Cover Artist | NUMBER GIRL -後編-

単純に嬉しかったのはこのNUMBER GIRLというバンドの一体感。一つの塊としての音をまた鳴らせたのが嬉しかった

2022年12月11日ぴあアリーナMMにて行われるライヴ〈NUMBER GIRL 無常の日〉をもって、再び解散することを発表したNUMBER GIRL。向井秀徳(Vo,Gt)、田渕ひさ子(Gt)、中尾憲太郎 48才(Ba)の3人にインタビューを敢行。後編では、解散についてざっくばらんに語ってもらった。

バンドの音像のあり方がぐちゃぐちゃだけど、それで成立している

──前回のインタビューは再結成の時で、その際に向井さんは再結成のキーワードとして“稼ぐ”みたいなことをおっしゃっていて。今回の解散に関するコメントを見たら、別に稼ぎ終わった感じでもなく。

向井秀徳(以下:向井) 思ったよりも稼げなかった。

──それが一番の原因なんですか?

向井 原因でも理由でもないです。つまりね、もともと再結成したかった理由はライジングサン(RISING SUN ROCK FESTIVAL)にもう一度出演して、演奏したいという気持ちにある時になったからなんですね。“ある時”というのは、ZAZEN BOYSのメンバーチェンジがあってバンドの移り変わりがあった時期で、気持ちが高揚していたんです。新しい風が吹いてきたぞ、この風に乗って行きたいなと。すると、ライジングサンの夏のあの景色がね、自分の中に蘇りました。それで各メンバーに久方ぶりに連絡を取って“やろうや!”ってところから始まったんですけども、そう言った途端に残念ながら台風の影響でライジングが中止になりましてね。本当に仕方がない事情だったんだけど、ライジングサンに出演する前日にリハーサルを必死こいてやって、“よし! 明日とうとうやるぞ!”という気持ちでリハーサルスタジオをみんなそれぞれ解散して、スタジオを出た30分後に中止と。あれは、自分にとって心のシャッターを閉められたような気持ちになりましたよね。

──なるほど。

向井 それからコロナパンデミックがあって、ライヴの中止や延期が立て続いたわけです。なかなか自分の思い描くストーリーが完成しない状況で、“じゃあこれからどうやっていくべきか?”って先が見えなかったんですよね。2021〜22年くらいは。これは誰しもそうだったと思います。ある程度ライヴができるようになって、とうとうライジングサンに出演できたわけですが、ここでまたさらに自分の中で別のストーリーをかましていきたいと思うに至ったわけですね。
我々はそれぞれで自らの音楽活動をずっと続けてきておりますので、この何年かで立ち行かない部分がいっぱいありましたので。これからまたライヴができる状況になって、私の場合はZAZEN BOYSというバンドですけども、自らの活動を地に足をつけてやっていきたいという想いに至ったんです。それでNUMBER GIRLの活動はここで区切りをつけてね、それぞれがそれぞれのことをやるべきなんじゃないかなと私は思ってるんです。

──ライジングサンに出た後には、わりとすぐにそういう気持ちになられた?

向井 この活動をここで区切りにしようぜっていうのは、ちょっと前から考えてはいました。ライジングサンができるっちゅうことになれば、それが大きなポイントになるだろうと。さらに12月11日に最終公演があるんですけども、これがまたぴあアリーナMMという1万人くらいのお客さんに来てもらえる会場で、これは“解散”と言わんと1万人集まらんぞっていうことです。この最終公演の日程や会場のブッキングに関しては二転三転しましてね、“これが最終公演ですよ”と決めて組んだわけじゃないんです。偶然というか、流れでそういうふうになって。年末ですし2022年をもって活動を終えるのはわかりやすいなと、私は思っているんですけどね。

──実質3年間の再結成は、それぞれどのように感じていらっしゃいますか? ライヴが通常通りにできなかったタイミングではありましたが。

向井 そういう状況の中で、こういう活動ができたことに関して、やらんよりはやったほうが良かったと私は思っていますけどね。そして楽しかったですね。20年近くの時を経て、こうやってまた集まって音を鳴らすことができて。

中尾憲太郎 48才(以下:中尾) 新しい発見がものすごくあったんで。約20年経てもう一度バンドをやる。自分のバンドキャリアの礎になったようなバンドを一回辞めて、40歳を過ぎてまたそれをやるってなった時にすごく気付きがあって面白かったです。これが再結成かって。音のことも演奏のこともそうだけど、昔の演奏を今の自分がやることに対していろいろなことを考えるし勉強にもなりました。

──当然、プレイヤーとしては昔よりも技術が向上していますし。

中尾 それがいいのか悪いのかと言ったらまた違う話じゃないですか。どこを目指すのがいいのか日々悩みながら構築することって、他のバンドではできないので。このキャリアがあって今があるわけだから。すげぇ面白いと思いながらやっていました。

向井 演奏が向上しているとか上手いとかじゃなくて、単純に嬉しかったのはこのNUMBER GIRLというバンドの一体感。一つの塊としての音をまた鳴らせたのが嬉しかったんです。

中尾 むちゃくちゃヘンなバンドですよ。一度離れて時間が経って鳴らした時に“何じゃこりゃ?”と思いました。

──“ヘン”をもう少し具体的に言うと?

中尾 バンドの音像のあり方がぐちゃぐちゃなんですけど、それで成立している。バンドのレンジの取り方も雑音がないと成立しないし、それでいてちゃんとコントロールされているし、改めて“すごっ!”と思って。

向井 ただアンプのボリュームがデカいとかそういうことじゃないんですよ。

中尾 そう! そういうことじゃない。

向井 たぶん、メモリ1でやってもぐっちゃぐちゃになる混沌サウンド。

中尾 混沌が生まれるんだよね。

──田渕さんは再結成の3年間はどうでしたか?

田渕ひさ子(以下:田渕) それまで20年近く、元NUMBER GIRLということで過ごしてきた。で、また再結成をした。NUMBER GIRLという活動が、生活の中で特別なものになるのかと思ったんですけど、わりとすんなりと入ってきたというか。特別なものというよりは、自分がやっている音楽という感じになっていたなと思います。そして、短かったような長かったような、長かったような短かったような。コロナ禍で思うようにライヴはできなかったけど、濃かったと言えば濃かったし、中尾さんが言ったように一人一人が20年近くいろいろやっていても、やっぱりNUMBER GIRLの音になるのがすごいなと。あらためてすごいバンドだなと思いました。

なぜバンドをやるかと言ったら、人と繋がりたいからかもしれない

──つかぬことを伺いますが、バンドの空気はいい感じでしたか?

中尾 まあいい感じ…。いい感じっていうのも(笑)。

向井 最初に私が考えていたのは、どん詰まるようなことをやってもしょうがないから。そういうふうにはしたくない気持ちはあったんです。で、そうしようとみんながしていたと思う。だからこうやって楽しくやれた。福岡市早良区、西南高校、軽音楽部みたいな感じで。『けいおん!』みたいだな。『けいおん!』気分でイェイイェイ! それが一番いいんですよ。バンドって本当はそういうものだよ。それで金を稼げれば最高っていうことですわ(笑)。

──今はバンドを組まずに一人でパソコンで曲を作って動画に上げるタイプの方もたくさんいますが、バンドの魅力をあらためて言葉にすると?

向井 一緒に楽器を演奏する機会がない点で言うと、私も佐賀の田んぼの中にある一軒家でそういう人間だったんですよ。だから、4トラックのMTRで自分で作るしかなかった。作ってすぐに聴かせることができるような今の状況だったら、いかに助かったか。聴かせる相手が一人しかいなくて、できた宅録を“電話で聴けや!”って電話越しに聴かせて“これどう?”ってことをやっていたんだけども、今はそんなことをする必要はないよね。しかも、むっちゃくちゃハイクオリティなサウンドが即座に作れる。羨ましいとしか言いようがないね。でもまあ、バンドをやるのは一人の世界じゃないから。人間と人間が重なり合った時にどういう音楽になるのか、それがバンドですから。当たり前だけど、一人じゃバンドはできない。ただそれだけですよね。で、なぜバンドをやるかと言ったら、人と繋がりたいからかもしれないですよ。そういうことなんでしょう。

──田渕さんは?

田渕 みんなで一緒に考えることもできるし、各々が自分の楽器だけに徹することもできる。一人で全体を見てバランスを取るのとはまた違う、各々の仕事をしてもらう職人が集まったような集団。バンドによってスタイルは違うと思うんですけど、脳みそが人数分だけあるように、みんなで考えたり、やっぱり一人じゃできないことがバンドだと絶対にできると思うんです。若い人はもっとカジュアルに、どんどんバンドを組んだらいいんじゃないかなと思います。

──ちなみに、また稼ぎたくなったらNUMBER GIRLとしてまた集まる可能性はないわけではないんですか?

向井 ちょっと今はわからないですけどね。そういうこともあるのかもしれない。いずれにしても、私が言い出さない限りはそういうことにはならんと思うけど。

中尾 あははは。

──12月11日のラストライヴが終わった後、来年以降のそれぞれの活動予定を聞かせてください。

向井 Telecasterを鳴らしますね。

田渕 それで言ったらJazzmasterを鳴らします(笑)。

──違う言い方をしてください(笑)。

田渕 鳴らしまくります。

──じゃあ中尾さんでオチです(笑)。

中尾 ちょっと待って! ほらほら! プレシジョンベースを鳴らしまくりますって、それもちょっとなんか違う気がする(笑)。まあ即興演奏をやりまくっているしバンドも動くだろうし、シンセもやっているし、いろいろとやっていきまーす。

──最後は軽くいきましたね(笑)。これから楽器を始める人たち、始めたばかりのビギナーにメッセージを。

中尾 楽器を始めていない人は始めたらいいっすよ。おっさんの言うことなんて聞かなくていい。好き勝手やって、いろいろと言ってくるおっさんは蹴散らせばいい。

──ビギナーにアドバイスは?

中尾 ありませんよ。好き勝手やったらいいです(笑)。だって俺、勘違いで突き進んできたもん。ペグの向きをシド・ヴィシャスと一緒にするだけとか。チューニングのチの字もよう知らずに(笑)。

田渕 “ギターはFで挫折する”とかいろいろと言われていますが、身構えずにもっと気軽に始めてしまえばいいんじゃないかなと思います。

向井 間違いとかないから。

──確かに。こんなに楽器を始めやすい時代は今までにないですもんね。昔にやっていたユニークな練習方法は?

田渕 Wラジカセの真ん中に入れて、自分の好きなアーティストの曲に自分も参加していました。あとは、ギターを録ってそれにハモる一人クイーンみたいな(笑)。

向井 4トラックのMTRを入手するまではそれなんだよ。ダブルカセットデッキのピンポンでやるしかない。それでどんどん最初に録った音がくぐもって遠くになっていく。それを踏まえてレベル調整を強いられる。

田渕 あはははは!

向井 思い出すなぁ。今はそんな必要がないから余裕やん。AIが全部EQしてくれるもんね。最高だよね。

──向井さん今生まれたらどうなっていたでしょうね。

向井 たぶんね、ここにいないと思う。

中尾・田渕 あはははは!

向井 ある意味、何かが満たされてわざわざ“うわー!”って歌っていないかもしれないですね。

──あらためて、最後にメッセージを。

向井 ギターだろうがラップだろうがホルンだろうが、鳴らしたいと思えば鳴らすべきだね。ただ自分の気持ちを音にしたいと思ってみんなやっていると思うんですけど、俺が言いたいのはまず恥をさらせと。恥をさらせーい!恥をかけーい!って。かけーい! かけーい!

中尾 これ、活字なのがもったいないですね。

向井 ギターを弾くにしてもホルンを吹くにしても、恥をかいてなんぼですよ。必死こいていない奴が、必死こいてる奴をバカにしたりからかったり文句を言ったりする資格はない。必死こいている奴が、必死こいていない奴をバカにする権利はあるよね。だから必死こけと。必死こいてないのにガタガタ言うなと。恥をかいて、必死こけーい!って言うことですかね。

中尾:American Vintage II 1954 Precision Bass | 向井:American Vintage II 1951 Telecaster | 田渕:American Vintage II 1966 Jazzmaster

>> 前編はこちら


NUMBER GIRL
95年、福岡にて結成されたロックバンド。メンバーは、向井秀徳(Gt,Vo)、田渕ひさ子(Gt)、中尾憲太郎 45才(Ba)、アヒト・イナザワ(Dr)。地元福岡でのイベント開催や、カセットテープの自主制作などの活動を経て、97年11月に1stアルバム「SCHOOL GIRL BYE BYE」をリリース。99年5月、東芝EMIよりシングル「透明少女」をリリースしメジャーデビュー。以後、3枚のオリジナルアルバムと2枚のライヴアルバム(うち1枚は解散後の2003年にリリース)を発表し、2002年11月30日に行った札幌PENNY LANE 24でのライヴをもって解散。2019年2月15日、再結成しライヴ活動を行うことをオフィシャルサイトにて発表。2022年12月11日(日)ぴあアリーナMMにて行われる〈NUMBER GIRL 無常の日〉をもって再び解散。
https://numbergirl.com

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