策として?

Tele そうですね。自分の心が潰されない場所を作らなきゃいけないという危機感がすごくあってギターを始めました。

──ギターを始めてどういう音楽をやっていたのですか? 曲を奏でるとかじゃなくてただ没入するだけ?

Tele アンプを買って、ギターのピックアップに音楽を流したスマホを乗せて、アンプを通して音楽を流したりしてました(笑)。バンドを組めるとは思っていなかったけど、親の友達のお父さんバンドに参加してTHE BLUE HEARTSを弾いたりしてて。初めて弾けるようになった曲は「情熱の薔薇」です。ギターが上手くなりたいというよりも、頭の中でモヤモヤしているものを変換するプラットフォームができた感覚でした。もともと飽き性で地道な練習が苦手だったけど、音楽とかギターに触れる時間が一つの救いでしたね。

──憧れのバンドや歌手を追いかけるのではなく、あくまでも感情の表出としてギターを鳴らしていたと。

Tele もちろん好きなバンドはありました。例えばインストだったらSAKEROCK。フィッシュマンズも好きだったし、ポップスで言ったらSEKAI NO OWARIやサカナクションも聴いていたし、母親の影響でオザケン(小沢健二)とかノラ・ジョーンズも好きで聴いていました。だけど、何となく自分の好きな人たちと同じことをやっても、この世の中における価値みたいなものは別にないんじゃないかという感覚が14歳の頃にあって。だけど世の中をどう捉えるか、という部分に影響を受けてきたところはあるかもしれないです。世界の見方に影響を受けることが自分にとっては大事で、じゃあ具体的にどういう音楽をやるのかは重要ではなかったのかもしれない。

──ギターはある種のエスケープの手段で、音楽も世界の見方を獲得するためのものだったと。そうしたギターや音楽が“人に届けるもの”に変わったタイミングやきっかけがあれば知りたいです。

Tele 2020年の頭ぐらいに、バンドから一人になったタイミングが明確にそうで。17歳から3年間ぐらいTeleという3ピースバンドだったんですよ。時系列で話すと、僕は地元が千葉なんですけど、すごくドメスティックな環境の中で音楽をやっていて。高校生の時、コロナが始まるまでティーンエイジャーのバンドに対する注目が上がり始めた時期だったんですけど、学生でも音楽を投稿できるサービスが出てきて、自分で自分たちのことを売り出して、高校や大学在学中にバンドとしてやってます!みたいなのがすげえ気に食わなくて。その人たちは10代から何かのために曲を書いている感じがしたんだけど、僕は“僕のためにやってやるんだ”っていう想いが根源にあったので。そもそもエスケープ=逃げるために音楽を始めたし、作ること自体が自分に対するカウンセリングだったからかなり自己中心的なアプローチで曲を作っていたし。もっとこうだ、もっとこうだって過密状態になってメンバーが辞めちゃって、一人になってコロナも始まって、手元には何も残らなくて。大学にも行っていなかったし、メンバーをもう一回探してバンドをやろうと思ったけど、それもうまくはまらなくて。

──ええ。

Tele 根本的に僕は人に対して興味を持つとか、人に対して共感をするとか、そういうところが足りていないんじゃないかと。で、一人で音楽をやるってなった時に、バンドで音楽を出して何かを積み上げていく状態と、自分一人で作って世の中に音楽を出すのとでは、一回目に置かれるテーブルが変わるんだろうなっていう感覚があったんです。バンドとなると、お客さんがバンドというコンテンツに対してドラマ性を求める割合も大きいですよね。音楽も好きだけど、同時にメンバーたちが駆け上がっていくドラマが好きでもある。でも一人になると、そのドラマ性の割合が少なくなると思ったんです。ということは、ドラマ性だけだったバンドの時の自分の内面から、もう少しだけ世界のことを見たものにしなきゃいけないんだと思って。もっと広い視野がないと、もともと大事にしていた自分を内省する部分ですら存在できなくなっちゃう気がして。少なくとも僕が音楽を続けていく上では、何かを届けるっていうことを考えなきゃいけないんだって2020年ぐらいに思って。

──なるほど。

Tele そこからどうにか世界のことをわかろう、わかろうとして。だから始めて1〜2年はかなりネガティブなモチベーションで世界を理解しようとしていました。そうしないと自分は理解されないからやるっていう感覚だったんですよね。それが去年、日本武道館でライヴをした時にポジティブな意味合いで世界を知りたいとようやく思えたんです。人のことを、世界のことを知りたい、知らなきゃって思って。武道館の3階建てのフロアの中で、若い人もいれば僕なんかより全然年上の人もいて、その人たちがすごく楽しそうに歌っているのを聴いて、ようやく悪くないかもと思えて。あとは自分のやりたいことを素直にアウトプットする能力も追いついてきて、ようやくポジティブに世界に対して開けるようになってきたのかなと思います。

──確かにキャパが大きくなると世界を認識せざるを得ない。

Tele そうですね。世界が自分に対して攻撃的だったと思っていた時期において、逃げることが自分の中での一番の誠実な対応だったんです。ただ、これだけ世界に助けられたら、そこでちゃんと鳴っていると自覚することが、世界を自覚することにもつながるというか。自分の体って、世界と繋がっている部分と、心の部分が矛盾なく存在することが必要で。14歳の時は逃げ出すことが一番誠実な選択だったけど、今は逃げ出さない。世界と向き合うことが誠実な状態にいろいろなものがなっていった。それは僕が曲を作ったり、ライヴをすることに対して向き合った部分もあるし、いい人と巡り合って、自分が見たい世界になっていったところもあると思うんです。今は自然とそういう時期になっていった感じですかね。

MIJ Traditional 2025 Collection, 60s Telecasterはコードがキレイに聴こえてくれるので使いやすい

──さて、今日はMade in Japan Traditional 2025 Collection, 60s Telecasterを弾いてもらいましたが、インプレッションを教えてください。

Tele コードの分離感もすごくいいし、やっぱり音がキレイです。テレキャスの音を聴くと夏だなって思うんですよね。何か夏っぽくないですか? 音がこもらないというか。当たり前ですがTelecasterな音がしていいですね。

──今までTelecasterを弾いてきたことは?

Tele 友達から借りパクしていた日本製フェンダーのテレキャスを使っていました。4月にリリースしたアルバムに収録されている「ロックスター」っていう曲のイントロはそのテレキャスで弾いたんじゃないかな。

──そのテレキャスと比べてみてどうですか?

Tele アンプとの兼ね合いはありますけど、真ん中あたりの音がキレイに鳴っているのがとてもいいです。テレキャスは個体によってはハイの部分が強いですけど、それこそ僕みたいにコードを弾いて歌うとなると、このTelecasterはコードがキレイに聴こえてくれるので使いやすいですね。あと、このシェイプはギターを弾きながらPCで作業するのに持ちやすい(笑)。このまっすぐなネックも好きですね。

──ネックはUシェイプです。

Tele ちょうどいい薄さ。僕はどちらかと言うと絞られていないネックが好きで。モダンなギターを持ってこなかったからだと思うんですけど(笑)。もらいものとか中古のギターを買う時期が長くて、ストレートなネックのほうが多かったのでネックからしていいですね。

──どんな曲調で使ってみたいですか?

Tele やっぱりカッティングが多く入る曲で使いたいですよね。僕、ストラトのカッティングも好きなんですけど、やっぱりテレキャスの“こいつ話通じない感”のあるカッティングが好きですね(笑)。バキャバキャっていう。あとはテレキャスってやっぱり音が夏なので、夏の曲で使いたいですね。今夏に向けて曲を作ってるので!

Made in Japan Traditional 2025 Collection, 60s Telecaster

>> 後編に続く(近日公開)


Tele
突如音楽シーンに現れた、令和のトリックスター「Tele」。コロナ禍の中、ミュージックシーンに姿を現し、Spotifyが飛躍が期待される注目の新進気鋭アーティストを選出する「Early Noise 2023」にセレクション。その後、コンスタントに楽曲をリリースし、2024年6月1日の初の日本武道館公演を皮切りに全国9ヶ所を巡るツアー〈箱庭の灯〉を完遂。2025年3月からは横浜アリーナ公演を含む全国9ヶ所12公演のツアー〈残像の愛し方〉を開催。同年4月23日アルバム『残像の愛し方、或いはそれによって産み落ちた自身の歪さを、受け入れる為に僕たちが過ごす寄る辺の無い幾つかの日々について。』をリリースし、12月から幕張メッセでのワンマンライブを含むツアーを行なう。
https://tele.jp.net/

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