Cover Artist | ELAIZA -前編-

フェンダーは入口でありゴールでもある。“自分がどうありたいか”によってギターを選べる気がします

俳優やモデルをはじめマルチに表現活動を行う池田エライザ。2021年にはELAIZA名義でミュージシャンとしてデビューし、エアリーなウィスパーボイスから深く響く声まで幅広い歌唱表現、繊細な歌詞やジャンルレスな曲調でファンを魅了している。そんなELAIZAがFenderNewsのCover Artistに登場。インタビュー前編では、幼少期の音楽体験やギター初心者時代を振り返ってもらい、さらにギター選びで大切にしていることを伺った。

発声練習が母とのコミュニケーション方法でした

──ELAIZAさんは音楽が身近な環境で育ったそうですね。

ELAIZA 母がフィリピンのシンガーで、私が生まれる直前もライヴをしていたので、お腹にいる時から音楽に触れていました。小さい頃は母の仕事にどこでもついて行ったので、外国のバンドマンに囲まれて育ったし、ステージ横で宿題とかゲームをしてて(笑)。小6くらいからPro Toolsを使って母のデモを録るのも手伝ったりしてました。あと、小学校から帰ってきてバレエのレッスンに行く前に、いつもピアノの前に立ってお母さんと発声練習をしていましたね。それが当時まだ日本語が上手じゃなかった母とのコミュニケーション方法でした。

──子供の頃からお母さんのライヴでステージに立っていたんですよね。幼少期の印象的だったライヴは何でしょうか?

ELAIZA ビルボード的なライヴハウスのステージに立った時に、緊張しちゃって歌えなくて、横にあったスツールをずっと手でくるくる回してました(笑)。母が代わりに歌ってくれたんですけど、悔しくて“ママよりも大きい声で歌おう”と思いましたね。それが初めて“私はステージに立っているんだ”って自我が芽生えた瞬間です。たぶん7~8歳だったかな。それまではあまりに小さかったから、ステージに立つ自分がどう見られているかとか、そういうのがわからなかったんです。でも、わかった瞬間に今までできていたことができなくなって、モジモジしちゃいました。

──ずっと音楽に触れて育った中で、鮮烈に覚えている音楽体験はありますか?

ELAIZA 小学3年生くらいの頃、ケーブルテレビの音楽番組でエイミー・ワインハウスの「リハブ」のミュージックビデオを観たこと。それまで歌は習うものというか、お母さんに教えてもらった通り声を出して歌うだけだったけど、その時に“私の知っている歌い方と違う”と思って。もしかしたらいろんな歌い方があるのかもと思って、“真似する”ことを覚えたのかな。他にもビョークとか、いろんな人の声を自分の喉で出してみましたね。

──歌というものの認識が変わったんですね。

ELAIZA そうですね。自己研究というか、あれこれやってみて自分に馴染む感覚を探し始めたのはその頃だと思います。自分の喉の質感に向き合うようになりました。

──ギターも身近な存在でしたか?

ELAIZA フィリピンのおじいちゃんがギタリストでありコメディアンで、テレビに出てギター片手にネタをやっていて。子供の時に亡くなってしまったんですけど、家にアコースティックギターがありました。おじいちゃんはいわゆるスパニッシュギター系の演奏をする、楽器の概念が自由なタイプで、テクニックがすごかったんです。ボディを叩いても良し、みたいな。上手すぎる人がそばにいたから“ギターって難しいんだな”って漠然と思っていました。今でも祖父みたいな弾き方を見るとキュンとします。

“ギターと声がリンクしているな”というムードが好き

──ギターを始めたきっかけは?

ELAIZA ギターを練習した記憶が二つあって…どっちが先だったんだろう。一つは、カラオケに行くお小遣いがなくて、“じゃあ自分でギターを弾いて歌えばいいか”と思って、ふとギターの存在に気づいたんです。もう一つは、高校のギターの授業。(モデルや俳優の)仕事が忙しくてなかなか学校に行けなかったけど、負けず嫌いなので授業に遅れるのが嫌で、ある程度は弾けるようになろうと思って家で練習していました。気づいたら一日4~5時間練習してて、いざ授業に出てみるとまだ誰もコードすら押さえられない状況で“あれ?”って(笑)。

──追い越してしまったんですね(笑)。当時はどんな練習を?

ELAIZA 最初の数ヶ月は耳コピで、ただ耳で聴いてギターを触っていました。いつしかタブ譜なるものに気づき、授業に参加できるようになってからはコードなるものに気づき、スマホの普及とともに検索することを覚えて。いまだに誰かに習ったことはないんですよね。

──“Fコードが押さえられず挫折した”など、ギターあるあるを経験したことはありますか?

ELAIZA Fコードは今も嫌いです(笑)。“ムカつく!”って思いながら押さえてるけど、歌うのに必要なものですし。挫折…したかな? 指で(ネックを)挟んでギターを持ち上げたりしていました。

──それは何のために?

ELAIZA 慣らすためです。人前で弾くならある程度できるようにはしたいし、結局すごく練習しちゃう。学校で発表する日になったら“全然練習してないけどね”みたいな顔をしたかったから、陰でやっていました(笑)。

──努力家だったんですね。高校生の時にコピーしていた曲は?

ELAIZA 歌うことが好きだったので、ハナレグミとかandymoriとか、歌に対して複雑じゃないコードの曲を好んで弾いていたと思います。ギターの技術を見せるというよりは、“ギターと声がリンクしているな”“没入感があるな”というムードが好きで、それを感じられる曲を選んでいた気がする。

──ギターを選ぶ時の基準を教えてください。

ELAIZA 身長が170センチあるので、小ぶりのギターを持つとアンバランスになってしまうんです。だから今使っているのもボディの大きなギターで。19歳くらいの時にビジュアルだけでギターを買っちゃって、弾いてみたら音が大きすぎたことがあったんです。自分の声が少し繊細なので、ギターの音に負けてしまって。だから弾いてみて声に合わなかったら買わないですし。

──ルックスも重視しつつ、あくまで歌ありきのギターなんですね。

ELAIZA そう、喉との相性ですね。自分の中で、お客様に与えていい音域・音量の上限というか“これ以上強いと聴いていて苦しいだろうな”っていう感覚があるんです。明るい曲でも激しい曲でも、そのストレス値を超えないかどうかギターを弾いてみて判断します。専門的なことはわからないんですけど、いつもアンプをつないでむぅ…と考えながら“これくらいならお客さんは嬉しい気がする”って思ったり。

──その感覚は、子供の頃からあったんですか?

ELAIZA ありましたし、母もその感覚は敏感で。歌番組を観ていても、1上げて2下げて…って二人でずっとボリューム調節してます(笑)。母も自分のライヴのマイクテストが終わったあとに“ちょっとうるさかった?”って私に聞いてくるんです。

──音に対する感覚が鋭敏なんですね。フェンダーにはどんなイメージを抱いていますか?

ELAIZA プロフェッショナルなイメージがあります。憧れだけど、一方で初心者でも手に取りやすいモデルもあるし、どの楽器店にもありますよね。よく行く楽器屋さんでも、フェンダーのギターってカッコいいなぁと思っていつも見ています。今はTelecasterが欲しくて。フェンダーは価格帯が幅広いので、入口でありゴールでもある。だから“自分がどうありたいか”によってギターを選べる気がします。

Highway Series Dreadnought

>> 後編に続く(近日公開)


ELAIZA
1996年4月16日生まれ、福岡県出身。俳優、モデル、監督。2009年に『ニコラモデルオーディション』でグランプリを受賞し、2011年に映画『高校デビュー』で映画デビュー。その後も数々のCM、映画、ドラマ、テレビ番組に出演し、2020年公開の映画『夏、至るころ』で初の映画監督も務める。21年8月、ELAIZA名義で音楽活動を開始。2022年6月にアルバム『失楽園』をリリース。28歳の誕生日を迎えた2024年4月16日に新曲「night walk」を配信リリース。
https://ikedaelaiza.jp/

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