INORAN(LUNA SEA)×デニス・ガルスカ | Fender Experience 2025

ジャンルや世代を超えた注目アーティストによるライヴ、名器たちとの出会い、音楽と触れ合うワークショップ。音楽、クリエイティビティ、そして人とのつながりが交錯する体験型イベント〈FENDER EXPERIENCE 2025〉が、10月11日(土)〜13日(月・祝)の3日間にわたり原宿・表参道エリアの3会場にて開催された。ここでは、13日にラフォーレミュージアム原宿で行われたINORANとFender Custom Shopのマスタービルダー、デニス・ガルスカによるトークセッションの模様をお届けする。

14年の対話が生んだJazzmaster進化の航路──INORAN×デニス・ガルスカ、創造の記録

この日、INORANは彼がこれまで発表してきた4本のシグネイチャーモデルをすべて製作したマスタービルダー、デニス・ガルスカとのトークセッションを行うため、ソロツアーから駆けつけたのだそうだ。久しぶりの再会を果たしたINORANとデニスが交わした握手とハグからは、リスペクトし合う2人の関係性がうかがえた。

ステージの下手から製作順に並べられた4本のシグネイチャーモデルの前でINORANとデニスが語ったのは、その4本の製作秘話。INORANが14年前に遡るデニスとの出会いを振り返る。

「Jazzmasterが弾きたかったんです。Stratocaster、Jaguar、Telecasterは持っていたけど、Jazzmasterは持っていなくて、雑誌で見てひと目惚れした1959年製のJazzmasterを買ったんですよ。それをモディファイして、自分のJazzmasterを作ったら素晴らしいものができるだろうと思って相談したら、Jazzmasterだったらデニスしかいないって紹介されたんです」

そして、生まれたのがINORAN JAZZMASTER #1 LTDだった。

「その時はデニスには会わずに、この1959年製のJazzmasterをデニス風に作ってくださいとオーダーしました」(INORAN)

「INORANさんのプレイスタイルを尊重しつつ、スタンダードなものを作りました。その後、彼のプレイスタイルが反映され、INORANさんらしいギターに進化していったと思います」(デニス)

「ネジが要らないくらいネックとボディがきっちりはまっているところも含め、もともと木工職人だけあって作りがものすごく丁寧なんです」(INORAN)

本来は横向きに付いているスライドスイッチを、プレイする時に当たらないように縦向きにしたことやチューニングとテンションを安定させるため、従来のJazzmasterにはなかったバズストップを付けたことなど、彼ならではのこだわりを説明したINORANは「ほら、ここにデニスのサインが入っているでしょ。これが嬉しかった」とヘッドの裏を観客に見せる。そして、「1本目のシグネイチャーモデルだから思い入れがあります」と語ったINORANは、さらにINORAN JAZZMASTER #1 LTDにまつわるとっておきのエピソードを披露した。

「出来上がったギターを日本に送ってもらったんだけど、僕はLUNA SEAのアメリカツアーだったんですよ。ハワイあたりですれ違ったんじゃないかな(笑)。そこからヨーロッパを回って、受け取ったのはドイツでした」(INORAN)

「それは知らなかった!」(デニス)

「ギターを手にした時は、ほんとヤバかったですよ。嬉しかった。この1本でソロのミニアルバム(『Teardrop』)を作りましたからね。言葉にはしなかったけど、(LUNA SEAのメンバー)みんな羨ましがってたと思います」(INORAN)

INORANがデニスと初対面したのは、2本目のシグネイチャーモデルINORAN JAZZMASTER #2 LTDをオーダーするため、カリフォルニアにあるフェンダーのコロナ工場を訪れた時だったそうだ。

「工場の社員食堂で一緒にランチしたのを覚えてる?」(INORAN)

「もちろん! INORANさんは誰よりもクールでした」(デニス)

ハードレリック加工された白いボディが印象的なINORAN JAZZMASTER #2 LTDを手に取って、INORANは開発した時のことを振り返る。

「ハードレリックのJazzmasterを作りたかったんです。そしたら、デニスは僕がどういうプレイやパフォーマンスをするのか、ビデオをいろいろ見て、こういうプレイをするならここに傷が付くだろうってところまで再現してくれました」(INORAN)

2本目のシグネイチャーモデルのサウンドのインプレッションを尋ねられると、「Jazzmasterの魅力が広がりました」とINORANは回答。

「1本目とは違うサウンドのキャラクターを、デニスなりに考えてくれたと思うんですけど、枯れた音がするんです。枯れた音を好むようになりました。特にアルペジオがキレイに鳴るんです。LUNA SEAの『I for You』は、今はこのギターでしか弾かない」(INORAN)

「レリック加工するギターは塗装が薄いせいか、オープンなサウンドになる傾向があるんです。アンプにつなぐ前にグレートなサウンドあれば、アンプにつなげばもっとグレートになるんです」(デニス)

「その通りだと思う。デニスのギターって生音がすごくいい。もはやヴィンテージを超えている。1959年製よりもいいんですよ」(INORAN)

そして、ソロ活動が20周年を迎えた2017年には3本目のシグネイチャーモデルとなるINORAN JAZZMASTER #3LTDを製作した。

「この時は、Lake Placid BlueのJazzmasterが欲しかったんですよ。だって憧れの色じゃないですか。ブルーのボディとゴールドパーツの組み合わせが前の2本とは違う個性になっていると思います」(INORAN)

「そもそもLUNA SEAはヒップでファッショナブルなバンド。それにマッチするものを作りました」(デニス)

「シグネイチャーモデルを作るタイミングっていうのがあるんです。例えば大きなツアーがあって、そこで新しいギターを弾きたいとか、インスピレーションが欲しいとか。そのギターに出会ったことで、何曲も曲ができるってこともありますよ」(INORAN)

それぞれの音が聴きたいというMCのリクエストから、トークセッションの後半は試奏タイムに。

「まず生音を聴いてほしい。いいギターって、弾くとネックがビリビリするんです」と言いながら、1本目と2本目を弾き比べ、「(2本目は1本目に比べ)ちょっと明るいでしょ?」とアンプのスイッチを入れ、「I for You」のコードを奏でてみせるINORANに観客が拍手を送る。そして、3本目に持ち替え「1本目と2本目のいいとこどり。完成されている」とまずは生音を鳴らして、「サステインが残る。いいねぇ」と頷きながら、INORANはアンプのスイッチを入れ、クランチで鳴らしたコードや、リバーブを深くかけたアルペジオをプレイ。彼が奏でる音を聴きながら、デニスも満足そうだ。

「グッドでソリッドなギターを提供したら、彼が最高のプレイをしてくれるんです」(デニス)

最後に紹介したのが、2025年2月に受注生産を開始した4本目のシグネイチャーモデル、INORAN Jazzmaster Desert Sandだった。

「もうちょっとハイゲインのギターが欲しくて、デニスに頼んだら、どんなギターができるんだろうってお願いしました」(INORAN)

「試作品を作ったのですが、ピックアップに対してINORANさんが“うーん、ちょっと違う。ギターが歓んでいない”と言ったんです。そこで、有名なロックスターが使っているピックアップを作っているピックアップ職人、カーティス・ノヴァクとINORANさん独自のハムバッカーを作りました。クランチでゲインがあって、サステインもあってというところももちろんですが、大切なのはとても音楽的なピックアップになっているところ。それはボリュームを絞って、メロディアスなフレーズを弾いてみたら、わかってもらえると思います」(デニス)

「そう。ボリュームのカーブが最高なんです。ボリューム7ぐらいで弾くと最高なんですよ」(INORAN)

ぜひ音を聴きたいというMCのリクエストに応え、INORANがINORAN Jazzmaster Desert Sandをアンプにつなぎコードを鳴らす。ハムバッカーらしいパンチのある音が響き渡り、デニスが快哉を叫ぶ。

「ネックがローズウッドだったこれまでの3本に対して、メイプルにハムバッカーを組み合せたところもギターのキャラクターに貢献していると思います」(デニス)

「Jazzmasterの可能性はまだまだあると感じました」(INORAN)

歪ませた音色でコードを鳴らしたINORANはデニスのリクエストに応え、Muddy Apesの「Get Going」のリフをプレイ。デニスが再び快哉を叫んだ。

「LUNA SEAも好きだけど、Muddy Apesも好きなんだ!」(デニス)

トークセッションを締めくくったのは、INORANとデニスの記念撮影。カメラに目線を送りながら、INORANが「また(ギターを)一緒に作ってくれる?」と尋ねると、「もちろん!」とデニスは即答。

「INORANさんは、ギターを作りたいと思わせる本当にお気に入りのアーティスト。彼のために作れて本当に嬉しい。お世辞でも何でもない。お気に入りのアーティストを尋ねられて、INORANさんと答えている映像がYouTubeにあるので、探してみてください」(デニス)

今後もJazzmasterの可能性を広げる、さらなるシグネイチャーモデルが製作されることだろう。大いに期待している。

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