Special Interview | 加藤隆志(東京スカパラダイスオーケストラ)-後編-

フェンダーのギターは自分の中で相棒みたいな存在

デビュー以来、国内に留まることなく世界31ヵ国での公演を果たし、〈コーチェラ・フェスティバル〉など世界最大級の音楽フェスにも多数参加する東京スカパラダイスオーケストラ。そのギタリストである加藤隆志が、長年に渡りメインで使用してきた65年製のStratocaster®、通称“流木”をもとに本人監修によりヴィンテージスタイルを追求して開発されたシグネイチャーモデル「Takashi Kato Stratocaster」が完成。インタビュー後編では、地元・鳥取県にて撮影されたキービジュアルの撮影秘話、フェンダーギターへの愛を語ってくれた。

いまだに僕の中では、Stratocaster以上のギターの形を知らない

──キービジュアルも素敵ですね。

加藤隆志(以下:加藤) 故郷の鳥取県です。〈FUJI ROCK FESTIVAL ’22〉の翌日にほとんど寝ずに撮影に行きました(笑)。気温が40度を超えたというニュースがあったほど、灼熱の中での撮影でした。この企画が上がった時に、空の青と海の青、スーツの青とギターの青、全部青でやれたらいいなと思ったんです。で、地元が鳥取なので、砂丘と“パラダイスブルー”で撮っていただきました。本当に楽しかったし面白い撮影でした。

──階段での場面もありますが?(動画参照)

加藤 実は地元の田舎の駅の階段なんですよ。

──実家の最寄駅ってことですか?

加藤 そうです。無人駅で、ちょっと原点に戻ってみようと。これも言われないとわからないですよね(笑)。赤い階段ってすごく面白いなってことで撮ってもらいました。階段の上のほうはクモの巣だらけで。高校時代はこの駅から、ギターを抱えて高校に通っていました。

──シグネイチャーモデルを持って帰ってくる。“故郷に錦を飾る”とはこのことじゃないですか! 当時、思いもしなかった?

加藤 思いもしないですね。本当に何もないところなんですよ。田園風景しかないようなところで、人とも全然会わない。30分に1本ディーゼル車が通るんです。電車に乗る夏休みの高校生たちが、不思議そうな顔でこっちを見ていましたけどね。幼少期から高校まで過ごしたので、〈コーチェラ〉とか海外の大舞台に立った時にここを思い出すんです。人生何が起こるかわからないな、みたいな。新幹線に乗って農村の一角にある民家を見ると、もしかしたらここから〈グラストンベリー〉に出るようなギタリストが生まれるかもしれないなって思うんです。僕もそういう場所で育ったので。高校時代に聴いていた世界のアーティストたち、レディオヘッドとフェスで共演した時にもこの駅を思い出します。すごく稀有な運命だと思うと、何か面白い人生だなって。フェンダーのみなさんと一緒に駅のホームに立っている時は、これまた面白い人生になったなと。やっぱり人生って面白いし、音楽がいろいろなものをつないでくれるんですよね。

──そして、このシグネイチャーモデルが発売される日は加藤さんの誕生日であり、フェンダーとのエンドース契約が発表されるのも嬉しいです。

加藤 ありがとうございます。本当にプロデビューしてから、ほとんどフェンダーしか弾いていないので“よろしくお願いします”って感じなんですけど、あらためてフェンダーのギターは自分の中で相棒みたいな存在です。フェンダーの伝統や、新しいアーティストの方と新しいトライをされているのも見ているので、僕なりの解釈で古き良きフェンダーと今の音楽とが結びつけられるような活動ができたらいいなと思います。あと、メイドインジャパンを世界に発信していくのはスカパラならではの活動だと思うので、世界に向けてメイドインジャパンを知ってもらえるきっかけになればいいなと思っています。

──加藤さんという立ち位置のギタリストが、フェンダーを弾いてくれて本当に良かったなと思います。だって若い世代ともつながっているし世界にも行っているし。

加藤 フェンダーの歴史の中で素晴らしいギタリストがたくさんいて、それこそ僕が影響を受けてきた方々が歴代にいらっしゃるので、その中で自分にできること、自分のフィルターから発信できることがあればどんどんやっていきたいと思います。
ギター界はまた盛り上がってきていると思うんです。Stratocasterってギターの代名詞だから、それを背負うのもプレッシャーもありつつピリッとしますね。フェンダーのStratocasterですから。本当に重みがある話だと思っています。いまだに僕の中では、Stratocaster以上のギターの形を知らないんですよ。ものすごく独創的じゃないですか。何でこういうデザインになったのかレオ・フェンダーさんに聞いてみたいです。宇宙なんですよね、Stratocasterの形は自分にとっても。たぶん一生解明できない宇宙みたいな存在の形だから、これ以上のギターデザインは自分の中ではあまりないんです。この形を見ているだけで、お酒が飲めるくらい好きなんです。

Stratocasterには楽器以上のカルチャーがある

──Telecaster®︎はテレビの“テレ”から取っていますが、Stratocasterが発売された当時、アメリカは宇宙開発に力を入れていたので“ストラトスフィア”から名前を取ったんです。ストラトスフィアは“成層圏”という意味です。

加藤 そうなんだ! 知らなかったです。ジミ・ヘンドリックスはそこに惹かれているのかもしれないですね。ヘンドリックスの詞の世界って完全に宇宙だから、そことつながっていたのかなって。ちょっと鳥肌が立ちますね。

──いろいろと腑に落ちますよね。

加藤 腑に落ちるし、当時からカラフルな色で本当にセンスがいいですよね。

──ある種の発明ですよね。

加藤 ストラトには楽器以上のカルチャーがある気がするんです。レオ・フェンダーのカルチャーが、ずっと継承されて残っているんだろうなと。もちろん新しい作品も、そうあるべきだと思うし。

──カルチャーで言うと、フェンダーは品番ではなくモデルに名前をつけるんですよね。

加藤 Jazzmaster®︎とかTelecasterとかカッコいいね! そう考えるとやっぱり先陣を切っているよなあ。自分がギターを持つとしたら、フェンダー以外のギターを持って立っているところが想像できないんですよね。それくらい自分の動きの一つになってくるので。

──あるいは、宇宙と交信するためのツールになってくれているんですかね?

加藤 そうですね。そう言われると勇気が出てきますね。サウンド作りとかもすごく勇気が出ます。

──そう言えば、このギターが初めて世の中に出たのは東京オリンピックの閉会式でしたよね?

加藤 そう! 閉会式でこのTakashi Kato Stratocasterを初めて使用しました。だから、Paradise BlueでありOlympic Blueでもあるんです(笑)。

──あらためて素敵なストーリーが詰まったギターですよね。このインタビューを読んで、このギターを手に取ってみたいと思った人にメッセージを。

加藤 値段的にも、ギターに興味が出てきてずっと使えるギターを探している人に手に取ってもらえると嬉しいですね。一生使い続けられる一本なので。“one of them”でもいいんだけど、これからずっと付き合っていくギターになれば嬉しいし、そういうギターだと思うのでぜひ手に取って触ってみてほしいなと思います。
古き良きフェンダーと、今のサウンドとの接点になれば。単純にこの色を気に入ってくれたら嬉しいし、このギターをフェスとかで若い子が持っていたりするとすごく嬉しいなぁ。やっぱりストラトって万能で、いろいろなプレイスタイルに合うからぜひ手に取ってみてください。

──加藤さん自身、今後どんなギタリストになっていきたいですか?

加藤 ギタリストだけど、やっぱりバンドマンだなと思っていて。スカパラというバンドのサウンドのために、ギターを弾いているところがあります。だからスカパラというグループを、日本のみならず世界に向けて発信していきたいし、スカという音楽をベースに新しいアプローチで今のメンバーで出せるサウンドを模索し続けたいです。それ以外のところでプロデュースだったり、一個人としての加藤隆志のギターの仕事を広げていきたいなと思っています。まだまだやりたいことはたくさんありますね。

──そのお供にこのTakashi Kato Stratocasterが?

加藤 そうですね。やっぱり自分の基本なので。

> 前編はこちら


加藤隆志
1971年鳥取県生まれ。日本だけでなく世界各国で活動する、大所帯スカバンド、東京スカパラダイスオーケストラのギターリスト。2000年に同バンドへ正式加入。メインギターはFender 1965 Stratocaster (Lake Placid Blue)を愛用。
スカパラは、国内に留まることなく世界31ヵ国での公演を果たし、最大級の音楽フェスにも多数出演。なかでも、2013年のコーチェラ(アメリカ)では日本人アーティストとして初のメインステージに立つ快挙を成し遂げている。2019年10月にはメキシコ最大の音楽アワード『ラス・ルナス・デル・アウディトリオ』にてオルタナティブ部門でベストパフォーマンス賞を受賞。新たなフェーズへと進んだ今も尚、バンドのテーマである“NO BORDER”を掲げ、音楽シーンの最前線を走り続けながらトーキョースカの楽園を広げ続けている。
https://www.tokyoska.net/

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