Cover Artist | 平井 大 -前編-
楽器に関しては、僕にしか出せないものがあるという自信があった
ポピュラリティ溢れるメロディと倍音豊かな歌で、サーフロック界を牽引する生粋のシンガーソングライター“平井 大”がCover Artistに登場。前編では2019年を振り返りつつ、アーティストとしての原点に肉薄するインタビューをお届けする。
最初はすごく抵抗があった
― 2019年はどんな1年でしたか?
平井 大(以下:平井) 2019年は長かったですね。20歳超えてからずっと1年が長いんですよ(笑)。
― つまり忙し過ぎたと?
平井 何だろう、大昔みたいに感じるんです。ビーチでワンマンライヴをやったんですけど、振り返った時に去年だったか一昨年だったかわからなくて。スタッフに聞いたら去年だったんです。本当に去年はいろいろあって、すごく長く感じた1年でしたね。
― アルバム「THE GIFT」のリリースもありましたし、11月には横浜アリーナでのライヴもありました。そういう面では、やりたいことはひと通りできた1年だったのでは?
平井 でも、やりたいことは尽きないんですけどね。ずっとやりたいことが続いている感じなんです。
― いい時間を過ごしていますね。
平井 たぶん、これから忙しくなるので。またすぐに時間がわからなくなるあの感じが始まるんです(笑)。
― 1年の始まりでもあるので“始める”をキーワードにお話をお聞かせください。そもそもギターを始めたきっかけは?
平井 3歳の時に祖母にウクレレをプレゼントされて、ずっとウクレレを弾いていたんです。アコースティックギターも家にあったので、ウクレレも弾けたしアコギもあるしっていうところから始まりました。それが小学生の時。だから“今日から始めるぞ!”っていうようなきっかけではなくて、家に楽器があったからなんです。
― オモチャとか子どもが遊ぶものはたくさんあったはずなのに、なぜギターだったのでしょうか?
平井 父もギターを弾きますし、その影響が強かったのかもしれないですね。楽器にあまり抵抗がなかったのも、僕の中では大きいかもしれない。
― 最初はどんな感じでギターを弾いていたのですか?
平井 最初は遊びですよ。今でも遊びですけど(笑)、好きな音を出すのがすごく楽しくて。コードがどうとかそういうことではなくて、自分が出したい音を出せるのが楽しかった。
― そのあと誰かに習ったんですか?
平井 しなかったですね。基本的には独学です。
― 教則本を買って?
平井 教則本も買わなかったですね。Logicという音楽の編集ソフトがあって、そこに自分でレコーディングして、積み木みたいにして作っていく作業でした。その中で“ここを押さえるとこうなるのか”と学んでいきました。
― いつ頃からプロになろうと思ったんですか?
平井 今もプロになろうと思っていないです(笑)。プロって何なのか?ってことですよね。よくわからないです。免許証みたいな資格があればまた別ですけど、まぁ言った者勝ちですよね(笑)。
― 音楽で飯を食っていこう、音楽をずっとやっていたいという感覚は?
平井 その感覚はずっとありましたよ。ステージに立ってお客さんから声援を受けたり、プレイの感想を聞いたり、音楽を作るのもすごく好きなので、何かしら音楽でご飯を食べていくんだろうなっていう感覚は中学・高校くらいからありました。
― 最初に人前で演奏したのはいつですか?
平井 小学校高学年です。フェスティバルがあって、そこでウクレレを披露したのが初めてでした。
― その時から、オーディエンスから拍手をもらって気持ちいいなと?
平井 そんな余裕はなかったですね。目立つのも苦手でしたし(笑)。だからステージに立つことに対しても、最初はすごく抵抗がありました。ギターを持って初めて人前で演奏したのは、たぶん中学生の頃でバンドのサポートで。
― そのバンドではどんな楽曲を弾いていたのですか?
平井 サーフロックでしたね。「ノー・ウーマン、ノー・クライ」や「ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア」もやりました。
― ヴォーカリストとしてのデビューは?
平井 18〜19歳の頃ですね。Honolulu Festivalというハワイの大きなイベントがあって、そこでオファーをいただいて“あ、曲を作ろう”って。最初は歌入りの曲だと思っていなかったので、二つ返事でOKと言ったんですけど、あとあと聞いたら歌入りだと(笑)。で、歌わなきゃいけなくなるという。
― そのきっかけがなかったら歌っていなかったかもしれない?
平井 そうかもしれないですね。どちらかと言うと歌うのは嫌いでしたし、ギタリストのままだったかもしれません。
ずっと追求していけるので
― 当時の憧れのギタリストは?
平井 一貫してエリック・クラプトンは本当に尊敬していますね。ソングライターとしてもギタリストとしても。
― 平井さんにとってクラプトンの魅力は?
平井 ギターを歌わせることがすごく得意な方だという印象ですね。
― そこにシンパシーを感じる?
平井 そうですね。歌に勝るものを楽器で表現しなきゃいけない時に、どうすればいいのかというと、心で感じていることやその時に表現したいことを、言葉なしでどれだけギターで伝えられるかだと思うんです。つまり、ギターが歌っているかどうか。そういうことに関して、本当にクラプトンはすごいなと思います。彼のバックボーンであったり人生観であったり、その時に感じていることをギターを通して表現しているが、すごく魅力的だなと思っていますね。
― 平井さんとギターの関係性も同じですか? テクニカルな部分だけじゃなくて、歌で表現できないもの、自分のバックボーンなどを表現するものだと。
平井 そうですね。言葉にすると言葉の意味でしか伝わらないけど、ギターソロやその場で作り出していくものって、すでにある言葉とは情報としての柔軟性が違うと思うんですよね。受け取る側の気持ちや、その時の自分の感覚がもっと柔軟に伝わる。そういうことを考えると、今の自分のライフスタイルや、感じていることを表現することに、一番こだわりを持っているのかなと思います。ギターをプレイするっていう部分に関しては。
― なるほど。逆にそれはテクニックを磨くよりも難しくないですか? 技術的なことはある程度練習すればできるけど、感情を音に込めるのはかなり漠然としていて完成形もなわけで。
平井 完成がないから楽しいんですけどね。ずっと追求していけるので。だから、人生と音色が重なっていくんですよね。例えば、去年に僕が弾いたソロの音を聴くと、“あ、こういう感じだったんだな”とか、“こういうことに挑戦してたんだな”っていうのを思い返すきっかけにもなります。だから、その時にしか出せないものが一番楽しいですよね。
― いつから自分の気持ちを音に込められるようになったんですか?
平井 どうだろうな…。自分のバックボーンや感情を取り込むっていうのは、下手とか上手いっていう問題ではないので。もちろん技術は大事ですけど、それだけじゃない部分に気付きはじめたのは幼い頃からだと思います。楽器に関しては、僕にしか出せないものがあるっていう自信があったんです。根拠のない自信が(笑)。他のものに対してはまったく自信を持てなかったんですけど、楽器だけには自信があって。それを続けてきた感じなんです。
― 平井さんのギターを聴いてギターを始める人もいると思うんですけど、何からスタートしたらいいと思いますか? 楽器選びなのか、練習をたくさんすることが大事なのか。
平井 自由でいいと思いますけどね。自分が好きなミュージシャンのライヴを観て、こういうギターを弾きたいなって憧れを持つところからスタートしてもいいですし、自分にフィットするギターを買ってみるのもいい。楽しいなと思えることが大事だと思います。ギターを手にとって楽しくなかったら、辞めるべきだと思いますし。
― 無理にやることではないですもんね。
平井 はい。僕もゲームしているほうが楽しかったらゲームしますし(笑)。強制されてやるものではないので。
― これからギターを始める人が平井さんの曲をカヴァーするなら、どの曲からカヴァーするのがオススメですか?
平井 「Life Song」は面白いと思いますね。裏打ちですし、エレキの気持ちいい音を出しやすいと思います。ソロを弾くにもそんなに難しいコード進行ではないですし。マイナーの曲のソロが一番気持ちいいと思うので、好きなように弾くのがいいんじゃないかな。
― ギターの楽しみを言葉にするなら?
平井 僕はギターを弾くことがすごく楽しいんです。人それぞれ楽しみって違うと思うんですけど、一定数いると思うんですよね。“ギターが一番楽しいな”と感じる人は。楽しいと思うことをいろいろとやってみた中で、自分に合うものを発見するのが一番いいんじゃないかな。ギターがすごく楽しいと思ったのならば熱中すればいい。何でも一度挑戦してみるといいと思うんです。映画もそうですし音楽もそうですけど。挑戦してみてつまらないなと思ったら次に行けばいいんです。それくらいでいいんじゃないかな。気合いを入れると続かないですからね。気楽に始めてほしいですね。
› 後編に続く
› STEVIE RAY VAUGHAN STRATOCASTER®(左) 製品情報
› 2019 LIMITED ROASTED TOMATILLO STRAT® II JOURNEYMAN RELIC® SUPER FADED AGED SHELL PINK(右)
PROFILE
平井 大
91年5月3日、東京都出身。ギターとサーフィンが趣味の父の影響で幼少の頃より海に親しみ、3歳の時に祖母からもらったウクレレがきっかけで音楽に興味を持つ。印象的な耳に残る優しい歌声と歌詞、キャッチーなメロディーラインは聴く人の気持ちを癒し、穏やかにしてくれる。2013年7月、ミニアルバム「Dream」でメジャーデビュー。2019年2月、『映画ドラえもん のび太の月面探査記』の主題歌に抜擢され、シングル「THE GIFT」をリリース。7月31日には「後世に伝え残したい」をテーマに言葉と音を一枚に詰め込んだ、愛溢れるメッセージアルバム「THE GIFT」をリリース。
› Website:http://hiraidai.com