
Cover Artist | Tele -後編-
パソコンを買えない人たちがギターを買えばいいんだって思える状態にしたい
毎月注目アーティストを紹介する「Cover Artist」。今回は、コロナ禍の2022年に突如音楽シーンに現れた新進気鋭のアーティストTeleが登場。作詞・作曲・編曲までをすべて一人でこなし、2024年には驚異的なスピードで日本武道館公演を完遂、2025年には横浜アリーナでの単独公演を成功させるなど、注目アーティストの筆頭格として熱視線が注がれている。インタビュー後編では、ギターとの向き合い方、そしてユニークかつ本質的なTeleの音楽観に迫る。
弾き込みすぎてAcoustasonicは代替不可な存在になっています
──Teleさんはフェンダーで言うとAcoustasonicも弾いてますよね。
Tele めちゃくちゃ使っていますね。ネックの色が変わってますもん(笑)。
──そんなに!?
Tele Acoustasonicって塗装の被膜が薄いじゃないですか。だから手汗が染みて完全に茶色くなって。テックの人が、何かあった時のサブとしてAcoustasonicを新しく買ったんですよ。そしたら音が違くて、音が変わるんだ!育つんだ!って。Acoustasonicにそのイメージがなくて、制作でも現場でも常にオールラウンドな存在なのかと思ったら、弾き込みすぎて代替不可な存在になっていますね(笑)。
──ギターを選ぶ時はどういう基準で選ぶんですか?
Tele まずは見た目ですね。あとは鳴った時の音の納得感と、持っていて自分に似合うかどうか。もう一つ具体的な話をすると、好きな5〜6弦の音が鳴るといいなって思うんです。弾き語りで曲を作る時も、パソコンでトラックから作る時もそうなんですけど、ルートというか下の音が決まると全体がハマっていくので。結局、ギターは4〜6弦の音で決めることが多いかもしれないですね。僕、フェンダーのBass Ⅵが欲しいんですよね。あまり使っている人がいないし、あれを弾くだけですぐにオルタナの音になるので(笑)。Bass Ⅵも含めて、フェンダーは未だに若手の顔をしているなって(笑)。
──すごいことですよね。歴史があって、ずっと革新的であり続けるのは。
Tele 歴史があり権威として存在しているブランドでもあり、そのクールさもあるんですけど、フェンダーは未だに若手で新進気鋭(笑)。でもちゃんとリバイバルというかリイシューも作っている。茶目っ気と同時に、その責任感みたいなところが好きですね。
──それこそTeleの名前の付け方と同じですよね。レオ・フェンダーはギターが弾けなかったから、ギターらしさとか伝統よりも、ギターならではの鳴りというか表現ができることが大事だったんだろうなと。
Tele それがエレキギターを持つマインドとして不思議な部分です。本来だったらもっと権威化していくべきだし、どんな楽器だって少数精鋭化していくはずなんです。もちろん最近はデスクトップミュージックでギターよりもパソコンを先に買う人も多いと思いますし、僕も音楽を始めるにあたってまず何を買うかと言ったらパソコンだと思います。でも、出したい音をすぐに出せる存在としてエレキギターはあり続けているし、そのマインドでフェンダーがエレキギターを作り続けているのはすごいパワーだと思う。
今、ようやく自分の中ですべてに折り合いがついて前を向いている
──その一方で、Teleさん自身の音楽は今後どういう方向性に行くのでしょうか。名前の由来の通り、権威化しない存在であり続ける? でも音楽業界ってヒットが生まれたり、大きな会場でやるようになるとそういう世界にビルトインされていく可能性もあるわけで。
Tele 一つの中に取り込まれていった時に、見えるものに対してどうするかだと思う。僕的にはもっとでかい空間が見たくて、でかいところで音が鳴ってほしくて、そのために進んでいくんですけど、同時にものすごく天邪鬼だから。でも冷静な天邪鬼なので、型破りになるためにまずは型を知りたい。いわゆる権威化されたポップスを。今ではポップスもロックもかなり権威化されていて、音楽を作る上での参入障壁が高くなっている。若いアーティストがぼんぼん出てきてて、それは音楽人口が増えたからって言う人もいるけど、結局、高校生の段階でパソコン一式とプラグインを買える環境にいる人はどれだけいるんだろうと。でも僕は、その環境の中で今曲を作っているから矛盾があって。じゃあギターを1本買えば逆転する可能性があるところを見せるには、カッコいいギター音楽を作らなきゃいけなくて。そのためには、まずデスクトップミュージックの中で結果を残していかなきゃいけないから。
──なるほど。
Tele だから僕はその権威が大きくなっていく中で、最終的にパソコンも買えない人たちがギターを買えばいいんだって思える状態にしたいですよね。自分が何かに影響を与えられるとするならば。でもそれってギターヒーローになることだけじゃなくて、面白い音が鳴る楽器なんだよっていうことや、自分でもできるって思わせることが大事なのかなって思ってるから、そのマインドは変わらずにいくと思いますよ。
──その中において、4月に出たアルバム『残像の愛し方、或いはそれによって産み落ちた自身の歪さを、受け入れる為に僕たちが過ごす寄る辺の無い幾つかの日々について。』と、4月20日の横浜アリーナでのライヴ、12月に行われる幕張メッセでのワンマンライヴはどんな位置付けなんでしょうか?
Tele アルバムも横浜アリーナも、自分を確立するための時間だったというか。もともとが自分に対して曲を書いて、武道館で向く気持ちが変わって、横浜アリーナで今まで自分が持っていたほの暗い感情を清算しなきゃいけないと思ったんですよね。だから今、ようやく自分の中ですべてに折り合いがついて前を向いている状態で、次の幕張を目指していくところです。で、踊りのことを考えている(笑)。
──踊り?
Tele それこそ音楽がパソコンに奪われてしまったように、踊りっていうものも振り付けに奪われてしまっていて。例えばTikTokで踊られる音楽も、身体が勝手に動くようなものも踊りの一側面で、そこをもっともっと深掘りしていくことが大事なんじゃないかなと。僕は踊れないけど、音楽を聴いていたら身体が勝手に動くじゃないですか。そこに音楽があるだけで、僕たちは恣意的に身体を動かすっていう行為を選択している。幕張メッセって客席の段差が緩やかで、いわゆるライヴハウスのようにみんなが同じフロアにいる時、お客さんたちと僕で踊りの中の振り付けではない部分を共有したい。だから今は踊りのことを考えています(笑)。
──とてもユニークかつ本質的な実験だと思います。
Tele ライヴハウス会場で、スピーカーから鳴らされた低音を感じた時の感覚。音ってデータじゃなくて物理的な現象なんだってわかる。その先をライヴで増幅して見せたいと思ったんです。ただ、どこまで間に合うのか(笑)。
──最後の質問ですが、これからギターを始める人にアドバイスやメッセージを。
Tele ギターは弾かなくても鳴りますから。ピアノは鍵盤を叩かないと鳴らないし、ありとあらゆる楽器は何もしないと鳴らないんですけど、エレキギターはアンプをパチンとつけてノブを回したら勝手に鳴ってくれます。その瞬間、あなたはギタリストです。安心して始めてください。

Made in Japan Traditional 2025 Collection, 60s Telecaster
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Tele
突如音楽シーンに現れた、令和のトリックスター「Tele」。コロナ禍の中、ミュージックシーンに姿を現し、Spotifyが飛躍が期待される注目の新進気鋭アーティストを選出する「Early Noise 2023」にセレクション。その後、コンスタントに楽曲をリリースし、2024年6月1日の初の日本武道館公演を皮切りに全国9ヶ所を巡るツアー〈箱庭の灯〉を完遂。2025年3月からは横浜アリーナ公演を含む全国9ヶ所12公演のツアー〈残像の愛し方〉を開催。同年4月23日アルバム『残像の愛し方、或いはそれによって産み落ちた自身の歪さを、受け入れる為に僕たちが過ごす寄る辺の無い幾つかの日々について。』をリリースし、12月から幕張メッセでのワンマンライブを含むツアーを行なう。
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