Cover Artist | 尾崎世界観(クリープハイプ) -前編-

自分が今探しているのはストラトかもしれない

2022年にメジャーデビュー10周年を迎え、その唯一無二の音楽をさらに深化させ続けているクリープハイプから、ヴォーカル&ギターの尾崎世界観がCover Artistに登場。インタビュー前編では、ギタリストとしてのルーツからフェンダーとの出会い、そしてAmerican Vintage IIシリーズのインプレッションについて話を聞いた。

0が1になる可能性を秘めているのがギター

──ギターを始めたきっかけを教えてください。

尾崎世界観(以下:尾崎) 中学生の頃に中古でアコギを買ったのが最初です。友達が親からギターをもらって、単音でX JAPANの「紅」とかザ・ベンチャーズを弾いているのを見ていいなと思って。貸してもらって練習しているうちに自分のギターが欲しくなり、1万円くらいで買えるという情報を聞いて御茶ノ水まで買いに行きました。ボディバックがプラスティックで、ちょっとヘンな形のギターでしたね。その時、店員さんに“左利きなんです”と言ったら“ギターの種類が選べなくなるから右利き用で練習したほうがいいよ”と言われたのを真に受けて、それを未だに恨んでいます(笑)。そのあとすぐにカート・コバーンのステッカーをギターに貼って、何か違うと思ったら“この人左利きだ”って。もう一つ左利き用のギターを買う余裕もなかったし、そのまま練習しました。

──そのひと言がギタリストとしての運命を変えてしまったと。もう左利き用には戻れないんですか?

尾崎 そうですね。そもそもギターを始めた時も、ある程度弾けないとダメだと思って教則本やビデオを見るけれど、どうしても上手くソロを弾いたり“この人上手いな”と思わせるような技術が身につかなくて。だから、ギターはあくまでも自分が歌うためにあるというか、曲を作る道具であり、歌で表現する時の一番のパートナーという気持ちに早い段階からなっていました。未だにローコードしか弾かないし、まず自分が好きなところでバッキングを弾いて、余ったところを小川(幸慈)君が埋めるクリープハイプのスタイルはずっと変わらないですね。ギター自体はめちゃくちゃ好きなんです。でも、好きなギターヒーローがいるわけでも、四六時中弾いているわけでもなくて、どちらかと言うとそこにあるだけで安心するという存在です。ギターを弾けばいつでも曲ができる可能性があるというだけで、いい気分になります。

──ギター以外で作曲することは?

尾崎 ないですね。他の楽器は弾けないし、アカペラでメロディが降りてくることもない。絶対に、ギターを弾いて、そのコードの中でメロディが湧いてきます。

──欠かせないパートナーであると。

尾崎 そうです。だからこれを読んでいる方にはそういう付き合い方もあると伝えたいですね。楽器屋で試奏していても肩身が狭くて、何か違うなと思いながらいつも過ごしていました。だいたい店員さんが、チューニングをする時に腕前を見せびらかしてくるんですよね。だから、ただローコードを弾いているだけでもカッコいいと思ってもらえると伝えたいです。そこから歌が生まれる、0が1になる可能性を秘めているのがギターだと思っているので。

──ギターソロが弾けなくても、コードをたくさん知らなくてもいいってことですよね。

尾崎 そうですね。あと、ちょっと下の世代のバンドマンに聞くと、自分なりのコードの押さえ方をしていて面白いなと思います。不思議な押さえ方で曲を作っているので、自分も見習いたいですね。

──どんな練習方法だったんですか?

尾崎 ギターの練習はほとんどしていません。頑張ってはみたけれど、どこか無理をしているなと思って。子供の頃から家庭科や図工の授業で“こういうものを作りなさい”と課題を出されるけれど、自分だけそのとおりできないことに悩んでいました。歌本を見ながらコードの練習をしてみても、やっぱり自分だけ上手く辿り着けないもどかしさがあって。それでギターも音楽も結局は同じかと思ったんですけど、辿り着けなくてもその途中で、自分なりに“これはこれでいいのかな?”と思うポイントがあったんです。学校で出される課題は、正解に辿り着けないと“ダメな生徒”という判定をされてしまうけれど、音楽でそういうものが見つかった時は嬉しかったですね。じゃあ自分で作ればいいんだと早い段階から意識するようになって、中学生の頃から曲を作るようになりました。

──中学生でオリジナル曲を作ったんですね。普通にコピーをし続けていたら、今のような存在にはならなかったかもしれないですね。

尾崎 そうですね。しかも、初めて買ったエレキギターはフェンダーの日本製のJazzmaster®︎でした。

──なぜJazzmasterを?

尾崎 カート・コバーンが好きだったので。最初はJaguar®︎がいいと思って、でもJazzmasterのほうが安かったのと、豆腐みたいなピックアップがなんか良かったんです。今はJazzmasterが流行っているけれど、当時はあまり人気がなかった。“Jazzmasterは人気ないんだけどね”って店員さんに言われたので“じゃあそれにします”って(笑)。そしたら、ブリッジが常に下がってくるのが、初心者にはすごくストレスで大変でした。そこでも選択を間違っているんですよね。初心者に優しいギターじゃなかった。

American Vintage II 1957 Stratocaster®️はピタッと歌について来てくれる

──尾崎さんと言うとフェンダーではTelecaster®︎のイメージが強いですが、今日はAmerican Vintage IIシリーズの中からAmerican Vintage II 1957 Stratocasterを選んだのが意外でした。

尾崎 ストラトには以前から興味がありました。今は他社のギターをメインで使っているけれど、もっと繊細な部分を表現したいというか、歌と違うところにギターがいると感じることも増えてきたので、ちょうど新しいものを探しているタイミングでした。テレキャスはデビューしてからずっとレコーディングで使っていて、クリープハイプのバッキングサウンドの半分以上をテレキャスが占めています。だからこそ、レコーディングのイメージが強すぎて、ライヴで使う感覚にはあまりならなかったんです。今回も最初はテレキャスがいいなと思ったけれど、ラインナップにストラトがあるのを見て、自分が今探しているのはストラトかもしれないと思って。弾いてみたら、歪ませた時に“あ、やっぱりこれいいな”と思いました。
ギターに関しては、歌に対してのストロークに重きを置いてるので、そこに対してすごく“ついて来てくれる”感じがあります。今メインで使っているギターは、ライヴ中にどちらかが置き去りになる瞬間があるんです。歌がついて来なかったり、ストロークが先に行き過ぎて歌が引っ張られたりと、ストレスを感じることもあって。American Vintage II 1957 Stratocasterは音の立ち上がりも早いし、意外と音が潜ってくれるというか、音の重心が低い。ライヴで使ったら、今まで感じていたストレスもなくなるんじゃないかと思いました。

──歌を支える感じですか?

尾崎 支えるというよりは、ピタッと歌について来てくれる感じですね。ライヴは、考えていたら一瞬で終わるので、何も考えていない状態こそが“ちゃんと意識できている状態”なんです。そういう意味では、ギターを弾いていると考えさせないなと思いました。

──ストレスなく弾けると。

尾崎 いい時は自分の音が聴こえてこない代わりに、バンドメンバーの音がすごく聴こえてくる。いつもその状態を目指しているし、このストラトならそれが叶いそうです。

American Vintage II 1957 Stratocaster

>> 後編に続く(近日公開)


尾崎世界観
84年、東京都生まれ。ロックバンド、クリープハイプのヴォーカル&ギター。2012 年、アルバム『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』でメジャーデビュー。2014・2018 年に日本武道館公演を開催し、音楽シーンを牽引する一方、2016 年には半自伝的小説『祐介』、2021年に第164回芥川賞の候補作となった『母影』を刊行。執筆活動でも注目を集める。2023年2月から〈ライブハウスツアー 2023「感情なんかぶっ飛ばして」〉、3月から〈アリーナツアー 2023「本当なんてぶっ飛ばしてよ」〉を開催。
https://www.creephyp.com/

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