Cover Artist | 尾崎世界観(クリープハイプ) -後編-

どこへも行き切れないモヤモヤがあるからこそ続けていける

2022年にメジャーデビュー10周年を迎え、その唯一無二の音楽をさらに深化させ続けているクリープハイプから、ヴォーカル&ギターの尾崎世界観がCover Artistに登場。インタビュー後編では2022年を振り返りつつ、今後の展望について語ってもらった。

その“おもちゃっぽさ”を大事にしている

──ライヴを意識して選んだStratocaster®️ですが(前編参照)、2023年3月のアリーナツアー前にライヴハウスツアーがあります。そこでストラトがお目見えする可能性もありますか?

尾崎世界観(以下:尾崎) 使ってみたいので、お世話になっているスカパラ(東京スカパラダイスオーケストラ)の加藤(隆志)さんに使い方を聞いてみようと思います。

──ストラトマスターですからね。

尾崎 そうですね。そもそも、ストラトは一番選んじゃいけないと思っていたんです。ストラトには“ベタなギター”というイメージがあったから。自分のギターの歴史はすべての選択を間違えていたけれど、ここに来てストラトを選べたのは嬉しいですね。

──初めてのストラトですか?

尾崎 これまで弾いたことすらなかったです。これで、音楽を始めてやっと一周できたのかもしれません。1万円のアコースティックギターから始まって、Jazzmaster®︎で苦労して、ヴィンテージのTelecaster®を買ったりしながら、ついにストラトに(笑)。

──American Vintage II 1957 Stratocasterで他に気になった点はありますか?

尾崎 ネックも良かったですね。ライヴの時はネックがすごく重要なんです。ジェットコースターの安全バーのように、自分の感覚を全部ぶつけても耐えてくれるようなネックが理想です。テレキャスも良かったんですが、自分には少し太い感覚があって。その太さが安心感にもつながるけれど、ストラトのほうが良かったです。三角形のネック(Vネック)は初めてですが、すごくいい存在感だと思いました。ピックアップポジションは、フロントとセンターのハーフトーンが良かったですね。

──ライヴでどう使うのか気になります。

尾崎 今のメインギターはライヴでは必ずセンターに固定しているし、テレキャスも絶対にセンターで弾いているので、センターか、フロントとセンターのハーフトーンになると思います。

──実際に弾いている姿が楽しみです。さて、2022年はクリープハイプにとってどんな一年でしたか?

尾崎 今年の春でメジャーデビューしてから10年が経ったのですが、新曲を2〜3曲しか出せなかったので、2023年はもうちょっと頑張りたいですね。ライヴをやることにおいては充実していたし、しっかり準備をして力を溜めた年という感覚があります。

──とは言え、12月14日にもデジタルシングル「本当なんてぶっ飛ばしてよ」がリリースされました。ファンキーなR&Bのような音作りで、あれは意図したものがあったのですか?

尾崎 極端に特定のジャンルに寄せても、クリープハイプがやるとそうはならないので、そこはもう逆に安心していますね。絶対に“なんちゃって感”が出るので、最初は嫌だったけれど、今はその“おもちゃっぽさ”を大事にしています。そこが良いところだと思いながら、逆に安心して振り切れる。ここ数年でようやくそうした感覚になれたので、来年もまたいろいろなことをやりたいですね。

──“おもちゃっぽい”という考え方はすごく良いですね。

尾崎 歌声もリードギターも含めて、かなりクセが強いので。あと、なかなか今、バッキングでしっかりギターを弾いているバンドが少ないですよね。せっかく自分たちにしかないものなのであれば、その辺りも大事にしたいなと思います。

音楽に向き合うために音楽から離れる

──2月からライヴハウスツアー、3月からはアリーナツアーが始まります。コロナ禍でのライヴはいかがでしたか?

尾崎 個人的にはめちゃくちゃやりやすかったです。もともと他のバンドと比べるとお客さんが大人しく音楽を聴くバンドなので、速い曲をやってもあまり反応がないことに悩みがあって。だけどコロナになって、手が上がらなかったり、みんなが盛り上がっていないように見えても、そもそも禁止されているんだと思ったらライヴがやりやすくなって。フェスに出た時も、何曲かリハでやった時の空気が今までと違いましたね。けっこう歓迎されているのがわかる。あのリハが大事なんです。リハでその日の雰囲気を感じていて、それに合わせたMCをします。クリープハイプを目当てに来ている人が少ないのに、“おい! 俺たちの曲が聴きたかったんだろう!”というMCはできないので(笑)。

──あははは!

尾崎 そこは見て変えていますね。フォーマット通りに決まったことはしたくないので。かかってこいよ!とは言えないし、たぶん言ってもかかってこないと思いますけど(笑)。今年はリハの段階で“あ、今日は何かいいな”と思う日がかなり増えました。100%入ったお客さんを久しぶりに見て感動したし、これからもそうであってほしいけれど、一回フラットになったことでまた新しく作っていくこともできる。コロナになってライヴができなくなった時、もう一回自分が新しく変われるチャンスだと思ったので、今はそういう意識でライヴをやれていることも嬉しいです。

──尾崎さんは音楽活動以外にも、2021年には小説『母影』を出すなど執筆業もされていますが、“表現者”としてこれから先どんなことを考えていますか?

尾崎 音楽が基本にあるからこそ他のことができる。なので、最近はあえて音楽から離れたいと思ってやっています。音楽から離れれば離れるほど、より強い力で音楽に戻れるのがわかっているので、わざと自分を騙すというか、音楽に向き合うために音楽から離れる。特に2022年は、それがいい形になったと思います。音楽以外の場所で何かを発言するのは、自分にとって大事なことなので、これからも続けていきたいですね。

──多忙を極めながら進み続けているその源泉は何なのでしょうか?

尾崎 子供の頃からの“何をやってもできない”という感覚が大きいですね。何となく音楽をやれているけれど、こういうジャンルをやりたいと思ってもおもちゃっぽくなるし、常に何かが足りないというか、フィットしない感じがあって。文章を書いても、音楽をやっている人たちからは“すごいね”と言われるけど、文芸の世界では相手にされていないとしっかり肌で感じているんです。どこに行っても行き切れないモヤモヤがあるからこそ、続けていける。子供の頃から何にもできなくて、昔はそれが嫌だったけれど、今はそれが大切です。実際に今日もコードバッキングだけでこのインタビューをしてもらっているわけですから(笑)。

──未完であることはある意味大事ですよね。

尾崎 そうですね。それは、これから音楽を始めようとしている人に言いたいです。そういう人のギターヒーローになれたら嬉しいですね。

American Vintage II 1957 Stratocaster

>> 前編はこちら


尾崎世界観
84年、東京都生まれ。ロックバンド、クリープハイプのヴォーカル&ギター。2012 年、アルバム『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』でメジャーデビュー。2014・2018 年に日本武道館公演を開催し、音楽シーンを牽引する一方、2016 年には半自伝的小説『祐介』、2021年に第164回芥川賞の候補作となった『母影』を刊行。執筆活動でも注目を集める。2023年2月から〈ライブハウスツアー 2023「感情なんかぶっ飛ばして」〉、3月から〈アリーナツアー 2023「本当なんてぶっ飛ばしてよ」〉を開催。
https://www.creephyp.com/

Related posts