B x B | 中尾憲太郎(NUMBER GIRL)× ナガイケジョー(SCOOBIE DO)-後編-
ベースは自分をアウトプットできる楽器
日本を代表するベーシスト同士による対談企画「B×B」。ベースを始めたきっかけ、ベースという楽器が自分に与えてくれたもの、ベーシストとして常に心に描いている目標など、アーティストとしての内面に迫りつつ、Precision BassやJazz Bassの魅力、そして現在のフェンダーを代表する最新モデル“American Professional IIシリーズ”のインプレッションについてトークを展開。第3回目は、NUMBER GIRLの中尾憲太郎とSCOOBIE DOのナガイケジョーが登場。中尾はPrecision Bass、ナガイケはJazz Bassと異なるタイプのベースを愛用する両者。後編ではJazz Bassについて、そして深淵なるベースの魅力について話を聞いた。
何も考えずに弾きまくっている瞬間。そういう体験があるからベースはやめられない(中尾憲太郎)
― 前編のPrecision Bassに続き、後編ではJazz Bassのお話を。さっそくですが、試奏してもらったAmerican Professional II Jazz Bassはいかがでしたか?
ナガイケジョー(以下:ナガイケ) 楽器との一体感があって使いやすいですよね。僕が持っている74年製のジャズベは、“弾きづらい”というお墨付きをいただいているので(笑)。
中尾憲太郎(以下:中尾) いやいや、あくまでも僕にとっては、という話ね。ジョーくんの74年製のジャズベは極北のジャズベなんですよ。
ナガイケ 知らず知らずのうちにイメージしていたベース像が、74年製のジャズベに詰まっているんだと思うんですよね。だからそうではない、いわゆる“This is Fender”っていうジャズベを弾くと、僕自身も“あ!フェンダーってこうだったな”って(笑)。その安心感がこのAmerican Professional II(アメプロ2)シリーズにはありますね。そして、これを弾いて、曲の中に入ったらどうなるのかな?と想像するのは何だかとてもワクワクします。
― ナガイケさんの極北ジャズベとAmerican Professional IIシリーズのジャズベでは、同じジャズベでも鳴っている音は全然違うのですか?
ナガイケ 違うと思います。弾いた印象は、中尾さんの分析を聞いたほうがもしかしたらわかりやすいかもしれないですね。
中尾 アメプロ2のジャズベは、まぁ若いベースだからかもしれないけど、わりと低音の部分がフワーっとあって、ジャズベ特有のアタックがしっかりある気がします。ジョーくんの極北ジャズベは、もっと間の“コロコロした部分”が強い感じがするんですよ。
ナガイケ 僕が思うジャズベのイメージって、確かにこういうイメージでもあるなっていうのが、すごくアメプロ2のジャズベにはありますね。“安心感のある低音と、パキッとした上の部分がバランス良く出る楽器”と中尾さんが言うのがよくわかります。逆に、コロコロした部分は僕が20年かけて育ててきた部分なんだろうなって。
中尾 そうそう。スクービー(SCOOBIE DO)というバンドの中で、そういう音になってきたと思うんだよね。
ナガイケ このアメプロ2のジャズベには、まだ何にも染まっていない本来のジャズベらしい要素が詰まっているので、あとはいいバランスで育っていくのが楽しみです。楽器って、本当に育っていきますからね。
中尾 このアメプロ2のジャズベに、ずっとスクービーの音を当てたら極北ジャズベのような鳴り方になってくるのかもね(笑)。
ナガイケ 以前に手に入れたAmerican Originalシリーズのジャズベは、とりあえず機材車に乗せてずっとエイジングはしています(笑)。車の振動によって楽器が良い音に育っていくという説があるんですよね。
― 意図せず始まったお二人のベーシスト人生ですが、ベースをやっていて良かった瞬間を挙げるとすると?
中尾 ベースをやっていて良かった瞬間!? うーん…ジョーくんどう?
ナガイケ 野外フェスなどで自分の音が外に爆音で鳴っているのを感じた時、低音やばいなって思う時はありますね。〈Rising Sun Rock Festival〉のメインステージに出た時、真夜中だったのですが、自分の低音が暗闇の中を遠くまで満たしていると感じた時、ベースってすごい楽器だと思ったんです。これは間違えらんねぇなと。間違えたら“地球が終わる感”というか、低音が間違えるってよほどのことだぞと思った記憶があります。もちろん、間違えることもあるんですけどね(笑)。
― (笑)。中尾さんには質問の仕方を変えて、ベースの魅力とは?
中尾 やっているうちにベースを弾けるようになったし、ベースに楽しみを見出せるようになったから続けているけど、まぁ飽き性の俺が20数年もベースばかりやっているってことは、何かしらの魅力があるんですよね。
― その魅力とは?
中尾 それは…わからない。アハハハハ! それがわからない!
ナガイケ 自分の鳴らしてる音を聴きながら…。
中尾 カッケー!と思うよ。毎回、カッケー!って
ナガイケ そうですよね!
中尾 いつも“俺の音カッケー!”と思ってる(笑)。
ナガイケ みんな(バンド)で演奏する時って、その音を浴びせにいく感じですか? それとも、アンサンブルを奏でようと思う感覚ですか?
中尾 というより、別にベースだからってわけじゃなくて、エキサイトしすぎて頭で何も考えずに弾きまくっている瞬間がごく稀にあるんですよ。あとで録音した音を聴いて、“え?何?俺こんなことやってたの?”みたいな体験がたまにあるんです。その瞬間を常に求めている部分はありますね。
― その瞬間は、行こうと思って行けるものではない?
中尾 毎回、行こうと思って弾いているんだけど行けないんです。5年に1回とかですね。そういう体験がたまにあるから、ベースをやめられないのかもしれない。
限られた音しか出ないのに、いろいろな表現があるのは奇跡(ナガイケジョー)
― さらにハードルが上がる質問を。あなたにとってベースとは?
中尾 うーん。
ナガイケ 僕はベースを弾いている時に、いろいろな想像が膨らむんです。“もっとこうしたらいいかな”とか、“ライヴの時にこうしたほうがいいかな”とか、そういうイメージはベースを弾いている時に一番働くんです。自分の中の世界を広げるものが、ベースを弾いている時なんです。つまり、ベースを弾いてる時がもっとも精神状態が良くなるんでしょうね。だから、ベースを弾いている時の自分が一番好きだし、人に優しくなれるんです。周りにも目を向けられるというか。もともとは“音楽でつながろうぜ!”という気持ちで音楽を始めたわけじゃなく、“ロック最高!ぶち壊してやる!”という気持ちで始めたのに、いつしかベースを弾いている時が一番周りにも目が届くし自分にも目を向けられる。そういうところが、僕にとってのベースの魅力なんです。
― 素敵なお話です。中尾さんはいかがですか?
中尾 別に好きで始めた楽器ではなかったけど、自分の中でアウトプットしようと思った時に最初にイメージできる。そして、一番上手に使える道具なんですよね。自分を表現するために、絵を描く人もいれば字を書く人もいるだろうし、営業をする人もいる。でも、ベースが僕にとってのアウトプットの道具になってしまったというか。“ベースとは?”と聞かれたら、自分をアウトプットできる道具ですかね。ドラムも叩くのは好きだけど、ディテールまで表現できるのはベースしかないので。
― 弦4本の楽器ですからね。
中尾 そうっすよね。しかも50〜60年の間、ほぼ形も変わっていないし。
ナガイケ 出せる音なんかちょっとしかないのに。
中尾 そうそう。
― それでも、自分の細かい部分まで表現できるってすごい楽器ですよね。
ナガイケ 禅問答的なものがあるのかもしれないけれど、音はこれしか出ないし音域もそんなにあるわけではない。だけど、ベースで表現していることはここの二人だけでも全然違う。限られた音しか出ないのに、いろいろな表現があるのは奇跡かもしれないですね。
中尾 最近、モジュラーシンセを始めたのですが、その師匠が“音のキャラクターや個人の差って、結局はアタックなんですよ”と話していて、なるほどと思ったんです。確かに低音域ってそんなに個人差はないけれど、やっぱりアタックなんですよね。ジョーくんのアタックもすごく特徴的で、僕のアタックとは全然違うので。
ナガイケ 確かに、ここ二人でもキャラクターがまったく違いますもんね。
中尾 4本の弦で、木材とちょっとの金属でできているけど、やっぱりアタックによって音の出方が違うんですよね。
― 深淵なるベースの世界ですが、最後にベース初心者へアドバイスをお願いします。
中尾 今の初心者の方たちのほうが上手ですよ。ネットでめちゃくちゃ情報があるし教わりたいぐらいだな。
ナガイケ ただ、実際にベースをイメージするのと体感するのとでは全然違うでしょうね。YouTubeでいくら上手い人の動画を見ても、実際に音を感じる部分で言うと人それぞれ“低音感”は違うから。“バキッとさせて”とか“ブリッとしてて”とか、表現ひとつ取っても違いますから。そういう波動や振動みたいなものを直に感じると、またいろいろな幅が広がると思うんです。あと、自分は弾かずに、人が弾いているベースを聴いてみるのがいいんじゃないかと最近は思っていて。
中尾 アハハハ! さっきの俺らみたいに、お互いの試奏を聴くみたいなこと?
ナガイケ そうです。あとはバンドの中で、ベースを弾かずに歌ってみるとか。そうやってヴォーカルとしてベースを体験してみたら、何もしないほうがいいんだと思うかもしれないし、逆にベースがいてくれる安心感ってすごいんだなと思うかもしれない。中尾さんが弾いている横で歌うってどんな気持ちなんだろう?って思いますもん(笑)。
中尾 音デケー!とか思っているかもしれない、向井くんは(笑)。
― 中尾さんからビギナーへのアドバイスは?
中尾 ジョーくんも話していたけど、“体感の部分”ってけっこうベースにはあると思う。“これ以上出したらちょっと怖い”くらいの音量を出して弾いてみるのは大事かも。一度それを体験して慣れちゃうと、もう戻れなくなる気持ち良さがあると思うので。家でデカい音と言っても限界があるだろうし、それは楽器としてのポテンシャルを最大限に出しているとは思わないので。スタジオとかでバコーン!と音を出して弾いてみるといいですね。ヤバッ!って思いますから。
ナガイケ 会場が大きくなればなるほど思いますよね。
中尾 なるよね。それは体験しないとわからない。ベースは体感に訴えかけてくる部分が大きいんですよね。
› 前編はこちら
American Professional II Precision Bass® 定番の’63 P Bassシェイプネックは、丁寧にエッジがロールオフされ、至高の演奏体験を約束する”Super-Natural”サテン仕上げが施されています。また新たに設計されたネックヒールを採用し、快適なフィーリングとハイポジションへの容易なアクセスを実現しました。新しいV-Mod II Precision Bass Split-Coilピックアップは、これまで以上に繊細なトーンを奏で、Precision Bassならではの圧巻のローエンドを提供します。
American Professional II Jazz Bass® 人気のSlim Cシェイプネックは、丁寧にエッジがロールオフされ、至高の演奏体験を約束する”Super-Natural”サテン仕上げが施されています。また新たに設計されたネックヒールを採用し、快適なフィーリングとハイポジションへの容易なアクセスを実現しました。新しいV-Mod II Jazz Bass Single-Coilピックアップは、これまで以上に繊細なトーンを奏で、Jazz Bassならではのパンチとクラリティを提供します。
› American Professional II 取り扱い店舗はこちら
中尾憲太郎
NUMBER GIRLのベーシスト。95年、福岡にて結成。メンバーは、向井秀徳(Gt, Vo)、田渕ひさ子(Gt)、中尾憲太郎 47才(Ba)、アヒト・イナザワ(Dr)。地元福岡でのイベント開催や、カセットテープの自主制作などの活動を経て、97年11月に1stアルバム『SCHOOL GIRL BYE BYE』をリリース。99年5月、東芝EMIよりシングル「透明少女」をリリースしメジャーデビュー。以後、3枚のオリジナルアルバムと2枚のライヴアルバム(うち1枚は解散後の2003年にリリース)を発表し、2002年11月30日に行った札幌PENNY LANE 24でのライヴをもって解散。2019年2月15日、再結成しライヴ活動を行うことをオフィシャルサイトにて発表。
› Website : https://numbergirl.com
ナガイケジョー
SCOOBIE DOのベーシスト。95年結成。2001年加入。メンバーは、コヤマシュウ(Vo)、マツキタイジロウ(Gt)、ナガイケジョー(Ba)、オカモト “MOBY” タクヤ(Dr)。ROCKとFUNKの最高沸点“Funk-a-lismo!”を貫くサムライ4人衆。“LIVE CHAMP”の名に恥じぬその圧倒的なライヴパフォーマンスと、完全自主運営なインディペンデント精神が多くの音楽ファンに熱烈な支持を受けている。2019年7月リリースの『Have A Nice Day!』までに、14枚のオリジナル・アルバムなどを発表。また、ベース・マガジンでの連載コラムをまとめた書籍『ベーシストの名盤巡り 低音DO』も上梓している。
› Website : http://www.scoobie-do.com