リーガルリリー cell,core 2022 東京編(Guest:くるり)

3ピースバンドのリーガルリリーが、東名阪を廻るツーマンツアー〈cell,core 2022〉を開催。彼女たちが“心から尊敬している人たち”を迎えて行われた本ツアーでは、愛知公演に羊文学、大阪公演にMy Hair is Bad、東京公演にくるりがゲストとして出演。ここでは、11月17日に行われたファイナル公演の模様をお届けする。

身体の一部のように溶け込んだTelecasterが、歌声をより輝かせる

「core(=核)を持った観客やアーティストがcell(=細胞)であり、ライヴ空間に集まることで互いに共鳴し合い、新しいcore(=核心)を作り上げることを目的にしたイベント」。そんなコンセプトを冠した〈cell,core 2022〉は、まさにアーティストや観客の想いが幾何学的に結びつきながら、心温まる空間を生み出す濃密なステージとなった。

先陣を切るのはくるり。入手したばかりのAmerican Vintage II 1972 Telecaster® Thinline(Aged Natural)を持ちながら、「こんばんは、くるりです」と言葉少なに挨拶をした岸田繁(Vo,Gt)は、哀愁漂うメロディと雄弁な歌声で「街」を紡ぐ。ジャリッと鋭利でありながら、ふくよかさも内包したAmerican Vintage II 1972 Telecaster Thinlineは楽曲そのものの輪郭をより際立たせ、佐藤征史(Ba,Cho)の69年製Jazz Bassの豊潤なサウンドと相まって、聴き手の脳裏に鮮やかなサウンドスケープを描く。続くデビュー曲の「東京」では絶妙に歪ませたストロークでノスタルジックな世界を印象づけ、シンプルでありながら骨太なベースラインが楽曲を優しく包み込む。

MCではくるりとして初めて東京に降り立った話から、「リーガルリリーさんに呼ばれて参りました。とても光栄です。くるりは“リーガル”というよりは“イリーガル”なバンドですが、どうぞよろしくお願いします」とユーモアたっぷりに自己紹介。脱力MCから一転、「ばらの花」「ハイウェイ」といった珠玉の名曲たちを惜しげもなく披露。「ばらの花」では、琴線に触れるピアノフレーズと岸田の61年製Telecasterから放たれるミュートをしながらのダウンピッキングが有機的に交わり、「ハイウェイ」では心地良いアコギの音色と絶品とも言えるコーラスが牧歌的な空気を運ぶ。

今年9月に配信リリースされた「八月は僕の名前」で再び岸田はTelecasterに持ち替え、キラキラとした艶やかなトーンで甘く幻想的な世界を演出。「琥珀色の街、上海蟹の朝」ではカラフルな照明の中、岸田は体を揺らしながらAmerican Vintage II 1972 Telecaster Thinlineでグルーヴィなカッティングを刻む。イントロのフレーズが鳴った瞬間、フロアから無数の手が上がった「ロックンロール」。手拍子とともに会場の熱気がグッと上昇し、岸田もステージ前方で激情的にギターをかき鳴らす「everybody feels the same」。まさにこの場所、羽田にも似合う「潮風のアリア」では雄大なスケールのサウンドで会場を満たし、温かい余韻を残しながらステージをあとにした。

SEの中、続いてステージに登場したリーガルリリー。白い衣装に身を包んだたかはしほのか(Vo,Gt)は、72年製のTelecasterでフィードバックをふんだんに効かせた轟音で狼煙を上げ、メンバーとアイコンタクトを取りながら「GOLD TRAIN」からライヴはスタート。海(Ba)はAmerican Performer Precision Bass®︎(Satin Lake Placid Blue)で図太くも伸びやかなフレーズを奏で、タイトでダイナミックなゆきやま(Dr)のドラミングとともに満身の力で土台を構築する。

「リーガルリリーです。今日はよろしくお願いします」とたかはしが挨拶をすると、くるりと同じ2曲目に同タイトルの「東京」をチョイス。意図的かどうかは不明だが、内省的な心情を綴ったくるりの「東京」と、独創的な言葉で東京の情景を歌ったリーガルリリーの「東京」。同じ“東京”でもまったく異なるコントラストに、あらためて音楽の妙を感じずにはいられない。

アルペジオと歌だけで始まる「ぶらんこ」では、少女のように無垢で、同時に大人びた女性のような神秘さも持ち合わせるたかはしの歌声が輝く。もちろんそこには彼女が長らく愛用し、身体の一部のように溶け込んでいるTelecasterの存在が大きな役割を担っていることは言うまでもない。

ギャーン!という鋭いフィードバックから、3人の音がぶつかりはじける怒涛のアンサンブルを醸成すると、詩の朗読を経てメッセージ性あふれる「9mmの花」へ。一定のテンポで刻まれる鋭いストロークが、まるで尊い時間を刻む秒針のように胸に迫る。それから間髪入れずに披露されたのは、昨今の世界情勢を受けてたかはしが感じたことを吐露した「ノーワー」。3人の想いを乗せたサウンドはエモーショナルに心を揺さぶり、「9mmの花」とセットで聴くことで幽玄な書物に触れたかのようなカタルシスを迎える。

「今日は〈cell,core〉にお越しくださりありがとうございます。今年2度目の開催でこんなにたくさん集まってくれて嬉しいです。対バンゲストはくるりということで、とてもカッコ良かったです」(たかはし)

ドキッとするような海のAmerican Performer Precision Bassによるフレーズに誘われて、「1997」ではたかはしも大きく右手を上下に振ってTelecasterを小気味良く鳴らし、楽しげな演奏を展開。タイトなビートを刻むドラムからスタートした「天国」でさらに躍動感を増すと、センシティブなテーマを美しいメロディと切実な言葉で紡ぐ「明日戦争がおきるなら」、はずむリズムと“あなた”に向かって話しかけるような歌い回しが愛おしい「地球でつかまえて」、3ピースバンドとしての揺るぎないアンサンブルを証明して見せた「the tokyo tower」と、空間という名のキャンバスに多彩な音を自由奔放に塗りたくっていく。

そこまで蓄積された想いやエネルギーが「リッケンバッカー」で一気に放たれる。一つの生命体のように躍動する3人の音の上で、プリミティブなたかはしの歌声が軽やかに舞う。本編ラストの「はしるこども」では、疾駆するサウンドに合わせてメンバーも飛び跳ねながら熱演。とびきりの幸福感に包まれながら本編は幕を閉じた。

大きな拍手に迎えられて再びステージに登場したメンバー。満員のフロアに感激しつつ、ゆきやまは〈cell,core 2022〉について「私たちが本当に尊敬するアーティストだけを呼ぼうと言って始まったツアーで、去年(第1回)がすごく良かったから続行しようということになって」と笑顔で話すと、海も「ついに“くるり”さんが…もう昨日の夜は緊張で吐くかと思ったよ(笑)。だけど、私たちの前に演奏してくださっていたのを聴いていて、音楽の力って本当にあるんだって思うくらいやる気に満ち溢れました」と感謝の想いを口にする。昨年11月にリリースされたシングル『アルケミラ』でくるりの「ばらの花」をカヴァーしたこともあり、たかはしも「カッコ良かったね…」と感無量の様子だ。

その流れから、アンコール1曲目ではくるりの「虹」のカヴァー。アレンジをほぼ施さないカヴァーに彼らへのリスペクトを感じながら、それでも異なる光彩を放つのはバンドとしての底知れぬポテンシャルゆえ。アンコールラストは「Candy」。海がAmerican Performer Precision Bassで緩やかなうねりを生んだかと思えば、たかはしはTelecasterを軽やかに弾いて楽曲にきらめきを添える。《Candy Candy この味は本物さ》。この瞬間を噛み締めるように大切に紡がれる音と言葉たちが、ライヴ終演後もずっと心をじんわりと温めていた。

今のメンバーになって5周年を迎える2023年。7月2日に念願の日比谷野外大音楽堂にてワンマンライヴ〈リーガルリリー YAON 2023〉を開催することを発表したリーガルリリー。大空のもと、放たれる彼女たちの音楽はまた格別だろう。進化と深化を続ける3人の音世界に、これからも熱視線を注ぎたい。


【SET LIST】
リーガルリリー
1.GOLD TRAIN
2.東京
3.ぶらんこ
4.9mmの花
5.ノーワー
6.1997
7.天国
8.明日戦争がおきるなら
9.地球でつかまえて
10.the tokyo tower
11.リッケンバッカー
12.はしるこども

ENCORE
1.虹(くるりカカヴァー)
2.Candy


くるり
1.街
2.東京
3.ばらの花
4.ハイウェイ
5.八月は僕の名前
6.琥珀色の街、上海蟹の朝
7.ロックンロール
8.everybody feels the same
9.潮風のアリア


【公演情報】
リーガルリリー YAON 2023
日程:2023年7月2日(日)
会場:日比谷野外大音楽堂
開場 16:30/開演 17:30
Ticket:指定席 ¥5,500-(税込)
※雨天決行・荒天中止

<オフィシャルHP先行>
https://w.pia.jp/t/regallily-yaon23/
受付期間:11月17日(木)22:00〜12月4日(日)23:59

お問い合わせ:SOGO TOKYO (http://www.sogotokyo.com/)

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