Cover Artist | 東京スカパラダイスオーケストラ -前編-
来年デビュー30周年を迎える東京スカパラダイスオーケストラのニューアルバム「GLORIOUS」が熱い。その熱さの理由を、ギターの加藤隆志とベースの川上つよしに語ってもらった。
― ニューアルバム「GLORIOUS」、素晴らしい内容です。早速ですがアルバムのアイデアはどんな風に?
加藤隆志(以下:加藤) 17年に出したアルバム「Paradise Has NO BORDER」で、スカパラは新しいスタートをまた切れたなという感じがあったんです。具体的に言うと、アルバムのタイトルチューン「Paradise Has No Border」がラテンテイストで、その曲がキーになって、去年の9〜10月に初めて行く国も含んだ長いラテンアメリカツアーを行ったんですけど、そのツアーと同時にUNISON SQUARE GARDENの斎藤宏介くんを迎えた「白と黒のモントゥーノ」というシングルを作りました。前作から始まった南米の一連の動きがその「白と黒のモントゥーノ」にうまく凝縮できたんです。そのムードが今回のアルバム「GLORIOUS」につながった感じですね。
― なるほど。
加藤 なので、前作よりさらにラテン色が強まったというか、ラテン色と日本の音楽シーン、つまり僕らが去年体験したすべてを音に落とし込めたと思っています。
― ラテン色だけではなく、日本の音楽シーンの要素も取り込んだ意図は?
加藤 スカパラは日本のロックフェスにも頻繁に出させてもらっているんですけど、そうすると僕らよりも下の世代、つまり20〜30代が作り上げている音楽シーンの影響を少なからず受けているんです。そういう若い世代の音楽を否定するんじゃなくて、むしろしっかりと取り入れたいという気持ちも生まれたというところもあります。その一方で、南米で得たもの、影響を受けたものも音に落とし込んだのが今回のアルバムですね。
― 南米と日本の合わせ技ですね。
加藤 単なる合わせ技ではないと思っていて、例えばプエルトリコ出身の女性シンガー・iLe(イレ)をフィーチャアした4曲目の「Te Quiero con Bugalú(テキ・エロ・コン・ブガルー)」は、iLeが歌っているのもあって一見ラテンなんですけど、リズムの発想はすごく日本的で、今の日本の音楽シーンをラテンに落とし込んでいるんです。だから中南米の人が聴くとすごく日本っぽいんですけど、日本人が聴くとラテンぽいという、そういうお互いのいいところを紹介し合えるような、ミックスアップできるようなアルバムになっていると思っています。単に”ラテンに影響を受けてサルサを追求しました”というわけではなくて、今の日本の中でのラテンの響かせ方、今のラテンの方々への日本の音楽の響かせ方の両方を絶えず意識しながら作りました。
― そういう2ウェイな作り方ができるのはスカパラならではですね。そう言えば、以前UNISON SQUARE GARDENの斎藤さんに取材をした時に、スカパラと共演してすごく衝撃を受けたと言っていました。
川上つよし(以下:川上) 衝撃というと?
― スカパラは感覚や呼吸でやっていると。
川上 坂本龍一さんが以前テレビ番組で、”バンドはノリがみんな違うからバンドなんだ。そこが打ち込みでは再現できないところだ”と言っていたくらいなので。
加藤 音楽って聴いて、感じて作るものだと思っていて。僕らにとって生で鳴っている音がすべてなんです。そしてUNISON SQUARE GARDENのライヴも素晴らしいから僕らは斎藤くんを誘ったというのももちろんありますし。
― ええ。
加藤 ただその逆の発想もあるんです。今回のアルバム曲ってリズムチェンジが多いんですけど、例えばリズムが8小節ごとに変わる曲があるんですが、そういう一曲の中のリズムアプローチの情報量の多さというのは、20〜30代やロックフェスティバルから受けた影響ですね。
― なるほど。
加藤 僕は”日本のロックのガラパゴス化”と呼んでいるんですけど、そういう風にどんどんリズムチェンジをしていく、ガラパゴス化した日本特有のサウンドがあって、それを海外の引いた視点で見ると、すごく面白く特殊なものに見えるんだと思います。例えば、マキシマム ザ ホルモンが南米のメタルフェスに出たり、BABYMETALが日本から飛び出して海外のメタルシーンで人気が出るのは、そういう風に特殊なものとして捉えられている側面もあるんだと思うんです。
― そうだと思います。
加藤 そういう日本の音楽の特殊性を、スカパラを通して海外に紹介したかったんです。それとやっぱり面白いのが、日本の音楽の特殊性のひとつである”リズムチェンジの多さ”って、音やリズムを波形で捉えるデスクトップミュージックから来ている点だとも思っていて、波形を見て作っていると、16小節以上同じビートが続くと机の上だと飽きるから、その発想が今の日本のロックの主流になっているのがすごく面白いし、それを僕らなりに逆手に取ってこのアルバムを作ってみたところもあります。そういう視点で「GLORIOUS」を聴いてもらえると面白いと思います。
― 日本の音楽シーンの視点はわかりましたが、ラテンの視点としてはどんなことをこのアルバムに取り入れていますか?
川上 そもそも日本から見ていると、ラテンというとサルサというイメージだと思うんですけど、現地に行くと”ラテンオルタナ”というジャンルがあるんです。そのラテンオルタナって何かと言えば、今のラテンアメリカの世界で若者が普通に聴いているヒップホップだったり、メタルのことなんです。向こうの人ほど特にラテンを意識していないわけで、普通に打ち込みだけのヒップホップみたいな音楽もやっているんですけど、アメリカのモノとはやっぱり何かが違うんですよ。独特の匂いがあるんです。それを全部ラテンオルタナと呼んでいるんです。
加藤 それがすごく面白いんです!
川上 うん。僕らが取り入れようとしたのは、そのラテンオルタナなんです。唯一「恋して cha cha cha」は古いラテンイメージをあえてそのまま曲にしました。逆に言えば、アルバムの他の曲を聴いても”どこがラテンなの?”と思うかもしれません。
加藤 それくらい今のラテンミュージックってミクスチャーなんですよ。
川上 うん。今のラテンアメリカのミュージシャンってメタルも大好きだしね。その要素が強く出てるのが3曲目の「The Battle of Tokyo」です。メタル風のアレンジから始まっているんですけど、コンガがめっちゃ入ってるんです。メタルでコンガが入っている音楽って普通はないし、今までのスカパラにもなかったです。だから、去年のアルバムくらいからスカパラは10年以上続いてきたものを抜けて、新しい段階に入ったなという実感がありますね。
― デビューして何年でしたか?
加藤 来年でデビュー30年です。でもキャリアは関係なく、僕らは変化を恐れずに行こうと思っています。というのも、そこにはスカという礎があるし、”スカパラのどこを切り取ってスカと言うんですか?”と聞かれれば、そこはやはり川上さんのベースラインも大きな特徴かなと思いますね。それに関して誰に突かれても揺るぎないぞと思っています。
― それにしてもデビュー30年で新しい扉を開くのはすごいことですし、スカパラの今後が楽しみです。
加藤 ありがとうございます。今、南米の音楽シーンが本当に熱いので、スカパラもスカを超えたところで南米のポップカルチャーに食い込んでいけるような活動を考えています。なので、今回のiLeとのようなコラボレーションが増えてくると思いますよ。
川上 ラテンのスカバンドの人たちとは2回コラボしたんですけど、今回はスカも超えてラテンオルタナと呼ばれている人たちとコラボができたので、今後はそこもガンガンやっていければなと思ってます。今回の「GLORIOUS」はその第1弾かなと。乗り遅れないようにぜひ聴いてみてください。
› 後編に続く
American Professional Stratocaster® HSS Shawbucker
ピックアップデザイナーの巨匠、Tim Shawによって設計されたV-Modシングルコイルを2基、ShawBuckerハムバッカーを1基搭載。現代のプレイヤーにマッチする、モダンCとUの中間である新ネック形状“ディープC”を採用。
American Professional Precision Bass®
ピックアップデザイナーの名匠、Michael Bumpによって設計されたV-Modピックアップを搭載。ネック形状は63年製Precision Bassのものを採用。
東京スカパラダイスオーケストラ
ジャマイカ生まれのスカという音楽を、自ら演奏する楽曲は”トーキョースカ”と称して独自のジャンルを築き上げ、アジア、ヨーロッパ、アメリカ、南米と世界を股にかけ活躍する大所帯スカバンド。アメリカ最大のフェスティバル、Coachella Music Festivalでは日本人バンド初となるメインステージの出演を果たした。オーセンティックなSKAからジャズ、ロックまでをも提示できるミュージカルパフォーマンスで世界中のSKAバンドの中でも特筆すべき存在であり、海外のアーティスト、音楽関係者も来日の際にはスカパラの音源を手に入れるためレコード店に足を運ぶなど、世界中のSKA愛好家たちにとってその名は憧れの対象であり続けている。89年、インディーズデビュー。幾度となるメンバーチェンジを乗り越え、現在のメンバーは合計9人。今なお常に最前線で走り続けている。
› http://www.tokyoska.net