Brand New Vintage | 弓木英梨乃
ヴィンテージギター/ベースをこよなく愛しながら、現在進行形の新しい音楽を生み出すアーティストに登場してもらう「Brand New Vintage」。今回のゲストは、高いスキルと自由な発想によって女性ギタリストの中でも新たな輝きを放つ弓木英梨乃が登場。American Vintage IIシリーズのAmerican Vintage II 1966 Jazzmaster®を試奏してもらいながら、1年間の音楽留学についても話を聞いた。
私がレコードで聴いたレジェンドが鳴らしていた音だ!と思った
──このインタビューは“ヴィンテージ”がキーワードなのですが、弓木さんはギターに関してヴィンテージユーザーではないイメージです。
弓木英梨乃(以下:弓木) そうですね。もともとギターを始めたのは中学生の頃なのですが、父がいわゆるギター収集マニアで。でも、当時の私は弾くことにしか興味がなかったから、一番弾きやすいギターを弾いていて何がヴィンテージなのか全然わからなかったんです。だけど今振り返ってみると、父はめちゃくちゃヴィンテージギターを持っていたので、一応触れたことはある感じです。
──ヴィンテージギターに対する思いや憧れがあれば教えてください。
弓木 憧れはもちろんめちゃくちゃあります。ヴィンテージギターを弾いている人と話してもあまり話の内容が理解できなくて、ただただヴィンテージギターってすごいんだなと思いながら中学生の頃から生きてきて。実際に借りたり、触ったりしたことは何度もあるんですけど、何か難しいというか、触るのが怖いなと思っていました。弾いてみても、やっぱり最初は弾きにくいなと感じたり。なので、ちゃんと弾いたり持ったりしたことが今まで一度もなかったですね。ただ、この先もギターを続けていったら、ヴィンテージのギターを弾きたいな、持ちたいなっていう憧れはあります。
──今はヴィンテージギターが高騰しているので、リアルヴィンテージを買うのはなかなか大変かもしれませんね。今回Fenderから発表されたAmerican Vintage IIシリーズは各モデルの製造年のスペックを継承したリイシュー・シリーズ、ということですが、弓木さんにはAmerican Vintage II 1966 Jazzmasterを弾いていただきました。
弓木 American Vintage IIのニュースリリースを見て、最初に目が留まったのがこのAmerican Vintage II 1966 Jazzmasterだったので、フェンダーさんから“このギターを弾いてみてもらえませんか?”と言われた時、すごく嬉しくて。この赤(Dakota Red)がカッコいいのと、ジャズマスは憧れだったのでめちゃくちゃ嬉しかったです。
──ジャズマスはどんなイメージでしたか?
弓木 歴史を見ると違うかもしれないんですけど、私のイメージでは、日本のロックバンドのギター&ヴォーカルがかき鳴らしているイメージです。
──実際に弾いていただいた印象を教えてください。
弓木 最初はちょっとクランチをかけて、センターピックアップでコードカッティングをしたんです。ジャキッて弾いた時に、私が今までレコードで聴いてきたレジェンドたちが鳴らしていた音だ!と思ったんです。1音目に感動したというか、自分にもこの音が出せるんだ!って。
──ボディやネック周りで弾きにくさはありますか? 今弾いているStratocaster®︎やJaguar®︎に比べるとボディもちょっと大ぶりなので。
弓木 最初に握った時に、自分にはネックが太いかもと思ったんです。だけど、自分がいつも使っている弦に張り替えて一日弾き続けたら、とても弾きやすくてちょっと感動しました。弾きにくいなと感じるギターって、1〜2日弾き続けてもその感覚って変わらなくて手に取らなくなるんです。だけどAmerican Vintage II 1966 Jazzmasterは、何時間か弾いたら弾きやすい感覚に変わっていってこれは自分に合っている形だと思いました。
──クリーンでも歪みでも弾いてもらいました。まずはクリーンはどうですか?
弓木 アルペジオを弾いてもジャカジャカ弾いても単音で弾いても、すごくキレイです。クリーントーンって、カッティングはとてもいいんだけど、単音で弾いた時にすごく軽くて薄い音になって、難しいなと思うことが個人的には多いんです。このギターはアンプに差して音を出して、クリーントーンでいろいろな弾き方をしてもどれもしっくりきて、すごくバランスがいいと思いました。リアで弾いても、センターで弾いても、フロントで弾いても、本当にそれぞれ特徴があって個性もある。ストラトだと、クリーントーンはフロントとセンターで、リアはあまり使わないんです。American Vintage II 1966 Jazzmasterは、クリーントーンでもリアを使いたいなって。気持ちいいな、弾きやすいなという印象です。ヴィンテージという名前だけ聞くと、扱いにくかったりバランスが難しいイメージを勝手に持っていたんですけど、American Vintage II 1966 Jazzmasterは私の好きな現代感もあって、安定していてちょっと感動ですね。
──歪ませた時は?
弓木 音の粒立ちがキレイというか、軽く歪ませてもめちゃくちゃ歪ませてソロを弾いてもキレイ。歪ませてコードを弾いた時に音が潰れない感じです。それはフェンダーのどのギターを弾いても感じることなんですけど、このジャズマスもそれを感じましたね。すごく上品に歪むなって。弾いていてすごく気持ちいいです。
──どんなシーンで持ちたいですか?
弓木 どんなシーンでも弾きたいなと思っています。Jazzmasterって自分の中では用途を選ぶギターだと思っていたのですが、このモデルはバランスがすごくいいのでどんなプレイスタイルにも合う気がしています。ヴィンテージギターって扱うのが難しそうというか、いい音を出すために実力も試されるというか、ちょっと敷居が高いイメージですけど、American Vintage II 1966 Jazzmasterは憧れていたギタリストの音が鳴るし、実際にものすごく安定した新しいギターを弾いている感覚になるので、こんなギターを求めていた!という気持ちです。
──どんな人にオススメですか?
弓木 ヴィンテージギターを鳴らしたいけど、扱いにくそうだなとか、手が届かないとか、ヴィンテージギターに憧れのある人にオススメです。あとは私みたいに、弾き心地や安定性を求めたい人にもオススメしたいです。プレイスタイルで言うと、どんなプレイの人でも大丈夫です。幅広い音作りができるけどパワーもあるから、パワフルなプレイをしたい人にも向いていると思います。
──赤がとても似合っていますね。
弓木 嬉しいです! フェンダーのギターは色がとにかくかわいいですよね。私が持っているJaguarのSurf Greenや、StratocasterのラメがかったCobra Blueもすごくかわいいですし。これもなかなかない赤で、そこが66年製のヴィンテージギターの色ですよね。最初に見た時にからめちゃくちゃカッコいいなと思いました。
──ステージでAmerican Vintage II 1966 Jazzmasterを弾いている姿が見られるかも?
弓木 はい! 絶対に弾きます! 今日、アンプで大きな音で鳴らして、より音の良さに気づけたんですよね。さっきも言ったように、すごいパワーがあるなと思ったので、大きな音でライヴで弾きたいですね。
──楽しみです。楽しみと言えば今後の弓木さんの活動です。マレーシアの音楽留学から帰国されたばかりですよね。現地での学生生活はいかがでしたか?
弓木 私がイメージしていたキャンパスライフとまったく違ってしまったんです。学校に行って、友達がいっぱいできて、毎日ギグ!をイメージしていたら、入国した日からロックダウンになり、1年間キャンパスに行けなかったんですよ。
──えっ!?
弓木 でも、今となっては良かったなって思います。最初は本当に虚しかったんですよ。せっかく来たのに何やってるんだろう?って。でも、何かできることをやらなきゃと思って、家で動画を撮ってアップし始めました。そうしたら、見てくれる人がどんどん増えて、そこから新しい仕事や出会いも増えていきました。目的とは違う日々になってしまったけれど、それはそれで意味があったんだと思います。実は、来年の3月ぐらいにマレーシアでライヴをやることになったんです。現地の国際交流機関からお話をいただいて、マレーシアのアーティストとコラボライヴをやりませんか?って。それだけでも行って良かったなって思ったりしてて(笑)。これからも機会があれば、日本だけでなく、どんどん海外に行けたらいいなと思っています。
──ギターの楽しさや魅力、可能性を言葉にすると?
弓木 留学を経て考えが変わったことの一つなのですが、自分がどう弾こうと何を弾こうと、どんな曲にどんなギターを乗せようと私の自由だよなって思えるようになって、それですごくギターが楽しくなってきたんですよ。だから、やっぱり正解はないんだって。自分がカッコいいと思ったらそれでいいんだって。そう思えると、ギターってすごく楽しくなるしラクになると思います。弾きたいことだけを練習すればいいと考えているんです。だから、すごく気楽な気持ちで練習に臨むのがいいと思うし、そういう気持ちで取り組める楽器だなと思います。
American Vintage II 1966 Jazzmaster
弓木英梨乃
1990年、大阪生まれ。2歳半からヴァイオリンを始め、音楽のキャリアをスタートさせる。中学1年の時にザ・ビートルズの「Ob-La-Di, Ob-La-Da」を聴いて衝撃を受け、ビートルズを聴きまくり、父親のギターを借りてひたすら楽曲を完コピする日々を送る。中学3年生の頃から父親にプレゼントされたMTRでオリジナル楽曲の制作を始め、音楽的才能を開花させてゆく。同時にスティーヴ・ヴァイやスティーヴィー・レイ・ヴォーンにも憧れ、ギターインストも作り始める。2009年、シンガーソングライターとしてメジャーデビュー。年齢とルックスからはギャップさえ感じさせる、テクニカルかつ、時に激しいギタープレイでも注目を浴びる。2012年よりライヴサポートやレコーディング、ギタリストをメインに活動を始める。2013年夏よりKIRINJIの正式メンバーとなるが、2020年1月31日にKIRINJIのバンド活動の終了を発表。2019年3月、ソロプロジェクトとして“弓木トイ”を始動。アルバム『みんなおもちゃになりたいのさ』をリリース。2021年、マレーシア・クアラルンプールの音楽大学への留学を発表。帰国後もさまざまなアーティストのサポートやYouTubeでの動画投稿を通じて、ギターの可能性を探求し続けている。
https://www.instagram.com/erino_yumiki
https://www.youtube.com/channel/UC3jMy08han2ODgu-0L-zMVA/videosR4