Cover Artist | INORAN -前編-

20年の軌跡、そのときに鳴らしたい音を鳴らす

Inoran

ソロ活動20周年を記念したセルフカバーベストアルバム『INTENSE / MELLOW』を8月23日にリリースしたINORAN。これまでリリースされた11枚のソロアルバムから1曲ずつを選曲し、“動”をコンセプトにした「INTENSE SIDE」と“静”をコンセプトにした「MELLOW SIDE」の2枚組からなる本作は、全曲ニューアレンジレコーディングを行うことで驚くほどの変貌を遂げている。

FAKE?、Tourbillon、Muddy Apesなどの活動を経て、これまで11枚のソロアルバムをリリース。数々のステージを重ね、メンバーとの絆がより強固となった今だからこそ鳴らしたい、現在のINORANの指標とも言うべき『INTENSE / MELLOW』について、そしてアーティストとしての人生に多大な影響を与えたジャズマスターについて話を聞いた。

ジャズマスターを手に入れたときを境に前期と後期で分けられる
 

―  今年ソロ活動20周年ですが、振り返ってみてどんな20年でしたか?

INORAN   20年というと長い年月ですよね、人が生まれてから成人するまでだから。でも正直、気付けばソロデビューから20年経ったんだというのが率直な感想で。それはなぜかと言うと、ソロ活動だけをやっていなかったせいもあるのかな。LUNA SEAの活動が止まって、違うプロジェクトを行ってきて、その都度まっ直ぐやってきたということなんだろうね。

―  ソロ活動と並行してさまざまなユニットやバンド活動もされて、さらにLUNA SEAも再開。自身の音楽スタイルを振り返ると、どのような変化があったと感じていますか?

INORAN   ソロアルバムを11枚リリースして、LUNA SEAなども含めると生涯20枚以上のアルバムを出しているんですよね。ずっとスタイルがブレないタイプのアーティストもいるけど、僕はそのときに鳴らしたい音を鳴らしてきたから毎回スタイルが違う。沖縄の文化に感化されて『ニライカナイ』(2007年)を作ろうとか、ライブレコーディングにしようとか。その時その時に合う音を探してきたような気がします。

―  セルフカバーベストアルバム『INTENSE / MELLOW』について話を聞きたいのですが、これまでの曲を大胆にアレンジしようと思った理由は何ですか?

INORAN   アニバーサリーイヤーって良くも悪くも、ベストアルバムを出したりライブ活動も含めて総括しようという流れになりますよね。2008年にベストアルバム『THE BEST』を出したけど、近年はライブとかツアーを行うことで自分の中で得るものがすごく大きくなっているんです。昔の楽曲を今のバンド編成でやりたいなと思ったときに、原曲のままのアレンジだとちょっと違うなと思っていて。リアレンジの前に、リマスターとかボーカル再レコーディングとか再ミックスとかあるけど、全部をまるっきり変えたほうが面白いんじゃないかなと思ったんですよね。今の自分に合わせていくというか。

―  収録曲はどのように選びましたか?

INORAN   選曲は迷ったというか、なかなか決まらなかったですよ。ソロアルバムが11枚と言ったら100曲以上あるわけで、曲によってそれぞれに思い入れとかライブで印象に残っている曲があるから。だから当然、アルバムに収まる曲数には収まらない。それを踏まえた上でセレクトしたときに、アルバムで偏っちゃったんです。感覚で選んでいるんだけど、このアルバムからは1曲だけどこのアルバムからは3曲あるとか。ディスコグラフィーを眺めることって普段はないので、こうやってアニバーサリーイヤーを迎えてディスコグラフィーを振り返ってみると、このアルバムがあったから今があるんだとか、やっぱりすべてのアルバムに感謝しているんです。だったら1枚のアルバムから1曲ずつ選ぶのも面白いなと思いついて。

―  前期の楽曲がバンドサウンド中心のDISC 1『INTENSE SIDE』に、後期の楽曲がアコースティックアレンジのDISC 2『MELLOW SIDE』に収録されていますが、構想は最初からあったんですか?

INORAN   このアルバムを作る初期の段階からありましたね。遍歴の中で8枚目のソロアルバム『Teardrop』を出したとき、ジャズマスターを手に入れたときを境に前期と後期で分けられるんですけど、後期は今の編成のサウンドなので、そこまで違うアレンジはできないと思っていて。じゃあ思い切ってアコースティック寄りにしようかなと。いわゆるテレコですよね。逆にアコースティック寄りだったものをロックっぽくして。

―  一般的なセルフカバーアルバムって、普通に考えるとリマスターに近いじゃないですか。それを今の機材とサウンドでブラッシュアップする感覚で、「Beautiful Now」がアコースティックアレンジになっていたりして面白いなと思いました。

INORAN   オリジナルと今の俺のライブとかマインドとのマッシュアップですよ。感覚でやったんだけど、よく考えたでしょ(笑)?

―  現在のスタイルになってから、ライブで演奏している曲が多いのでしょうか?

INORAN   『MELLOW SIDE』の収録曲はわりとやってるけど、『INTENSE SIDE』の曲はほとんどやってないね。だから『INTENSE SIDE』は自分の活動の中の前期なんですよね。前期の楽曲を今の編成に合わせて作ったというか。当時はギターも僕を合わせて3人いたし、DJやキーボードやマニピュレーターもいたので、今の4人でやったら自分たちがアガるような音に変わるんじゃないかなと。

―  聴き比べることができるので、ファンの方は楽しいでしょうね。

INORAN   そうですね。ぶっちゃけ言うと、オリジナルに勝てるアレンジってないと思うんです。オリジナルにはその曲が放たれたと同時に、メンバーやスタッフみんなの思いが乗っているので、それを本当の意味では壊したくない。だったら、あえて別の曲に捉えてもらうくらいやらないとすべてに対して失礼かなと。違う曲だと思ってもらって、思ってくれないんだったら賛否両論してもらって構わないくらいのほうが面白いでしょ(笑)?

―  特にDISC 1の『INTENSE SIDE』は、今のINORANさんがステージ上で音を出している景色が見えるというか、今のバンド編成でアレンジする意味がよくわかるなと思いました。

INORAN   ここまですることが曲を大切にしていることだと思うし、中途半端に大切にしすぎると逆に裏目に出ちゃうというか。ボブ・ディランが数年前に原曲がわからないくらいのアレンジをしたツアーを廻ったことがあって、最初は“最初のアレンジで聴きたかった”と思ったけど、どうしてそうしたかを考えたらすごくいいアイデアだと思うし、また数年後にその曲を聴きたいなってジワジワ思うじゃん。

―  原曲の「Beautiful Now」はアコギでコードを取って、それをバンドアレンジにしていった印象があるんですけど、それを今回はアコースティックバージョンにしたということでしょうか。

INORAN   そうそう。近年はすべて頭の中で音が鳴っちゃう。メロディがあったらギターが付いてきて、ベースが鳴っていて。実際はそこから発展して変わっていくことが多いけど、頭の中だから変わるに決まってるし、それが逆に面白いというか。

―  たとえば「Get Laid」(9thアルバム『Dive youth, Sonik dive』収録)なんかはライブで盛り上がる曲じゃないですか。それを『MELLOW SIDE』に入れるのは選択肢としてなかったんですか?

INORAN   「no options」が勝ったんでしょうね、僕の頭の中で。

―  アレンジの仕方についてはどのように考えていきましたか?

INORAN   レコーディングに対してのデモを作ろうっていうときに、アレンジというものは毎日変わるなと。たとえばBPMが昨日とは違うし、天気にも影響されるし、アレンジは限りないんです。選曲もそうだしアレンジも答えがないものだから、作るときに出てきたものを大事にしたというか。作るときに出てきたんだから、これが僕の中で正しいんだろうなって。

› 後編に続く

Inoran

INORAN JAZZMASTER® #3LTD, Masterbuilt by Dennis Galuszka
INORANのソロ活動20周年を記念して、マスタービルダー デニス・ガルスカによって製作された1本。


INORAN
ロックバンドLUNA SEAのギタリストとして1992年にメジャーデビュー。1997年よりソロ活動をスタートさせ、Muddy Apes、Tourbillonなどでも精力的な活動を展開。2010年にはフェンダーとエンドースメント契約を締結し、翌年に日本人アーティスト初のシグネイチャーモデル「INORAN JAZZMASTER #1 LTD」を発売。その後も2013年に「INORAN JAZZMASTER® #2LTD, Masterbuilt by Dennis Galuszka」、2015年に「INORAN ROAD WORN® JAZZMASTER®」、2017年にはソロ活動20周年を記念した「INORAN ROAD WORN® JAZZMASTER® 20th anniv. Edition」など多くのシグネイチャーモデルが発売されている。

› INORAN:https://inoran.org/

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